77話─滞在許可を求めて
「ふむふむ、なるほど。そういうことなら、すぐにでもルマリーンに行ってくれて構わない。なんなら、私も同行して監獄長に話を通そうじゃないか」
「本当ですか! 侯爵閣下、ありがとうございます!」
シュルムを伴い、エヴァのポータルを使ってオックス侯爵の住むワダーの街にやって来たキルト。事情を話したところ、すんなり協力を得られた。
「実は、部下から報告があってね。例のサモンマスターを名乗る人物の目撃情報が、ルマリーン周辺で報告されるようになったんだ。こちらにとっても、渡りに船というわけなのさ」
「なるほど、確かにそれもそうだ。……が、一緒に付いてくる理由、他にもあるだろう? ロバート」
「ハハ、流石にシュルムにはバレるか。うむ、私も噂に聞くポータルとやらを一回経験してみたかったんだよ。さあ、早く連れて行ってくれたまえ!」
「は、はあ。……大地の民の貴族って、みんな好奇心旺盛なのかしらね?」
「あ、あはは……」
オックスもまた、シュルム同様ポータルの力に興味津々なようだ。行ったことのない場所にも、大地を超えて移動出来る超技術。
闇の眷属だけが用いることが可能な力に興味を持つな、という方が無理なのだ。呆れ顔になりつつ、エヴァは早速一行を連れルマリーンに向かう。
なお、後から合流することにしているためルビィやフィリールたちは現在お留守番の真っ最中だ。
「着いたわよ、ここがルマリーンの街……の、監獄前よ。流石に直接中に入るのは非常識だから、ここで手続きして入りましょ」
「うむ、配慮してもらえて助かる。ま、安心しなさい。領主権限があれば面倒な手続きはいらんよ」
領主が一緒とはいえ、直接監獄内に転移すると大問題になるため律儀に入り口に来たエヴァ。オックスが顔パスなため、すんなり中に入れた。
「……おお、これは領主様。いきなりおいでになられて驚きましたよ。……って、パルゴ侯爵閣下までお越しとは! それに、そちらの少年は……」
「キルトくん、紹介しよう。彼はダグラス・メンゼルモーア。このルマリーン監獄を治める監獄長だ」
「こんにちは、監獄長さん。僕はキルト・メルシオンと言います。こちらは仲間のエヴァンジェリン・コートライネン。よろしくお願いしますね」
「よろしく、おじさん」
「ええ、こちらこそ。して、今日はどのようなご用件で?」
オックスに案内され、監獄長の執務室に向かうキルトたち。出迎えてくれたのは、白い制服を着た太鼓腹の男だった。
ダグラスと呼ばれた人物は、丁寧な物腰でキルトたちを歓迎する。彼らが連れ立ってやって来た理由を聞き、困り顔になる。
「はあ、なるほど……。今ウワサのサモンマスターを名乗る人物に、この街で働いている執行猶予付きを狙う不審者が近付いてきている……と」
「ええ、そうなんです。その執行猶予付きの人は、僕の知り合いで……妹さんも一緒にいますし、危害を加えられるような事態にはなってほしくないんです。なので、この街にしばらく留まってもいいでしょうか?」
「まあ、私は構いませんが。ですがね……部外者には立ち入ってもらいたくない場所もいくつかありますのでねぇ。後で該当地点を記した地図を渡すので、そこに入らないと約束してくださるならいいでしょう」
キルトの申し出に、ダグラスはそう答える。囚人たちを収監する監獄と街が隣接しているがために、守秘義務からそう条件を出したのだと考えたキルト。
……この時はまだ、ダグラスに別の思惑があったということを知らず彼の出した条件を承諾する。こうして話は纏まり、キルトたちは一度帰ることに。
「では、一度準備をしてくるので戻りますね。監獄長さん、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。すぐに地図を用意するので、それまでお待ちください」
