84話─ロコモート誕生秘話
プリミシアが如何にしてサモンマスターになったのか。そのいきさつを語るには、まず時を大きく巻き戻す必要がある。
キルトたちがクレイを打ち倒し、皇帝から表彰された日に時は巻き戻る。表彰式の参列者に、父……ロジャー・センプルトンに連れられたプリミシアの姿があった。
「よーく見ておけ、プリミー。あの男の子が、帝都とミューゼンを救った英雄……『正義の味方』だ。彼とのコネクションが築ければ、我が商業ギルドに莫大な利益がもたらされるぞ」
「キルトさま……正義の味方……かっこいい、ふひ……」
大貴族にも引けを取らない、嫌みったらしい宝石たっぷりに装飾された服を着た太った男……ロジャーは自分の背に隠れている娘にそう語る。
キルトとのコネを作れれば、さらに商業ギルドが繁盛する。彼の商人としての嗅覚が、そう告げていたのだ。
対するプリミシアの方は、ずっとキルトに見惚れていた。そんな娘に、ロジャーは問う。
「プリミー、あの子が気になるのかい?」
「ひぇっ!? そ、そそそそそんなことは……ないことも、ないです……」
「そうかそうか。なら、パパに任せておきなさい。英雄様と『お近付き』になれるよう、取り計らってあげるからね」
「あ、ありがとう……パパ」
プリミシアの様子から、キルトに近付くための口実に使えるだろうと考えたロジャー。だが、彼がアイデアを纏める前に……事が起きた。
その日の夜、プリミシアは帝都の一等地にある自宅にて一人星空を見上げていた。頭の中にあるのは、英雄として賞賛を浴びるキルトの姿。
「かっこよかったなぁ……。わたしも、キルトさまみたいな正義の味方になれたらいいのに。そしたら、お友達になって……それから……ふひっ」
「ほう、君はヒーローになりたいのだね? いいだろう、ならその手助けをしてあげようじゃないか」
「ぴぃっ!? だ、だだだだだ誰ですか!? ひ、ひひひ人を呼びますよぅ!?」
窓枠に頬杖を突き、めくるめく妄想を繰り広げるプリミシア。そんな彼女の背後から、家族でも使用人でもない者から声がかけられる。
ギョッとしたプリミシアが振り返ると、部屋のドアの前に髑髏の仮面を身に着けた人物……恒例のタナトスが立っていた。
「その必要はない、用が済めばすぐ去るさ。ところでだ、君はキルトのようなヒーロー……『正義の味方』になりたいのだろう? なら、その夢を叶えてあげようじゃないか」
「そ、そんな適当なこと言わないでください! は、早く出て行かないと本当に人を呼びますよ!」
前髪に隠れた目を鋭くし、勇気を振り絞ってタナトスを睨むプリミシア。生来のクソザコ豆腐メンタル持ちの彼女からすれば、大変頑張った方だ。
本来ならとっくに悲鳴をあげて気絶しているか、ベッドに飛び込んでブルブル震えているかのどちらかなのだが……。
「あ、で、でも……お話くらいなら聞いてあげてもいいかなって、ふひっ」
「そうかそうか。では、君に教えてあげよう。キルトと同じ、『正義の味方』になる方法をね」
彼女がタナトスと対峙出来た理由、それは至極単純なものだ。キルトと同じ『正義の味方』になれる、その言葉に好奇心を刺激されたからだ。
「方法は一つ、とても簡単だ。バイク型の擬態魔獣……『モートロン』を封印してある、このデッキの持ち主になればいい」
「えっ、そ、それって……」
「そう。キルトたちが持つサモンマスターの証、デッキホルダーだ。この中に封じてあるモンスターと本契約すれば、君も晴れてサモンマスター。キルトと同じ、『正義の味方』に大変身というわけだ」
タナトスが懐から取り出したのは、以前ヘルガに渡そうとして断られた銀色のデッキホルダー。それを受け取り、プリミシアは思案する。
(これがあれば、わたしも……何の取り柄もない、大金持ちの家に生まれただけのわたしでも。キルトさまみたいに、立派になれるなら……でも……)
昔から、プリミシアはあまり社交的な性格ではなかった。それに加え、父が成金ということもあり同世代の子たちからいじめられて育った。
それゆえに、人一倍自分に自信のない彼女は迷っていた。タナトスからデッキを貰い、サモンマスターになったとして。
