最終話 戦いの後
タツの放った糞動拳は、テッドの命を奪った。
それは、テッドが便秘の呪いを使った事によって、タツのカッチカチウンコの認識が変わったせいだった。
これまではただのカッチカチウンコというイメージでしかなかったが、実際に長期間の便秘によって起きるカッチカチウンコを見てしまい、そのイメージが具体化し、固さはコンクリート並みの強度を持つようになっていた。
具体化していないカッチカチウンコであったならば、コンクリート程の重さと強度を持つ事はなく、テッドも一命を留めていたかもしれなかった。
――が、これも運命だろう。
テッドの死亡により戦いは一気に終息へと向かう。
ローシャンや魔法使い達のやる気と未来が消えた事も大きいが、穢れの魔法使いと土の魔法使いが各戦いに加勢し始めるのだから、結果は火を見るより明らかだ。
最後に泣き落としに変わったローシャンはルイスの手によって容赦なく葬られ、デオダード国王の座を狙う者は誰一人いなくなり終結。
ルイスは勝利と共に父国王の死と自身が国王の座に就く事を正式に宣言した。
便秘の呪いを使う悪魔テッドと戦ったルイスの勝利は、ルイスが穢れの魔法使いと和解し共同戦線を取った事と共にすぐに広まり、タツの名は『穢れの魔法使い』でなく『救世主』としてデオダードでも認知されていくのであった。
「よしっ! 帰ろうか!」
全員の無事を確かめ。
タツは笑顔でそう告げる。
……だが、タツにはまだもう一つ仕事があった。
この事態を引き起こした神様。
あの神様は試練を乗り越えたら名前を教えてくれると言っていた。
つまり、もう一度会える。
神様と戦って勝てるワケが無い……だが、こんなに多くの人間が苦しむような能力をポンポン与えないように、せめて釘だけは刺す必要がある。
皆と歩きながら神様を諌める方法が無いかを頭を捻る。……だがしかし神を相手に良い案は思い浮かばない。
「いや~。私だってこんな能力になると思ってなかったんだって。」
「そうは言っても神様でしょう?
予知予見くらいはできたんじゃないですか?」
少年のようにも見える少女がタツの横を歩きながら、タツの言葉に対して物凄く馬鹿にしたような溜息をつき、そして口を開く。
「お前な~。
もしもアタシ達が全知全能モード発揮してたら、そもそも人間なんて存在が生まれていると思うか?」
タツは顎に手を当てて向けられた言葉を考える。
「……深いですね。
人間が欲に溺れて制御できないような『不完全な生き物』だとするのならば、全知全能な神がそんな不完全な物を生み出すワケがない……か。」
「なっ? 神様だって適当がいいんだよ。」
タツは首を振る。
「とはいえです。
あまりに適当な事をされたら、私が調子に乗る云々の前に、すごくヒドイ世界になりますよ?
今だってあのテッドとかいう王子がバカではなく、ほんの少しでも頭を使うタイプだったらと思うとゾっとします。
ルイスさん当たりが能力持って敵対していたら、なにも知らぬ間に私やセグインは詰んでましたよ。きっと。」
「……その辺は……運?」
「いやいやいやいや、そう言う事じゃなくてですね――」
困惑した様子のテッサが話しかけてくる。
「た、タツ様。その子は一体?」
「あ、うん。テッサ。この子はかみさ――はぁぁっ!?」
「よっ。試練乗り越えたね。」
「カミサさん? ですか?
……タツ様のお知り合いなんですね。初めまして。」
「あははは。カミサじゃないよ。
ノルンっていうの。
モイラだのラケシスだの呼ばれることもあるけど一番気に入ってるのはノルンだな~。」
「ちょ、あれだけもったいぶったクセに気軽にテッサに教えてるし!」
「いや? だって別に隠す事でもないし?」
「それじゃあ褒美にするような事でもないじゃないですかっ!」
「まぁヒドイっ! 本当は私の名前を知れて嬉しいくせに。ヨヨヨ……」
「くっ! 否定できないっ!」
タツのノルンに対する気易い様子を見て、ティファーニアが呟く。
「タツ様は……若い方が良いのですね……
この方は……私より若そうですもの…ね。」
「ティファ様……そんなことを言ったら…私は……いえ。アイーダなんて……」
「え!? あ! い、いやいや! 違う!
