82話─幕引き
「貴様との戦いも飽きてきた、そろそろ終わらせるとしようか!」
『ミラージュコマンド』
「へえ、アスカが使ってるのと同じ名前のカードがあるんだ? じゃ、妨害してあげる!」
『サポートコマンド』
看守たちが到着するまでにエヴァを倒そうと、ロージェは三枚目のサモンカードを使う。それに対抗し、エヴァもサポートカードを取り出す。
先に効果が発動したのはロージェの方だ。たなびく漆黒のマントが描かれたカードをスロットインし、背中に装備したマントの裾を左手で掴む。
一方、エヴァがスロットインしたのは眼球に羽根と足が生えたモンスター、フライングアイが描かれたサモンカードだ。
「どんな攻撃をしようとムダだ! この『ミッドナイトマント』で全てかわし」
「はいざーんねーん。そんなもん消してやるから。フライングアイ、消失の目線!」
「ウィィィィ!!」
マントで身体の前部を覆い、相手の攻撃に備えるロージェ。が、そんな彼の表情が驚愕の色に染まることになる。
エヴァが呼び出したモンスターが奇っ怪な叫び声をあげた直後、マントが消滅したのだ。すかさず敵に近付き、エヴァはみぞおちに拳を叩き込む。
「ごふぁっ!?」
「残念だったわね、このフライングアイは三百年前の時代でゲットしてきたモンスターなの。今はもう絶滅した、すんごいレアなカードなんだから」
「ぐ、お、ご……! おのれ、よくも……だが!」
「! ちょっと、離しなさいよ!」
「これで、至近距離から叩き込める。我が断罪の奥義をな!」
鉄板をブチ抜く威力があるエヴァの殴打を食らったロージェだが、かろうじて耐えきった。エヴァの右腕を掴み、空いた手でカードを引き抜く。
振り払おうとするエヴァだが、相手の力が予想以上に強く簡単にはいかない。相手のアルティメットコマンドがどんなものかは分からないが、危機的な状況に変わりはない。
「さあ、このまま……うおおっ!?」
「甘いわね、その程度であたしを出し抜けると思ったら大間違いよ! どりゃあ!」
「ぐおあああ!!」
腕を振りほどけないなら、逆に自分から仕掛けてしまえばいい。エヴァが出した結論は、至ってシンプルなものだった。
空いた方の手でロージェの腕を掴み、くるんと身体を反転させて背負い投げを放ったのだ。背中から硬い床に叩き付けられ、ロージェは悶絶する。
「うぐ、うごおおおお……!!」
「さあ、トドメを刺してやるわ! ミノス」
「くっ、そうはいかぬわ! 覚えていろ、次はドルト共々殺してやる!」
脚を振り上げ、勢いよくロージェの顔を踏み潰そうとするエヴァ。が、それよりも早く、ロージェは懐に忍ばせていた使い捨て転移石を用いて逃げていく。
「チッ、逃げ足だけは速いんだから。でもま、思いっきり痛め付けてやったししばらくは出てこれないでしょ。さて……あら」
「エヴァンジェリンさん! ロージェはどこに!?」
「ちょっと遅かったわね、アタシにやられてみっともなく逃げてったところよ。じゃ、後片付けよろしく。アタシはキルトと合流しなきゃだから。じゃーねー」
その直後、ドルトや看守たちが地下エリアにやって来た。後のことは彼らに丸投げし、エヴァはポータルを開いてさっさとキルトの元へ向かう。
その頃、キルトたちはというと……。
「はあ、はあ……。ティバとネヴァルは遠くに引き剥がしてもらったけど……ちょっとシャレにならないよ、ゾルグの頑強さは」
「流石にイライラしてくるぜ……どれだけ攻撃しても傷一つ付かねえってのはよ」
「ガハハハハ!! どうだ、俺の頑強さは! てめぇらみたいな雑魚どもじゃ、俺を倒すなんて不可能なんだよ!」
二十分以上に渡る激戦の末、仲間にティバとネヴァルを引き離してもらったキルト。だが、ヘルガと協力してでさえ、ゾルグにダメージを与えられない。
動きこそ鈍重で楽に攻撃を避けられるが、とにかく鎧が頑強過ぎて全く傷が付かないのだ。サモンマスタージーヴァの対となる存在だけあって、かなり手強い。
『むむむ……以前戦ったジーヴァが【動】のサモンマスターならば、このオーヴァはまさに【静】……城塞の如く構える難敵だな』
「本当に腹が立つよ。何とかして突破口を見つけ出さないと、こっちがジリ貧でやられちゃう」
いずれ体力や魔力が尽きれば、キルトたちの敗北が確定することになってしまう。頭脳をフル回転させ、どうにか活路を見出そうとするが……。
強敵と戦いながらでは、いい案がなかなか浮かんでこない。まだ死闘が続く、と思われたが……その時。