キルトたちのような、人々のために戦う立派な正義の味方になれるのか。昔、同世代の男の子たちに言われた一言が脳裏によみがえる。
『おまえみたいなブスなんか、ともだちにするかちもないよーだ! あっちいけ、ブース! ブース!』
『おとうちゃんがいってたぞ! おまえのおやじはうすぎたないなりあがりのクズだって。そんなやつのいえのこなんて、どっかいっちゃえばいいんだ!』
そうした心ない言葉を浴びながら育ったプリミシアにとって、そう簡単に決断出来ることではなかった。だが、そんな彼女に死神がささやく。
「迷っているね? その理由を当ててあげようか。ズバリ、君は自分に自信がないのだろう? キルトのようにはなれないかもしれない、そう考えているはず。違うかい?」
「! あ、当たりです……。はい、わたしは、その……自分に自信がなくて。顔だって、人に見せられないくらいブスだから……」
「ふむ、ならいいアイデアがある。ヒーローの仮面を被り、全て覆い隠してしまえばいい。そうすれば、君は飛躍出来る。正義の味方としてな」
「隠す……わたしの、全てを……」
「そうだ。なにも、キルトたちのように顔も名前も曝け出す必要はない」
タナトスの言葉に、プリミシアはどんどん引き込まれていく。気が付くと、彼女は右手にデッキホルダーを、左手にベルト型のサモンギアを持っていた。
すでにタナトスの姿はなく、静寂が部屋を包み込んでいる。ベルトを身に着け、プリミシアは姿見の前に立つ。
これまでに使われたベルト型のサモンギアと違い、バックル部分に穴が開いておりデッキホルダーを装着出来るようになっている。
「これがあれば、わたしも……サモンマスターに……正義の味方に、なれる」
そう呟きながら、プリミシアはデッキホルダーをベルトに嵌め込む。すると、脳裏に契約履行のための文言が浮かんでくる。
「……サモンギア起動! ……今、命を束ね魂の契約を成さん。運命のカードよ、二つの命を繋げ!」
そう口にすると、銀色の光がデッキから溢れ出してくる。あまりの目映さに、プリミシアは思わず目を瞑る。
少しして、恐る恐るまぶたを開くと……寝間着姿だった彼女は、大きく変貌を遂げていた。銀色をベースにして、ピンク色の装飾が施された鎧を身に着けていたのだ。
「す、凄い! これがサモンマスターの力……! わたしにも、この力が使え」
『ふあああ~。誰だい、オレ様を眠りから起こしたのは。……ふぅん、あんたか。このオレ様……モートロンと契約したのは』
「ぴえっ!? ど、どこから声がぁ!?」
『どうどう、落ち着け。オレ様はあんたのデッキに封じられてるモンスターだ。えーと、この度は本契約ありがとう。これからオレ様とあんたは、命を共有する間柄になったってわけだ』
「え、それってどういう……」
変身した自分を見てはしゃいでいると、突然頭の中に気怠そうな声が響いてくる。本契約を行ったことで、モートロンが目覚めたのだ。
タナトスから何も聞かされなかった……というより、考えるのに夢中で何も聞いていなかったプリミシアは相棒からサモンマスターのイロハを教わることに。
「な、なるほど。つまり、わたしとモートロンのどっちかが死んだら、もう片方も死ぬ……と」
『おうよ。オレ様とあんた、両方が契約解除に同意すりゃあ問題はないがな。でも、わざわざサモンマスターになる道を選んだんだ、そのつもりはねえんだろ?』
「は、はい。わたしも、キルトさまみたいな正義の味方になるんです! それで、彼と出会って、それから……ふひっ」
モートロンの説明を聞きつつ、よこしまな妄想にふけるプリミシア。その時、足音が近付いてくる。慌てて変身を解除し、ベッドに飛び込む。
「お嬢様、夕食が出来ましたよ。さあ、一階に降りてきてくださいな。今日はお嬢様の大好物、モザーブ牛の香草焼きですよ」
「は、はい。すぐ行きます……」
間一髪、部屋に入ってきたメイドにサモンギアとデッキを見られずに済んだ。プリミシアは一旦ベルトを外し、机の引き出しに仕舞う。
「これでわたしも……サモンマスター……。ふひっ、ふひひひ!!!」
喜びのあまり奇声をあげながら、部屋を出て行く。こうして、プリミシアはデッキを手に取り……サモンマスターロコモートになったのだ。




