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96話─殺人鬼からの招待状

 その日の夜。ミューゼンに戻ったキルトは、売り上げの計算を行っていた。初日の売り上げは、金貨三十八枚。


 商業ギルドへの上納分を除くと、純利益が金貨三十枚となる。帝都にある一般的なレストランや食堂、酒場の売り上げより少し多い利益だ。


「ふー、とりあえず滑り出しは順調かな? ま、帝都だけの出店だとそのうち顧客が頭打ちになるし……食堂の方はともかく、グッズショップの方は二号店も考えなきゃ」


 帳簿にペンを走らせながら、そう独り言を呟くキルト。ルビィは風呂に入っており、部屋には彼一人。だから、誰の声も聞こえない……はずだった。


『キルトと言いましたね? 一つ言い忘れていたので伝言を伝えましょう。真夜中、零時の鐘が鳴るまでにミューゼンの外にある共同墓地に来なさい。さもなくば、街が危機に晒されることになるでしょう』


「!? こ、この声は!? 酒場にいたあの男の……」


『なお、君とそのパートナーだけで来なさい。他の者には連絡してはなりません。さもなくば……より酷い悪夢を見ることになりますよ』


 突如、どこからともなく男の声が聞こえてくる。その声の主は、食堂に現れた異界の殺人鬼……泰道亮一だった。


 脅迫めいたメッセージを受け取ったキルトは、即座に動く。ルビィを呼びに行き、手短に事情を話してから二人で指定の墓地へ向かう。


 アジトでくつろいでいるエヴァたちを呼んでもよかったのだが、相手は日本で悪名をとどろかせた連続殺人鬼。


(下手なことをしたら、何をしてくるか分からない。それこそ、大量に犠牲が出るようなことになったら目も当てられない……!)


