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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
50/64

幼女は呪いを解きに行く①

すみません、若干矛盾していたところを見つけたので修正しました。

剣美の発言で、「主にアリストレア大陸で活動している」、と言ったにも関わらず、

その後、突然変異の魔物討伐の話では、剣美はアイントロフ大陸で活躍しているとなっておりました。


×アリストレア大陸

○アイントロフ大陸


とします。本当にすみませんでした。

なお、今後の話には全く影響はありません。

もう少しで完結予定なので、それまでどうか見守っていてくれれば幸いです。

「は、早いわね、ミオ」

「もちろんです。ナナ様が私を呼んでくれた場合、一秒でも早く駆けつけるのは私の義務でございます!」


 ミオは生き生きとした表情で顔を上げる。

 小柄なナナよりも少しだけ背が高い彼女は、身の丈ほどの石槍を抱え、その歳に見合わないような丁寧語を使っている。それは彼女がこれまで奴隷として散々こき使われてきた経緯あってのことだからだろう。

 以前のミオは、奴隷として雇われていた時の虐待が原因で拒絶反応持ちの人間恐怖症になっていた。それによって苦しんでいたミオを、ナナは一か八かの治療法を試みた。

 それが『フレイムウルフ』という野生で生きる魔物と一緒に生活させる事によって、人間を視界に入れないという方法である。

 これによりミオの人間恐怖症は改善していき、今では人間を見て悲鳴をあげるどころか、自分から近寄る事も出来るほどに回復していた。


「ミオ、今回あなたに手伝ってほしい事があるの。この二人は私を殺しに来たんだけど――」

「――へぇ~私のご主人様を殺す? なるほどなるほど。それはそれは……」


 ナナが全て言い終える前に、ブワリとミオから凄まじい殺気が広がっていく。


「了解しましたナナ様。つまり私が、この蛮族を始末すればいいのですね?」


 そう言って、抱える石槍を高々と振り上げた。


「わああああ!? ストップストップ!! そうじゃないから! もう和解してるから!」


 ナナはすぐさま振り上げたミオの腕にしがみ付く。


「いい? 私とユリスはこの人達を助けるためにしばらく一緒に行動するの! それでミオにも手伝ってもらいたくて呼んだの! だからミオにも仲良くしてほしいの! わかった!?」


 早口で一気にそうまくしたてた。


「そうだったのですか。了解致しました。それでは命令なので仲良くするとしますね。よろしくお願いします♪」


 その場の殺気が静まり、あっさりと手のひらを反したミオは深々とお辞儀をする。


「……変な子……」


 流石のシンディもドン引きしていた。


「あはは。キミはナナっちがとても大切なんだね」


 ゼルが笑いながらそう言うと、途端にミオの瞳が輝き出した。


「もちろんでございます! ナナ様とユリス様は命の恩人であると共に、私に生きる希望と進むべき道を示してくれた大切なお方。私はこの二人に、身も心も、これから続く人生も、そしてこれから起こり得る運命さえも捧げると決めていますので」


