75話─乙女連合VSヘルガ
翌日の朝。フィリールとエヴァが帰還し、結果をキルトに報告する。バルクスに話を通し、協力を得られたとのことだった。
商業ギルドに関しては、直接キルトと話をしたいとのことらしくすぐにOKが出るわけではないようだ。報告を終えた後、エヴァはルビィと連れ立って屋敷を発つ。
「さあて、あの【ピー】犬女はまだ帝都にいるかしらね。アタシ『の』キルトにマーキングするようなクソ【自主規制】にはシツケをしないとねぇ?」
「全くだ。前回は諸事情で滅せられなかったが、今回は奴の息の根を止めてくれるわ」
キルトに宣言した通り、ヘルガに『落とし前』をつけさせるため二人は帝都にやって来た。冒険者ギルドに乗り込み、ヘルガを探す。
「雌犬ぅぅぅぅぅぅぅ!!!! どこに隠れてもムダよ、さっさと出てきなさぁぁぁぁい!!!」
「貴様の逃げ場はないぞ!! おとなしく我らの裁きを受けるがよいわぁぁぁぁぁ!!!」
鬼気迫る勢いで乗り込んできた二人を見て、冒険者や受付嬢たちはぎょっとしてしまう。併設されている酒場を含め探すも、ヘルガの姿はない。
「いないわね、あのアマ……。どこに行ったのかしら」
「おい、そこのお前。ヘルガという冒険者を探している。どこにいるか知らぬか?」
「ひえっ! そ、その……ヘルガさんは今現在、依頼の遂行中でして……。外部の方には、守秘義務の関係でお教え出来ないんですよ……」
どこに行ったか突き止めるべく、受付嬢を問い詰める二人。不幸にも目を付けられた受付嬢は、ギルドの規約を盾にささやかな反抗を試みるが……。
その程度で諦めるほど、エヴァとルビィは物わかりがいいわけもなく。スッと目を細め、二人して相手の前に立つ。
「へえ。ギルドの決まり事と自分の命……どっちを天秤にかけるか即決出来るんだ。立派ねぇ、あんた」
「ひえっ」
「なら仕方ない、お前が話さぬと言うのなら」
「ひえええええ! ごめんなさいごめんなさい、言います! 言いますから命だけは!」
二人に脅され、呆気なく心折れた受付嬢。腰砕けになりながらも、ヘルガがどこに行ったのかを洗いざらい話す。
数日前から、ヘルガはモンスター討伐のため帝都の南東方面にある古代遺跡へ行っているらしい。大がかりな討伐になるようで、あと数日は戻らないだろうとのことだった。
「ふむふむ、なるほど。じゃ、早速行くわよルビィ。ああ、そうそう。脅して悪かったわね、はいこれ」
「な、なんですこれ……って、きききき金貨ぁ!?」
「クレイ撃破の礼にと皇帝から貰った報奨金の一部だ。怖がらせた詫びに譲ろう。もうここに用はない、出発だ!」
すっかり怯えきってしまっている受付嬢に、ギッシリ金貨の入った小袋を渡してからギルドを去るエヴァたち。
ヘルガのいる古代遺跡へ向け、早速ポータルを使って移動する。馬車で往復すると十日近くかかる距離でも、ポータルなら一瞬だ。
「到着っと。へぇ、雰囲気ある所ね。ゴーレムとかキカイ系のモンスターがいそう」
「奴のことだ、サポートカードの補充を兼ねてここを選んだのだろう。愚かな奴め、狭い場所に追い込んでしまえばこちらのものだというのに」
転移した二人の目の前に、大きな遺跡が現れる。あちこちが苔むした、白亜の巨城……だったのだろう建造物だ。
あちこちが崩れており、見栄えはあまりよくない。が、如何にもお宝がありそうな気配がプンプンしている。ついでに、モンスターの気配もたっぷりだ。
「行くぞ、あの雌犬に限ってそんなことはないだろうが……モンスターに倒された可能性もある。さっさと探し出して折檻してやろう」
「ええ、そうね。あのクソ犬は」
「よお。オレに会いに来たのか? ククク、随分とまぁ熱心なファンだな、え?」
いざ乗り込まん、としかその時。とうのヘルガ本人が遺跡から出てきた。サモンマスターの力を解放しているようで、腰にはサモンギアであるベルトが巻かれている。
