第15話『目覚める妖刀むすめ』
キマイラを倒し、『ヌエ』を手に立ちつくすエイル。
刃にべっとりとついた血が、地面へとしたたり落ちる。
胸と背中に穴の開いたスーツをまとい、刀を握る彼の姿は、頼もしさと恐ろしさが混在する異様な光景だった。
「エイル、さま……?」
おそるおそる声をかける、今にも泣きそうなマシェリ。
彼女の声にエイルは振りかえり、優しく笑う。
「怪我はないか、マシェリ?」
居合わせるミユウも気にせず、エイルは彼女を名前で呼ぶ。
するとマシェリは彼に駆けより、後ろから抱きしめた。
「はい……っ、エイル様のお陰で、無事でございます……っ!」
「それなら良かった。マシェリに何かあったら、俺はどうしたものか」
後ろから回された手に、エイルは自分の手を重ねるため、刃を鞘におさめようとする。
だがその時、戦闘中に聞こえていた謎の声が響く。
『ああバカ! 血を払わずに納刀するでない!』
「だ、誰だ?」
『エイルがわらわを手入れしてくれないから、いつも大変なのだぞ!?』
どこからともなくエイルを叱りつける声。
戦闘中は気にしなかった彼もあたりを見回す。
その声はマシェリにも聞こえたようで、きょとんとした様子でたずねる。
「エイル様、この声は一体……?」
『お主も聞こえておるのか? もう少し時間を置いてから化かしてやろうと思っておったが、しかたないのう』
声がそう告げると、『ヌエ』が紫の光を放つ。
それを少し離れた場所から観測していたミユウは、唖然としてたたずむ。
(エイルが死にかけて、不死身になって、次はこれか……)
彼女はため息まじりに目頭を揉み、夜空を見上げる。
(未来が見えなくて監視役に名乗り出たけど、こんなの予想できるワケないじゃん)
*
翌日、宿を移した三人のもとにアーク王が訪れる。
「ミユウから話は聞いたぞ、ずいぶん危ないことをしたな」
「申し訳ありません、お父様……」
「いいんだ。お前が無事なら」
マシェリの手を取りなぐさめる彼を、ミユウとエイル、そして護衛についてきたブレアが見守る。
娘の無事を確認し、安堵して立ち上がるアーク王。
すると彼は、ミユウに事件の顛末をたずねる。
「犯人グループは前に姫を連れ去ろうとした集団と同じ。キマイラに姫の髪の毛を混ぜて、追尾できるようにしたっぽいです」
「犯人の言い分は?」
「全員捕まえて尋問してるみたいですが、今のところは指示されただけと」
「トカゲの尻尾切り、か……」
しぶい表情で口元をおさえるアーク王。
ミユウの能力を使っても、主犯まではたどり着けなかった。
「でも前に調査に来た時、偶然会った冒険者集団がどうも今回の事件に関わっているみたいだったので、手配はしておきました」
「強運だったな、手柄だぞミユウ」
「いえいえ。今回のキマイラを『時間視』するっていうのは、エイルの提案なので」
照れ臭そうに頭をかいて答えるミユウ。
アーク王は新品のスーツを着る彼を見上げる。
「エイル、今回のテストは合格だ。だが……」
顔色を暗くした彼は、気まずそうに言葉を続ける。
「貴様に課された新たな呪いについては、謝罪させてくれ」
深々と頭を下げ、黙りこむアーク王。
キマイラによって植え付けられた『死』のバッドステータスにより、彼は王宮以外、マシェリの近くから三分以上離れられない肉体になってしまった。
重い呪いを負ったエイルは、王に頭を上げるよう願う。
王の思っている以上に、彼は今の状況を楽観視していた。
「大丈夫です。逆に姫様の近くにいれば、絶対に死なない体を手に入れたわけですから」
「確かにそうだが……」
「守護者として、これ以上に良い祝福もありません」
嬉しそうに笑うエイルを、アーク王は苦々しく見つめる。
彼はエイルに背中を向けると、ぼそりと呟く。
「『不死』は祝福などではなく、死と変わらぬ呪いだと思うのだがな……」
眉をひそめ、エイルの未来を憂う王。
暗い空気がただよい始める中、不満げな少女の声が部屋に響く。
「なんじゃお主ら、辛気臭いのう。せっかく復活したのにこれとか、わらわとっても不満なんじゃが」
声の鳴るほうへ、その場の全員が視線を向ける。
そこにはソファの上にゆったりとすわり込む、黒い蝶のような和ロリ風の服をまとった、小さな少女の姿があった。
高圧的な少女を見つめ、ブレアはエイルの耳元で質問する。
「なあ、あの子がミユウの報告したアレか」
「……ああ」
エイルはさっきまで明るかった顔を暗くし、あきれるようにため息をつくと、同じく少女を見て答える。
「本人いわく、妖刀『ヌエ』の真の姿らしい」
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