94話─おいでませサモナーズショップ!
それから三日後、ついにキルトたちのグッズショップ兼食堂『GOSファクトリーWithアスカちゃん食堂』が無事オープンした。
初日はキルトたち本人がメインで業務を行い、ある程度業績や仕事内容を把握してからコピードールたちに引き継ぐ予定だ。
「いらっしゃいいらっしゃい! 今日は開店記念セールやっとるで! 全商品がなんと定価の三割引き! どうでっか、お土産に一つGOSのゴッツいグッズを買っていかへんか?」
「今なら商品お買い上げ後の食堂利用でデザート一品サービスしますよ~! 今日だけのスペシャルサービス、是非味わっていってくださ~い!」
店の外では、キルト(本物)とアスカ(コピードール)が客引きを行っている。このルマリーンでの事件解決により、ガーディアンズ・オブ・サモナーズの人気はうなぎ登り。
商業ギルドからの働きかけにより、吟遊詩人ギルドがこの十日間で彼らの英雄譚を帝国じゅうで吟じたのもあって初日から大賑わいだ。
「お姉さん、このアクセサリー二つください!」
「俺はこのドラクル変身セットを三つだ! 息子たちと一緒に遊びてえからな!」
「はいはい、分かったから順番に並んで! 商品は順次補充するから、今売り場に無いって暴れたらダメよ!」
二階にあるグッズ販売コーナーは、帝都や近隣の町及び村から来た客でごった返していた。サモンマスター変身セットや、モンスターたちを象った各種アクセサリーにメダル……。
そういったグッズを求めて、店の外に長蛇の列が出来ていた。現在、アジトにてキルトのコピードールたちが随時グッズの生産を行い、入荷と陳列作業をしている。
商業ギルドによる宣伝によって、初日から満員御礼な状態だ。もちろん、それは一階の食堂も同じ。
「ほい、Aランチセットお待ち!」
「おー来た来た、うまそー!」
「おーいお嬢ちゃん、こっちはBランチセット四つね! デザート付きで!」
「はいはい、承ったでー!」
食堂では、大量のアスカが忙しそうに行き来していた。オーダーを取るのもアスカ、料理を作るのもアスカ、運ぶのもアスカ、清算担当もアスカ。
全ての業務を、アスカ本人とコピードールたちが行っている。何故彼女一人なのかと言うと、フィリールが加わると客が萎縮してしまうからだ。
皇女殿下御自ら接客など、前代未聞な事態過ぎて客が遠慮してしまうのだ。そのため、彼女はルビィと共に二階で裏方の作業をしている。
「はふっはふっ、このカレーライスってのはもの凄く美味いな! くぅ~、この辛さがたまらん!」
「なんでも、別の大地の食材をふんだんに使っているんですって! こんな美味しいもの、こんなに安い値段で食べちゃっていいのかしら!」
「デザートのプリン……いと美味し……」
サービス内容とランチの安さに惹かれてアスカちゃん食堂にやって来た客たちは、みな日本の食事に大満足していた。
初日のランチセットはAからDまでの四種類あり、それぞれAランチがステーキセット(サラダ付き&ライスかパンの選択式)、Bランチがカレーライスセット(サラダ付き、オプションで福神漬けと紅ショウガ選択可)。
Cランチセットはエビとムール貝のトマトソースパスタセット(サラダ付き)、Dセットはチンジャオロースセット(中華風サラダ付き)……というラインナップになっている。
「ふう、こら大忙しやで! でも、これくらいお客さんいる方が燃えてくるっちゅうもんや。天国のオトンたち、ウチはやったるさかい見守っといてや!」
次から次へと注文が来るなか、厨房にいる本物のアスカはやる気をみなぎらせる。そこへ、ふらりと現れたるは……。
「フン、ウワサを聞いて来てみりゃあ……大盛況ってわけか。うるさくてかなわねえな……」
「お、ヘルガはん! なんや、メシ食いに来たんか?」
「ククッ、お前らが商売始めたって話を聞いてな。冷やかしでもしてやろうと来てみたわけだ」
ヘルガの来訪に、アスカは目を丸くする。どこからか話を聞き付け、店を見に来たようだ。人の多さに辟易しているようで、耳がへんにゃりしている。
それでも、アスカに無理矢理押し切られカウンター席に座らされる。仕方ないので、ヘルガは渡されたメニュー表に目を通す。
「チッ、酒はねぇのか……。仕方ねえ、ならこのCランチを貰うぜ」