そう言葉を交わしてから、キルトたちはポータルを使いそれぞれの家に帰っていった。それから少しして、ダグラスはため息をつく。
「ふう……領主様に『人身売買』がバレたわけではなかったか。それはよかったが……不味いな、あの少年たちに嗅ぎ付けられたら私の首が飛んでしまう。何とかしなければ……」
実はこのダグラスという男、監獄長の立場を利用して終身刑になった囚人たちを奴隷商人に売り捌いていたのだ。
副監獄長をはじめ、数人の幹部を抱き込んでグルになり、奴隷商人のリクエストに合う囚人を病死したことにして引き渡しているのである。
当然、それが領主であるオックスにバレれば死罪は確定。キルトたちにあらかじめ一部区域の立ち入りを禁じたのは、証拠を掴まれないようにするためだ。
「すんなりこっちの条件を呑んでくれたのはよかったが……ぐぬぬ、どうしたものか。何とかして隠し通さないと……ん!? 天井裏から音が……ネズミでもいるのか?」
どうやって人身売買を隠ぺいするか悩んでいると、天井裏から物音が聞こえてくる。最近数を増やしているネズミだろうと楽観視し、ダグラスは調べない。
その選択が、自分の運命を最悪な方向に決定付けることになるとも知らずに。
(ふっふっふっ、聞いちゃったもんね~。なるほど、やっぱり裏でそういうことやってたんだ。さて、どうやって処してあげようかな)
天井裏に、一人の女がいた。うつ伏せになって聞き耳を立てているのは、渦中の人物……サモンマスターロコモートだ。
いつでもどこでもマスクを被り、変身状態を解かないのがポリシーな彼女。その手に握られているのは、録音機能がある魔法の水晶だ。
(これを領主さんに渡せば一件落着、になるんだけども。ボクが渡しに行っても、不審人物扱いだから信じてもらえるか分かんないんだよねー。そうなると、ちょっと策を講じないといけないんだよなー)
実は彼女、キルトたちが来る前から監獄の中に潜み情報収集を行っていた。目的はただ一つ、ダグラス一派が行っている囚人売買の証拠集めだ。
オックス領で悪人退治をしていた彼女は、ある噂を聞きルマリーンにやって来た。その内容は、『終身刑になった囚人が、密かに闇のオークションにかけられている』というものだ。
(んしょ、んしょ。やだなぁもう、胸が大きいから匍匐前進するのも大変だよ。さてさて、この証拠をどうやって領主に渡して信じてもらおうか……いっそ、あの少年に託そうかな?)
天井裏を出ようと、ズリズリ移動するロコモート。キルト経由で水晶をオックスに渡し、告発するアイデアを思い付く。
(まあ、あの少年ならきっとボクの話を聞いてくれるだろうし。共闘出来れば楽なんだけどね……監獄長、ヤバい連中を用心棒にしてるから)
この数日、密かに調査を進めた結果ダグラスたちがとある闇の眷属の一派と繋がりを持っていることが判明した。
よりにもよって、その一派が理術研究院に所属する研究者たちだったというのが問題なのだ。研究に使う『素材』欲しさに、ダグラスと手を組んでいるのである。
(いろいろキナ臭いねぇ、この監獄は。外から見えないからこそ、内で悪がはびこり人が腐敗していく……それを正すのも、正義の味方の役目だもんね! さ、頑張ら……!?)
そんなことを考えながら、狭い天井裏を匍匐前進していたロコモート。その途中、緊急事態が発生した。狭くなっている部分につっかえたのだ。胸と尻が。
(ヤバッ、これじゃ出られないよ! ひえー、調子に乗ってお菓子食べまくるんじゃなかった! 小さくなれー、今すぐ小さくなれボクの胸と尻~!)
一部の恵まれざる者が聞いたら殺意を剥き出しにしそうなことを呟きつつ、必死に脱出しようともがくロコモート。
ルマリーンの街を舞台に、それぞれの思惑がぶつかり合おうとしていた。




