70話─バイオン降臨
ミューゼンの外、北門を抜けて街道をしばらく進んだ場所に広がる草原。そこに、一人の人物が静かに佇んでいた。
「It's about time to come…… I can't help not noticing this much murderous intent.(そろそろ来るか……これだけの殺気を放っているんだ、気付かぬわけがあるまい)」
立っているのは、腰にベルト型のサモンギアを装備したバイオンだった。髪とマフラーを風にたなびかせながら、静かに待っている。
ボルジェイからサモンギアを譲ってもらった彼は、腕試しにやって来たのだ。彼からの依頼もあり、キルトたちのいる場所に来たのである。
もっとも、今は『まだ』キルトたちを殺すつもりはない。敵と自分自身の、サモンマスターとしての力量を把握できてはいないからだ。
「いた、見つけたよ! お前だな、僕たちに向かって殺気を飛ばしてたのは!」
「No way. This is the first time I meet you, Little Summon Master. I am Baion Dius Frauganan. One of the great dark noble(如何にも。お初にお目にかかる、小さきサモンマスターよ。私はバイオン・ディウス・フラウガナン。大いなる闇の貴族の一人だ)」
「んえ……え? なんでこいつ、英語喋っとるん?」
殺気をたどり、バイオンの元に到着したキルトと仲間たち。少年に問われ、バイオンは優雅な仕草でお辞儀しながら答える。
そんな彼の話す言語を聞き、アスカはすっとんきょうな声を出し驚く。バイオンが話しているのは、地球でもっとも使われている言語である英語だったからだ。
「えいご……? アスカちゃんのいた大地だと、そういう呼ばれ方してるんだね、異郷暗黒語って」
「ほへー、ところ変われば呼び方も換わるんやな。なんか不思議やなー」
「……二人とも、今回ばかりは気を緩めてちゃダメよ。あいつはアタシと同じ大魔公……その中でも、もっとも魔戒王の座に近いと言われる実力者。なんでここにいるのか知らないけど、油断したらやられるわよ」
呑気にそんなことを言い合っているキルトとアスカに、エヴァがそう声をかける。その真剣そのものな声色に、二人は即座に表情を引き締めた。
「Oh, isn't that Lord Evangeline over there? It's the first time we've met face-to-face(おや、そこにいるのはエヴァンジェリン公ではないか。こうして直接会うのは初めてだね)」
「ええ、そうね。あんたがここで死ねば、これが最初で最後の顔合わせになるわ」
「Hahaha, funny joke. It's not like you don't know my abilities. oh, leave that alone(ハハハ、面白い冗談だ。貴公とて私の実力を知らぬわけではあるまいて。ま、それは置いておいて、だ)」
相変わらず、主や家族以外の同族には殺意満点な言動をするエヴァ。余裕の笑みを返したバイオンは、懐に手を入れる。
ジャケットの内ポケットから、デッキホルダーを取り出してキルトたちに見せ付ける。彼らが驚くなか、右腰にデッキをセットした。
「それはデッキホルダー!? まさか、貴様も……」
「That's right, I'm a Summon Master just like you guys. Borjay asked me to eliminate you guys, but this time I'm just here to make a deal(そうだ、私も貴公らと同じサモンマスターというわけだ。ボルジェイに貴公らを抹殺するよう依頼を受けたのだが、今回はただの手合わせをしに来たのさ)」
「……キルトかエヴァ、奴の言っていることを通訳してくれ。我とフィリールは奴が何を言っているのか全く分からん」
「ウチも分からへん! 発音が流ちょう過ぎて一つも聞き取れへんかったわ!」
「なんで偉そうにしてんのよ、あんたは……」
異郷暗黒語をマスターしているキルトやエヴァと違い、ルビィたちはバイオンが何を言っているのかさっぱり分かっていなかった。
何故か誇らしげにしているアスカにツッコみつつ、エヴァが解説を行う。その間、キルトはずっとバイオンの持つデッキホルダーを注視していた。