「はいはい、オーダーいただきましたでー! それと、酒は夜から販売や。その時間になったらまた来てんか」
「フン、品揃えにゃ期待してねえが……キルトがいるなら来てやってもいい」
オーダーを取りつつ、ちゃっかり客として取り込もうとするアスカ。それが分かっているようで、ヘルガはどこか投げやりに答えた。
しばらくして、料理が運ばれてくる。大きなムール貝を三つも使った、贅沢なパスタだ。なお、ランチは全て共通でお値段銀貨一枚。
普通の店では銀貨四~七枚が相場なので、文字通り破格の安さだ。人件費も原料費もほぼかからないがゆえの、大サービス価格である。
「スンスン……なるほど、匂いは合格点だな。味の方はどうかな?」
「にしても、意外やな。ウチ、ステーキセット頼むと思てたわ」
「ククッ、オレはな……肉と同じくらい貝が好きなんだよ。この『歯ごたえ』が堪らない」
「うえっ!? ちょ、何してはるんジブン!?」
ヘルガはムール貝を手掴みし、殻ごと口の中に放り込んだ。その様子を見て、思わずアスカの動きが止まる。
食事を楽しんでいた他の客たちも、ヘルガの奇行に視線が釘付けだ。バリボリと、貝殻が噛み砕かれる音が響く。
「フン……ま、味も悪くない。新鮮なムール貝だ……ほんの数十分前まで生きてたな? こいつは」
「せ、せや。オーダー取ってから調理しとるさかいな、Cセットのパスタは。にしても……ジブン、口ん中切ったりせえへんのか?」
「ハッ、オレは獣人だぜ。そんじょそこらのヒューム族やエルフなんかと一緒にするな……イライラするからよ。顎も歯も口内の粘膜も、貝殻の破片如きじゃ傷一つつかねえぜ」
曲芸のような貝の食べ方に、恐る恐る質問をぶつけるアスカ。わざと音を鳴らして貝を飲み込んだ後、ヘルガは口を開く。
中を見ると、彼女が言った通り全く傷が付いていなかった。獣人の頑強さは、身体の外側だけでなく内側でも遺憾なく発揮されているようだ。
「さ、さよか。ほんなら、ごゆっくり……」
「ああ、そうさせてもらうぜ。……ああ、そうだ。キルトにも伝えたが……他国でいろいろ不穏な動きが見え始めてる。特に……北のゼギンデーザ帝国と南のレマール共和国に気を付けな」
「ん、わぁったわ。忠告ありがとさん」
「勘違いするなよ。キルトが死んだら、苛立ちを解消出来なくなるから忠告してる。お前たち自身は、どうなろうが……ズゾッ、知ったことじゃねえ」
他のオーダーを取りに行こうとするアスカに、ヘルガは冒険者ギルド経由で仕入れた情報を伝える。どうやら、他国でキナ臭い動きがあるらしい。
その中でも、北にある軍事超大国『ゼギンデーザ帝国』と、キルトと因縁深い南の新興国『レマール共和国』が危険なようだ。
礼を言うアスカに、ヘルガはツンデレ全開な返事をしてからパスタを口に運ぶ。尻尾を振って『もう話しかけるな』オーラを出しつつ、食事をする。
「やれやれ、キルトもまあ変なオンナにばっかり好かれるもんやな。……ウチくらいやね、常識的なのは」
そんな呟きを残し、次のオーダーを取りに行くアスカ。彼女の発言をルビィ辺りが聞いていたら、即座にツッコミが入るだろう。
「……なるほど、この店ですか。ふむ、いい匂いがここまで漂ってきますね。腹が減ってはなんとやら……まずは食事にしましょうか」
多忙を極めつつも、平和を謳歌しているキルトたち。そこに、異邦の者が現れる。ボルジェイが放った新たな刺客……泰道亮一。
不気味な微笑みを顔に張り付けたまま、キルトたちの店にやって来た。敵情視察のために。
「あ、いらっしゃいませ! ただいま、一階も二階も混み合ってまして……しばらくお待ちいただくことになりますが、よろしいでしょうか?」
「これはこれは、ご丁寧にどうも。そういうことなら、待たせてもらいますよ。……こちらとしても、都合がいいですしね」
「? 最後の方、何か言いました?」
「いえ、何も。では、あちらに並ぶとしましょうか」
客引きをしていたキルトと接触した後、行列に並ぶ亮一。変な客と思いつつ、キルトは訝しむことなくスルーした。
これが、長きに渡って戦うことになる宿敵とのファーストコンタクトだとも知らずに。
※大変危険ですので、良い子の読者様たちはムール貝を殻ごと食べないようにしましょう。




