78話─ドルトの元へ
シュルムやオックスを送り届けた後、改めてキルトは仲間たちを連れてルマリーンの街に戻ってきた。もう一度監獄に出向き、ダグラスから地図を貰う。
「さて、これでようやく活動出来るね。とりあえず、まずはドルトさんに会いにいこっか」
「そうだな。無事だといいがな、ドルトの奴」
ダグラスから教えてもらった作業場に向かい、ドルトとミーシャの安否を確かめるキルトたち。昼前休憩が終わり、皆忙しそうにしている。
「いらっしゃい! ……おや、どうしたんだいボウズ。子どもにゃ早いぞ、こんな血なまぐさいところは。ほれ、トラウマにならんうちに帰んな」
「あの、実はここで働いてるドルトってエルフさんに用がありまして。今大丈夫ですか?」
「ん? なんだ、あいつの知り合いかい。いいぜ、呼んでくっからここにいな。おーいドルト、お前に客だぜー!」
解体作業をしている店に向かうと、入り口の方で休んでいた人物に声をかけられる。黒いツナギを着た男に、ドルトに会いに来たことを告げるキルト。
男は作業場の奥に向かい、休憩中のドルトを連れてきてくれた。久しぶりの再会に、ドルトは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「やあ、来てくれたのか! ミーシャも俺も、元気にやってるよ。そっちはどうだ?」
「僕たちの方も元気にしてるよ。……話は変わるんだけどさ、ちょっと不味いことになってね。今、時間あるかな?」
「ああ、休憩時間になったばかりだからな。問題はない。……一体何があったんだ?」
作業場の入り口で話し込む訳にはいかないため、ドルトは先ほどの男──この解体場を纏める親方らしい──に事情を話し、外出許可を得る。
ツナギから私服に着替え、近くにある公園へと向かう。そこでドルトは、ロージェがルマリーンに来ていることを聞かされた。
「あの検察官が? そうか……多分、俺を逆恨みしてるんだろうな。あの検察官、悪い意味で有名な人だったからな」
「参考までに聞きたいのだが、どんな人物だったのだ?」
「……ロージェ・バランモン。冒険者ギルドと専属契約を結んでいた検察官だったんだが、かなり独善的な面が強くてね。それはまあ、あの裁判で散々見せられただろう?」
「アレね。今思い出してもむかっ腹が立つわね! 全くもう」
フィリールに問われ、ドルトはポツポツ話し出す。彼が普通の冒険者として活動していた頃から、かなりヤバい人物だったらしい。
「あの人は基本、自分が悪だと判断した相手に一切容赦しない。相手が社会的に抹殺されるまで、とことん追い詰めて突き落とすんだ」
「うわー、イヤなやっちゃな。キルト、ウチのいた世界じゃそーいうのを『正義厨』って言うんやで。よー覚えとき」
「うん……うん? まあいいや、続けてドルトさん」
「ああ。しかも困ったことに、間違いを頑として認めない頑固さまであってね。昔、何度かギルドの職員や冒険者と揉めてるところを見たよ」
「ふむ、思っていた以上に厄介な性格をしているようだ。そんな性格なら、ドルトを逆恨みして復讐に動かないわけがない」
アスカの茶々を挟みつつ、ロージェについて聞けたキルトたち。フィリールの言う通り、ドルトへの筋違いな復讐が目的と見て間違いないだろう。
問題は、それをどのような手段で行おうとしているのかだ。
「多分、またタナトスが絡んでくると思うよ。これまでのパターンを鑑みるに」
「おおいにあり得る。あやつ、妙にキルトに敵対する者をサモンマスターに仕立てる能力が高いからな。今度も、ロージェをサモンマスターにしてけしかけているのだろう」
「となると……ミーシャだけでも安全なところに避難させておきたい。もし、俺を苦しめるためにあの子が狙われるようなことになれば……」
「大丈夫だよ、ミーシャちゃんは僕たちが保護するから。ここより安全な場所に連れて行って、カタが着くまで守るからね」
どうせまたタナトスが一枚噛んでいるだろうと、これまでの経験からアタリを付けるキルトとルビィ。一方、ドルトは妹が狙われかねないことを危惧していた。
キルトは元から、ミーシャをアジトに連れて行って保護するつもりでいたためそれを伝える。そして、懐から『あるもの』を取り出す。それは……。
「僕たちも、四六時中ドルトさんと一緒にいられるわけじゃないから……自衛の手段がいるよね。ってわけで、はい。ドルトさんのデッキとサモンギア」
