表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない  作者: 水渕成分


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/77

62 アドルフは独裁する

「口実はある」

 アドルフは淡々と返す。

「イース王国はホラン王国(わが国)の財産である『クローブ』と『ナツメグ』の苗木をかすめ取った上、その生産物を売って収益を上げている。泥棒国家には懲罰が必要だ」


「それは事実ですが……」

 第一艦隊司令官もここで引き下がるわけにはいかない。

「まずは外交筋から抗議を申し入れることが必要でありましょう。いきなり『攻撃』では国際社会の理解が得られませぬ」


「愚かな……」

 アドルフは冷笑する。

「泥棒国家にそんなことが通用すると思っておるのか。のらりくらりと時間を稼がれ、軍備を固められるのがオチだ。奇襲をかけ、電撃的に叩き潰すことだ。そうすれば他国も口をはさむ隙がなくなる」


「恐れながらイース王国はエリザ女王の治世になってから急速に国力を伸ばし、先日もアトリ諸島をその傘下に収めました。電撃的に叩き潰すには手強すぎる相手かと」


「分からぬ奴だなっ! 貴様っ!」

 アドルフの声はついに怒鳴り声になった。

「だから外交交渉などをせずに、奇襲をかけ、相手に対応させる隙を与えずに、電撃的に叩き潰すと言っているのだっ! これ以上の意見は許さぬっ!」


「いえっ、意見させていただきますっ!」

 第一艦隊司令官の声も大きくなる。

「よしんば奇襲作戦が成功し、イース王国に勝つことが出来たとしても、間違いなくホラン王国(こちら)の被害も甚大なことになる。むざむざ他国に漁夫の利をさらわれることにしかならないっ!」


「黙らぬかっ!」


「黙りませぬっ!」


 次の瞬間、後方に座っていたレオニーの左眼が光る。「魔眼」だ。


 しかし、第一艦隊司令官はその目を真っ向から見据えた。

魔族(デーモン)め。アドルフ公爵をたぶらかしおって、許さぬぞっ! 貴様などにホラン王国(この国)を自由にさせんっ!」


 アドルフは内心舌打ちした。

(ちっ、こいつも貴族でレオニーの精神的支配に抵抗力があるのか)。

 だが、すぐに右手を挙げた。

「衛兵っ! 第一艦隊司令官を捕縛しろっ! 罪状はホラン王国王族に対する不敬罪だ。

また、この場で第一艦隊司令官を解任する。後任はアドルフ()が務める」


「おまえら、このままでいいのかっ? このままではホラン王国(この国)魔族(デーモン)に食い殺されるぞっ!」

 連行される元第一艦隊司令官の叫びは広間に響いたが、みな下を向いていた。


 分かってはいる。分かってはいるがやはり命は惜しかった。


「他に異論のある者はいるか?」


 アドルフの鋭い声に反応する者は誰もいない。みな下を向いたままだ。


「よしっ! 異論はないなっ! では、第二第三第四艦隊に命じる。直ちに全艦艇を出撃させよ。目標はイース王国王都外港イースタンプトン。全てを焼き払え。『クローブ』と『ナツメグ』は一粒なりとも残してはならぬ」


「!」


「しかるのちはイース王国王宮に進撃し、そこを占拠し、女王エリザを捕縛せよ。その後はそのまま王宮を保持し、追って沙汰を待て」


(作戦に無理がないか)

 臨席した多くの者がそう思った。

(王宮を占拠し、女王を捕縛すると言っても、イース王国側も死に物狂いで抵抗するだろう。そんなにうまくいくのか?)


「案ずるな。彼我の戦力はホラン王国(こちら)が優勢だ。しかも、イース王国(相手方)ホラン王国(こちら)の攻撃の意図は察知されていない。念のため深夜に攻撃を敢行すれば不覚を取ることはない。それにイース王国臣民がエリザに強い忠誠心を持っていることは認めるが、それだけにエリザさえ捕縛してしまえば、イース王国臣民(奴ら)はたやすく白旗を掲げる」


 隣席者の一人がやっと声を絞り出した。

「第二第三第四艦隊がイース王国王都の外港及び王宮を制圧するのは分かり申したが、その間、第一艦隊はどうされるのです」


「それは貴官の関知されるところではないっ!」

 アドルフの厳しい言葉に質問者は震え上がる。

「第一艦隊はべつの任務に従事する。貴官はイース王国王宮を保持し、第一艦隊の到着を待てば良い。案ずるな。たくさんの土産を持ち帰ってやる」


「……」

 勇気ある質問者はもうそれ以上何も言わなかった。


「もう質問もないなっ? 各艦隊、速やかに準備を完了させ、出撃せよ。解散っ!」


 各艦隊の司令官と参謀たちは足早に準備にかかる。命令遵守の気持ちより一刻も早く悪しき緊張感を強いられるこの場を離れたかった気持ちの方が遙かに大きい。


 誰もいなくなった広間でレオニーがアドルフに問うた。

「大丈夫? レオニー()がもっと艦隊司令官や参謀たちを精神的支配した方が良くなかった?」


「ああ」

 アドルフが返す。

「確かに精神的支配は絶対的忠誠が得られるというメリットがある。だが、魔法力を持っている貴族にはかからないこともあるし、自律的思考能力が失われるから、柔軟な戦術が立てられなくなる。それだとジェフリーたちには通用しない」


「そうなの?」

 不安そうなレオニーの問いにアドルフは笑顔で答える。

「案ずるな。今度はアドルフ(自分)が指揮を執る。これ以上、ジェフリーたちにでかい顔させるつもりはない」



次回第63話「ホランとイース全面戦争へ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あわわわわ……!
[一言] 強引に攻撃が決定しましたね (;^_^A どうなることやら……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