第39話『未来は予測不能?』
マシェリに旅行計画を伝え終え、自室に戻ったエイル。
木扉を開けると、その向こうでは、ヌエとミユウがボードゲームに講じていた。
「チェックメイト・オーテじゃ!」
「いや、これこうすれば返せるよ」
「なん、じゃと……!?」
「んでここにスナイパー移動させて……こうすると、あと二千手ちょいで積みだけど」
「う、うがあああああああああっ!」
「何してるんだよ、とくにミユウ」
呆れ顔のエイルに話しかけられ、ほぼ同時に振りかえる二人。
すでに泣きが入っていたヌエに対し、ミユウはのほほんとした笑みをたたえていた。
「おかえり。姫との逢瀬はどうだった?」
「そういうのじゃないが、まあうまくいったよ。それよりなんでここにいる?」
「ヌエがヒマしてるからって乗ってあげたんだけど」
そう言ってヌエのほうを振りかえるミユウ。
悔しげに涙をうかべる彼女は、やり場のないその怒りを、なぜかエイルに向けるように睨んでいる。
その視線に参った彼は、頬をかきながら尋ねる。
「一応聞くけど、なんでミユウに知能戦なんて挑んだ? 勝てるワケ無いだろ」
「歳の功でイケると思ったんじゃ……」
「未来見れる上に参謀格だぞ? 無謀に決まってるだろ」
そっけなく言いつつ、彼の手はヌエの頭を撫でる。
ぐずるヌエを宥める彼を、ミユウは温かくも、少し羨ましそうな目で見つめていた。
エイルはそのまま、マシェリから聞いた旅行の予想を口にする。
確かめるように告げた彼に、ミユウは腕を組んで頷いた。
「確かに旅行先はあの国だろうね。陛下の好きなカジノもあるし」
「ギャンブル好きなのか? 意外だな」
「女王陛下によく怒られてたからね。だからこの国にもカジノは無いのだけど、あの国への旅行時は許されてたんだ」
意外なアーク王の一面に、興味深そうにうなずくエイル。
そんな彼の袖を、ぐずり終わったヌエが引く。
「お主の語っておるその国って、お主とわらわが出会った国でなかったか? 里帰りでもするのか?」
「あの国は広いからな、さすがにそのヒマは無いと思う」
マシェリにも説明したことをヌエに語る。
すると彼女はつまらなそうに唇をツンと尖らせる。
「なんじゃ、行かぬのか。小娘にまた会えると思ったのに」
「カナのことか? なんでお前が知ってるんだ?」
「前にも言ったであろう。この姿になる前も、お主と同じ景色を見続けていたと」
あー、とうわ言のように吐き、彼女の言葉を理解する。
彼がマシェリにも話した少女との関係を、ヌエはより深く知っていた。
それは当然、過去を見ることのできるミユウも。
「カナって、エイルと住んでたあの子?」
「お前も知ってるのか。というかいつの間に覗いた?」
「ゴメン、初対面の時に……でもあの子のおかげでエイルに思いやりも残ったし、姫へのエスコートの基礎にもなったし、ありがたい子かな」
最後は彼女なりの打算的な視点が入るも、おおむね好評価な少女、カナシ。
ヌエはふと何かに気づき、ミユウへ振り向く。
「お主、未来が見れるのじゃったな? 可能性は低いかもしれぬが、小娘と旅行先で会えるか見てはくれぬか?」
「見てもいいけど、実は姫の特異点がエイルにも影響してるみたいで、ところどころ見えない部分が出てきて……」
「それなら、わらわの視点から見えぬか?」
「なるほど……命のある剣だしね、試してみよっか」
「頼んでいいか?」
どこか浮足立つかのように、ヌエは頼み込む。
はいはいと呆れつつ、ミユウは彼女の頬に手を当て、片目を閉じて未来を見た。
「エイルと同じで途切れてるけど、まだいいかな……ん……?」
「どうしたのじゃ? なにかあったか?」
「まあねー。誰だろう、この子……」
意味深なことを言い、ミユウはヌエから一歩引く。
すかさず「どうじゃった?」と質問するヌエに、彼女は悩んだような素振りを挟んで答える。
「わからない、かなぁ」
「えぇー……頼りないのぅ」
「ごめんごめん、もしかしたら会えるかも……って感じなんだよね」
「歯切れ悪いのう……まあ良い、可能性がないワケでは無いのだな?」
少し嬉しそうなヌエだが、そんな彼女にも愛想笑いを浮かべ、うーんと歯切れの悪い返事をするミユウ。
そんな二人を見ていたエイルの胸に、ほころびのように生まれる違和感。
彼はその理由を紐解くため、ヌエに尋ねる。
「なんでそんなに、カナの事を気にしているんだ?」
「……いろいろ、あるのじゃよ」
はぐらかされた答えにより、エイルの違和感が解かれることは無かった。
何かを隠したヌエは、今までより一層、人間臭い顔をしていた。
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次回は5月以降の投稿となります。
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