裏切りパーティの墜落(7)『魔族の国からの脱出』
さまざまな混乱が起きつつも、舞踏会は終わった。
各国の来賓とともに、隣国の協力者たちも帰還していく。
最後まで残ったのは、リンの一団と、彼女に協力したレクターたち。
リンはマシェリとのしばしの別れを惜しむように、思いきり抱き締めて香りを堪能する。
「っはあぁぁぁぁぁぁ……最近はずっと接種できてたから、我慢できるか心配ね……」
「むぐぐぐぐうぅぅぅーーっっ!?」
浮かない顔のリンに抱かれ抵抗するマシェリ。
二人のやりとりを、エイルは親衛隊の面々と共にあたたかな目で見つめる。
そのすぐ横には、レクターの姿もあった。
「リンは普段もあんな感じなのか?」
「いや、こんな一面があるなんて初めて知ったよ」
呆れ気味に腕を組み、ぎこちなく笑うレクター。
彼の後ろには、秘書と〝ナビンス〟の姿もあった。
「しかし本当にいいのか? 俺達の騒動に巻き込んでしまったというのに、口外しないでくれるなんて」
「……構わないよ。国に貸しを作れるのは大きいからね」
目を細めて答える彼に、エイルは頭を下げる。
それに続き、他の親衛隊の面々も彼に礼をした。
彼等の反応に、困り顔で頭をかくレクター。
やがてそこへ彼等を迎えるため、王宮の門前に多くの馬車が現れる。
「いろいろと世話になったな」
「それは僕のセリフだよ。楽しませてくれてありがとう」
エイルとレクターは言葉をかけあい、強く握手する。
そうして彼等は、各々に馬車へ乗り込み、王宮を出発する。
「マシェリさーん! すぐに会いにきますからねー!」
「私こそ、またリンさんに会いに行きます!」
馬車から身を乗り出すリンに、手を振るマシェリ。
二人の交わす別れのあいさつは、すこし前を走るレクターの馬車にも響いていた。
彼の馬車にはナビンスも同乗し、その声を聞く。
するとレクターは頬杖をつき、フッと笑みを浮かべた。
「そんなに楽しい舞踏会だったのかい?」
「興味深いものではあった。そうだろう、ホプキンス?」
その名で呼ばれた彼は、懐から一本の注射器をとりだす。
彼がそれを投薬すると――その姿は、呼ばれた名前と同じ人物に変化した。
「楽しいだけのものでは無かったね。何せ仲間を失ったのだから」
「よく言う。危険なミッションに彼を推薦したのはキミだろう? ボクは忠誠を誓う部下でも良かったのに」
「君の優秀な部下に比べれば、安い人材だからね」
指を組み、ニヤリと笑って話すホプキンス。
悪びれもしない彼に、レクターは眉をしかめる。
しかしババを巻き込み、自身の手でトドメを刺した彼は、それ以上言いかえすこともできなかった。
「……ババの殉職金ふくめ、今回の報酬はもどって渡す」
「いいのかい? 暗殺は失敗したというのに」
「代わりに得られたものがあったからね」
含むように語ったレクターは、小さくため息をつく。
そんな彼を横目に、ホプキンスは語りかける。
「私は君のビジネスパートナーだ。ただ金が欲しいだけじゃなく、君の理念にも賛同している」
「……ああ、ありがとう」
「だから変な気は起こさないでくれ? モンスターは、人に間引かれ、管理されるためにあるのだから」
煽るようなホプキンスの言葉に、レクターは小さくうなずく。
しかし彼の脳裏には――美しいマシェリと、彼女をとりまくエイルたちの姿が焼きついていた。
「なにか、手段はないものか……」
「ん? どうしたんだい?」
「何でもない、計画の今後を考えていただけだよ」
遠い目で告げるレクターの向かいで、ホプキンスは足を延ばし、頭のうしろに腕を回してくつろぎだす。
するとやがて、思いつめた表情をしたレクターが、静かに口を開く。
「欠けたババのぶんの戦力は、今度追って補充する」
「いい人材がいるのかい?」
「ああ、戦力的にも人格的にも。公私を分けられる刺客がね。仲間を失って凹んでいるミザリーも、少しは支えになるだろう」
未来を暗示するようにそう告げると、彼は窓から覗く魔物だけの国を吐き捨てるように一瞥し、馬車のカーテンを下ろした。
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