第37話『魔王様の提案』
謁見の間の玉座にすわり、頬杖をつくアーク王。
彼のとなりには、ブレアと一人のハーピィメイドが立つ。
「本当に任せて良いのか?」
「あの戦いのあと、スズも修練と改造で更に強くなった。ブレインにはミユウもいるし、信頼してやろうぜ?」
「王宮の整備は私たちにお任せを」
二人の言葉に安心した笑みを浮かべるアーク王。
直後、謁見の間を閉ざす大扉が開かれる。
壇上にいるアーク王達の前に歩み寄っていくのは、彼に呼び出されたエイル。
彼は壇下に立つと、はきはきとした動きで膝まづいた。
「エイル・エスパーダ。ここに」
「待っていたぞ、よく来たな」
ほがらかな声色で、ほどよい威厳をかもす王。
彼は口元に笑みを称えながら話を続ける。
「ずいぶんと精を出して仕事をこなしているようだな。さきの舞踏会といい、貴様の活躍は目を張るものがある」
「ありがたきお言葉。これからも精進させていただきます」
「まあそれは良いとして」
「……?」
奇妙な王の話運びに、エイルは顔を歪めて疑問符を浮かべる。
同時にアーク王は真剣さと愛嬌の混在した、複雑そうな表情で彼を見る。
奇妙な緊張感がただよう中、アーク王はちいさくため息をつき、本題へと切り出した。
「それで、マシェリとの関係はどうなっている?」
「…………えっ」
「別に貴様を認めたわけではない。どの程度発展したか聞いているのだ」
詰め寄るようにアーク王は問いかける。
はじめての質問に、エイルはしばし考える。
「……真剣にお付き合いをさせていただいております」
「だろうな。様子を見ていればわかる。だがな」
そこまで言うと、アーク王は椅子から前に乗り出した。
「貴様、少々奥手すぎるのではないか?」
「と言われますと……」
「我にとっても大事な娘、認めないといっても貴様が大切にしてくれていることは嬉しい。それにしたって限度があろう」
「たまに王宮内を一緒に歩いてるけど、それ以外はどうなんだよ?」
王に続いてブレアまでもが詰め寄る。
奇妙な二人の雰囲気に圧され、エイルは言葉を詰まらせる。
二人の圧におされる彼に、アーク王は何かを察すると、椅子に深く座りなおして息をついた。
「……すまない。詰めたいわけではないのだ。少々貴様とマシェリの関係が気になってしまってな」
「いえ。ご心配されてしまうような行動をとった私の責任です」
誠意をもって頭を下げるエイル。
その姿を見つめ、唇を一文字に結ぶアーク王。
エイルの本気度を見た彼は、もう一度スッと息をし、彼に告げる。
「頭を上げよ。貴様に使命を渡す」
「はっ!」
返事とともに頭を上げ、背筋を伸ばすエイル。
彼の瞳に映る真剣なアーク王の横では、ブレアとメイドがどこか嬉しそうに微笑んでいた。
彼はその様子に疑問符を浮かべるなか、アーク王は指令を続ける。
「三日後より数日間、我はマシェリと共にとある国に旅行へ向かう。視察でもない本物のお忍び旅行だが、貴様とブレアに護衛を頼む」
「つっても護衛は私一人で十分だ。お前にとっても休暇ついでの旅行だよ」
「……使命とあれば受けますが、よろしいのですか?」
二人の説明に対し、すこし驚いた様子でたずねるエイル。
すると二人は呆れ笑い、同時に頭をかかえた。
そうしてブレアはアーク王の気持ちも汲み、茶化すように語る。
「よく考えろよ、理由は二つだ。まず一つに、姫がこの王宮にいないと、お前の呪いは反転しねーんだぞ?」
「あ……そうか」
「忘れてるなよな。侵入者深追いして、ちょっとヤバくなったろ」
ミザリーとの一件を例にしつつ語るブレア。
珍しく抜けているエイルは、自身のゆるみを改めるように頭を下げる。
そんな彼にブレアは顔を上げるよう告げ、さらに口を開く。
「もう一つ。これはお前と姫の関係発展のためでもある。しっかり意味のある休暇なんだよ。な、アーク?」
問いかけるように王の顔を覗くブレア。
すると彼はすこし頬を染め、そっぽを向いて対抗する。
どうやらこの策は、アーク王が企画したものらしい。
彼の真意を知ったエイルに、ブレアは壇上からおりて問う。
「どうする? ここに残って呪いで死ぬか、姫様と旅行にいくか、選択は二つに一つだ」
「そんなもの、実質一択じゃないか。機会をくれてありがとう」
「無駄にすんなよ」
フッと鼻で笑うブレア。
彼女はエイルの肩をポンと叩くと、そのまま謁見の間から出ていった。
膝をついたまま、彼女の背中を視線で追うエイル。
満足げに笑ったアーク王は、彼の姿を嬉しそうに見つめる。
「ようやく理解したようだな。ではさっそく、この使命を遂行せよ」
「はっ……さっそく、ですか?」
「ああ、まだこの話はマシェリにも言っていないからな」
付け加えて説明すると、アーク王はニヤリと笑った。
「真の目的を語らず、貴様の口からマシェリに伝えるのだ」
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