「持ってきてくれたのか? ありがとう、キルト。とはいえ、勝手にこれを使うわけにはいかないな。監獄に行って、看守長に自衛許可申請しないと」
「はぁ? 何それ、自分の身を守るのもダメなわけ? この街は」
「仕方ないさ、執行猶予付きの身だからな。……ほら、あそこ。俺専属の監視官がずっと尾行てるんだ」
ヤドカリ型のモンスター『レールタイバー』が封印されているデッキを渡すキルト。そんな彼に、ドルトがぼやくとエヴァが呆れ返る。
ドルトは小さな声でそう言うと、公園の出入り口の方を指差す。公園の外、建物の陰からこっそりキルトたちの方を見ている黒づくめの人物がいた。
真っ黒いローブを着て、これまた黒いフードを被り顔を隠している。ドルトが問題を起こさないか監視しているのだという。
「大変なのね、あんたも。ま、そういうことなら仕方ないわね。アタシたちがついてったげるから、さっさと済ませ……ん? なにこのサイレン」
『緊急放送! 緊急放送! ルマリーン監獄内に侵入者アリ! 市民の皆様はただちに安全な場所に……うわっ、 なんだお前ぐわっ!』
『あーあー、コホン。ルマリーン監獄街に暮らす下劣極まりない犯罪者予備軍の諸君、お初にお目にかかる。私はサモンマスタージャスティス、真なる正義を執行する者だ』
話をしている途中、緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響く。続いて、看守による放送が始まるが……何者かが放送室に乗り込み、放送を乗っ取った。
そうして聞こえてきたのは、ロージェの声。キルトたちの予想通り、サモンマスターの力を得て暴走しているようだ。
「あいつ、何やってるのよ……! まさか監獄に乗り込んでるとは思わなかったわ」
『私は正義の名を戴く戦士、ゆえに! まずはこの監獄内にいる囚人たちを皆殺しにさせてもらう! そして……その次はドルト! 貴様が裁かれる番だ! どこに逃げようとムダだ、我が正義の眼からは逃れられんぞ!』
「まずい、急ごうみんな! あいつの好きにさせるわけにいかない!」
「ああ、囚人とはいえ見殺しには出来ぬからな。よし……全員集まれ、我の背中に乗せてやる。直接監獄の屋上に行くぞ!」
サモンマスターの力を得たロージェは、デモンストレーションを兼ねて囚人たちを抹殺するつもりのようだ。
自分がどれだけ強くなったかを確かめてから、ゆるりとドルトを殺すつもりらしい。そんなことはさせまいと、キルトたちは急ぎ監獄へ向かう。
「ぐ、うう……。か、勝手なことはさせんぞ……この監獄の、看守として……ぐはっ!」
「うるさい虫ケラめ、私の正義の邪魔をするな! 汚らわしい囚人どもを庇い立てするようなクズなど踏み潰してくれる!」
一方、監獄内の放送室ではロージェが放送係の看守に暴行を加えていた。黒いボディスーツとマントを身に付け、顔には翼を広げたコウモリのマスクを装備している。
己の力に酔い、自分は正義の使者なのだと驕りたかぶるロージェ。だが、そんな狼藉がいつまでも許されるわけがない。
「う、あ、ぐ……」
「首を踏み折ってやる! 邪悪の手先め、死ぬがよ」
『スロウコマンド』
「ん? ぬおっ!?」
「おっと、おイタはそこまでだよ。いけないね、君のやってることは正義なんかじゃない。それが分かんないんじゃ、正義の味方としては三流以下だね」
「なんだ貴様……ああ、なるほど。お前もサモンマスターなのか」
看守を散々痛め付け、トドメを刺そうとしたその瞬間。扉が吹き飛び、サモンカード発動の音声と共に銀色のブーメランが飛んできた。
不意を突かれるも、装備している篭手でブーメランを弾き落とすロージェ。そんな彼の元に、攻撃を行った存在が姿を現す。
監獄内の異変に気付き、どうにか天井裏から脱出してきたサモンマスターロコモートだ。
「そうさ。独りよがりな正義をうふぞく邪悪な者よ、このボク……サモンマスターロコモートが成敗してあげるよ!」
「邪悪? この私が? ハッ、笑われてくれる。わたしこそが正義だ! 犯罪者どもを生かしておくような施設、徹底的に潰してこそ真の正義! それを貴様にも教えてやる!」
キルトたちが向かう間に、戦いが始まろうとしている。それぞれ正反対の正義を掲げる、二人のサモンマスターによる決戦だ。




