表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/46

第26話『黒幕の誤算』

 


 翌朝、大勢の部下たちとともに王宮へ入ったレクター。

 企みを知らない彼等の中に、変身したババがまぎれている。


 昨晩のこともあり、警備はかなり強化されているが、人数の多さがレクターの思惑どおりにババの通過を許す。


 そんなレクターたちを、スズはエントランスで出迎える。


「おはようございます皆様。本日もよろしく頼み申す」


 頭をさげるスズの前に、レクターと秘書、ババが立つ。

 すぐに彼女は姿勢をもどすも、違和感を覚える仕草はない。


 策がうまくいっている現状にレクターは安堵する。

 そして彼はわざとらしさを一切見せず、彼女の顔色を見てたずねる。


「昨日に比べて元気が無いようだけれど、大丈夫かい?」


「やはり見通されますか。しかり、昨晩少々困ったことが起きて、寝不足でございます」


 アーク王の戒厳令もあり、内容をにごすスズ。

 しかし首謀者であるレクターには無意味な抵抗である。


「親衛隊というのは大変だね。今晩はよく眠れるといいけれど」


「ご心配感謝いたす。しかし私も、王女の無事を任された者ゆえ」


 礼をしたスズは、そのまま彼等を招き入れる。

 昨晩も案内した道順であるが、レクターは仲間とともに順路を進む。


 歩きながらババは構造を頭へ叩き込んでいく。

 するとどうしても、彼の動きに怪しさが滲んでしまう。


 それを見たレクターは、スズの興味を引きつけるように話しかける。


「今日も昨日と同じように、荷物はゲストルームに置いてもいいのかな?」


「構いませぬ。ご宿泊はなされますか?」


「本当に疲れていたらね。宿もとっているから」


 自然な話題にのせて注意を引きつけるレクター。

 彼はその間にババをチラリと見て、頭の中に声をおくる。


(目立ちすぎだ。確認しろと言ったが、もう少し自然を装え)


(わ、悪い。わかった)


 魔術による念話で説教されるババ。

 以降は挙動不審をおさえ、代わりに表情が硬くなる。


 彼の様子にレクターは先程よりマシかと安心する。

 そんな中で彼はふと〝注意すべき人物〟が気になりだす。


「そういえば出迎えはキミだけなんだね。リンと彼――エイルはどうしたのかな? 彼も寝不足かい?」


「リン王女殿下はすでにお仕事を……エイル殿は……」


 言いよどむスズに不信感をいだくレクター。

 だが彼は幸いなことに、すぐにその答えと出会う。


 長く続く広々とした廊下の、一番手前の曲がり角から、彼とマシェリの声が漏れる。


「だから一人でも大丈夫だ。というか一人で動けなきゃ意味がないだろ」


「まだ半日も経っていないのですよ? 心配するなと言われるほうが困ってしまうのです」


「す、すまない。でもこれはマシェリを守るためで」


「でも……」


 心配そうなマシェリの声とともに現れる二人。

 マシェリはすぐに姿勢を正し、彼等へ清楚な会釈をする。


 その隣に立つエイルは、なぜか目をつぶったまま『ヌエ』を杖代わりのように握り、彼女とともに頭を下げる。


 ババは久しぶりに見るエイルの姿に、生きていたことへ驚く。

 いっぽうでレクターは微笑み、彼らへ礼を返す。


「これはこれは王女殿下、昨日ぶりでございます」


「レクター様、本日も朝早くからありがとうございます。陛下とは謁見されましたか?」


「いえ、昨日は到着後の仕事で立て込んでしまいましたので、これから挨拶させていただきます……王女殿下は自分の騎士様と逢瀬でも?」


 冗談めかした彼の言葉に、かあっと赤くなるマシェリ。

 だがその表情はどこか浮かないまま。


 スズの言葉から続く違和感にレクターは引っ張られる。


 するとマシェリのとなりに立つエイルが、ゆっくりと目を開けながら口を開く。


「姫様をあまりいじめないでいただきたい」


 ひらかれた彼の眼を見て、レクターは息を飲む。

 その瞳には光がなく、比喩ではなく濁りきっていたのである。


「エイル……!? どうしたんだその瞳は……!」


 レクターは我を忘れ、心配まじりの声色で質問してしまう。

 だが当のエイルはどこか余裕を見せて返す。


「姫様を護衛するために、新しい力を得ようと思ってな」


 エイルはそこから、自身の体質とマシェリの能力について語る。

 その間も彼は一切まばたきをせず、視界がほとんど機能していないことがわかる。


 昨晩ミザリーを取り逃がしてしまった彼は、呪いを使える二人にたのみ、『盲目』の呪いを自らに宿した。


 その効果は、名前と今の彼のとおり。

 代わりにマシェリの『反転』により、祝福も与えられる。


「『心眼』――視力以外の五感が強化され、他者の感情の動きまでもが直感的に理解できる。今はまだ習得しきれていないがな」


「そ、そんなことの為に、視力を……!?」


「昨日ふと思いついてな。これも姫様を守るためだ。それに完全に見えなくなったワケではない」


 輝きのない目で彼を見つめ、笑ってみせるエイル。

 彼もまた夜の事件には触れず、全て自分の意志のように語る。


 見えていないはずのその瞳だが、レクターは全てを見通されているような恐怖を覚え、戦慄する。


 それでなくとも、彼の選択は正気の沙汰ではないと感じてしまう。

 彼を裏切った三人のように、レクターは間抜けではなかった。


(ババ、作戦を変更する)


 あわてて念話を飛ばすレクター。

 幸いにもこの念話自体は、エイルはまだ・・感じ取れていない。


 いっぽうで彼の行動をただの奇行ととらえ、驚きつつもバカにするババは、ぼんやりした様子で受けこたえる。


(え、変更?)


(アークとの謁見後、お前は秘書と行動しろ。この子も信頼を勝ち得ているから怪しまれることはないはずだ)


(でも昨日はアンタと一緒って言ってたじゃねーか)


(だからそこが変わったんだ、すこしの余裕もなくなった)


 一瞬の目配せで声のない会話をした二人。

 レクターは正面に顔を戻し、エイルを見つめながら告げる。


(――僕が彼の注意を引く。彼をより深く知らなければいけないようだ)


 エイルの忠誠心は、レクターにとって大きな誤算を生みはじめていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