 不明な方法でコンタクトを取ってきたことといい、相手の一切が分からないのだ。警告を無視すれば、何が起きるか予想出来ない。


 もし大惨事が起こるような事態になれば、永遠に後悔することになる。そのため、取れる選択は一つしかないのだ。


「うー、寒い……。夜の墓地は冷えるね。不気味だし」


「我の熱で暖めてやろう、キルト。しかし、タイドウリョウイチと言ったか……奴め、どんな魂胆で我らを呼び出したのだろうな」


「さあ? ま、一つ言えるのは……マトモな目的じゃあない、ってことだけだね」


 夜風に身を震わせつつ、厚着したキルトはルビィと共に街の南西に四キロ離れた場所にある共同墓地へと向かう。


 湯上がりでぽかぽかのルビィに抱っこされながら、キルトは静寂に満ちた墓場に足を踏み入れる。……そこに、彼はいた。


「キルト、いたぞ! 奴だな? アスカの言っていた男は」


「うん、間違いない! あの張り付けたような微笑みを見間違えることはないよ!」


「ようこそおいで下さいました。申し訳ありません、このような場所にお呼びして」


 墓地の中央に、相も変わらずタクシードライバーの制服と帽子を身に着けた亮一が立っていた。キルトたちが近付くと、帽子を取り一礼する。


 相手の右腰に、アイボリー色のデッキホルダーが下げられているのを見てキルトは確信する。この男もまた、理術研究院が放った刺客なのだと。


「そのデッキ……なるほど、お前も僕たちの敵……ボルジェイ配下のサモンマスターってわけだ」


「ええ、そうなりますね。改めて名乗りましょう、私は泰道亮一。君たちの仲間、天王寺アスカと同じく日本から召喚された者です」


「やはりそうだったか。貴様の目的は何だ? 何故キルトと我を呼び出した?」


「答えを知りたいでしょう。しかし、タダでは教えません。力尽くで聞き出してみなさい……この私、サモンマスターグレイブヤードからね」


 改めてフルネームを告げた後、亮一はデッキに手を伸ばす。叫び声をあげるかのような表情を浮かべた、白い人魂のエンブレムが彫られたデッキから一枚のカードを引き抜く。


 エンブレムと同じ、絶叫する人魂の絵が描かれた契約(エンゲージ)のカードをキルトに見せる。自分と戦え。言外にそう告げているのだ。


「やる気だね。なら……誘いに乗ってあげるよ。お姉ちゃん、あいつを倒して目的を聞き出すよ!」


「ああ、分かった! 我の力、存分に振るうがいい!」


 それに呼応するように、キルトも契約(エンゲージ)のカードを引き抜き相手に見せる。互いの合意を取り付け、それぞれ変身を行う。


 亮一は灰色をしたプロテクター型のサモンギアを呼び出し、右胸に装着する。帽子を被り直しつつ、カードをスロットインする。


「実に楽しみですね。日本にいた頃には味わえなかった高揚感を……たっぷりと味わわせてくださいね?」


『サモン・エンゲージ』


「悪いけど、お前が味わうのは敗北だよ!」


『サモン・エンゲージ』


「面白いですね。では……試してあげましょう、君が『彼ら』にどこまで食い下がれるのかを、ね」


 お互いに啖呵を切った後、亮一はデッキホルダーからサモンカードを取り出す。引き抜いたのは、錆びた鎖が巻き付いたSの字が描かれたカードだ。


『スレイブコマンド』


『来るぞキルト、気を付け──!? ば、バカな! 奴らは……!』


「グウ……アアアアア……」


「オオ……ウアアゥ……」


「ど、どうなってるの!? あいつらは……僕たちが倒したサモンマスターたちじゃないか!」


 カードが挿入された直後、異変が起こる。地面が二カ所盛り上がり、土色の手が突き出してきたのだ。次いで頭が、上半身が現れ……。


 その正体を、キルトとルビィに晒す。冷たい土の下から現れたのは、かつてキルトや仲間たちが倒した敵たち。サモンマスターケルベス、そしてフォールンだったのだ。


「驚きましたか? 私が与えられたサモンマスターの力は死者の使役。この世界で君たちに倒された、怨念を呼び出したのですよ。感動してくれましたか?」


『これは……驚いたな。キルト、これは侮れぬ相手だぞ』


「うん、こんなシンプルかつ強烈なやり方で数を増やしてくるなんてね……」


 ところどころ身体が腐り落ち、瞳も濁りきっている二つの屍。理性などカケラも残っていない骸たちに、亮一が命令を下す。


「さあ、行きなさい。無念を晴らし、再び死に還るためにね!」


「ウゥ……キル、ト……カク、ゴシロ!」


「一族ノ、カタキ……ウツ!」


『キルト、来る!』


「うん、迎え撃つよ!」


『ソードコマンド』


 ケルベスとフォールンが襲いかかってくるなか、キルトは剣を呼び出す。二対一でも、相手が丸腰ならなんとかなると思っていたが……。


『ファングコマンド』


『スピアコマンド』


『なにっ!? こいつら、サモンカードも使えるのか!?』


「ええ、もちろん。そうでなければ、使役する意味がありませんからね。肉の盾だけではなく、私の忠実な兵隊としても使えるのですよ」


「くっ、面倒だねもうっ! あいつ、本当に油断出来ない!」


 なんと、ケルベスたちはサモンカードを使ってそれぞれの武器を呼び出したのだ。より一層不気味な微笑みを浮かべる亮一に、キルトは悪態をつく。


 だが、一度はキルトや仲間が打ち破った相手。手の内は知り尽くしており、冷静さを取り戻せば二対一でもなんとかなる。


 亮一自身は攻撃に参加していないのもあり、少しずつキルトが優位に立ち始めていた。しかし……。


「キルト、何故生き残ろうとするんだ? そんなに、私たちのところに来たくないのか?」


「見下げ果てたわ、全く。あなた……何も反省していないのね」


「!? う、嘘だ……どうして、ここに……! あり得ない、こんなのは夢か何かだ……そうに決まってる!」


 墓地の奥から、キルトの生みの両親が姿を現したのだ。ケルベスたちと違って両足は膝から下がなく、透き通った姿をしている。


 突然のことに、キルトは連日の悪夢がフラッシュバックして冷静さを失ってしまう。そこに、容赦なく敵の連撃が叩き込まれた。


「死ね、キルト!」


「恨みの一撃、食らいなさい!」


「しまっ……うあっ!」


 サモンマスターケルベスとフォールンの攻撃を受けて、吹き飛ばされてしまうキルト。そんな彼を、離れた場所から亮一が見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] グレイブヤード……随分と悪趣味な真似しやがるぜあのイカレ野郎は
[一言] グレイブヤード、墓場の名は伊達ではないか(ʘᗩʘ’) 撃破済みの再生怪人なら問題ないんだけど(٥↼_↼)よりによって亡霊まで呼ぶかよ(ب_ب) ネクロマンサーモドキなら専門家を呼びたい所…
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