73話─早期解決、お金の問題
一時間後、昼寝を終えキルトとエヴァが起床した。ルビィが寝かされている客室に向かい、彼女の容態を確かめる。
「ルビィお姉ちゃん、身体は大丈夫?」
「ああ、問題ない。我はエルダードラゴン、あれしきの傷で死にはせん。とはいえ、心配させて済まなかったな、キルト。フィリールとアスカも、手当をしてくれてありがとう」
「なに、礼を言われるようなことはしてないさ。どうしても礼がしたいと言うなら」
「ストップや、フィリールはん。それ以上は大体予想出来るからお口チャックや」
「最後まで言わせてもらえなかった……おっふ❤」
つい一時間前にキルトが負けたというのに、相も変わらずお気楽なやり取りをする仲間たち。そんな彼女たちの姿が、キルトに笑みを浮かばせる。
「もー、フィリールさんはいっつもそうだね。……さってと、僕とルビィお姉ちゃんが元気になったし。一回アジトに戻ろっか」
「ああ、鍛錬をするんだな? バイオンにリベンジするために」
「うん、せっかくトレーニングルームを作ってもらったんだし使わないとね。あと、他にもやんなきゃいけないことあるし」
「ん? 何をするんや?」
「そりゃあもちろん、コーネリアスさんへの代金お支払い作戦の案を練るんだよ」
ルビィやアスカにそう答えた後、キルトは仲間たちを連れて屋敷の地下室へ向かう。今は物置になっている部屋に、アジトに繋がるポータルキーを置く。
そして、対になるキーを使ってポータルを起動させる。そうして、五人は遠く離れたシャポル霊峰へ一瞬で移動した。
「へぇ、便利なもんやな。これからはこうしていつでもアジトに来れるもんなぁ」
「まあね、快適なのに超したことはないわ。で、キルト。どっちの用事から先に済ますの?」
「もちろん、代金お支払い作戦の方だよ。無期限とはいえ、いつまでもほったらかしにするのは人としてダメだからね」
ポータルキーの効果でアジトのリビングへ転移したキルトたちは、早速話し合いを始める。どうやって金を稼ぐか、それが問題だ。
アジトの工事代金は、暗域の通貨単位で総額四千万ジェイナ。メソ=トルキアの金貨換算で一千万枚。デルトア帝国の国家予算二年分に等しい。
「で、キルトは今何かプランがあるの?」
「うん。一つ思い付いたことがあってさ。……やろう、僕たちで商売を!」
「商売、か。だが、売り物はあるのか?」
「勿論だよ、フィリールさん。サモンギアを模したおもちゃを作って、それを売るんだ」
丸テーブルを囲み、話し合う五人。エヴァとフィリールに問われ、キルトは自分の考えている案のプレゼンを始める。
「え? サモンギアの模造品?」
「うん。音が鳴ってピカピカ光って、変身したり武器を呼び出せたりする感じのをね」
「いい案だと思うが……危なくないのか? そこまで機能を盛るのは」
「大丈夫だよ、あくまでおもちゃだからね。鎧と武器は軽くて柔らかい素材にして、召喚出来るのも武器一種類だけにすればいいわけだし」
デルトア帝国では、キルトたちの度重なる活躍によってサモンマスターブームが起きる兆しが見えてきていた。
そこに着目し、サモンマスターなりきりセットを作って売れば大儲け出来るのではないか。キルトはそう考えたのだ。
「ふむ……そうなると、契約のカードと武器カードを一枚ずつ付属させるわけだな」
「そうそう。あくまでおもちゃだから、契約機能を実装しなくて済むのは大きいよ。コストがほとんどかからないから、設備さえ整えれば量産も楽だし」
「いいじゃない、それ。一回テストしてみて、売り上げが好調ならどんどん販路を拡大していけるわ」
「それなら、皇族特権で商業ギルドに掛け合ってみようじゃないか。ミューゼンの空き家を店として使わせてもらえるように頼んでみる」
「ええなあ、なんかワクワクしてくるわぁ」
特に反対する理由もないため、ルビィたちは全員賛成の意を示す。まずは店舗を借り、おもちゃのサモンギアをいくつか作るところから始めることに。
シュルムにもこのことを伝え、宣伝を手伝ってもらおうとキルトは考える。フィリールの方も、皇族のツテを使いあちこちに通すとのことだった。
「こういう時に顔の広さが役に立つわけだな。帝国貴族にはサモンマスターに興味を持つ者も多いと、兄上が言っていてね。上手く話が進めば、協力を得られるかもしれん」
