27話 画策
タツはテッドからの書簡を投げ捨てた後、すぐに参議に便秘に苦しめられている人達のウンコを放出してくる事を告げ、独り駆けていった。
参議は慌てながら、その場にいた衛兵達にタツの警護につくよう指示し、そしてテッドからの書簡をセグイン国王へと渡し説明する。
国王は参議の報告から、身に覚えのない便秘に悩んでいた事の原因が判明し頷く。
だが、国王は『タツと共にある事』を変える気はまったく無かった。
参議は書簡を見た際に一瞬だけタツの首を差し出す事も頭を過ったのだが、国王の姿を見て、その考えは頭からはじき出す。
なぜなら、そもそもの話としてタツの首を差し出したとて便秘が解かれるワケが無い。
延々苦しめられ、そして搾取され続ける。
タツが居ればデニスを見ていた限り便秘に苦しむ事は無い。
であれば、タツと協力してなるべく早くテッドを討つべきとすぐに気が付いたからだ。
そうなると、気がかりはデオダードの内情である。
国王と参議は足早にデニスの下に向かい情報確認を始めるのだった。
ギルド職員としての視点を持つデニスから、デオダード王国における一連の流れを確認すると、もう一方の書簡を送ってきたルイス王子は何とかテッドに対抗しようと足掻いていると判断でき、味方に付けれるかもしれないと思えた。
国王と参議が、デオダードのルイスと共同歩調を歩めるかを考えた時、辺りはすっかり暗くなっていたが、その時、急に腹ぐあいがスッキリし便秘が解消されたのを感じるのだった。
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大量のウンコを射出しても良い場所を探し、移動を続けていたタツは移動の最中ずっと考え続けた。
それは、アイーダとの間にできた子供の事。
もし便秘でお腹が圧迫され、アイーダと自分の子が苦しんでいたら……この事態に気づかず、取り返しのつかない事になっていたら……そう思うと次から次へとテッドに対する怒りが沸いてきていたのだ。
そして周りに影響の少なそうな場所に辿り着き、
『テッドの能力によって苦しめられている人間のウンコ』
を放出する。
その放出は一山を作った、そして、どれも不健康そうなカッチカチウンコで目が痛くなる程の悪臭を放っていた。
鼻と口を押え、涙を流しながら踵を返し戻る。
「ダメだっ! 絶対にコイツだけは何とかしないとダメだっ!
こんな事をするヤツに平気で能力を与える神様もダメダメだっ!」
気が付けば大声で吠えていた。
戻りながら『戻れば自分の首を取られるかもしれない』という考えも頭を過ったが、そこまで短絡的な考えをする人間がセグインにはいないと信じ、国王達のところへと戻っていく。
そして、戻るとやはり思った通りの目をしてタツを迎え入れてくれた。タツとセグインの人間達には、既に信頼という絆が結ばれていたのだ。
その深夜、身軽になったデニスが数人を引き連れてデオダード王都へ向けて旅立つ姿があるのだった。
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「小賢しいマネをしおって……穢れの魔法使いが。」
以前ペラエスの領主が使用していた屋敷の一室で、憎々しげに呟く王子の姿。
衛兵の報告から、領民が便秘に苦しんでいない事を知ったからだ。
それが発生したのはおおよそ一週間前、そして今日も便秘に苦しむ人がいなくなったと報告があった。
自分が能力を解除していないにも関わらず便秘のウンコが消える等という現象を引き起こせる人間は一人しか知らない。
『穢れの魔法使い』タツだ。
「余とて、いつ穢れの魔法使いが放出するかわからんのに、延々と手をかざし能力を使い続けるわけにもいかんからな……」
夢で会った神様の話では
『手をかざしている限りタツが手からウンコを出す事が出来なくなる』
という話だった。
神様の言った事はそれだけであり、一般人を便秘にできるなどと言う事は一切言っていない。
だが、テッドは『魔法使いの魔法を止めれる能力』を得たと思い、隠し持っていた父国王の亡骸より盗んだ魔鉱石を共に追放された弟に渡し実験をしたのだ。
すると、弟は問題なく魔法を発動する事が出来た。ガッカリしたが、その後に弟がウンコをする事が出来なくなり、人を便秘にする事ができる能力に気が付いたのである。
テッドは選民思考と自己顕示欲の塊のような男だから、自分が神に選ばれし邪悪を滅ぼす存在であると信じ、まずは父や兄を暗殺して王座を奪いとった邪悪な存在である弟ルイスを、その栄光の座から引きずりおろす事にした。
王暗殺に関しては領主達の企てでありルイスは流れに乗せられただけなのだが、結果からしか推測する事の出来ないテッドは、一番利を得たルイスが謀ったこと以外、信じられないのである。
「民も民だ。
