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お姉ちゃんを守るのはいつだって僕(後編)

だいぶ間が空いたんですけど更新です。

 おねえちゃん ああおねえちゃん おねえちゃん


 これは僕が小学校四年生の時に授業で読んだ俳句だ。

 季語がないから川柳? いいや「おねえちゃん」は一年通して使える季語だから俳句で間違いない。 


 ところで、気がついたら僕はモグラになっていた。


 モグラといっても普通のモグラではない。

 全身に鱗をまとい、鋭利な爪を生やした全長一メートルの土竜もぐら


 モグラというのはイメージでは、穴を掘るのが得意で日光を浴びると死んでしまう、なんてのがあるけど本当は違うって知ってる?


 僕は以前お姉ちゃんのことを観察するために庭に穴を掘る実験をしたことがある。

 その時に調べて知ったのだけれど、モグラのトンネルというのは数世代にかけて掘られたモノで、そこを自由に行き来しているんだそうだ。


 モグラが夜行性なので、昼間見かけるのは死骸が多いから日光は苦手だと思われているけれど、苦手ではない。

 基本真っ暗な巣穴で生活しているので、視力はほぼなく代わりに嗅覚がとても優れていて、物体を立体的に把握することができる。


 そんな特性を持つのは地球産のモグラなので、厳密には今の僕とは違うのだけれど、まぁ住む場所が同じ生物なら大体同じ特性だろう。

 

 僕は異世界に来たのだ、と直感した。

 お姉ちゃんへの愛がここに僕を導いたのだ。

 その証拠に、僕の敏感になった鼻がお姉ちゃんが近くにいることを告げていた。


 あぁ、お姉ちゃん! お姉ちゃん!


 くんくんくんくん、と鼻呼吸を全力でする。あぁ、あぁ。

 お姉ちゃんの体臭が人類を超えた嗅覚を持った粘膜にこびりつく。

 今のお姉ちゃんの肉体はお姉ちゃんのモノではないから、元々の匂いとは違うけれどそれでも僕にはお姉ちゃんだって事がわかった。魂から滲み出る匂いが違うのだ。

 その匂いからお姉ちゃんの拾う具合とストレス度合いの高さがわかった。同時に、お姉ちゃんにまとわりつくスライムの臭いが鼻をつく。


 邪魔だ、スライム邪魔だ。


 許せない、僕のお姉ちゃんにまとわりついて、しかもお姉ちゃんの匂いをこれ以上なく堪能できるこの千載一遇のチャンスに割って入ってくるなんて。


 お姉ちゃんを守るんだ、お姉ちゃん!


 僕は、嗅覚で感じ取ったお姉ちゃんの居場所へ向けてトンネルを全速力で移動する。

 異世界産の土竜も四つ足の動物で助かった。身体の使い勝手が人類とは違うけれどわかりやすい。


 一瞬でお姉ちゃんたちの真下へと到達した僕は、勢いよく地面を突き破り、地表へと飛び出した。


「〜〜〜!!」


 おねえちゃん! と叫んだつもりだったけど、僕の咽は大量の空気を吐き出したが、ただアアアアと音を立てるだけだった。人間じゃないから声が出せないのだ。

 地表に飛び出し、明るくなったが僕の視力はやはり土竜準拠。お姉ちゃんを視認することはできなかった。

 でも、代わりに匂いで分かる。

 今、僕のすぐ目の前にお姉ちゃんがいた。


「きゃああああ!!!」


 スライムにまとわりつかれ、触手のようなものがお姉ちゃんの秘部にまで到達せんばかりのその刹那。


 ——ザシュ。


 僕の爪がスライムを裂いた。

 モグラの武器は大きな手と鋭いかぎ爪。それは異世界産でも変わらない。

 

 二撃、三撃、と爪を振るい、お姉ちゃんの拘束を解く。


 スライムはやはりモンスターとしては低級。仮にもドラゴン種である土竜相手では分が悪いと思ったのか、早々に退散する様子を見せた。


 ——だけど、逃がさない!


 お姉ちゃんに襲いかかった罪は星よりも重い。

 僕は逃げようとするスライムに向けて大きく口を開いた。

 地球産と異世界産の土竜の大きく違うところ。

 さっき、お姉ちゃんを呼ぼうとしたときに気づいた。


 ——くたばれ!


「ギアアアアアアアアア!!!」


 僕はスライムへ向けて、身体の奥から空気を勢いよく吐き出し咽を震わせた。

 それは地を這う衝撃波となり、スライムを襲う。


「#$%’&%$#}*+<>?_!!」


 スライムは声と呼べないうめきをあげて、消滅した。

 ちょうど、ナメクジに塩をかけたときのように。


 やった! やった! お姉ちゃん! お姉ちゃんを守った!


 お姉ちゃんが膜まで含めて無事なことは嗅覚が告げていた。

 よかった、そうだ折角だから、この状態でしか味わえないお姉ちゃんの匂いをもっと充分に堪能しておこう。

 

 えへ、えへへ、お姉ちゃんだ。生のお姉ちゃんの匂い。匂い、ぐふ、ぐふふ。

 この敏感な鼻をお姉ちゃんの脇や太ももの隙間に突っ込んだらどんなに幸せになれるだろう、うふふ。


 天国を想像しながら、倒れ込むお姉ちゃんへと近づく僕は、


「この土竜め! 勇者様から離れろ!」


 背後から浴びせられた脳天への一撃を避けることができず、意識を失った。

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