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幼女の異世界転移録  作者:
強者激突編
24/64

幼女は敵を迎え撃つ①

「ご、ごめんなさい……別にナナちゃんを困らせたかった訳じゃないんですが……」


 剣美との闘いからおよそ30分ほど前、ナナとユリスはドルンの街に買い物に来ていた。

 ナナの魔界にいた頃の話を聞きたがっていたユリスに、仕方なく修行をしていた時の話を聞かせながら歩いていた。


「でも、今ではライカンスロープの遺伝子を取り込んでいるんですよね? と言う事はもしかしてナナちゃんも、その『転身』という技が使えたりするんですか?」


 ユリスがそう言った瞬間であった。街の景色が色褪せて、まるで白黒写真のような世界へと変貌した。

 周りの喧騒はピタリと止み、歩きながら話をしていたユリスは動きを止め、空を飛ぶ鳥も固まっていた。


 ――ドルンの街全域で、時間が止まったのだ。


 そんな中、一緒になって動きが止まったナナに変化が表れた。

 ニョキっと頭から狼のような耳が生え、シュルシュルっとスカートから尻尾が伸びる。顔や手足に文様が浮かび上がり、色褪せた世界では分かりにくいが髪の色も白銀へと変わっていた。

 『転身』。それはナナの中に眠るライカンスロープの力だ。

 ナナは全身の時間を止められると、その防衛本能によって自動的に体を変化させるように遺伝子を操作させていた。

 そして止められた時間の中で、ナナはキョロキョロと辺りを見渡す。


「誰かが時間を止めた。目的は何かしら……?」


 ナナが警戒を強める。真っ先に思いつくのは、やはり危険視されている自分の討伐だからだ。

 何者かが襲ってくる可能性が最も高いと考え、その場でジッと待ち構える。およそ30秒ほどそうしていたが、段々としびれを切らして来た。


「あ~!! 時間を止められると気配が読めないから面倒なのよね」


 ぼやきながらも、ナナは近くの建物の屋根に素早く駆け上がる。眺めの良いそこから周囲を見渡して、犯人を見つけようとしていた。

 遠くを見渡してはサッとユリスに目を戻す。

 後方を確認してはサッとユリスに目を戻す。

 そうやって、基本時にユリスから目を離さないように気を配っていた。

 狙われるのは決して自分だけではない。ユリスを人質に取られる可能性だってある。そう考えているナナだからこそ、最もユリスの安全を優先していた。

 その時、ナナの目の端で何かが動いた。それはかなり遠くの場所であったため、ナナの思考が瞬時に決断出来ずにためらった。

 ユリスから目を離して、気のせいだったかもしれない遠くの場所へ調べに行くべきかどうか……

 ナナが使っている転身という能力は、止められた時間の中でも神速を誇るだけの速さを持っている。けれど、それだけのスペックを持っていながらもユリスを一人残して良いものか、すぐには判断できなかった。ナナはそれだけユリスの事を大事に想っていたのだ。

 自分にできた初めての友達。それを少し目を離しただけで失ってしまったとしたら、それは悔やんでも悔やみきれないだろう。

 かといって、今この街で何者かが暗躍しているのも事実。この事件を解決させる事がユリスの安全に繋がる可能性は極めて高い。

 迷いに迷った挙句、ナナの出した答えは周辺調査であった。

 考えているヒマがあるのなら行動した方が早いという結論に達し、ナナはまず、ユリスの周辺をくまなく調査する事にした。

 神速を用いて、物陰や死角となっている場所に犯人が潜んでいないかを見て回る。

 僅か30秒ほどで周りを調べ終わり、ユリスの周囲に犯人はいないという結論に至った。

 そこでナナは、ようやく先ほどの動く影を見た場所を調査しようと決断する。


(10秒だけ! 10秒だけ調査したらすぐ戻ってくるからねユリス)


 未だに後ろ髪を引かれる想いに区切りをつけるために、制約を決めてナナは駆け出した。

 凄まじいスピードで駆け抜け、何かが動いたように見えた数百メートル先の場所へ1秒ほどで辿り着いた。

 この場所に誰かがいたとしても、それは迷いに迷っていたナナが辿り着く1分ほど前の事だ。当然今は誰もいない。

 ナナはこの辺にはどんな建物があっただろうかと考える。


(そういえばここ、この街の領主が住んでいる建物よね)


 この街の奴隷制度を決めた領主の館の前に、ナナは佇んでいたのだ。

 自分で決めた制約のせいで時間が限られている。ナナはこの領主の館を調べる事にした。

 ギュン! と、またしても凄まじい速さで館の外周を調べ、館の窓から部屋の中を覗き込んだリと、この時が止まった世界の中、動くものを探し出そうとした。

 その時だった。

 スゥーっと色褪せていた世界に色が戻り始めた。この街の止められていた時間が戻ったのだ。周りからは、またいつものように鳥のさえずりや、馬車が通る車輪の音。子供のはしゃぐ声が聞こえ始めた。

