28話 攻撃
テッドがローシャンから報告を受けてから数日が過ぎ、約束の日を迎えた。
ペラエス領主の館に集まった魔法使い達を見て、テッド王子は首を捻っている。
「ローシャンよ……ヤケに数が少なくないか?」
「そうですね……兄様。どういう事でしょうか?」
これから王都に『王』として凱旋しようというのに部屋に集まっているのは魔鉱石を没収された魔法使い達の顔ばかり。令をかけて魔鉱石を持たぬ者を別室にさがらせると、12人もいたはずの魔鉱石を所持している魔法使いが今は3人しかいない。
「これは……一体――」
ドン! とドアが勢いよく開かれ、肩の傷を押さえながら手負いとなった魔法使いが姿を現し声を張り上げる。
「敵襲です!」
「なん……だとっ!」
テッドはギリっと歯を鳴らす。
「ルイスめ……謀りおったな! まったく汚いヤツめ!
ええい! すぐに兵を集めろっ!」
「そ、それが、味方する兵がおりません! 周りは敵だらけです!」
「なんだとっ!」
テッドが知らぬ内に、事態は既に終盤に差し掛かっていた。
――時は11日前。デニスが数人を引き連れてデオダード王都へ向けて旅立った頃に遡る。
--*--*--
デニスが引き連れていた人影は、タツ、テッサ、ティファーニア。そしてレスターと、セグイン国王の親衛隊隊長のアーロン・ジャクソンの5人だった。
このデニスを含めた6人は今、特殊な乗り物で移動を行っている。
セグインの防衛特区の技術者達とタツが技術革新を進め、その中で面白がって作った試作品『熱気球α』だ。
元々、火魔法を応用して船体を浮かせ、風魔法で推進力を生むという理論で試作がされ実験が成功した物だったが、結局どちらの魔法使い頼みの為、効率的な実用が難しいと判断されて、試験飛行の後、凍結された物だが、
『じゃあ、使わないならもっと実験していい?』
と、タツが発生させることができるガスを熱源に変える形を提案して、カスタマイズしたのだ。
今は、タツのガスとテッサの起こす種火で熱源を起こし、アーロンとティファーニアの風魔法で推進力を生んでいる。
風を受ける為の舵取りや細かな調整はレスターが行い、まったく関係しない立場で速度と高度に、ただただ怯える役割がデニスだ。
サラっと流したが、実は王族は魔法使いの才に目覚める者が多い。
というのも魔鉱石を持つ事ができ、しっかりとした教育を受ける事が出来る立場にあるからだ。
故にティファーニアも魔法を使う事ができ、その才は『風』。
無論タツはティファーニアがついてくる事を良しとはしなかったが、テシファーニアは恋人がもしかすると死ぬかもしれないような所に向かうのを黙って見ている事ができる女ではなかった。
王女は我儘なのである。もちろん渋い顔をしながらも、タツが内心とても嬉しかったのは当然のことだ。
セグイン国王ももちろんティファーニアを止めたが、最終的には娘の意思を尊重し、自分の最も信頼を寄せるアーロンを同行させた。
こうして深夜の空の旅で、あっという間にタツ達はデオダードへと侵入する。
このアウローラという世界においては、まだ空からの侵入などは有り得ない物だった。
デニスから、テッドが財力や兵力をまずはペラエスで確保しようと動いている事や、ルイスが王都にいる事は情報として手にしており、即デニスを王都の王城へと向かわせて、ルイスに
『タツがテッドを討つ為にデオダードに来ている』
と告げさせると、ルイスは実質国王の立場でありながら一人の供もつけずに、デニスに案内されてやってきて、タツと初めての面会をする。
タツは最初ルイスを警戒したが、ルイスが敵意の無い事、出来ればタツやセグインと友好関係を結びたいと考えている事を熱弁し、それに対してタツがいくつかの質問をすると、ルイスはそれに真摯に答えた。
現状領主達がテッドになびき孤立している事も隠さずきちんと告げ、その上でも民の為に足掻いている事を話した。
タツは質疑応答を通してルイスが自身の立場が弱まっている事などを正しく理解し、その上でその視線が自分自身の欲ではなく民に向いている事に好感を覚えた為、信用しても良いと判断し協力関係を結ぶ事になった。