「あら、そっちから出てくるなんて殊勝な心がけじゃない。それに免じて、ドギツいお仕置きをしてあげるわ」
「キルトにマーキングしおってアバズレめ! 今回こそは鉄槌を下してやる! 覚悟しろ!」
「ククッ、そういう用件かい。いいぜ、ゴーレムどもをブランクカードにブチ込んでやったところでな……昂ぶってんだ、相手してくれよ。キルトみたいに、オレを楽しませろ……!」
「言われなくも楽しいバトルにしてあげるわ。ま、楽しむのはあんたじゃなくてアタシたちだけどね!」
『サモン・エンゲージ』
獰猛な獣のような笑みを浮かべるヘルガに啖呵を切った後、エヴァは契約のカードをスロットインしてサモンマスターブレイカに変身する。
あらかじめコピーコマンドの存在をルビィから聞いているため、ステゴロで飛びかかっていく。素の体術にも自信があるがゆえの行動だ。
「オラッ! その顔をへこませてやるから覚悟しなさいっ!」
「おっと、アブねえあぶねぇ。ほら、どうした? オレに一撃入れるんだろ? やってみろよ、ほらほら」
「そうか、なら遠慮なくブン殴らせてもらおう。竜の拳は痛いぞ、歯を食いしばれ!」
拳を唸らせ、風を切る鋭い連撃を放つエヴァ。が、獣人特有の身のこなしでその全てを華麗に回避しているヘルガ。
そこにルビィが加わり、二人がかりでのリンチが始まる。大人げない行為にも怯まず、文句を言うどころか嬉々としてヘルガは殴り返す。
「ククク、楽しいなぁ! ええ、こうやって殴り合うのはよ! ……グッ!」
「チッ、こんだけ殴ってんのに余裕あん……ぐふっ! やったわね、このっ!」
「全く、これではお互いカードを使う余裕が……ぼふぁっ!」
二対一の殴り合いでも、ヘルガは一歩も引かずひたすら拳を振るう。しまいには、数で勝るエヴァたちに優位に立ちつつある始末。
このまま返り討ちにされたのではプライドに傷が付くため、何としてでも相手をぎゃふんと言わせねばならない。そこで……。
「ルビィ!」
「分かった、任せろ! フンッ!」
「ぐうっ!?」
声のトーンからエヴァの要望を即座に把握し、ルビィが行動に移る。低空タックルをブチかまし、ヘルガを抱えて前進していく。
その間にエヴァは後ろに下がり、デッキホルダーからサポートカードを取り出す。キルトから『コピーコマンドはサポートカードの効果を複製出来ない』と聞いていたからだ。
「こいつでお仕置きしてやるわ! 覚悟しなさい!」
『サポートコマンド』
「フン、来るか? いいぜ、なら……」
「ぐおっ!?」
「オレも使わせてもらうぜ? サポートカードをなぁっ!」
『サポートコマンド』
対するヘルガも、ルビィを後ろにブン投げてからサポートカードを取り出してスロットインする。先に効果を発揮したのは、エヴァの方だ。
緑色の屈強な体躯を持つ単眼の魔物、『サイクロプス』を呼び出した。少し遅れて、ヘルガの隣にくすんだ赤色をした亀型のゴーレム『ガンナドーン』が姿を現す。
「行きなさい、サイクロプス! あのモンスターをぶっ潰せぇぇぇ!!」
「グフォオオオオ!」
「いいぜ、返り討ちにしてやる。ガンナドーン、あの一つ目野郎を撃ち抜いてやりな」
「ギュイ、ガキキキィン!!」
甲羅から伸びる砲身をサイクロプスに向けながら、ガンナドーンは駆動音を響かせる。モンスター同士が激突するなか、当人たちも再びぶつかり合う。
「ぶっ飛ばしてやるぁぁぁぁぁぁ!! この【規制表現】ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「今こそ断罪の時! 怒りの鉄拳を受けるがよいわぁぁぁぁぁ!!!」
「来やがれ。返り討ちだぜぇぇぇぇぇ!!!」
女たちの戦い、その結末は果たして。
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