「ありがとう、フィリールさん。ただ、この案が上手く行かないって可能性もあるから……そうなった時に備えて、別の案も考えておかないと」
「ふっふっふっ、それならウチにいい案があるで。ズバリ! メシ屋を経営するんや!」
トントン拍子に話し合いが進むも、失敗した時の備えもしておかなければならない。キルトが追加で別のプランを考えようとした瞬間、アスカが得意気にそう言い出した。
「メシ屋? 食堂の経営なんて……僕出来ないよ? 料理も簡単なのしか作れないし……」
「アタシも肉料理以外てんでダメね。フィリールとルビィは……まあ無理よね、うん」
「料理か……簡単な野営食くらいしか出来ないな」
「料理など期待するな、我はエルダードラゴンぞ?」
そんなアスカに、キルトたちはそれぞれの反応を返す。ルビィ以外は多少料理の心得はあるようだが、エヴァ以外はあまりアテに出来そうにない。
「ふっ、問題あらへん。ウチは大抵の料理なら作れるんやで、こう見えて高校の料理研究部に所属しとったからな。料理コンクールで賞取ったこともあるんやで」
「へぇ、それは凄いじゃない。でも、料理の腕はいいとして材料はどうするのよ? 結構かかるわよ、仕入れるのって」
「そこも問題あらへんで。……ここいらでそろそろ、ウチが異世界転移してきた地球人だからこそ出来ることをやったるわ」
自信満々に無い胸を張るアスカ。テーブルの上に手をかざし、深呼吸を行う。なお、雰囲気作りのためで特に意味はない。
「ほないくで、目ぇかっぴらいて見とき! 全しゅうちゅ」
「アスカちゃん、よく分かんないけどそれはやめた方がいいと思う。第六感が告げてるんだよね、それを最後まで言い切るのはかなりまずいって」
「ん、それもそやな。とりあえずやるで! ていやぁっ!」
何かを口にしようとして、キルトに止められるアスカ。気を取り直して、異世界転移したことで得た『ある能力』を発動する。
テーブルが光り輝き、何かが現れる。キルトたちが見守るなか、出現したのは……醤油と味噌がそれぞれ入った透明な容器だった。
「……アスカちゃん、これなに?」
「これか? こっちの液体が醤油で、こっちの塊が味噌っちゅう日本の調味料や。ウチなー、日本から食材費や調味料を取り寄せる能力持ってるんよ」
「いやちょっと待て、初耳だぞそんなのは!? いつの間にそんな奇天烈な能力に目覚めたんだお前!?」
「アジト完成までの十日、ヒマしてたやろ? ほんでな、異世界転移でお約束のチート能力でも付与されてへんかなー、ってふと思ったんよ。で、キルトたちに隠れていろいろ試してん」
「ああ、たまにふらっと姿を消すことがあるなと思っていたが……そんなことをしてたのか、お前は」
ルビィに突っ込まれたアスカは、得意気にそう答える。元々ライトノベルやネット小説を愛読していたアスカには、一つの考えがあった。
経緯や結果はどうあれ、自分も異世界転移したのだから『チート能力』の一つや二つ持っているのではないか、と。
諸々のやるべきことが終わり、暇を持て余していたのもあって十日間で色々実験をしていたのだ。その結果、『食材取り寄せチート』が使えることが分かったのだという。
「まあ、確かにその能力があれば原価を気にする必要はなくなるね。タダで取り寄せられるんだし」
「せやせや。まだ試しとらへんけど、多分松阪牛とかも取り寄せられるかもしれへん。地球の高級食材をお安い価格で提供すれば……ええ儲けになりまっせ」
「それもそうだね……よし、ならこの二つのプランを同時にやろう。片方が失敗しても、もう片方で取り返せるだろうし。両方ダメだったら……ま、その時はその時で!」
話は纏まり、サモンギアのおもちゃ販売とアスカの料理屋、二つのプランを同時進行していくことに決まった。
善は急げと、フィリールはエヴァのポータルを使って帝都に戻っていった。アスカは能力の実験をするため、厨房へ向かう。
「さて、残った我らは特訓といこうか。あのバイオンめに今度は勝ってやらねばな」
「うん、同じ相手に二度も負けたくないもんね。さ、トレーニング開始だ!」
キルトとルビィは、バイオンへのリベンジを目標に特訓を始める。トレーニングルームに移動し、アクセルコマンドへの対策訓練をするのだ。
新しい目標に向け、それぞれ動き始めるのだった。




