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ウ○コの力 -能力がクソだけど、なんだかんだでキャッキャもてはやされたり尊敬されたりして幸せに過ごす物語-  作者: フェフオウフコポォ


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26話 兄弟

 『穢れの魔法使いタツの許しを請いたい』


 そう打診したルイス・ヘンリー・デオダードは、返答に絶望していた。


 ルイスはタツがデオダード王都を攻めた後、その復興に尽力したことから民の信頼を集め、神輿に乗せられた形で今の立場を得ている。


 そして疲弊したこれからのデオダードの発展において、タツとの敵対は不利益しか生まないと予測し、なんとか友好関係を結ぼうとしていたのだ。


 タツがウンコ攻めした当時もルイスは有能であったが、有能であるが故に王族の中でその地位は低かった。

 なぜなら兄弟姉妹だけで総勢8人もおり、その各母達の親族の絡みもある。

 それらのしがらみの中で、敢えて有能さをひけらかすような真似をする事は多くの敵を作りかねない。


 野心家の父国王にしても、優秀過ぎる息子は自分の立場を奪いかねないと邪推して追放する可能性もあるし、下手をすれば処刑されかねないという事を理解していたからだ。


 極力目立たず、ただ時が巡るまで待ち、それまでは街の仕組みや情勢を理解する事も兼ねて街に降り『女に弱いダメ王子』として振る舞って、王都内で恋多き男を演じては女達から様々な情報を集めていた。


 もちろん元々の女好きという性分もあるのだが、それは利害の一致であり、女達に対しても権力に任せて好き勝手するのではなく、あくまでスマートに近づいては合意の元に関係を持つ。

 領民の半分は男であるから、そんな男達の反感を過度に買わないように『まぁ、王族だし仕方ねぇか』と言われる程度の範囲をわきまえて行動していた。


 その為、手を出した女達の数も納得できる数に収まっており、その待遇も自身の範疇において愛人として手厚く扱う事が出来、むしろ


 『へー! ルイス様に狙われるだなんてラッキーじゃない!』


 と、王都民からも、ある種の女性限定の宝くじのような存在と思われていた。


 父国王は領土の拡大と権力の増大を求めており常に視線は外に注がれていた。

 ルイス王子は父国王とは逆に目を内に向け、そして愛人達と触れ合うことにより、領民の暮らしの向上こそがデオダード王国の反映の鍵となると見込み、父国王に対して内政における領民の不平不満をサポートする職を提案し内政を手伝いたいと申し出た。


 父国王にしてみれば、民は侵略して増やせば良いものであり、反乱さえ起きないよう管理できて税金が入ればどうでもいいと考えており、参謀も国王の考えに賛同していた事から、そんな仕事をやりたいという息子に対しては


 『効率のいい女遊びの為か……やれやれ困った物だ』


 と思う程度でしかなく


 『好きにしろ』


 と投げた。


 この父国王の行動はデオダード王国にとっては非常に良い選択であったのは間違いない。

 だが父国王にとっては致命的な選択だった。


 『民こそが国であり、力である。』


 ルイスはこの信念の基、王都にあった様々な不満の種を潰す取り組みを始める。

 それと共に『女に弱いダメ王子』というイメージを利用して、領民其々の立場に合わせた婚活の場を作った。


 戦国の世において、男達は粗野な者が多く、女は危険を感じ夜間になればまったく外に出る事はない。

 昼であっても強引な男達や権力者達が女を食い物にする事も多く、自由な恋愛はほぼ存在していなかった。


 これらを愛人達から聞いていたルイスは、環境を整え、婚活の場を提唱し実現。


 禁欲的、厳格であり女と縁遠かった真面目な好ましい生き方をしている男達をせっせと集めては女達と顔合わせができる場を作り、王都に恋の花を開かせた。


 ルイスの取り組みにより王都に幸せな夫婦が生まれる事も増え始め、夫婦は王都に根付き、家族を作り、王都は確実に繁栄の階段を上っていた。


 ……だが、そこでタツの王都攻撃が行われる。


 恋の花ひらく街である王都が、一瞬にして糞の街と化したのだ。


 攻撃当時に実験を握っていたのは父国王だったが、国王は悪臭に耐えきれなくなり


「王あっての国! 我らの安全が先だ」


 と、脱出できる道筋だけを民に作らせ、そして、あっという間に衛星都市へと逃げ出した。

 もちろん兄弟姉妹も全員後に続き、参謀や魔法使い達も国王の下で働くのが仕事と次々と王都から逃げ出した。


 ルイス王子とて内心は逃げ出したかった。

 誰が糞の山に好んで囲まれようか。


 だが、愛人達や個人的に面倒を見ていた領民達も多く、それらを投げ出す事などできない程に彼ら彼女らの事をルイスは好いていたのだ。


 ……彼は領民を愛していた。


 故にルイスは糞に恐れを抱く王都民達に一度王都を捨て、難民として一時避難させる事を決め説得に走り始める。


 これは戦場において糞尿に汚染された水が健康に害をなす事を理解していた為で、四方八方を糞に覆われてしまってはそこに住む事は不可能と判断し、衛星都市との折衝等を執り行い、領民達の陣頭指揮にあたり避難させた。


