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第18話『したたかな奇策』

 


「舞踏会を開きましょう、アーク王」


 謁見の間にて礼をしたリンちゃんの第一声。

 玉座につくアーク王は、いきなりの提案に怪訝けげんな顔をした。


「おい、「舞踏会を開きましょう」って聞こえたが? まさかとは思うが」


「言ったのでございます。開きましょう? 舞踏会」


 アーク王の問いかけに、倒置法でかえす。


 一国の王に対し、ジョークを交えた不敵な提案をする彼女。

 だが当のリンちゃんは様子から真剣そのものである。


 すると並んで彼女の話を聞いていた親衛隊のうち、疑問を隠しきれなかったスズが手をあげ、質問する。


「あの……不躾ぶしつけを承知でお聞きするのですが、何故なにゆえに舞踏会を?」


「そうね、そこから説明しましょうか」


 スズに感謝するように、ニコリと笑うリンちゃん。

 彼女は身振りを加えつつ、現状のおさらいから始める。


 魔族の国『アークス』と特別友好の深い関係にあった隣国だが、現れた謎の集団によるマシェリを狙った事件により、国として問題が生じる。


 犯人こそ捕まえたが、未だ解決には至っていない。

 マシェリは狙われ、隣国は犯罪集団を抱えたままだ。


「さて、ここで注意しなければいけないことは二つ」


「二つ? そちらの国に対する、諸外国の信用が落ちるだけではなく?」


 エイルは普段使わない部分の脳を動かして答える。

 するとリンちゃんは彼を指差し「正解」と宣言する。


「ただそれだけではないの。えっと、使用人くんの名前は?」


「エイル・エスパーダと申します」


「ありがとう。ではエイルくん、あなたがここに来た経歴は少しだけお聞きしましたが、その際にマシェリさんのお顔を知っていましたか?」


 問いかけられて、エイルの思考が止まる。


 彼は記憶をさかのぼるが、あの日に出会う時まで、マシェリはおろかアーク王の顔すら知らなかった。


 魔族の国『アークス』は、意図的に王家の素性を隠している。

 にもかかわらず、事件には一つの異常性があった。


「あの犯罪者たちは、どこでマシェリの顔を知ったんだ?」


 答えにたどり着いたエイルに、親衛隊もハッとする。


 それは一回目の事件、男たちの襲撃の際を指す。

 名前と顔が一致しなければ、彼等は追いかけられるはずもない。


 提示された情報から、今度はミユウが仮説を求める。


「まさか、この国に内通者がいるってコト?」


「残念ですが、それは違います」


「……いまその流れじゃなかった?」


 まさかの誤答に、逆に驚きの表情をするミユウ。

 対するリンちゃんは涼しげに彼女の思考を飛び越える。


「密偵については私も考えましたが、いざ調査をしてみると、怪しい人物は一人しかいませんでした」


「……もしかして、私?」


「その通り。不法入国含め、もっともわが国と『アークス』を往復しているあなたです。しかし私も、あなたを信じています」


 信頼をもとに内通者説を外し、調査を続行。

 そうしてリンちゃんは、結果的にたどり着いた答えを語る。


「それは最も単純な手段。執念しゅうねんとでも呼びましょうか」


「執念、でありますか……」


「ええ。わが国にマシェリさんがお忍びに来ているという情報のみを頼りに、都市の各地に見張りをつけ、しらみつぶしに情報を集めた結果の産物です」


 にわかには信じられない答え。


 しかしこの答えは、隣国が犯人に尋問を重ねて得た、本人たちの語る真実であったという。


 リンちゃんが語る実情に、アーク王は深刻な顔をする。


「そこまで執念深い連中がマシェリを狙っているのか……」


「はい、そこで今回の舞踏会です」


 唐突に話題を戻すリンちゃん。

 そもそもの始まりは、この奇策を提案したことだった。


 彼女は話を戻されてたじろぐ彼らに、メリットから語る。


「建国から百年。外交をひかえていたこともあり、諸外国は『アークス』に興味を抱いています」


「その興味を一気に集め、敵を牽制けんせいするということか」


 答える王にリンちゃんはうなずく。


 国単位の注目があつまれば、敵組織も簡単には動けない。

 各国の関心が、そのまま敵を見張る監視の目になる。


 完璧な防護札ぼうごふだではないが、少しでもマシェリから困難を遠ざけられる盾である。


「なるほど。では貴様らは何を得する?」


 見透かすように、アーク王は隣国側のメリットを質問する。

 ただ忠告と提案のために、第二王女が来るとは彼も思わない。


 するとリンちゃんは、彼の鋭さに呆れるように笑う。


「そうですね。我々は加害国側になってしまうので、少しでも親交が深いとアピールすることで、諸外国への信用を保とうかと」


「我が『アークス』をアピールに使うというワケか」


「実際に親交は深いですし、困ったときは手を取り合おうという話です」


 詰め寄るアーク王に、一歩も引かないリンちゃん。

 しかしさすがに緊張するのか、一筋の汗が頬をなぞる。


 いっぽうでアーク王は、肝のすわった彼女の態度たいどにニヤリと笑う。


「となると開催地は我が王宮となるが、貴様らの国との共催といしたほうが良いのか」


「……それでしたら、私も個人的にお手伝いできるかと」


「フッ……面白い、その策に乗ってやろう」


 ついに彼女の奇策を受け入れ、余裕を崩さないアーク王。

 深く礼をし、ほっと息をつくリンちゃんに、彼は言葉をなげる。


「今日は泊まっていくがいい。ゲストルームを清掃させておく」


「ありがとうございます。しかし泊まるのであれば、ミユウの部屋でも構いません」


「え、私はお断りだけど?」


 露骨ろこつに嫌がるミユウに、唇をとがらせるリンちゃん。



 ……ともかくこうして、王宮初となる舞踏会の開催は決定した。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。


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