 結局犯人はわからなかったが、ナナは取りあえず急いでユリスの元へ戻らなくてはならないと思い、元来た道をダッシュで駆け抜ける。

 一応屋根の上からユリスの様子を確認すると、案の定、ナナが居なくなった事でユリスはかなり動揺していた。


「ナナちゃん!? どこですか!? ナナちゃん!?」


 しきりに名前を呼び、キョロキョロとナナを探している。

 ナナは転身を解除して、ユリスが後ろを向いている間にスッと元の場所へ滑り込んだ。


「どうかした? ユリス」


 心配を掛けまいと、何食わぬ顔で隣から話しかけるナナだったが、当然ユリスを誤魔化す事は出来なかった。


「こんな事があって説明されない方が心配ですよ!?」


 しっかりと説明を求められたので、ナナは今しがた、何者かに時間が止められたことをユリスに話すのだった。


「ごめんなさい。私を気遣って犯人を捕まえる事が出来なかったんですね……」


 ユリスが申し訳なさそうにしているのを見て、ナナは慌てて言い繕った。


「別にユリスのせいじゃない! あの場合ユリスの安全を優先するのは当然だもの! ……だってユリスは私の大切な……その、友達、だから……」


 頬を染めながら、段々と声が小さくなっていく。

 そんな風に恥ずかしそうに俯くナナを見て、ユリスは目を輝かせていた。


「キャー!! ナナちゃんがそんな事を言ってくれるなんて感激です!! 嬉しすぎて昇天してしまいそうです!!」


 ムギュッ!!

 ユリスがナナに抱き付いた。興奮しすぎて頬ずりまでしている。

 けれど、そんなユリスを振りほどこうともせず、ナナは顔を赤くしながらそっぽそ向くだけだった。

「ちょ、ちょっと待って! いくらわたくしでも、街全体の時間を止めるなんて無理ですわ! さっき見せたように、一部分の空間しか止められませんのよ? そもそもわたくし、船着き場から直接ここを目指して来たからドルンの街には寄ってませんわ!」


 それを聞いたナナは神妙な面持ちで黙り込み、口元に指を当てて考え込んだ。

 ナナは相手との会話で嘘を言っているかどうかがある程度わかる。今の剣美の言葉に嘘はないと判断したのだ。

 そして、一種の決断を迫られる。


「ユリス、剣美の傷を治してあげて」

「あ、はい!」


 ユリスが剣美に寄り添い、回復魔法をかけ始めた。


「剣美、そのままでいいから聞いて。あなたに一つだけお願いがあるの」

「な、なんですの、改まって……」

「時間を止める能力を持った相手が、あなた以外にもう一人近くにいるわ。私はそいつを探しに行く。あなたはその間、私の拠点で待機してみんなを守ってほしいの。あなたは時間を止めた空間でも動く事ができるんでしょ?」

「も、もちろんですわ。でなくては、誤って自分で止めた時間の中に入った場合、詰みますもの」


 そのやり取りを聞いていたフィーネは声を荒げて反対した。


「ちょっと待てよ、こいつは敵だったんだぞ!? そんな簡単に私達の拠点に案内していいのかよ!?」


 フィーネの言っている事はもっともかもしれない。しかしナナにはある程度の確信があったし、こんな所でグズグズしてはいられないという気持ちもあった。


「私は剣美を信用していいと思う。剣美が討伐する相手はあくまでも私だし、人質を取るなんて事は絶対にしないだけの騎士道を持ち合わせている。むしろ、関係の無い子供達が時間止めの犯人に襲われた場合、それは剣美にとって守るべき対象になるんじゃないかしら?」

「ま。まぁ確かに、わたくしの討伐対象は歪持ちだけですわ……」


 未だ時間止めの犯人の狙いはわからない。ナナを狙った行為なのか、ドルンの街で何かをしようとしたのか……

 だからこそ、ナナは二手に分かれて調査をしたかったのだ。


「剣美お願い。私がドルンの街で犯人を捜している間、拠点を守ってほしいの。この通りだから」


 ナナは深く頭を下げた。そんなナナの行動に、剣美はむしろ慌てふためいていた。


「わ、わかりましたわ! というよりも、先に回復魔法をかけられたんじゃ断れませんわ! どうぞ気が済むまで調べてきてくださいな。この剣美、『マスターランク』の名に懸けて、子供達の安全は保障しますことよ!!」

「うっし、じゃあ剣美が怪しい動きを見せたら私が押さえつけてやるよ」


 と、袖をまくり意気込むフィーネ。ナナはその首根っこを掴んで動きを止めた。


「フィーネ、あなたは私と一緒に来るのよ」

「ええ!? マジか!? まぁ来いって言うなら行くけどさ」


 こうして、ドルンの街に戻るナナとフィーネ組。拠点に帰るユリス、リリアラ、剣美組と班を分けた。


「剣美の動きを見張るのはリリに任せるわ。剣美ってなんだか子供好きみたいだから、頼みたい事があったら可愛くおねだりするのよ?」

「人をロリコンみたく言わないでくださる!?」


 そんなやり取りを踏まえながら、ナナとフィーネはドルンの街へ走り出すのであった。

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