 王都民達は、王子が自身の避難よりも自分達を優先する姿を見て感動し、タツのもたらした危機によって領民のルイスの支持が急上昇してゆく。


 そういった空気に敏感なのは、難民を受け入れた衛星都市の領主達である。


『今回の一件でルイスの支持が急上昇している。

 次期国王はルイスに間違いない。

 ……いや、既に現国王よりも支持されている。』


 そう判断すると、領主はルイスに気に入られようと行動するのは当然の事。


 衛星都市の領主達も王都の被害によって様々な不利益を受けているが、なにより厄介だったのは『ペラエスの領主が今回の事態の引き金だ』という噂。


 この噂は、元々税を毟りとる領主が民達によく思われていたワケも無く、全ての衛星都市の民達の間に領主達の傲慢が招いた事のように不満と共に広がっていたのだ。


 そんな頭痛の種がある中、民の人気と信頼の厚い王子の存在があれば、利用しないはずもない。


 こうして民と各領主からの支持を集めたルイス王子は、自身でも気づかぬまま国王として腕を振るい、王都の浄化を進めて行く。


 全衛星都市領主の支持に民の支持、糞の処理はハイスピードで行われ、3ヶ月と少し程で除糞作業は終わりを告げた。


 ここに至り、面白くないのは国王とその他の兄弟姉妹だ。


 かくまっている領主達は、既にルイスが国王であるという理解を示しており、それを国王達に漏らす事は無い。国王に様々な命令されてもルイスの絡む事は有耶無耶にして誤魔化してきていた。


 だが王都が除糞され、もう一ヶ月程もあれば機能が正常に戻るところまで来ると誤魔化しようがない。


 現国王自身も一時期より自分に上がってくる情報が正確でない物ばかりとなった事を感じ取り苛立ちを見せ、要求はどんどんエスカレートしてゆく。

 それに対して、面倒を見ている衛星都市の領主の我慢の限界を超えるのは早かった。


 ……結果。


 領主間での企てが生まれ

 父国王は暗殺される。


 ルイスには、領主から心労にて国王崩御の知らせが入るが、混乱の最中にある中、民を不安に落とす事などできないと判断し、その情報を最重要の機密として隠匿した。


 領主達は予想通りに事が進み、皆一様にルイスを次の国王にと押し始める。

 それは避難しているルイスの兄弟姉妹である王子や王女達が自分達を蔑ろにする扱いに変わったことから知るところとなるが、彼らの動揺は凄まじい物だった。


 姉妹達は、元々自分自身が政略結婚の道具でしかないと思っていた節もあり諦めも早かったが、そうはいかないのは男達。


 男兄弟はルイスを含め4人。


 ルイス以外の3人は揃って反抗の意思を見せる。

 最も苛烈に反抗した一番上の兄は、やはり領主によって暗殺された。


 ルイスもこの事態には王を含め暗殺である事に気づいたが、正直なところホっとした心持ちでもあった。


 なぜなら最悪のパターンは跡目争いで内乱が起き、未だ疲弊するデオダードが更なる混乱に陥る事だったからだ。

 その芽を領主が摘んでくれたのだから、領主達が確実に自分の味方であることを知れた事も大きい。


 兄の暗殺により、その下の兄弟達も意気消沈するしか道が残されていないことを理解した。


 攻撃から4か月が経ち、ルイスや難民となっていた民達も王都へと戻り、王族の兄弟姉妹が揃った時には実権は全てルイスが握る事を前提に話が進められ、異議を挟む者はいなかった。


 ルイスは久しぶりに顔を合わせた兄弟姉妹達の視線に戸惑う。


 姉妹達は皆ルイスの庇護下に入る事を望み、これまでには無かった媚びたような視線を向け、残された兄弟2人は恨みを込めた目を向けてくる。

 中でも自分の年齢に最も近いテッドからは大きな憎しみと恨みが見て取れた。


 とはいえ仮にも兄弟であり命を奪う事はしたくなかったルイスは、領主の不在となったペラエスへ兄弟二人を移動させる事を決める。


 もちろん一切の権力は与えず、王族が有していた魔鉱石も剥奪した。

 ルイスは兄弟達が、そのまま静かに余生を送る事を望んだのだ。


 だが、この采配にテッドは一層の怒りを覚える。

 華やかな王子の生活が断ち切られ、誰も自分を崇める人間がいない生活など彼には有り得ない物だった。


 ルイスは更に領民が過ごしやすい国となるよう、王都の危機に対して逃げ出した参謀や魔法使い達にも『危機に役立たない人間等不要であり、魔法使い達は戦場以外では領民を苦しめるだけである』と断じ、参謀は王都から追放。魔法使い達には魔鉱石の没収の沙汰を下した。