 そんな事を言うミオに、ウルウルと瞳を潤ませている者がいた。

 ユリスである。


「うわああああん!! ミオちゃんがいい子すぎて辛いです! 私の事は構わずに自分の幸せを探してほしいです~!」


 そう言いながらミオに抱き付き頬ずりを始めた。


「ユリス様ありがとうございます。しかし、私の幸せは二人の役に立つ事。二人が幸せになってくれれば、それが私の幸せになるのです」

「うわああああんミオちゃあああん……」

「あぁ、ユリス様!」


 そうして二人は互いに抱き合い、絆を確かめ合っていた。

 これも拒絶反応が治ってきた賜物だろう。


「いや、もういいから……ミオ、説明は移動しながらするから、すぐに旅に出る準備を済ませて」

「はい♪」


 ナナにそう言われて、満面の笑みで返事をするミオであった。

「さようならバルバラン大陸。さようならフレイムウルフ達。私は必ず戻ってきますから……」


 出航する船の上で、ミオが感傷に浸りながらポツリと呟く。


「なんで今生の別れになるかもしれないみたいなセリフを吐いてるのよ。すぐ戻ってくるから……」


 ナナにそうツッコまれ、テヘッと舌を出すミオ。

 現在、シンディとゼルの村を救うべく、ナナ、ユリス、ミオの計五人はユグラシル大陸に向けて船旅の最中である。

 バルバラン大陸からユグラシル大陸は割と近いという事で、正午を少し回った後に出航しても日が暮れる前には到着するらしい。

 はやる気持ちを抑えきれないシンディの意図も組み、なるべく早く、今日中に村に到着できるよう行動を起こしたのだ。


「いやぁ船旅はいいねぇ。ワクワクするよ」


 ゼルもまた、ニコニコと笑顔のままそう言った。

 ナナはそんなゼルの顔をじぃーっと見つめる。


「あなたはいつも楽しそうね?」


 そう。このゼルという前髪で片目を隠した少年はいつも笑っている。いつも楽しそうで、いつも幸せそうだとナナは感じていた。……あまりにも異常なほどに。

 思えばナナがシンディを打ち負かした時もそうであった。ユリスに回復魔法をかけてもらったとは言え、シンディがベッドで眠っている間、彼は相も変わらずニコニコと微笑んでいたのだ。


「あはは。僕は人生を大いに楽しむって決めているからね。満喫しないと損ってものさ」

「ゼルは昔からこういう性格。私ももう諦めてる」


 シンディがため息混じりにそう言った。

 そんな二人の関係は、昔ながらの幼馴染である。ある意味、だからこそお互いの性格を熟知した上で共に行動しているのだろうとナナは思った。

 無表情で村の事以外には無関心な高レベルの少女と、何事にも興味を持ち、人生を楽しもうとしている少年のコンビ。そんな正反対な性格だからこそ、お互いに興味を示す部分が存在するのかもしれない。

 ナナはなんとなく、そんな風に感じていた。

 そして船の上で揺られる事およそ二時間。まだ空が茜色にも染まっていない時間帯に、一行はなんの問題も無くユグラシル大陸に上陸した。


「うわ~……なんかジャングルって感じね!」


 ナナが周りをキョロキョロと見渡しながらそんな感想を口にする。

 そう。ナナが言うようにユグラシル大陸はそのほとんどが森で覆われている。

 この世界で最も緑の多い大陸であり、開けた場所は村以外ではほとんどない。

 船着き場を降りると、すぐ目の前には覆い茂る木々のトンネルがあった。ある程度は村へ行き来しやすいようにと作られた道である。

 シンディとゼルは当然前を歩き、ナナ達はその後ろをついて行くように列を作った。

 最近では気温が上がり暑い日も珍しくない今の季節で、このジャングルは日差しを遮り、森の中を吹き抜ける風が心地よい。木漏れ日がいくつもの光の柱に見えて、幻想的な気分にもさせてくれていた。


「綺麗な場所ね。観光しに来てもいいくらいだわ」

「……けど、虫が多いです……」


 ユグラシル大陸は自然がそのまま残っているような場所である。それ故に虫も多く生息しており、ユリスはあまり虫が得意ではなかったりする。


「私達の村はこっち」


 シンディに連れられて、大森林の奥へと進む。

 ナナは物珍しそうにキョロキョロと周りを見渡し、完全に観光客のようである。

 そんなナナに、ユリスが話しかけた。


「村についても、ナナちゃんが歪持ちだって事は秘密にしておいた方がいいですよね? 皆さんそういうの気にしてそうですから」

「あ、うん。そうね」


 キョロキョロとしていたナナがハッとしたようにそう言った。


(忘れてた……)


 完全に観光客気分である……


「その方がいい。ナナ殿とユリス殿は、私が連れてきたお医者さんって事にする」


 シンディが後ろをチラリと振り返り、そう言った。


「……どの?」

「私達の村を助けてくれる人を敬うのは当然」

「……まぁいいですけど。ところでナナちゃん」


 敬われる事にちょっと照れているユリスが、再びナナに話しかける。


「もしかすると呪いかもしれないって事ですけど、そういう気配みたいなのは感じますか?」

「え!? あぁ~……今のところは特に感じないわね」


 珍しい虫を見つけて眺めていたナナが、ハッとしたようにそう言った。


(忘れてた……)


 完全に観光モードであった……


(そう言えばこの大陸、召喚者が殺されたんだったわね……)