(あのデッキホルダー、今まで戦ったサモンマスターたちが持ってたものとはまるで違う。もの凄い力を感じる……下手すると、今の僕じゃ勝てないかも)
「……というわけで、バイオンはアタシたちと戦いに来たってわけ。分かった?」
「大体把握した。だが、あの男……たった一人だというのに、私たちを前にしてあれだけ堂々としていられるとはな。それだけ、強さに自信があるというわけか」
「ええ、あいつは大魔公の中でも五本の指に入る実力者。それこそ、アタシなんて歯牙にもかけないくらいにね」
キルトが内心そう考えているなか、エヴァとフィリールがそんなことを話していた。対するバイオンは、デッキから一枚のサモンカードを引き抜く。
取り出したのは、黄金の毛並みを持つ灰色の馬が描かれたカード。それをキルトに見せながら、バイオンは高らかに宣言する。
「Kilt Mercion! I challenge you to a duel! Fair and square, in the style of a Summon Master!(キルト・メルシオン! 私は貴公に決闘を申し込む! 正々堂々、サモンマスターの流儀でな!)」
「正々堂々、ね。ボルジェイからの依頼を受けて来たにしては、随分お行儀がいいんだね」
「I don't care about that man. It doesn't matter to me to ask for such a small item. His instincts as a warrior tell him. If I fight you, I will become even stronger(あの男のことは関係ない。あのような小物の依頼など、私にはどうでもいいことだ。戦士としての勘が告げているのだよ。貴公と戦えば、私はさらに強くなれると)」
「キルト、奴はなんと?」
「ボルジェイのことは関係ない、一人の戦士として戦いに来たんだってさ。なら……応えてあげなきゃ男じゃないよね!」
「やれやれ、なら我も力を貸そう。他の者たちは下がっていろ、巻き込まれないようにな」
「ええ、でも気を付けて。バイオンは大昔武勇を誇った伝説の魔戒王、グランザームの一族に名を連ねる男よ。ピンチになったら、すぐ加勢するからね」
「ありがと、エヴァちゃん先輩。それじゃ……行こう、ルビィお姉ちゃん」
「ああ。奴に我とキルトの強さを叩き込んでやろうではないか」
そんな会話を交わした後、キルトとルビィはバイオンの元へ歩いていく。相手から三メートルほど離れた場所に立ち止まり、契約のカードを取り出す。
「偉大なる大魔公、バイオン・ディウス・フラウガナン! あなたの挑戦……この僕、サモンマスタードラクルが受けて立つ!」
「Yes, thank you very much. I can finally try this Summon Gear and the power of 『Basclecia』!(そうか、実にありがたいことだ。ようやく試すことが出来る……このサモンギアと、『バスクレシア』の力を!)」
キルトとバイオンは、互いに契約のカードを相手に見せ合う。バイオンが本契約している馬型のモンスターは、バスクレシアという名前を持っているようだ。
「誰が相手でも負けない! 僕とお姉ちゃんの絆の力を見せてやる!」
「そうとも、その意気だ! エルダードラゴンの力、見せ付けてくれるわ!」
『サモン・エンゲージ』
「Don't hold back. Do your best, Little Warrior and his Partner. Then……Summon Master Ziva, here we come!(遠慮はいらない。全力を出してくれたまえよ、小さき戦士とその相棒よ。では……サモンマスタージーヴァ、参る!)」
『Summon Engage』
啖呵を切った後、両者同時にサモンギアにカードをスロットインする。キルトの身体を炎が、バイオンの身体を白い竜巻が覆う。
そして、キルトは赤い鎧と六枚の翼を持つサモンマスタードラクルに。バイオンは白地に金のラインを持つ鎧を着た、サモンマスタージーヴァに変身した。
「さあ、いざ尋常に勝負だ!」
「Let the battle between you and me begin!(始めよう、私と貴公の戦いを!)」
赤と白、二人のサモンマスターの決闘が始まる。
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