裏切りパーティの墜落(3)『指名手配』
アーク王が娘の大事を聞いて隣国に訪れたころ。
ホプキンスとババは、かつてエイルを裏切った路地裏に身を隠していた。
するとそこへ、顔を隠したミザリーも走って現れる。
「どうだった、本当に手配されていたのか?」
「どうもこうもないわよ! これ見てみなさいよ!」
そう言ってミザリーは三枚の手配書を地面にばらまく。
二人が拾い上げると、そこには自分たちの精巧な似顔絵と、つかまえた者に手渡される賞金が記されていた。
「クソッ! なんで俺たちが指名手配されてんだ!?」
「私たち、何もしてないわよねぇ!?」
疑問をホプキンスにぶつける二人。
だが彼も、なぜ手配されているかなど見当もつかない。
理由が明記されていないため、彼等も聞くしかないのだが、自分たちが犯罪者として追われている理由など聞けるはずもない。
仕方なく三人は、顔をよせ合って知恵をしぼる。
そして弾き出した結論は、一つしかなかった。
「俺たちが最近やったことといえば」
「……ああ。クエストだろうね」
視線をあげてホプキンスが告げる。
顔も知らぬ謎の御曹司から頼まれた、モンスター百体を金貨三千枚で買い取るという、今になって考えれば怪しすぎるクエスト内容。
思い当たる原因はこれしかなく、三人は肝を冷やす。
そして彼等の考えは、やがてどう罪を逃れるかに至る。
「お、お金を返せばいいんじゃない?」
「すでに契約してしまっているし、向こうは俺たちの情報を握っている」
「だったら素直に自首すればいいんじゃねーか? 俺たちは手伝わされただけって」
「けっきょく罪には変わらない。それに」
ぼそりと返したホプキンスは、額に汗を伝わせる。
「あれだけの資金力のある依頼者だ。金を返そうが自首しようが、不信感を抱かれたら最後、俺たちに未来はないだろうね」
「そんな……」
彼の冷静かつ残酷な一言に、ミザリーは膝から崩れ落ちる。
罪を逃れる目も逃げる目も同時に潰された。
彼等にとって残された選択肢は、ただ一つだった。
「御曹司とやらに、永遠に従って生きていくしかないようだ」
諦めるようにホプキンスが言った時だった。
かつてエイルとマシェリが追われていた時のように、路地の道を白づくめの人々が塞ぎ、三人の逃げ場を奪う。
警戒したホプキンスたちは、三人で背中あわせになる。
自分たちの武器に手を伸ばしながら警戒する三人。
だがそれを制するように、白装束の集団から、御曹司の使者が現れる。
「賢明な判断をしたようだな、君たち」
「テメェは!」
現れた使者に拳をむけようとするババ。
それをホプキンスは制し、彼へ歩み寄っていく。
「迎えに来たということは、多少は罪の意識があるようだね」
「まさかこちらも、ここまで計画を踏み躙られるとは思っていなくてな」
使者を不敵に挑発するホプキンスだが、相手は全く動じない。
すると使者は、うしろに控える白服の一人に指示をだす。
すると彼等は大きなズタ袋を三人に投げ、それをふまえて使者が口を開く。
「契約金だ。一人につき金貨三千枚」
「さ、三千枚!?」
言い渡された金額におどらされ、手を伸ばすミザリー。
だがホプキンスは、彼女を視線で牽制する。
「千枚だろうが三千枚だろうが、自由に使える金でないなら意味はない」
「ハッ!? そ、そうね」
ホプキンスの言葉にミザリーは我にかえり、鋭い視線で使者たちを見つめる。
すると使者は、彼の言葉に枯れた声で高笑いした。
そうしてニンマリと歪めた笑みで語りだす。
「日の当たる世界だけが本当の社会ではない。我々のような『結社』が身をせる裏側の世界に来れば、多少物価は高いが自由もある」
「裏側?」
「ああ。キミ達には我々の商売相手として、こちら側の世界に来るか提案しに来たのだよ」
身振りを加えながら、使者は三人を誘惑する。
言わば渡された金貨は、助かる代わりに地獄へと繋がる蜘蛛の糸である。
ふとホプキンスは、路地裏から表の通りを見る。
日の当たる通りでは、一般市民が平和な生活を送っている。
犯罪の片棒をかつぎ、指名手配されてしまった彼らには、とても歩くことができない光の強い世界。
ホプキンスは光景を見終え、未練を断つように金へ手を伸ばす。
だがそのとき、使者が試すように口を開く。
「貴様にとって、モンスターや魔族とはいったい何だ?」
問いかけに一瞬だけ手を止めるホプキンス。
彼はすこし考えた後、使者の顔を見て答える。
「なんとも思っちゃいない。ただモンスターは倒せば金になる、いい食い扶持だ」
「……及第点だ。受け取りたまえ」
冷ややかに告げられる言葉と共に、三人はズタ袋を取る。
すると白装束の人々は、ホプキンスたちのまわりに集まった。
もの言わぬ彼らの雰囲気に、ミザリーは少しおびえる。
それでも仲間となった彼らに、使者は少し信頼をおいた様子で語る。
「主人は四日後に時間が空く。それまでは我々の用意した場所でのんびり過ごすと良い」
「その時には、キミたちの目的は教えてくれるかい?」
「それは主人のお気持ち次第だ。行くぞ」
使者の言葉と共に、白装束の集団はパンッ! と一斉に手を叩く。
その瞬間、彼らはホプキンスたちと共に姿を消し、三枚の手配書だけが路地裏に残った。
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