第25話『妖刀使いの覚悟』
ブレアの指示で謁見の間にかけ込んだエイル。
そこには寝巻き姿のマシェリ、アーク王、リンの三人と、ブレアを除く親衛隊の二人がすでに揃っていた。
「エイル様! ご無事でしたか!?」
「姫様こそお怪我は」
「おかげさまで今のところは……」
不安げな顔で彼を見上げるマシェリ。
思わず彼女の頭へ手をのばすエイルだが、アーク王の前ということもあり、撫でるのを控える。
すると時を同じく、謁見の間の扉がひらく。
そこに立っていたのは大剣をかつぐブレアの姿。
不敵な雰囲気をかもす彼女に、エイルは無意識に警戒する。
「……本物だよ、アイツの変装じゃねぇ」
「本当でありますか? ……山」
「川、って何やらせんだスズ」
律儀に反応しながらもため息をつくブレア。
とたんに場の空気は緩み、エイルも『ヌエ』から手を放す。
状況をミユウたちから聞いていたアーク王は、帰還したブレアを見上げる。
「それで、侵入者は倒したのか?」
「あー……」
たずねられると、ブレアは気まずそうに声をもらす。
それだけでも答えになっているが、彼女は軽くにぎった拳で自分の頭を小突き、舌をペロッと出して告げる。
「取り逃がしちった☆」
「なるほど。ミユウ、使用人長になる気はないか?」
「ブレアがそのまま部下になるんですよね? キツいわぁ」
「だそうだ」
「……すまない、このとおり」
冷ややかな目にさらされて頭を下げるブレア。
これにはさすがのマシェリも呆れ笑いを浮かべるばかり。
しかし頭を上げたブレアは、面目躍如とばかりに情報を口にする。
「総合的に見れば侵入者の戦力は中の下、姫でも勝てる可能性すらある。代わりに隠密行動と逃げ足だけは早い」
「逃走先は?」
「城下町の繁華街……アレ系の店が多い場所で人ごみに紛れやがった」
マシェリを横目にブレアは言葉をえらぶ。
彼女の言う地域は、サキュバスやインキュバス系統の魔族が店を構える、いわゆる『オトナの店』が建ち並ぶ地帯だ。
アーク王もそれを承知し、腕を組んでうなずく。
一転してブレアをねぎらった彼は、自身の案を提示する。
「今回の事案は一度機密にしようと思う」
告げられた王の判断にその場にいる全員が驚く。
特にリンはとまどいを見せ、小さく挙手をしてみせる。
「私の言える立場ではないですが、あなた方……とくにマシェリさんは今回で三度目の襲撃となりますが、よろしいのですか?」
「慌てるな、べつに理由なく言ってはいない」
周囲をよそに、そう告げるアーク王。
誰にもたのまれることなく、彼は語りだす。
「誘拐未遂から端を発した今回の事案、ただ隣国との関係悪化を目的としているようには思えん。恐らく真の目的は『アークス』の孤立だろう」
「孤立、でありますか」
「今回の侵入も被害は極端に少なかった。これが王宮内の構造把握を目的にしているとしたら、敵はどう次の一手を打つと思う?」
アーク王から全員へ問いかけられる言葉。
侵入者であるミザリーを追ったエイルは、彼女が宮殿内をくまなく探索して回ったことを、ヌエの証言から知っている。
これをアーク王の推測に当てはめれば、答えもおのずと浮上する。
「目的は暗殺ではなく、衆目をあびる事件……?」
「気づいたかエイル、我はそう思う」
腕を組んだアーク王は、エイルの顔を横目でのぞく。
敵の目的に気づいた彼は、目を見開いて口元をおさえる。
舞踏会をもちかけたリンもまた、悔しそうに唇を噛みしめる。
「舞踏会すら利用するつもり……!?」
「大勢の来賓を巻き込めば、それこそ敵の思惑どおりだし」
真剣な口ぶりで受けこたえるミユウ。
王家どころか『アークスに関わる危機に、戦慄がはしる。
しかしただ一人、この国を統治する国家元首は、今回の事件に答えをはじき出していた。
「開催か中止か、どちらを選んでも『アークス』の信用にかかわることは確か。だが中止してしまえば、敵に屈したことになる」
「アーク……つまり、やるんだな?」
「何もしないよりは最善を尽くしたほうがマシだろう」
王の口から放たれた言葉は、ブレアへの強い信頼を帯びていた。
感じ取った彼女と親衛隊の三人は、彼のもとへ跪く。
「ならば我々も、敵の目的を全力で阻止し、舞踏会を無事に開催させてみせる」
「うむ、任せたぞ」
「「「「はっ!」」」」
決意とともに立ちあがる四人。
同時に大きな広間の天窓からは、少しずつ朝を告げる日の光が降りそそぐ。
その中で一人、エイルはマシェリを見つめていた。
彼女の顔から不安は消えず、胸の前でぎゅっと手をにぎる。
立ち込める心配を、拭い去ることができないエイル。
親衛隊の面々が立ちあがり、新たな決断をいだく中、彼は遅れて口を開く。
「僭越ながら頼みがあるのですが、よろしいでしょうか?」
エイルの言葉に全員がふり向く。
立ち上がった彼は、瞳に覚悟を宿して告げる。
「この中に、呪いを使用できる方はいらっしゃいますか?」
彼の本気の声色に、全員がなにかを察する。
とくにアーク王とリンは、動揺を隠せずまばたきが早くなる。
「……何をするつもりだ、エイル」
強く問いただすアーク王の目を見つめ、エイルは答える。
「与えてほしい呪いがあるのです。王宮への襲撃者を殲滅するために」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、
広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。
執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。




