25話 禁じ手
「――それでは、大変お手数ですがお力お借りします。」
「あぁ、もちろんだとも。
こんなことくらいでは、まだまだタツ殿から受けた恩を返す事はできんからな。」
「逆に役に立てるチャンスが出来て我々としても光栄ですよ。」
「然り然り――」
タツが国王や参議達と会議にて一つの結論に達し、その賛同を得た。
もちろんその内容は神様と会って話した内容『テッド・クリストファー・デオダード』についてだ。
タツは神様との会話の後、少し考え一つの結論に結び付く。
そして国王達にテッドの自信は『手からウンコ出す能力』を封じる策が出来ている事から生まれている事を色々ボカしながら説明し、対応策を相談すると国王と参議の意見は簡単な物で、
『じゃあ、セグインから出兵してタツ以外の人間でテッドを討とう』
と話がまとまった。
そう。
『別に自分が戦わなくてもいいじゃん。』
である。
神様は『対峙しテッドが能力を発動している間、タツが手からウンコ出せなくなる系』と言っていたのだから、単純に対峙しなければ良いだけの話。
セグインとしても、タツの能力を封じられることは国益を損なう事に繋がる。
タツ自身がセグイン王国を気に入って生まれ故郷のように過ごしているし、王女との関係も良好。
発展に尽くしてくれていて、技術革新にまで取り組み始める様子から現状にも満足していて他の国に渡る心配もないように思える。
であれば、さらにタツの満足しそうな選択をするに越したことはない。
「では、いつでもテッドを討つ事が出来るように情報収集や作戦を練りましょうか。」
「「「 うむ 」」」
--*--*--
連日の会議を経て、魔鉱石武具を装備した特殊兵達の訓練を実戦の侵攻を見据えた物にし練度を上げつつ、デオダードが内紛状態かどうか等といった情報が不足している為、情報収集の強化と、もう一方の王子が利用できるようであれば、連携を計り協力体制をとる方向で行く事が決まった頃、テッドからの返答がやって来た。
使者として指定したペラエスのギルド職員のデニスが、息も絶え絶えの状態でやってきたのだ。
「デニスさんっ!」
タツがデニスの休まされている場所に辿り着くと、デニスは横になって休まされていたが、その顔は青く、時折苦しそうな呻き声をあげながらタツを見て力なく微笑むデニス。
「……よぉ……ひ…さしぶりだな……タツ…………うっ!」
「何が……何があったんですっ!?」
デニスの状況に、デニスが誰かに攻撃されたのかと思い怒気を含みながら見回すと、タツの様子を見て先に駆けつけていた参議が答えた。
「タツ殿。誓って私達は何もしておりませんぞ。
……息も絶え絶えにセグインへ向かっているのを商隊が見つけて連れて来てくれたらしいのですが……そのころから既に具合が悪かったようで……原因は見当もつかんのです。」
「デニスさん! どうしたんです!? 大丈夫ですか!?」
「……あいつだ……テッド王子…アイツの…呪いだ。」
「呪い?」
「あぁ……あいつは…ぐっ!
……あいつは子飼いの魔法使い達と……恐怖政治を強いている。」
「恐怖政治……まさか…デニスさん毒か何か盛られたんですか!?」
「………はっ……毒……か。
そうかもしれねぇな……うっ。」
苦しそうにしているデニスに何もできず下唇を噛む。
横になったデニスの腹はパンパンになっている。
何かを飲まされたのだろうか……
「………んぴ」
「え?」
「……テッド王子は……
……便秘の呪いをかけたんだ。」
「…………ん?」
その後、心から苦しそうに話すデニスから話を聞くと、ある日テッド王子は
『神が夢に現れ、穢れの魔法使いに対する力を我に与え賜うた!』
と宣言し、その力を滞在していたペラエスの領民に見せつけた。
その力は
『ウンコを出させない』
能力。
そう。
便秘。
一度能力に当てられると、テッド王子に許されない限りウンコが出せないのだ。
宣言された当初は『とうとう王子が追い詰められて狂った』と皆が口にしたが、その能力は本物で、テッドが手をかざした先にいた領民たちは皆、便秘になった。
最初皆便秘を甘く見ていたが、一週間が経つ頃には、その能力の恐ろしさを知る。
呪われた領民全てが、腹痛、疲労感といった体調不良の症状に襲われ、食欲もなくなっていったのだ。
領民達は非道な行いに決起しようとしたが、テッドはその動きを予測し対策を打っていた。
それはタツの王都攻めにより『肝心な時に役に立たない』『傲慢が災害を引き起こした』と何かと白い目で見られるようになっていた魔法使い達を自分の元に集め、守りを固めていたのだ。
魔法使い達はテッドを守る事で、その見返りとしてテッドから相応の地位を与えられ、強固な守りを敷いており、そんなテッドに領民達が手を出す事は不可能。
そして一度テッドの呪いを受けてしまえば、テッドに解呪されない限り苦しみは続き、テッドの目の届くところ以外で生きていく事が出来なくなり、今ではテッドへ多大な税を納める事で、かろうじて排泄を許されている状態なのだと。
排泄できない事の行きつく先は『死』。
デニスの身体を見ると腹がパンパンに膨らんでいる。
「……お前さんの指名が……あって……すぐに便秘にされてな……かれこれ……17日も…………流石に限界だ」
あまりに非道な行いに腹が立つ。
それと同時に、もしや。と思いトイレに走り想像する。
すると出た。
手からデニスのカッチカチウンコが。
思い切り不健康そうな状態で。大量に。
「っ! くっさっ!!」
気分が最悪になりながらも、念入りに手を洗ってからデニスの所に戻ると、それはもう晴々とした、スッキリした顔のデニスがそこにいた。
「いやぁー! 本当に死ぬかと思ったが助かった!」
腹の苦しみから解放された事が心から嬉しそうな顔をしていたが、一瞬にして辛そうな顔に戻る。
「……俺は助かったが……スマンっ!
悪い知らせがある……テッドは……セグインに対して呪いをかけていったかもしれん。」
その言葉に回りにいた参議や衛兵の顔色が変わる。
口々に
「そういえば……3日程…」
「俺が便秘になるって珍しいなと……」
と、呟いている。
デニスの話ではテッドは商人に扮し、ペラエスの周辺までデニスと共にやってきてセグインが見渡せる場所で手をかざし呪いをかける素振りをしてから、すぐに去っていったのだとか。
まだ内々の情報精査を進めている段階で、王子に対する手配や警戒に至っていない状態を狙われたのだ。
さらにデニスはため息を付きながら、申し訳なさそうな顔で託されていたであろう書簡をタツに渡す。
タツは嫌な予感を感じながら書簡を広げる。
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セグイン国王よ
余は神の力を用いて、そなた達の国の民の排泄を禁じた。
民は緩やかに死に絶えるだろう。
禁を解いて欲しければ、すぐに穢れの魔法使いタツの首を差し出せ。
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「クソがっ!」
内容を読み、思わず書面を地面に叩きつける。
参議がその書面を広い、読み……そしてタツを見た。




