92話─商売プロジェクト、始まる
翌日、キルトは仲間を連れて帝都に移動していた。彼らが商いとすることになる店の準備をするために。
あらかじめお店の奥の部屋に設置したポータルキーを利用し、ミューゼンからアジトを経由してシェンメックに向かう。
「やや、お待ちしておりましたぞキルト様! 本日はわたくしロジャーが『直々に』お手伝いをさせていただきますぞ!」
「ふわあ……。あ、ロジャーさん。そんな、お忙しいでしょう。僕たちだけでも出来ますよ、商業ギルドのトップに手伝わせるなんて恐れ多いこと……。あと、様はつけなくていいですからね?」
店の中に移動し、そこから外に出ると……なんと、商業ギルドの総帥にしてプリミシアの父、ロジャー・ハンプルトンが部下と共に出待ちしていた。
どうやら、キルトに自分を売り込もうと開店準備の手伝いをしに来たらしい。わざわざ直々に、の部分を強調している辺り、やる気満々なようだ。
とはいえ、それはトップではなく部下の仕事。キルトが説得した結果、視察だけで済ませることで一応話が纏まった。ロジャーはぶー垂れていたが。
「まあ、キルト様……くんがそうおっしゃられるのであれば、従うとしましょう。ところで、例のモノは……」
「ええ、もちろん持参していますよ。はい、お納めします。商品サンプル……サモンマスタードラクル変身セット『召竜腕機ドラクルギア(仮)』です」
「おお、これがそうなのかね! うーむ、君の着けている義手と全く同じ見た目だ!」
エヴァたちには先に準備をしてもらい、その間キルトはウリとなる商品……サモンマスターなりきり変身セットのサンプルのプレゼンを行う。
店の二階の奥にあるオーナーの部屋に入り、キルトはロジャーに己の義手を模した肘まで覆うガントレットを渡す。ちゃんと構造が再現されており、カードホルダーとスロットが取り付けられている。
「暗域から取り寄せた特殊素材で作ってあるので、装着者の腕の太さや長さに合わせて自動でサイズが調整されます。ロジャーさん、試しに着けてみてはどうでしょう」
「いいのかね? では、失礼して……おお、これはなんといい着け心地だ」
「ガントレットに魔力を流すと、ホルダーが開いてカードを取り出せます。それをスロットに挿入すると、音声が流れますよ」
「なるほど、理解した。ではやってみよう。ふんっ!」
キルトの説明を受け、ロジャーはガントレットに魔力を流し込む。すると、カードホルダーの入り口が開き契約のカードが出てきた。
それを取り出したロジャーは、ドキドキしながらスロットに投入する。すると……。
『サモン・エンゲージ』
「おおおおおおお!!! 本当に音が鳴……おわぁっ!? 身体が光っ……むほおおおお!!」
「演出とはいえ、いきなり炎に包まれたらビックリして最悪パニックになりかねないと判断したので……変身プロセスについては、一部変えさせてもらいまし……聞いてないね、こりゃ」
「おおおおおお!! この篭手、この鎧! なれたんだ、私も! 見た目だけサモンマスタードラクルに! うっひょおおおおおお!!!」
本来であれば、変身者の身体を炎が包み込んで鎧が生成されるのだが……見た目だけとはいえ、パニックを誘発しかねないと判断したキルトによって光るだけに変更されていた。
それでも問題なく変身を行え、ロジャーはドラクルの鎧に身を包んでいた。……元の体型が体型なため、でっぷり太っているが。
「どうぞ、こちらに姿見を用意してあります。存分に今のお姿を見て楽しんでください」
「ふぉおおおお!! これで私も(見た目だけ)憧れのサモンマスターに! キルトくん、剣は!? 剣は召喚出来るのかね!?」
「ええ、もちろん。ドラクルギアセットには、ソードコマンドとシールドコマンドのカードが付属しています。どちらも柔らかい素材で出来ているので、怪我の心配はありま」
『ソードコマンド』
「やっほおおおおう!! これが、これがあの英雄の剣! 数多の悪鬼羅刹を斬って捨てた……ふぉああああああ!!」
「ダメだ、興奮し過ぎて話を聞いてない……」
自分がサモンマスタードラクルになれたことに大喜びし、若干キャラ崩壊を起こしているロジャー。キルトの説明もろくすっぽ聞かず、夢中でおもちゃの剣を振っている。
なんだかんだで、男は何歳になっても少年の心を忘れられないのだ。そんな彼を見て、キルトは苦笑いしつつ安堵する。
