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裏切りパーティの墜落(5)『暗躍する者』



 ――『アークス』の繁華街を、傷だらけのミザリーが走る。

 道ゆく淫魔たちは、彼女の姿に驚いて避けていく。


 そんな周囲の目など気にもとめず、ミザリーは吸い込まれるように路地裏にはいると、数名の白装束の男が彼女を待っていた。


「転移! 早くっ!」


 必死の形相でさけぶミザリー。

 男たちは彼女を囲み、一斉にパンッ! と手を叩く。


 とたんに周囲の景色は変わり、整った宿ホテルの一室に移動する。

 そこで外を眺めていたレクターに、ミザリーは駆けよる。


「レクター! 私、やったわよ!」


「……ああ、おかえりミザリー」


 振りかえったレクターは、彼女を抱きしめる。

 彼のまとういかにも高そうな衣服が、ミザリーの血で濡れていく。


 すると顔を赤らめたミザリーは、抵抗するように彼を引き剥がそうとしながら、上ずった声で困惑する。


「だ、ダメよレクター! 高い服が汚れてしまうわ!」


「いくらでも洗えばいい、それでも取れないなら買い替えればいい。君の代わりはいないからね」


「レクター……」


 とろけきったミザリーの顔の横で、レクターは目を細める。

 抱擁を終えると、彼女は王宮内部の情報を語りだす。


 レクターの案内されなかった施設を含む王宮の構造から、警備兵たちの基本的な配置、そして彼女を追った二人の親衛隊の力まで。


 全てを聞いたレクターは、自身の顎に手をそえる。


「戦力をはかるような真似までさせてしまって悪かったね」


「レクターのお願いなら、これくらい大したことないわっ!」


「しかし君の話から察するに、エイルは達人級の剣技を持ち合わせながら、王宮の外には〝出られない〟みたいだね、だから二人目と入れ替わったのだろう」


 即座に秘密を見破り、考えはじめるレクター。

 彼はなぜエイルが王宮から出られないのか、気になるようで考えこむ。


 ミザリーはその様子に、役に立ちたい一心で口をひらく。


「たぶん、呪いが原因よ」


「呪い? 何でそれがわかるんだい?」


「実はアイツ、私たちのパーティにほんの一瞬だけいてね。妖刀使いなのよ」


 彼女の告白に、ほんの一瞬おどろくレクター。

 だが彼はすぐに柔らかな表情を浮かべ、舞い降りた幸運に喜ぶ。


「ありがとう、本当に君たちは奇跡的な存在だ」


「……こちらこそ、褒めてくれて光栄よ」


「おかげで未知数の戦力がひとつ、解き明かされたからね」


 レクターはそう言って、ミザリーに微笑みかける。

 妖刀使いの特性は、世間でもよく知られた話である。


 それを踏まえ、詳細は不明だが何らかの呪いによるバッドステータスにより、エイルが縛られているという有益な情報を知ったレクター。


 彼はより深い策を考えつつ、ミザリーに告げる。


「君はもう休んでくれ。仕事と戦闘でボロボロだろう?」


「いいの? 私ばっかり先に休んじゃって」


「僕には君がくれた情報を、作戦に生かす役目があるからね。傷は君が休んでいる間に僕の魔術で治療するからさ」


「レクターの、魔術で……!?」


 甘い誘惑にミザリーは生唾を飲みくだす。

 すると彼女は頭を下げ、宿の寝室に引き下がっていく。


 レクターは彼女を冷たくも複雑そうな瞳で見つめる。


 彼は目を瞑ると、背後の壁に背中を預ける男に対し、抑揚のない声で話しかける。


「彼女の話は聞いていたね、ババ」


 呼びかけに壁から離れ、歩み寄る男。


 その姿はかつての筋肉達磨のような容姿から一転し、若干ワイルドな雰囲気を漂わす美青年の姿をしていた。


 服装もレクターの手で品よくコーディネートされている。

 彼は口を開くと、かつてとは全く異なる美声を放つ。


「聞いてたぜ。あとは俺がアンタの部下を引き連れて、王宮内で暴れまくればいいんだろ?」


「ああ。だけどまずはその姿で、少しでも王宮内を観察しておくれ」


「ンなもん何回も聞いたからわかってるっつーの。襲撃の時はまた別の姿に変身するんだろ?」


 確認するように告げるババに、レクターはうなずく。

 変身した美青年を見る彼は、口角を上げて尋ねる。


「この依頼がうまくいったらどうする? その姿に戻すかい?」


「いや、元の俺に戻してくれ?」


「……いいのかい? 今の君なら、結構モテると思うけど」


 提案するレクターだが、ババは首を横に振る。


 いくら今の姿が美しくても、彼はかつての筋肉質な醜男の姿に、若干愛着があるようであった。


 レクターは彼の意思を知り、それを受け入れる。

 そうしてレクターはババに背を向け、声を低くして語る。


「――明日は僕と一緒に来い。少しでも不信感を無くす」


「雇い主の命なら仕方ねーな、了解」


 ババは答えながら、白い犬歯を見せて笑った。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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