69話─新たな戦いの予兆
「え、父上のご友人から依頼?」
「ああ。以前、お披露目式で会ったオックス侯爵を覚えているかな? 彼からキルトに頼みたいことがあると手紙を貰ってね」
アジトからミューゼンに戻ってきたキルトたち。一息つこうとすると、シュルムが声をかけてきた。どうやら頼み事があるらしい。
「ええ、覚えてます。父上のご学友でしたよね?」
「うむ。実は侯の治めているオックス領で、近ごろ『変な噂』が流れているようでね。なんでも、サモンマスターを名乗る人物が悪党退治をしているとかなんとか」
「え、そんな噂があるんですか! となれば、調べないわけにはいきませんね。というか、よくサモンマスターだと分かりましたね?」
「自分で宣伝して回っているらしい。『自分は悪を裁く正義の味方、サモンマスターロコモート』だとね」
エヴァたちを休ませ、一人リビングでシュルムの話を聞くキルト。サモンマスターが関わる話とあらば、出動しないわけにはいかない。
そのサモンマスターが本当に民を守る正義の味方なのか、それとも口先だけの邪悪な存在なのか。それを確かめねばならないのだ。
「そこで、候はそのサモンマスターロコモートなる人物が危険な存在なのかどうかを君に調べてほしい、と言ってきたんだが……」
「もちろん、受けますよ。もしその人が悪いサモンマスターなら、僕たちで排除します。逆に、本当に正義の味方なら……僕たちのチームに入ってもらうのも、悪くないかもしれません」
加えて言えば、キルトには一つ打算があった。もし正体不明のサモンマスターが味方に引き込めそうな人物なら、ガーディアンズ・オブ・サモナーズ。
通称『GOS』にスカウトしよう、と。いくら何でも、四人でメソ=トルキア全域を守るのは無茶が過ぎる。
早急なメンバー増員が、目下の課題だと言えた。
「そうか、では候に返事を書こう。バードメールを使えば、四日ほどで届くだろうからね」
「分かりました。ところで、オックス侯爵閣下が治めている領地はどこに?」
「彼の領地は、デルトア帝国北西部にある。監獄のある、ルマリーン司法街を含む一帯を丸々治めているんだよ」
「……ルマリーン。確か、ドルトさんが送られたところだね」
シュルムの言葉を聞き、キルトはそう呟く。裁判の後、ドルトはミーシャと共に帝都からルマリーン司法街へと移送された。
執行猶予を与えられた犯罪者たちと、彼らを監視する獄卒官たちが住む法の拠点。そこで一定期間模範的な生活が出来れば、監獄に送られることなく自由の身になれるのだ。
(……なんだろう、左腕の古傷が痛むな。こんな時は、いつも嫌なことが起きるんだよね。これは、ちょっと覚悟しておかないとかも)
監獄の街、ドルト、そして暗躍する謎のサモンマスター。それらがキルトの中で一つの線によって繋がるなか、腕に痛みが走る。
まず間違いなく、何か良くないことが起きる。そんな予感を抱きながら、彼はシュルムに別の話題を振った。
「じゃあ、この依頼を受けるのと引き換えに、ポータルキー設置を認めてもらってもいいでしょうか」
「ああ、構わないよ。元々、あの地下室は誰も使っていなかったからね。君たちが活動しやすくなるよう、好きにしてくれていいよ」
キルトはアジト建設前から、シュルムにある頼み事をしていた。GOSのアジトが完成した後、行き来しやすくなるようポータルを生成するカギを屋敷に置かせてほしい、と。
ポータルキーがあれば、メソ=トルキアの各地に素早く移動出来るようになる。だが、下手を打てば敵対する者に利用されてしまう危険があった。
故に、屋敷にキーを置くのをシュルムが承諾してくれるか不安だったキルトだが……予想に反し、あっさりと承諾してもらえた。
「ありがとうございます、父上。これで僕たちの活動もやりやすくなります」