サンプルに否定的な態度を取られたらどうしようと考えていたのだが、その心配は杞憂に終わった。しばらくして、ロジャーは落ち着きを取り戻す。
「はあ、はあ……。いかんな、年甲斐もなくはしゃぎ回ると……た、体力が……」
「大丈夫ですか? ロジャーさん。今お水を……」
「ああー、大丈夫だ。少し休んでいれば落ち着くよ。ふう……いや、いい体験が出来た。子どもに戻ったかのように楽しめたよ」
「そうですか、気に入っていただけたようで嬉しいです。今現在、変身セット第一弾として『召牛冠機ブレイカギア』と『召虎装機バイフーギア』も開発してまして……」
いい歳してはしゃぎ回った結果、ロジャーは汗だくになりダウンしてしまった。少しして、回復した彼にキルトは商品展開についての展望を話す。
正義の味方だけでなく、悪役の装備もある程度需要があるだろうと考え、敵側であるティバのサモンギアもラインナップに加える予定でいた。
「ふむふむ、なるほど。第一弾ということは、当然第二弾以降もあるということだね?」
「ええ、もちろん。ただ、今はまだ構想の範囲から出てはいません。商機的にもすぐに後続シリーズを……とはいきませんから」
「そうそう、モノを売るのはタイミングが重要だ。どんなにいいモノでも、時期を逃せば売れなくなってしまうからね」
先ほどまでのはしゃぎっぷりが嘘のように、ロジャーは真面目な態度でキルトと話し合いを行う。しばらくして、ランチの時間がやってきた。
「む、もう昼の鐘が鳴ったか。そろそろ昼食にしようか、私の行きつけの店が……」
「いえ、せっかくですから……ロジャーさんには、僕たちのもう一つの『商売』のプレゼンを受けてほしいと思いまして。今、アスカちゃんが下で準備してると思いますよ」
「ん? クンクン……この匂い……なにか作っているのかね?」
行きつけの料理屋にキルトを誘おうとするロジャーだが、彼の鼻が美味しそうな匂いを捉えた。一階でアスカが料理をしているのだ。
もう一つの商売計画……『アスカちゃんの満腹食堂』始動のために。キルトと一緒に、一階へ降りるロジャー。
「お、話は終わたんか? キルト」
「うん、とりあえずはね。……って、こっちもこっちでだいぶ綺麗になったね?」
「ふふん、せやろ? みんなで飾ったんやで、綺麗なもんやろ。これなら、明日にでもオープン出来るで」
キルトたちの店は、一階が食堂、二階がガーディアンズ・オブ・サモナーズグッズの販売をするコーナーになっている。
一階は彩り鮮やかな内装が施された、明るい雰囲気の食堂が完成していた。四人がけの丸テーブルが六席に、カウンター席が六つ。
規模こそ小さいが、どこに出しても恥ずかしくない立派な食堂として出来上がっているのを見て、アスカは満足そうだ。
「アースーカー、早くご飯にしましょうよー。アタシたち腹ぺこなのよ、もーお腹と背中がくっついちゃいそう」
「そうだ、我ももう我慢が出来ん。旨そうな匂いをずっと嗅がされているのだ、そろそろ限界が来るぞ!」
テーブルにはすでに、作業を手伝っていたエヴァたちやギルドの職員六名が待機している。が、肝心のアスカは何も作っていないが……?
「みんなお待ちどう! アスカちゃんのスペシャルランチが出来たで!」
「あれぇ!? あ、アスカちゃんが二人いる!?」
「ああ、我がギルドが保有しているマジックアイテムの『コピードール』をいくつか格安で提供したんだ。調理担当と配膳、オーダー担当と一人で複数役をこなせると喜んでくれたよ」
のれんの奥にある厨房から、料理の乗ったワゴンを押したもう一人のアスカが現れキルトは仰天する。そんな彼に、ロジャーが種明かしをした。
商業ギルドが保有している、使用者のコピーを作り出す人形の力で分身を作り出したらしい。ちなみに、本物は料理を作っている方とのことだ。
「アスカの料理か……。何気に初めて食べることになるな。確か、元いた世界だとご両親が料理店を営んでいたとか」
「せやで、フィリールはん。オトンとオカンから受け継いだウチの技術の粋を集めた力作……たんと味わってや!」
ワゴンには布がかけられており、どんな料理が載せられているのか分からない。期待が高まるなか、布が取り払われる。
果たして、そこにあるのは……。