えっと、そうじゃなくて!」
ノルンに対しては『内心をどうせ読まれるから』と思った事をすぐに言う癖が思わぬところで弊害を呼んだ。
「いやーん♪ あたち狙われちゃってるぅー」
「アンタは黙ってろ!」
「私はどんなことがあっても大丈夫です。
……できれば私も狙ってほしいですが。」
「ジュリも面倒な事になりそうなので、ちょっとだけ黙っててください。」
仲間達にやり込められるタツを見て楽しそうに笑うノルン。
そんなノルンの姿に悔しさを覚えるタツ。
その時……ふと思いつく。
「おいバカやめろ!」
ノルンが表情を変えて言葉を放つ。
その思い付きがノルンの嫌がる事を的確に指していたことが、この言葉でわかった。
「……へ~…………意外ですね。
気にしないと思っていましたが。 へ~~……」
「ちぃっ! しまったっ!
……だからバカやめろっ!」
タツはニヤニヤしながら手をのばし何かを想像している。
すると、ポン。と輝く物体が手から落ちた。
見たこともない物質だ。
「……なんだコレ。」
出した本人が疑問を頭にいっぱい抱えるような表情をしている。
そばに落ちていた枝で物体をつっつくと、ずぶっと差し込まれていく。
そのまま枝を持ち上げると同じ形状で固まったまま枝に刺さっていて、柔らかいのか固いのかすらわからない。
仲間達もタツの出した物を不思議そうに見ている。
タツが純金を出せる事を知っている者も多いから、また何か変わった物を出したのだと思っているようだ。
ただ、その様子にノルンはプルプルと小刻みに震え、羞恥に耐えるような顔をしている。
「タツ様……それは一体なんですか?」
「コレは……神様のうn――」
「だーーっ!! バカバカバカバカーっ!!
ウンチチのウンチー! ばかーっ!」
物凄く久しぶりに聞く、日本にいた頃の『運七』という苗字をいじったトラウマの言葉。
「なっ! ば、ば、ば、バカって言う方がバカなんだぞっ!
なんだよ光り輝くウンコって! ハーハハ! 流石神様ですねってアホかー!」
「バカって言ったらバカなのに、アホって言ったらアホなんじゃないんですか~? ぺぺぺーだ」
「こ、こんの適当神がー!」
ノルンとタツの間に突如始まったケンカを眺めるテッサ達は
『とりあえず仲がいいんだな。』
と頷くしかなかった。
「あーもう腹立った!
私ぷんすこ状態なんだからねっ!」
「そうですかそうですか。それはようござんした!」
「もう、お前の能力変えてやるんだから!」
「…………えっ。」
「決めたモーン。変えちゃうモーン」
「ちょ、ちょちょちょっと!
それは……あんまりじゃないですかっ!」
ノルンは真剣に悩むような素振りを見せる。
キリっとした顔を作る。
「……今度は……そうなだ。
無尽蔵に『陰毛』を出せる能力なんてどうだろうか?」
「あんまりだぁああああああああああああっ!!!」
絶叫だった。
ノルンは楽しそうに笑う。
ひとしきり笑い続ける。
「嘘嘘。嘘だよ。
まったくタツヒコをからかうのは楽しいなぁ。
……そうだ。
追加のご褒美に、私がこのまま居てあげようか?。」
「ナニソレ嬉しさと嫌さが半々んんーーっ!!」
「……おい。
ソレは……ちょっとひどくないか?」
こうしてアウローラの世界に、ノルンが時々現れるようになるのだった。
--*--*--
その後のタツは、ノルンの能力変更に怯えながらも、手からウンコ出る能力はそのまま保つ事ができ、セグインと、ルイスを通して新しい縁のできたデオダード。この2国の発展の為に協力を始めた。
尚、デオダードに対する協力では、タツが足しげくデオダードに通うようになった大きな要因は、ルイスの妹がデオダード限定でタツの愛人になった事が大きいとテッサは推測している。
アイーダはといえば無事に女の子を出産。
タツは子供の余りの可愛さにメロメロになり、もっと子供を欲しがり頑張った。
結果、テッサもアイーダが生んでから間もなく妊娠し、ティファーニア、ジュリも、次々と子宝に恵まれ、アイーダの二人目の妊娠もすぐだった。
また、少年のようにも見える年端のいかない美しい少女にも手を出し身ごもらせた鬼畜性豪という噂も新しく生まれたとか生まれなかったとか。
子供を持ったタツは、さらに精力的に両国を行き来してその発展に努めた。
その努力は規格外な物で、やがてセグインとデオダードは世界において2強と称えられる国へと成長してゆく。
そしてタツは『行き来が面倒になった』と、その中継地点であった緑化した砂漠に新しい街を作り、その街の主となった。
……タツの作った街の名は『ノルニル』と名付けられ、女神の加護のある街。
そして『聖地』として知られるようになっていく。
人は謳う。
ノルニルで暮らすと、必ず幸せが訪れる。
と。