「でも、あまり無茶はしないでおくれよ。……ああ、そうだ。近々、北の国境から妻が帰ってくる。国境警備の任務がようやく終わると、手紙が届いたんだ」
「えっ、そうなんですか? ……そういえば、父上の奥さんのこと何も聞いてませんでした、僕」
「いろいろあったからね、私もすっかり話すタイミングを見失ってしまって……っと、これから領内の視察に行かないと。詳しい話は帰ってからしよう、じゃあ行ってくるよキルト」
「はい、いってらっしゃい!」
気になることを言い残し、シュルムは支度を調えて屋敷を出発した。メレジアに詳しいことを聞こうと思い立ったキルトだが、生憎彼女も朝から出掛けてしまっている。
学友の貴族令嬢たちと一緒に、音楽鑑賞会に行っているのだ。仕方なく、キルトは自室に戻る。
「みんな、ただいまー」
「お、お帰りキルト。どや、話は纏まったんか?」
「うん。頼み事を聞いてくれたら、ポータルキーを地下室に置いていいよって言われたよ。これから、また忙しくなるからみんな覚悟しててね」
「ほう、腕が鳴るな。で、シュルム公はなんと?」
部屋に戻ると、ルビィたちがババ抜きをして遊んでいた。キルトを混ぜるべく、一旦ゲームを終えてトランプをエヴァが集める。
そんななか、アスカに問われキルトは結論を先に話す。依頼をされたと聞き、早くもフィリールがやる気を見せていた。
「うん、父上のご学友のオックス侯爵さんの領地で、自称サモンマスターの不審人物が活動してるんだって。危険な人物かどうかを、確かめてほしいんだってさ」
「ほう、また新しいのが出たのか。そろそろ、敵対しないで済むまともな者に会いたいものだが」
「ホントよねー、たまには平和的に事件がかいけ……なによ、そんなに驚いて」
「いや、エヴァちゃんパイセンがんなこと言い出すとは思わへんでな。ギッタンギッタンにのしたる! くらい言い出すかと思ってたわ」
珍しく平和主義者染みたことを言い出すエヴァに、キルトたちは目を丸くしてしまう。アスカの言葉を聞き、エヴァは鼻を鳴らす。
「なによ、アタシだってたまには穏便に事が終わるのを祈ることくらいあるわよ。それに……別のターゲットがいるしね、今」
「別の? 誰なの?」
「決まってるでしょ、キルト。ルビィから聞いたわ……あんたにマーキングしやがった、クソ【ピー】な【ピー】犬野郎がいるって。そいつにね、お礼参りする予定なの。うふ、うふふふふ」
「うむ。あやつには一度、自分のやらかした罪を自覚させて反省してもらわねばならん。ということで、明日と明後日は我とエヴァは留守にするぞ」
「そ、そう……いってらっしゃい」
キルトはもう気にしていなかった……というより、恥ずかしすぎて記憶から抹消していたマーキング事件。それを、ルビィはまだ根に持っているらしい。
エヴァを巻き込み、ヘルガに対して身の毛もよだつようなお礼参りを敢行する計画を立てているようだ。
「ほう、その話詳しく聞かせてくれないか? よく分からんが、Mの血が騒いでくるんだ」
「やめろ、お前が首を突っ込むと事態がややこしくなる。我とエヴァがいない間、キルトのお守りをしていろ」
「仲間はずれにされた……キッツ❤」
「もう様式美だね、このやり取り……」
漫才のような会話をする仲間たちを見て、苦笑いをするキルト。直後、街の外から強烈な殺気を感じ、全員一斉にその方向を向く。
「キルト、今のは……!」
「うん、間違いない。感じたよ、突き刺すような鋭い殺気を……みんな、出撃するよ!」
「ええ!」
「ああ、任せろ!」
「ウチもやったるで!」
四人同時にサモンギアを起動させ、エヴァの開いたポータルを使い殺気の主の元へ向かう。そこにいるのは、果たして何者なのか……。




