85話─逆襲への布石
「ふーん、なるほどね。キルトに憧れてサモンマスターになった、と」
「は、はい……。それから、自分でマスクを縫って……あちこち飛び回って、その……」
「正義の味方を名乗って悪人退治三昧、と。しかし、よく家族にバレずに活動を続けられたな」
「あ、その、実家にあるマジックアイテムで……ふひっ、分身を作って、か、代わりに生活してもらってるので……」
一通り、プリミシアがサモンマスターになった経緯を聞いたキルトたち。フィリールの問いに、そんな答えが返ってきた。
実家のパワーをフル活用し、富豪の娘とサモンマスターの二重生活をエンジョイしているようだ。敵ではないと分かった以上、縛り続ける必要はないとキルトが縄を解く。
「はい、どうぞ。マスクも被っていいよ、あんまり素顔見られたくないんだよね?」
「あ、ありがとうございます……! では失礼して……ふう、やっとマスク被れた! お帰り、ボクのマスク~!」
キルトにマスクを返してもらい、いそいそと身に着けるプリミシア。すると、素とは真逆な陽気なお調子者気質に早変わりした。
どうやら、顔を隠してさえいれば別人判定になるらしい。これまでの陰キャっぷりが嘘のように、明るいキャラになった。
「……あんた、顔隠しただけでえらい性格変わるわね。というか、素を見られたアタシたちにもその性格でいくのね」
「もちろんだとも! 今のボクはプリミシアじゃなくてサモンマスターロコモートだからね!」
「そこまで行くと、ある意味立派なものだな……いや、別に褒めてはいないぞ?」
正体を知られたところで、素顔さえ露出していなければ問題はないようだ。そんな彼女に呆れ、そう口にするルビィ。
これでロコモートの正体は分かったが、最後にもう一つ聞かなければならないことがある。何故あの監獄に、彼女がいたのかだ。
「えっとね、あの監獄のトップ……ダグラスだっけ? その人と一部の職員がグルになって囚人を人身売買してるってウワサがあってさ。その調査をしてたんだよ」
「え、あの人が!? そんなことするような人には見えなかったけどなぁ」
「甘いで、キルト。人は見かけによらないって言うやろ? 大抵、人は一つや二つ後ろめたいモンを持ってるってことや。……で、実際はシロやったんか? クロやったんか?」
「バッチリ証拠を取ってきたよ。クロさ、真っ黒のドロドロ。この水晶に録音してあるんだけど、聞く?」
そう言いながら、ロコモートは懐から小さな水晶玉を取り出す。そして、録音されているダグラスの呟きを再生した。
「わー、本当なんだ……。これはちょっと見て見ぬフリは出来ないね」
「うん、ボクもこれを証拠に、領主に告発するつもりだったんだけどさ。ボク、オックス侯爵に怪しまれちゃってるからさー、話聞いてもらえるかすら分かんないんだよね」
「だろうな、侯爵はかなり警戒していたからな……。クレイが帝都で起こした事件を知っていれば、そうなるのも無理はない」
「でしょでしょ? だから~、ボクの代わりにキルトくんにお願いしたいなーって。ダメ?」
フィリールの言った通り、オックスはロコモートを強く警戒している。今は悪を誅するため活動しているが、いつ手のひらを返すか分からない。
そう考えたからこそ、民の安全のためキルトに調査を依頼したのだ。ロコモートが直接会いに行ったところで、捕まるのがオチだろう。
「別にいいけど……やることがいっぱいあるからなぁ。ドルトさんやミーシャちゃんの護衛、商売計画にバイオンへのリベンジ……」
「まあ、いいのではないか? 全部をキルトがやる必要はあるまい。こういう時こそ、役割分担するべきだろう」
「それもそうだね、ルビィお姉ちゃん。とりあえず、今から僕と一緒に侯爵閣下のところに行こうか。そしたら閣下に僕から君のこと説明するからさ」
「う……マ、マスク取らなきゃダメかな……? やっぱり」
「うーん、嫌なんでしょ? 素顔見られるの。なら、脱がなくてもいいように僕が取り計らうからさ。ゾルグたちの戦いの手助けしてくれたお礼に」