 これまでの魔法使い達は自分達の立場にあぐらをかき過ぎていた為、ルイスは自分に近しく信頼できる民の中から、取り上げた魔鉱石を使い、魔法使いを作り出そうとも考えていた。


 もちろん言い渡された魔法使い達にとっては『死の宣告』そのもの。

 抵抗をするが、領主達お抱えの魔法使い達に囲まれては抵抗も不可能。

 死ぬよりはマシと手放す事を選択せざるをえなかった。


 これらは粛々と実行され、ルイスの手元には魔鉱石が集まってゆく。

 魔法使いの育成には時間はかかるが、そもそも侵攻よりも防衛に力を置くつもりであるルイスにとっては、現状でも衛星都市の領主お抱えの魔法使い達の協力があれば十分と見ていた。


 だが、タツの侵攻に関してはお手上げ。

 その為、ルイスは考えを巡らせ情報を集めはじめた。


 ペラエスでタツと話をしたことのある人間を集めたり、土の魔法使い『ジュリ・ヘラ』からの話を聞き、その人柄を推測しもっとも効果的な許しを得る方法を絞り出す。

 集まった情報を精査し、見えてきたキーワードは


 『謝罪』


 『誠意』


 それと


 『女』


 であった。

 集めた情報にあったペラエスの領主の不条理な扱いと、女奴隷のエピソードが心に残ったからである。

 ルイスはソレを念頭に置いて計画を練る。


 謝罪は当然として、誠意ある対応として考えたのは土の魔法使い『ジュリ・ヘラ』

 彼女も妙齢の女であり、首を差し出すのではなく生かしたまま見せて判断を仰ぐ、反応を見て『女』を使う手段が良好であればジュリ以外にも姉妹である王女達を使おうと。


 もちろんジュリは魔法使いであり『暗殺』と思われては本末転倒であるから、タツに心からかしずくよう『調教』を施す必要があった。


 姉妹に対しての提案やジュリの対応、その他見目麗しい女などの準備、もし『女』に反応が無かった場合の金貨等の準備等を進めて、ようやくタツに面会を打診しても良い状態になったのは、タツの攻撃から数えて5ヶ月と少し経ってからだった。


 ――その頃ら、テッドが滞在するペラエスが不審な動きを見せ始め、そして、テッドが能力を使い逆襲を始めた。


 能力を謳い、追放した魔法使い達を呼び集め、ルイスに魔鉱石を要求してきたのだ。


 領主達の魔法使い達に協力を申請しテッドを落とそうとしたが、肝心の領主お抱えの魔法使い達はルイスの行った魔鉱石の剥奪に対して『次は自分の番』と考えるようになっていた事もあり、このまま質素倹約が求められそうなルイスや領主の傍よりも、もっと美味しい汁を吸えるであろうテッドにつき裏切ったのだ。


 ルイスは魔法使い達の性根の腐り具合に憤慨しつつも、領民を人質に取られていることに変わりなく、テッドとの面談を申込み、かろうじて少量ずつの魔鉱石と交換に排泄権を得るしか道が残されていなかった。


 テッドは面談毎にいやらしい笑みを浮かべては民の重要性を説くルイスを嗤った。


 その姿からルイスは、もしテッドがデオダードを掌握してしまえば民にとってデオダードは地獄に変わる事を悟り、事態の打開の為に最後の希望としてタツへの書簡を送ったのだ。


 そしてそれは間者を通してテッドの知るところとなり、双方から書簡が送られてくるという事になった。


 パンッパンに膨らんだ腹を押さえ、油汗を浮かべながらルイスは独りごちる。


「……穢れの魔法使い殿なら……なんとか…民を救ってくれるかもしれないと…思っていた……が。許しを請う事も出来ぬか……恥を忍んで……助けを請うか?

 いや、許しを請う事すら許してくれぬ現状で…助けてくれるワケもないっ!」


 涙をこぼすルイス。


「……情けない。

 …………情けない!

 民の為に何もできないっ!」


 脂汗と涙が混じったその時、腹が急に軽くなるのを感じる。


「…………まさか。」


 先ほどまで膨らみまくっていた腹が小さくなっていたのだ。


 ルイスはまだ希望が消えていない事を知り、その頬に涙だけが流れていく。


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