「そこまでだ、サモンマスタージーヴァ。ボルジェイ様より帰還命令が出ている、即刻理術研究院へ戻るがよい」
「お前……タナトス!?」
「ああ? なんだよ、今いいところだろうが! 隊長の上司だからって邪魔すべぇ!」
「問答無用、ボルジェイ様の命令は全てに優先される。すでにティバたちは回収した、お前も連れて帰らせてもらうぞ」
突然ポータルが開き、そこからタナトスが姿を現した。どうやら、緊急の帰還命令が出たらしい。ゾルグは渋るも、わがままは通らない。
軽くジャンプし、タナトスは強烈なハイキックをゾルグのこめかみに叩き込む。キルトたちがどれだけ攻撃しても破損しなかった兜がへこみ、ゾルグが倒れる。
「ひえ……あんな簡単に、僕たちが苦戦した鎧を……」
『あやつ……やはりタダ者ではないな。恐るべき膂力……実に厄介だ』
「ククク、ありゃ楽しめそうだな……今からでも相手してやっても」
「ダメダメダメ! やるなら万全な状態でなきゃ! 今戦っても絶対勝てないって!」
あくまでも観測者の立場を崩さないタナトスの、秘められた実力の一端を垣間見て戦慄するキルトとルビィ。
が、あろうことかヘルガがタナトスとの戦いを所望しはじめた。必死に説得し、キルトへのぺろぺろ&あぐあぐ三十分でどうにか引き留めた。
「邪魔したな、キルトとその本契約モンスター……そしてサモンマスターノーバディ。次は邪魔をせん、好きなだけこやつと戦うがいい」
「待って、わざわざ割って入ってまでゾルグを連れて帰る理由はなんなのさ? それくらいは教えてくれてもいいんじゃない?」
「いいだろう、元同僚のよしみで教えてやる。ボルジェイ様が『命王』アゼル率いるネクロ旅団に宣戦布告してな、戦力が必要なのだよ」
「え、ケンカ売ったの……? あの生と死を超越した不死身の軍団の王に? バカなんじゃないの?」
気絶したことで変身解除したゾルグの襟首を掴み、ポータルの中に入ろうとするタナトス。そんな彼に、キルトは問う。
すると、とんでもない答えが返ってきた。タナトス自身、主の無謀さに呆れているようで声に疲労の色がにじんでいる。
『なんだ、そのネクロ旅団とやらは』
「ククッ、ウワサだけなら知ってるぜ? どこかの大地に、死者の蘇生を可能にする王がいるとかなんとかな」
「うん。数多のスケルトンや不滅の力を宿したノスフェラトゥスって怪人たちを配下にしてる命の守護者だよ。神々側の勢力の中でも、屈指の強さがあるんだ」
『ほう、そんなに強いのか。かような者たちに宣戦布告するとは、ボルジェイとやらは死に急いでいるのか? あの虎男や孔雀オカマ如きで勝てるような相手とは思えぬが』
あまりにも手心のないルビィの言葉に、キルトは思わず吹き出してしまう。だが、サモンマスターの特性を鑑みれば勝ち目がないとは言い切れない。
王自身はともかく、その配下たちくらいなら単騎で余裕で捻り潰せるだけのポテンシャルはある。そう出来るよう、キルトが設計したのだから。
「以前、バイオン公に武功の無さを指摘されたのとコーネリアス王に脅しをかけられたのが相当堪えたようでね。サモンギアの宣伝にもなると、やる気を見せている」
「自分は手を汚さないくせに? いつもそうだよ、ボルジェイは。手柄のために他人を使い潰して、美味しいところだけ自分のものにするんだ」
「ええ、あんなクズは今どき非直系でも滅多にいないわ。無様に負けて死ねばいいのにね」
「エヴァちゃん先輩! そっちは終わったの?」
「んー、トドメ刺す前に逃げられたけど……ま、しばらく活動出来なくなるくらいのダメージは食らわせてやったわ」
ネクロ旅団について説明していると、別のポータルが開きエヴァが現れる。ロージェとの戦いの顛末を話している間に、タナトスはゾルグを連れ消えた。
「……で、こっちはこういう事態になってたってわけ」
「ふぅん、キルトの元仲間が……ね。次に出てきたら、アタシがぶっ殺してあげるからね、キルト。だから心配しなくていいわよ。ところで、そこのめすい……あらっ、いない!?」
『いつの間にか帰りおったな、奴め。まあいい、フィリールたちと合流して街に戻ろう。いろいろあって疲れた……今日はもう休んでしまおう』
「うん、そうしたいところだけど……まだ、やることはあるんだよねぇ」
思いがけない形で幕引きとなったが、これで全てが終わったわけでない。ロージェの行方、そして……謎のサモンマスター、ロコモートを問い詰めねばならないのだ。
「やれやれ、いつになったら休めるのかな」
小さな声で、キルトはそう呟いた。