協力関係となった二人は、持っている情報を交換し、タツの持つ情報の『タツの能力で便秘の解消ができる』を聞いたルイスの動きは凄まじく早かった。
すぐさまテッドの便秘の呪いを解消できる事を、風見鶏の領主達に拡散し自身の味方に引き戻したのだ。
領主達にとっても『従わなければ便秘で死ね』と脅すような人間には嫌々従っていたのだから、解決策があるのであれば、無理に従う必要はない。
テッドに従う兵達も同様で、家族や自分の命の為に仕えるしかなかっただけ。
この情報ひとつでテッドに従う兵の脅威は消えさり、残るはテッドに従った魔法使い達の対策だけとなる。
ルイスは交渉の為に、いくつかの魔鉱石をテッドに渡してしまっていて、魔法使いの脅威は増えている可能性があった為、兵や領主達には引き続きテッドの意のままに動いているよう振る舞いつつ、自分達のテッド討伐の邪魔をしないよう命令を出した。
テッドの周辺に集まる魔法使いの性格を考えると、皆利己的であることからテッドの傍に居る事を望み、能力を解消できるのがタツだと知ればタツを殺しに来るだろう。
故に、テッドの下についた魔法使い達は『排除』する以外の道は残されていなかった。
とはいえ魔法使いは一騎当千の手練れ。
集団となり、各個手を組めばそれは非常に危険極まりない。
衛星都市から兵を集め、数を持って対抗すれば勝利を手にすることもできようが、それでは領民が多く死に、ルイスの望むところではない。
となると、どんな手で排除するか。
その手段は『暗殺』だった。
タツとしてもセグインから距離が大分離れており『テッドの能力によって苦しめられている人間のウンコ』の放出でアイーダの便秘が解消され、自分の子供がきちんと助かっているかが常に気がかりとなっていたから、出来るだけ早くケリをつけてしまいたかった。
前世と今の45年で、初めて出来た自分の子供。
その存在は思っている以上に自分の中で大きい存在になっていたのだ。
そんなタツとしてもすぐに行動を開始できる『暗殺』に賛成だった。
新たに増えた仲間達と話をし計画を練り、タツの能力とルイスの根回しならやれると判断し、その日からペラエス攻略に向けて作戦が開始しされた。
ルイスは、まずペラエス領民達を掌握する。
それには3日を要した。
ペラエス領民達の協力の下、寝静まった魔法使いの寝室を糞で埋めて窒息死・圧死させるのがタツ。
そして死んだ魔法使いが生きているように見せ、何も問題ないように振る舞うのがペラエス領民達。
魔法使い4人程の始末が済んだあたりで、警戒が厳しい者が多くなっているように感じ、ルイスは王座を譲る旨の連絡を持ってテッドとその魔法使い達を油断させる方法をとる。
ルイスはテッドの性格をよく理解しており、書簡を送れば油断が生まれるだろう事を予測していた。
予想通りすぐに広まり、魔法使い達も何人かまとまって祝杯をあげ乱痴気騒ぎをする者がおり、そこでさらに4人の魔法使いを仕留める事が出来た。
そして約束の日までに仕留めきれない魔法使いは、警戒の強い魔法使い達で、真っ向戦う以外に道が残っていないと判断し、真正面から仕留める事にして、時は冒頭の手負いの魔法使いが屋敷に駆けこんだ時に戻る。
テッドの居る屋敷から魔鉱石の武具を着込んだレスターが、合図を送っているのを確認するタツ。
レスター達は合図を送ってすぐに避難を始めている。
タツは手から軽くウンコを出してみる。
すると、出た。
今テッドの能力は自分に向けられていない。イケる。
右手を屋敷に向け――
「セグインとデオダード……お前の苦しめた人間達の思いを知れっ!
糞グニールっ!!」
長距離弾道ミサイルのような大きさのカッチカチウンコがテッドの居る屋敷へと発射された。
カッチカチウンコミサイルは瞬時に屋敷を破壊し瓦礫を巻き込みながら飛び散り、屋敷は大きく穴をあけ、そして倒壊を始める。
倒壊に巻き込まれれば生きてはいられないだろう光景。
その光景を目にした領民達から歓声が聞こえ始めた。
……だが、そこに違和感を覚えずにはいられないような一つの球体
『土の塊』が姿を現すのだった。