「そっか、ありがとう。でも、キルトくんになら見られてもいいかも……」
まずは、ロコモートことプリミシアが危険な人物ではないことをオックスに説明しなければならない。キルトとそんなやり取りをし、照れるロコモート。
それを見たルビィ、エヴァ、アスカの三人は素早く部屋の隅に移動し、しゃがみ込んでなにやら相談を始める。
「ねぇ、あの女……ちょっとキルトにオネツなんじゃない?」
「どないするんやエヴァちゃんパイセン。処す? 処すんか?」
「あの雌犬のようなトンチキなことをしなければ放置でよかろう。まあ、抜け駆けするようなことがあれば……地獄を見てもらうことになるがな」
プリミシアがキルトに素顔を褒められ、惚れはじめていることに勘付く女たち。新たなライバルの出現に、物騒なことを言い始める。
一方、一人蚊帳の外なフィリールは別のことを考えていた。それは……。
「ところで、だ。あのサモンマスターオーヴァとやら、どう攻略する? 今回は退いたが、次に相まみえる時は決着がつくまで戦うことになるだろうからな」
「わ、驚いた。フィリールさんの口から物凄い真っ当な話題が出ることあるんだね。明日は雪でも……いや、ナイフの雨でも降るかな?」
「キルトからの辛辣な返し……キッツ❤」
いつものやり取りをしつつも、キルトは考えを巡らせる。自分の攻撃は、一つとしてサモンマスターオーヴァに通じなかった。
今回はタナトスの介入で事なきを得たが、次はキルトかゾルグ、どちらかが死ぬまで戦うことになる。そうなった時、勝ち目は……ない。
今のところは、だが。
「……そろそろ、本格的に取り組まないといけないのかもね。サモンギアのさらなる改良に」
「改良、か。だが、これ以上何をどういじるのだ?」
「……当初の設計通り、本契約モンスターの召喚機能を盛り込む。変身した後、もう一度契約のカードを読み込ませることで本契約したモンスターを呼び出して連携攻撃出来るようにするんだ」
「へー、そんな機能を入れるんだ。でも、そんな強力なものを搭載出来るなら、なんで最初から入れなかったの?」
「危険だからね、本契約したモンスターを戦わせるのは。サモンマスターと命を共有してるから、どちらかが死んだ時点でもう終わりだもの」
当初の計画通り、本契約モンスターの召喚機能を搭載しなかったのはそういうリスクがあったからだ。その代替として、仮契約機能が実装されたのである。
だが、所詮は一度限りの使い捨て。それだけでは、オーヴァの守りは崩せない。帰還させない限り、その場に居座り戦い続けられる戦力が必要なのだ。
「ところでだ、キルト。仮にその機能を搭載した場合、我は今の姿と真の姿、どちらで呼び出されるのだ?」
「んーとね、基本は真の姿になると思うよ。ただ、かなり大きいからサイズは相応に小さくなることになるけどね」
「ふむ、それでも構わん。これまではキルトにばかり戦わせてきたからな。共に戦えるのなら、こんなに嬉しいことはない」
突如、話し合いを終えたルビィが割って入ってくる。キルトに尋ねた後、返答を聞き嬉しそうに答えた。
なんだかんだで、伴侶にばかり戦いを任せてきたことに負い目を感じていたのだ。エルダードラゴンたる自分が力を貸せば、オーヴァも倒せるはず。
ルビィはそう考え、拳を握り締める。
「キルト、是非その機能を盛り込むべきだ。なに、我は頑強さには自信がある。そう簡単に敗れることはない、心配はいらん」
「確かに、戦略の幅が広がるのはいいことだ。モンスターと連携出来れば、勝機も見えてくるだろう」
「分かった、じゃあ帰ってきたら早速全員分のサモンギアを改造するね! よーし、今日は久しぶりに徹夜で頑張るぞ!」
ルビィやフィリールの賛同を得たキルトは、やる気をみなぎらせる。負けっぱなし、やられっぱなしではいられない。
必ずリベンジしてやると、意気込みを見せるのだった。
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