 ナナは思い出したかのように周囲の気配を探る。

 だが、特に怪しい気配は感じなかった。


「ねぇ、その召喚者が殺されたっていう村はここから遠いの?」


 その質問に答えたのはゼルであった。


「そんなに遠いって訳ではないけど、今は僕たちの村に移動中だからね。どんどん遠ざかってるよ」


 ナナはクシャクシャと頭を掻きまわす。ナナは呪いに対して耐性を持っているが故に気配を感知できるが、それでも専門家という訳ではない。あまり遠い場所だと全く読めなかったりするのだ。

 とにかく今は何も感じない。シンディの村に行って村人を診る事が優先だと、自分にそう言い聞かせる事にするのだった。

 そして日が傾き、夕日で空が橙色に染まった頃、一行は村へ到着した。

 村は、ジャングルの開けた場所に小屋を密集させた集落といった感じである。


「さっそく回復魔法をかけます。具合の悪い村人さんの所へ案内して下さい!」


 村へ入るとユリスの態度が激変した。それは正に、人の命を救うべくヒーラーとしての一面であった。

 シンディに連れられて一つの小屋へ入ると、そこには初老の男性が床に臥せていた。

 ユリスはすぐにその男性に回復魔法をかける。

 青白い光が男性を包みむが、苦しむ男性はすぐには良くならなかった。


「汗を拭くもの、何かありませんか?」

「ユリス様、これを!」


 ユリスの役に立ちたいと心から願うミオが、素早く要望に応える。


「シンディさんとゼルさんは、村人の容態を見てきてください。一番病状の重い人から順番に回っていきます」

「わ、わかった。ゼル行こう」


 ユリスのテキパキとした指示に、二人はドタバタと小屋を出て行く。

 そんな中、ナナは自分が何をしていいのか分からずにオロオロとしていた。


「わ、私はどうすれば……? 何をする係なの……? 取りあえず応援するわね!」


 やる事がないのでユリスを近くで応援する事にした。


「ありがとうございます。けど患者に迷惑なのであまり大声は出さないで下さい」


 責められる事は無いが、かと言って褒められる事も無く、ナナにとって優しく拒否られた事が逆に衝撃的であった。

 仕方ないので、邪魔にならないように隅っこでおとなしくする事にしたナナである。

 ユリスが最初の村人に回復魔法をかけてから約三十分。ようやく容態が安定して、村人に元気が戻る。

 そうして次の村人の所へ移動するという行為を繰り返した。


「ミオちゃん、魔法薬はあと何個ありますか?」

「まだ四つあります!」

「少し多めに持ってきて正解でしたね。一つください」

「わかりました。蓋は開けておきます!」


 完全にユリスのサポート役はミオに定着していた。

 そんなユリスの必死な治療行為は続き、日が落ちて周りがすっかりと暗くなった頃、ようやく全ての村人の回復を終える事に成功する。

 一段落の付いたユリス達は、使われていない無人の小屋へと案内されていた。


「ユリス殿、みんなを助けてくれて本当にありがとう」


 小屋の中でシンディがユリスに土下座をしてお礼を言っていた。


「そんな……私は何もしてないからお礼なんていらないわよ」


 ユリスの代わりにナナがそう答えていた。

 ちなみに、本当にナナは何もしていない。全くと言っていいほど役に立たなかった。


「とりあえず回復は終えましたけど、夜の間にまた具合が悪くなる人が出たらすぐに教えて下さい。またすぐに回復魔法をかけますから」

「何から何まで助かる。もう感謝してもしきれない……」


 シンディはもはや、頭が上がらないようであった。


「ねぇツッコんでよ! もういっその事『お前何もしてないだろ~』ってツッコんでもらった方がマシなんだけど!」


 ナナはヤケクソになって自虐ネタに走っていた。


「ところでナナ殿、明日はどうする?」

「一晩様子を見て、明日の朝にまた巡回します。皆さんの具合が再び悪くならなければ、もう大丈夫だと思います」


 ユリスとシンディでどんどんと話を進めて行く。


「うわ~ん! 誰もツッコんでくれない! ツッコミ不在がこんなに寂しいものだったなんてぇ!! フィーネも連れてくればよかったぁ~……」


 ナナは華麗にスルーされていた。


