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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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68 イースタンプトン港攻防戦終結

 イース王国の外港イースタンプトンを焼き払い、その上でイース王国王宮に進撃し、女王エリザを捕縛する。


 そのような命令をアドルフから受けていたホラン王国海軍第二第三第四艦隊は静かに寝静まっていると思われるイースタンプトンに入港していった。


 そして、イースタンプトンの街に砲撃を加えんとしたその時、沖合にいくつもの光が光った。


「何だ? あれは」


 その答えはすぐ出た。ホラン王国の艦に次々と砲弾が着弾したからだ。


「千里眼っ!」

 あわてて沖合を確認するホラン王国海軍司令官。その目に映ったのはイース王国海軍第二第三艦隊だった。


「夜陰に紛れて潜んでやがった」

「あらかじめ港から出て、待ち伏せしてやがったのかっ?」

「待てよ。と言うことはこっちの攻撃計画の情報が漏れていたということかっ?」


 三人の艦隊司令官は言葉を失う。アドルフが強弁したイース王国はホラン王国(こちら)の攻撃計画を察知していないは事実でなかった。


 しかも彼らは落ち込んでいる暇さえ与えられなかった。


「申し上げます」


「何だ? どうした?」


「イースタンプトン港から発砲。既にいくつか着弾しております」


「何だとっ! 『千里眼』」


 確かにイースタンプトン港から砲撃してきている。街の灯火を消した上、黒い布をかぶせて大砲を隠していたという念の入りようだった。


「……」

 もうこの現実を認めないわけにはいかなかった。早期の侵攻でイース王国()が対応する前に王宮まで占拠する計画はただの幻想だった。攻撃計画は事前に察知され、万全の準備をされていたところにむざむざ頭を突っ込んだ形になった。


 港に入ったとたん、潜伏していて地の利を知るイース王国()艦隊に出入り口を塞がれ、港からも砲撃される。まさに袋のネズミである。


「どうする?」

「こうなるとイース王国王宮の占拠は絶対に無理だ。沖合にいるイース王国()艦隊にこちらの攻撃を集中させ、何とか突破口を開くしかない。そこから一隻でも多く脱出させ、ホラン王国(母国)に戻るのだ」


「それをやってアドルフ宰相とレオニー摂政が許してくれると思うのか?」


「……」

 三人の艦隊司令官たちはまたも言葉を失った。宰相のアドルフも摂政のレオニーも敗軍の将を許しはしまい。


 そんな時だった。三人の艦隊司令官のもとに念話が届いたのは。


「ホラン王国海軍のみなさん。聞こえますか? 私はイース王国海軍大臣代理のウォーレン」


「若造が何のようだ?」

「今は確かにホラン王国(わが)軍は劣勢だ。だが負けたわけではないぞ」

「舐めないでもらおうか」


「ホラン王国海軍のみなさん。あなたたちは何故こんな無謀な作戦行動に出たのです。分かっていたはずです。ホラン王国の貴族は次々誅殺を恐れて亡命せんとしていた。多くの人が逮捕され処刑されましたが、亡命を果たした人も少なくない。どうして攻撃計画が漏れていないと考えたのです?」


「……」

 ぐうの音も出なかった。まさにそのとおりである。うすうす分かってはいたのだ。アドルフとレオニーに逆らえなかっただけである。


「ホラン王国海軍のみなさん。あなたたちは誰のために命を懸けて戦うのですか?」


 今度は反応が早かった。

「国王陛下のためだっ!」

「それに、王太子殿下のためだっ!」

「ホラン王国国民のためだっ!」


「それはおかしい。ホラン王国国王陛下と王太子殿下は随分前から病に伏せっていて指示を出せないと聞いています。それにあなた方はこの作戦行動が本当にホラン王国国民のためになっているとお思いですか?」


「……」


「降伏してください。悪いようにはしません。これ以上イース王国とホラン王国の将兵が血を流すことはありません。我々はホラン王国のみなさんとは真の友好関係でありたいのです」


「…… ホラン王国(わが)軍の兵の命は保証してくれるのだな?」


「武器をその場に置いてきてくれれば、イース王国女王陛下の名をもって命を保証します。ウォーレン()は女王陛下の近習でもあります」


「分かった。降伏しよう。艦隊を港に接岸したい。砲撃を止めてもらえるか」


「砲撃は中止します。但し、不審な動きが見受けられたら再開します」


「不審な動きはしない」


 ◇◇◇


「おっ、おいっ、いいのか? イース王国の連中を信じて」

「『クローブ』と『ナツメグ』をだましとった連中だぞ。武装解除したところで殺されるのではないか?」

 一人の艦隊司令官の降伏宣言に他の二人は懸念を隠さない。


 それに対する降伏宣言をした男はこう答えた。

「理由は二つある。一つは長年海軍にいた一人の人間(ヒューマン)としての勘だ。今回のことは信用できる気がする。もう一つは……」


「……」


「もうこれ以上、その正体が魔族(デーモン)であることが分かりきっているレオニー摂政のために命を懸けたくない。そして、部下たちの血を流させたくないんだ」


「……」

 残りの二人はしばしの沈黙の後、共に大きく頷いた。

「分かった。私も降伏しよう」

「私も降伏する。最悪、だまし討ちにあったとしても、我ら三人の命を取引材料としよう。何としても兵の命だけは助けよう」

「ああ」


 イース王国海軍は約束を守った。ホラン王国海軍の将兵たちは武装解除はされたものの、危害を加えられることはなく、収容所に入れられた。


 収容所での生活は監視がつき、外出の自由はなかったが、衛生的で安全な暮らしは保証されていた。


 収容所にいなければならないのは当面の間とされた。当面の間というのは現在行われているアトリ諸島の攻防戦が終結するまでのことである。


 

次回第69話「ジェフリーの感情は揺れ動く」

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― 新着の感想 ―
[一言] 艦隊が一気に瓦解してしまいましたね (;'∀') これはホランの負けですなぁ……><。
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