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第19話『世話焼きな妖刀』



 王宮にリンちゃんが客人として来た夜。

 会食を終え、非番であったエイルは、自室に戻ってほおけていた。


 無音の部屋で何もせず、ベッドに腰かける彼。

 そんなエイルを見かねてか、ヌエは少女へ変身する。


「お主、何をしておる」


「……ヌエか」


「まったく、昔から一人になるとボケっとしおって」


 ため息を吐いた彼女は、エイルの膝に座る。

 しかしヌエの胸は、彼の様子に小さな不安を抱いていた。


「エイルは昔のままじゃ。生活最低限のことと、与えられた役割だけを遂行する。それ以外は寝るか何もしないか。退屈ではないのか」


「何で知っているんだ?」


「昔からお主の腰にぶら下がっていたからのう」


 エイルの上で足を組み、頬杖をつくヌエ。


 長年を共にした彼女の言うとおり、エイルには生活感というものが欠如していた。


 自室も着替えと妖刀『ヌエ』以外はそなえつけのものばかりである。


「……わらわと出会う前からこうだったのか?」


「わからない。まだ判断もつかないころだったからな」


 かなしげに呟くヌエを、質問に答えつつエイルは上からのぞく。

 すると彼女もまた、首を真上に曲げて彼を見る。


「なんじゃ、何か言いたげな顔をしておるが」


「……バッドステータスを引き寄せる妖刀なのに、俺を心配すると思わなくて」


 エイルが指摘したとたん、ヌエの顔は真っ赤に染まった。

 彼女はあわてて目を逸らし、ぷいっとそっぽを向く。


 後ろから見ても照れ隠しがバレバレなヌエは、普段より低い声で語る。


「好きでお主を不幸にしているのではない。それ自体がわらわの刀身にみついた、呪いのようなものじゃ」


「苦労しているのだな、お前も」


 いつも柄頭つかがしらにふれる感覚で、ヌエの頭をなでるエイル。

 ヌエは頬の紅潮が解けないまま、彼の手をただ受け入れる。


 優しく髪を乱されながら、ヌエは彼を横目で見つつ、締めくくるように語る。


「わらわのせいで退屈を潰す方法がわからないのなら、いつでも話し相手になってやる。だからもう、時間を無意義に使うでない」


「ありがとな、でも大丈夫だ」


 意を決して提案した彼女に、エイルはさらりと返答する。


 予想外の答えに、ぽかんとした顔のヌエ。

 すると彼はスーツの懐から、一冊の本をとりだす。


「マシェリと同じ本を読んで、感想を述べあおうと誘われてな。読書はあまり得意ではないが、この際だから試してみようと思う」


「な、なら今、ぼーっとしてたのは」


「いつものクセ、だな」


 申しわけなさげに笑うエイルに、ヌエは可愛らしい怒り顔をつくる。


 腕を組み、ふんっと他所よそを向いた彼女に、謝るエイル。

 それでもヌエの機嫌が治らないと見るや、彼は発想を一転させる。


「ヌエも一緒に読まないか?」


「……えっ?」


「せっかくだ。俺が本に飽きないように監視していてくれ」


 返される提案に、ほんの少しだけヌエは考える。

 そうして答えを出した彼女は、少しドヤ顔で胸を張る。


「し、仕方ないのぉ! 百と余年よねんを刀として生き、蓄えたわらわの知識で、エイルの読書をばっちりサポートしてやろう!」


「そうか、それは助かるな」


「良い良い。わらわの前に腕を回して、本を広げてみるがいい」


 言われるがまま、エイルはヌエを抱くように手を回し、本を開く。


 本の内容は意外にも、複雑な貴族の政治劇。

 読書初心者のエイルには、少しだけ難易度が高い内容だった。


 そこにヌエの説明が光る。

 ときおり現れる専門用語やキャラの相関そうかんを、ほどよく補足する。


「すごい、結構読み進められるな」


「そうじゃろう? ……あ、まだ読んでおるから、そこで止めてくれ」


 刀と所有者であるからか、抜群のコンビネーションで読み進める二人。


 ヌエが止めた部分は、ちょうど舞踏会のシーン。

 貴族の男が令嬢をエスコートして踊る場面で、エイルは呟く。


「俺も、マシェリを誘ったほうが良いのだろうか」


 なにげなく呟かれたエイルの言葉。

 だがヌエは、その発言に大きく振り返る。


「当たり前じゃろう! お主があの娘の手を引かずにどうする!」


「そ、そんなに大袈裟なことなのか?」


「お主、乙女の恋心をなんと思っておる! 鈍感系主人公ではなかろうが!」


 頬に指を突きつけるヌエに、エイルは困惑する。

 社交界に出たことのない彼に、この問題はかなり大きい。


 それでもふと、ヌエはある事に気がつく。


(この国自体が初の舞踏会ならば、マシェリも不慣れであるはず……!)


 ピカンと閃いた彼女は、ニヤつきながらエイルを見る。


「エイルよ。マシェリに男を見せたくないか?」


 何かをたくらむ彼女の顔に、エイルは生唾を飲む。

 しかしヌエの提案は、彼の胸にある〝何か〟をくすぐる。


 悪魔の誘いに乗るように、彼女の提案にうなずくエイル。

 するとヌエはパチンと指を鳴らし、彼へ告げる。


「舞踏会当日……一ヶ月後までに、お主が恥をかかぬよう、みっちり叩き込んでくれようぞ」


 そう告げるヌエの姿は、黒い和ロリが小悪魔的であるにもかかわらず、エイルの目にはキューピットのように映った。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


明日以降は隔日一話投稿とさせていただきます。

今後とも本作をお楽しみいただけますと幸いです。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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