「だ、大丈夫でございます。ナナ様の出番が無かったと言う事は、少なくとも呪いでは無かったと言う事です。それはある意味喜ばしい事でございますから」

「わ~ん! そんな事を言ってくれるのはミオだけよ~」


 ミオにすがり付いて泣きじゃくるナナを、ミオは愛おしそうに頭を撫で続けるのであった。

 これも拒絶反応が治ってきた賜物だろう。

 そんなこんなで、今日のところはこれでお開きという形となった。シンディとゼルは自分の小屋へ戻り、今この場にはユリスとミオとナナの三人だけとなる。


「さ、今日は疲れたからもう寝ましょ。まぁ私は何もしてないけどね」


 未だにナナは自虐ネタを振っていた。


「大丈夫ですよ。いつもナナ様は戦闘で活躍しているじゃありませんか。今回役に立たなかったとしても、全く問題ありません」

「うわ~んありがとうミオ~。……けど、その慰め方は若干引っ掛かるから! 色々と言い方に問題あるから~!」


 ナナとミオの漫才がまんざらでもなくなってきた頃だった。


「あの、二人にはちゃんと伝えなきゃいけない事があるんです」


 突然ユリスがまじめな表情でそう言ってきた。

 その真剣な口調から、二人は姿勢を正して向き直る。


「私の回復魔法には、使うとその状態が直接頭の中に流れ込んでくると言う特徴があります」


 首を傾げる二人に、ユリスはさらに詳しく説明を始めた。


「例えば、転んで膝を擦りむいたことろに回復魔法をかけるとします。すると私の頭の中にはその状態が流れ込んでくるんです。皮膚の損傷とその修復。若干の血液の損失、そしてその分の補充、と言った具合です」


 ふむふむと頷きながら納得するナナとミオ。


「そして今回、村人さんに回復魔法をかけた結果、全ての村人さんの体内から毒素を検知しました」

「毒? それって、拾い食いでもしてお腹を壊したって事?」


 ナナの発想に苦笑いを浮かべるユリスであった。


「それはわかりません。可能性としてはゼルさんの言った通り、流行り病による病原菌が体内で毒素を吐き出しているパターンです。私の回復魔法は微生物を殺す事は出来ません。あくまでも体の失われた機能を回復させ、体に活力を与えると言う効果です。それにより体内の病原菌を自分達の抵抗力と免疫力でなんとかするまで回復魔法をかけ続ける必要があります」

「ああ、だから一晩様子を見て、また具合が悪くなったら回復させるって言ってたのね」

「そう言う事です。そしてもう一つのパターンは、言い方はアレですけどナナちゃんが言った通り、何か良くない物を食べたしまったというケースです。このパターンなら、一晩寝ても再び具合が悪くなる事はありません。なにせ今日で完全に体調を回復させましたから。……ただ」


 ユリスの表情が神妙となる。


「ただ、その毒素がどういう経緯で体内に入ってしまったのか。そっちの方が問題だと言う事ですね、ユリス様」


 ユリスの言いたい事を、代わりにミオが言ってくれた。


「そういう事です。一応二人にはお話ししとこうと思って。なんにせよ、まずは明日になった時に村人さんの具合がどうなっているかですね」


 ユリスの話はここで終わり、今日はもう寝る事となった。

 この時、三人は特に深くは考えず、明日になってから状況を見て判断すればいいだろうという思考であった。そして、それは決して間違いではない。今の現状では結論を決定するだけの要素はないのだから……


 ――しかしそんな三人に、すぐに異常が訪れる事となる……


 次の日の朝だった。


「ユリス様!? どうしたんですか、ユリス様!?」


 ミオの余裕のない声が聞こえ、ナナは目を覚ました。

 小屋の隙間から朝日が入り込み、外はもう明るくなっている事が分かる。そんな中で、ミオがしきりにユリスに声を掛けていた。


「どうしたのミオ!」


 ナナは跳び起きて、二人の近くに駆け寄った。


「あぁナナ様……ユリス様が、目を覚まさないのです!!」


 何事かとユリスの顔を覗き込んだナナはギョッとした。

 ユリスは死人のように顔面蒼白となって、苦悶の表情を浮かべていたのだから……

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