ルイスの『民あっての国、民無くして国ならず』などという甘言。パフォーマンスを頭から信じているのだから心底頭が悪い。
……どうせ搾り取られる事に何故気が付かんのだ。」
テッドにとって大事な事は自分を崇める人間であり道具となる人間だけ。
民など、ただの自分に使われるだけの駒に過ぎないのだ。
だからこそルイスの言葉は偽りにまみれている物であるとしか理解が出来ないのである。
だが、そんなテッドであっても民という駒が武器となる事は理解しており、敵となった場合は、その数に対抗する手段が必要になる事もわかっていたから魔法使い達を利用した。
……類は友を呼ぶと言うが、魔法使い達もテッドと同じような思考の持ち主が多く、テッドとは話が合ったから友人が多かったという事もある。
そしてその魔法使い達はルイスの政治に対して大きな不安を抱えていることもテッドは理解していたから、魔鉱石を奪われ落ちぶれた魔法使い達や、魔鉱石をルイスに奪われていない魔法使い達とコンタクトを取って自陣に引き入れる事に成功した。
12人ほどの魔法使いだが、各個一騎当千の手練れであるから、1万人近くの兵を集めねば叩く事は出来ない。
それに領主達は甘い汁さえ吸えれば、すぐに誰にでも尻尾を振る事も理解しており、自分の能力をわからせた後、ルイスに手を貸さない限り2日毎に排泄する権利を渡してやることを条件として提示すると、テッドに対して対抗手段の無い領主はすぐに寝返った。
その結果、ルイスは一部の領主を除いて孤立する事になる。
「兄様の予想通りセグインには、未だ大きな動きも無いみたいですよ。
もしかすると書簡の通り首を渡してくるかもしれませんね。ケヒヒヒ。」
一番下の弟ローシャンが報告にやってきて、告げる。
「下品な笑い方になってるぞローシャン。気持ちはわかるがな。フッフフ。
まぁ、余が向こうの立場であれば、ウチの王都の二の舞を避けて罠を張って穢れの魔法使いを仕留めるな……だからそんな分かりやすくは動くまい。
もし大きく動いた時があれば、それは穢れの魔法使いを仕留めそこなった時よ。
その時は穢れの魔法使いが怒りに任せて我が国にやってくるかもしれんからな。そうしたら余が動く必要が出てくる、余が能力を封じて魔法使い達が仕留めれば穢れの魔法使いはお終いだ。」
テッドやローシャンの頭の中は、現在の正しい周辺国の情報が伝わっておらず、セグインが貧しいビスワスの搾取国というイメージのままで止まっているのだ。
商人に扮してセグインに呪いをかけに行った際も、緑化された土地を見ても元々そういう所という認識であり、わざわざ貧乏な国に行く必要もない為、目的を果たしてすぐに帰還したのである。
デオダード王国自体が混乱の極みにあったせいで、セグインがこの半年で富んだ強国になっている事を正しく理解しているのは、ルイスと一部の領主だけであり、搾取以外に興味の無いテッドはセグインが強国に進化するなど夢にも思っておらず、むしろ穢れの魔法使いの被害でより弱体化していると思っているのである。
そして今も興味はルイスか穢れの魔法使いかの二人だけに注がれている事もあり情報を求めなかった。
だからこそ、書簡も小国を相手にするような上から目線で送っているのだ。
穢れの魔法使いがセグインに滞在している理由も、貧しい国だからこそ、穢れの魔法使いの存在があっても追い出す兵力が無いからだと踏んでいて、まさか穢れの魔法使いが金を生む鶏となって国に囲われているという現状は想像する事すら出来ないのだ。
もちろん便秘でいつでも滅ぼせる国だと思っている事が大きいのではあるが……
尚、ルイスは現国王のような立場からか、はたまた性格かセグイン内の噂までも情報として仕入れており、一度だけたった噂の『英雄が色に狂った噂』まできちんと把握し、セグインとの友好関係の構築に神経を尖らせている。
「兄様、後もう一つ報告がありまして。大吉報ですぞ。」
「ほう? 先ほどの笑いはそれが原因か?」
「ケッヒヒヒ。そうですとも!
ルイスが……とうとう兄様に王座を譲るそうです!」
「は、ハッハッハハハ!
不甲斐ない! 不甲斐ないなぁルイス。
張合いがないではないか。」
「ルイスとて、便秘には耐えられなかったのでしょうとも、ケヒヒヒ。
王座と、これまで取上げた魔鉱石を譲る事で兄様の許しを請いたいそうです。」
「フフハハハっ!
民、民と言いながら結局我が身可愛さが勝つか。しょうがない人間だなルイスは!」
「4日後にここへ迎えを寄越し、王都にて兄様の祝賀会を催すだそうです。
いかがなさいますか? 兄様」
「クククク……よかろうとも…参加してやろう。
魔鉱石を奪われた魔法使い達の恨みも相当であろうからな。全員を連れて参加し、皆でルイスに罰をあたえようぞ。」
「恐ろしいお方ですよ、兄様は。ケヒヒヒ」
「フフ………
フハハ……
ハーッハッハッハ!」
デオダードに嵐が訪れようとしていた。




