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フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


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64 ジェフリーたちにとって状況は最悪

(!)。

 ジェフリーは(ひらめ)いた。

(これはジェフリー()の方からアドルフに戦闘(ケンカ)しかけたマルク群島攻防戦の裏返しなんだっ!)

(あの時ジェフリー()は何をした? ガレオン一隻で敵の気を惹いておいて、裏からラ・レアルで『クローブ』と『ナツメグ』を略取した。この裏返しだとするとアドルフは何をしてくる?)


「&$(#{+})」

 ジェフリーがそのことに気がついたのとンマゾネスがそこに駆け込んできたのは同時だった。


 ◇◇◇


 すかさずンマゾネスに「翻訳」魔法をかける。

ジェフリー(お頭)ッ! 島の反対側からでかい艦が二隻来て、遠距離から威力のある砲弾バンバン撃ってきて、『クローブ』と『ナツメグ』の林が燃えてるんだっ!」


「くっ」

 ジェフリーはうめいた。

「やはり片方に気を惹いておいて、反対側から来たか。よしっ、すぐ行く」


アミリア()も行きますっ!」


 ◇◇◇


 状況は最悪だった。


 エルフたちが丹精込めて育て上げてきた「クローブ」と「ナツメグ」の林が被弾により燃えさかっている。エルフたちは涙を流しながら消火して回っているが、相次ぐ被弾に間に合わない。


 また、「姿なき海賊団」の者が海岸に設置された大砲を撃ち、応戦しているが、殆どダメージを与えられていない。


ジェフリー(お頭)ッ! どういうことだっ? 何であんな遠くから砲弾が飛んでくるっ? こっちの砲弾は届かないのに、何で向こうの砲弾は届く?」

 ンマゾネスはジェフリーにつかみかからんばかりだ。


「最新型のキャネロード砲を積んでいる艦を全部こっちに回してきてるんだ。悔しいが、こっちの大砲では歯が立たない」


「それじゃあここままやられてろって言うのかっ? 何か方法はないのか?」


「前の二回の時のようにこっちが敵艦に乗り込めれば勝機がある。だが、今のまま遠距離の砲撃を続けられると厳しい」


「よしっ! ジェフリー(お頭)ッ! ンマゾネス()に海の上を走れる魔法をかけろっ! 乗り込んで行って、ぶちのめしてやるっ!」


「すまん。さすがに海の上を走れるって魔法はない。『身体強化』して泳いで接近する手もあるが、これだけ砲撃が激しいと危険だ」


「くそっ、何か手はないのかっ?」


「要は敵艦をこっちに近づけさせればいいんだ。…… 一か八か、この方法でやってみるか」


「おっ、何かいい方法があるのか? ジェフリー(お頭)


「やってみないと分からないが、敵艦をこっちに近づける役目はジェフリー()がやる。ンマゾネスは首尾良く敵艦が近づいてきたら斬り込んで行って倒してくれ。敵将はアドルフと魔族(デーモン)だが、禍々しい気配を出しているからすぐ分かるだろう。先に武器に魔法力を付加しておくわ」


「すまん。しかし、ジェフリー(お頭)。敵艦をこっちに近づけるって何をやるんだ?」


「ああ、アドルフも魔族(デーモン)ジェフリー()のことは相当恨んでるはずだからな。拡声魔法を自分にかけて、海岸に立って、挑発してやるんだ」


「!」


「そうすれば敵はジェフリー()を狙って砲撃してくる。そこを『身体強化』『精霊の守り』の魔法で徹底的に回避する」


「……」


「そうすると敵も意地になってジェフリー()を殺そうと接近してくる。斬り込みがかけられそうなくらい近づけるから、そうしたらンマゾネスは斬り込んでくれ」


ジェフリー(お頭)ッ、エンリコ()も斬り込みさせてください」


「エンリコ!?」

 エンリコの申し出に驚くフラーヴィア。

「危ないよ。今度は今までとは違う。今までは遠距離砲撃なんかしてこなかった。今度の敵は手強い」


「フラーヴィア様の言われるとおりです」

 エンリコは淡々と返す。

「今度の敵は今までとは違う。戦術を知っている。手強い。それだけに何としても撃退しなければならない相手です。ンマゾネスさんはとても強い方ですが、エンリコ()も行った方がより確実でしょう」


「はっはっはっ、エンリコーッ、あんたやっぱいい男だぜ」

 呵々大笑するンマゾネス。

「ちょっと惚れそうだが、エンリコ(あんた)にゃあ一途に思ってる女がいるもんなあ」


「はい。エンリコ()はフラーヴィア様一筋ですから」

 エンリコも笑顔で返す。


「エンリコ」

 それに対しフラーヴィアの顔は真剣そのものだ。

フラーヴィア()にはアトリ・デ・マリ商会当主としての責任もある。だから個人的感情で行かないでとも言えない。でもっ、でもっ、生きて帰ってきて」


エンリコ()は死なないですよ。この世で一番尊敬しているマスター・オズヴァルドから『孫を頼む』と言われているんです。フラーヴィア様が天寿を全うされるまで死ねないのです」


「そこはそうじゃねえだろ。エンリコ」

 ンマゾネスは、バンと右手の平でエンリコの背中を叩く。

「そこはエンリコがフラーヴィアちゃんを好きだから、一生かけて守るんで死なないって言うんだろうよ」


「いててて、そうですね。そのとおりです」

 苦笑していたエンリコだが、不意に真顔になる。

「危ないのはンマゾネスさんやエンリコ()よりもジェフリー(お頭)の方でしょう。敵が撃ってくるのは『矢』じゃありませんぜ。『砲弾』ですよ」


 ◇◇◇


 ざわっ


 和やかに流れかけた場がざわめく。そう、ここは戦場なのだ。


次回第65話「怒るアミリア ヘタレ決着の時」

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― 新着の感想 ―
[一言] みんなカッコイイぜ( ˘ω˘ )
[一言] よっ!勇者エンリコ☆彡 男だね!
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