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68話─撒かれていく『種』

 キルトたちがアジトを案内してもらっている頃。帝都シェンメックの二等地にある酒場に、一人の男の姿があった。


 ドルト裁判にて、検察官として登壇していた初老の男……ロージェ・バランモンだ。朝っぱらからヤケ酒をあおり、ブツブツ文句を言っている。


「クソッ、あの小僧どもめ……! あいつらのせいで冒険者ギルドとの専属契約を解除され、完全に干されてしまった……犯罪者擁護のクズのせいで……!」


 ドルト裁判での数々の失言、そしてルビィとエヴァに凄まれ失禁からの失神という無様な姿を見せたロージェがどうなったか。


 端的に言えば、まず冒険者ギルドから専属顧問契約を打ち切られた。皇族であるフィリールに対する不敬な発言や、キルトに対する侮辱等が問題視された結果だ。


 続いて、司法ギルドから今後三年間の活動制限を言い渡された。デルトア帝国ではほぼ活動が出来ず、かといって他国に移ってもまともな仕事は来ない。


「クソッ、クソッ! 元はと言えば、あの極悪人のエルフのせいだ……あいつさえいなければ! 私がこんな屈辱を味わうことなどなかったのに!」


 酒場の隅っこで、お門違いの怒りをドルトに叩き付けるロージェ。幸い、おつまみ程度しか食事の出ない酒場に朝っぱらから来る者はいない。


 渋面を浮かべているバーテン以外、他に誰もいないため好き放題愚痴を喚くことが出来た。……突如、何者かに声をかけられるまでは。


「失礼する、ご老人。どうなされたのかな? こんな時間からこんなに酒を飲んで」


「!? な、なんだね君は。いつの間に私の前に出てきたのだ!?」


「そんなことはどうでもよかろうよ。マスター、ウイスキーを一杯頼もうか」


「は、はあ……かしこまりました」


 突然声をかけられたロージェが前を見ると、いつの間にかテーブルを挟んだ向かいの席に髑髏の仮面を身に着けた人物が座っていた。


 その人物……タナトスは狼狽えるロージェを気にすることなく、バーテンにそう声をかける。グラスに注がれたウイスキーが、彼らの元に運ばれる。


「さあ、飲むがいい。私とご老人の出会いを祝して、記念に一杯奢ろうじゃないか」


「そ、そうかね。では、ありがたく……」


 バーテンから直接グラスを受け取り、ロージェに渡すタナトス。この時、自身の魔力を酒に混ぜてより強く酩酊するようにしていたのだが……。


 とっくにベロンベロンに出来上がっているロージェが気付けるわけもなく、受け取ったウイスキーに口を付けてしまった。


「んぐっ、んぐっ……ふう! 朝っぱらから飲む酒は実に美味い!」


「それはよかった。時にご老人、先ほどの呟きが聞こえたが……何か悩みでもあるのかな? よければ私が聞こうじゃないか」


「おお、そうかそうか。悪いな、こんなジジイの愚痴に付き合わせてしまうとは」


 そう言いつつ、ロージェはペラペラと先日の裁判についてタナトスに聞かせる。話を聞きながら、死神は認識阻害の魔法を使い、酒場を覆う。


 これでもう、バーテンは二人がどんな会話をしているのか認識することが出来ない。これから切り出す『話題』を、部外者に聞かれては困るのだ。


「……なるほど、そのようなことがあったのか」


「そうだ、あいつらのせいで……ひっく! あるべき正義が歪ましゃれたにょだ! あんな薄汚いエルフを庇うにゃど……ウィッ! 許されることではない!」


 タナトスの魔力を含んだウイスキーを飲み、完全に酔っ払ったロージェ。もはやろれつも回らなくなり、前後不覚に陥りつつあった。


 そんな彼の愚痴を聞いていたタナトスは、頃合いを見計らって本題を切り出す。ドルトを抹殺し、キルトたちを打ち倒し……真の正義を体現してみないかと。


「なにゃ? そんなことが可能なのきゃね?」


「ああ、出来るとも。このデッキホルダーとサモンギアの力があれば、ね」


「ほお、これは……」


 そう言って、タナトスは懐から羽根を広げたコウモリの姿をしたエンブレムが刻まれた、グレーに近い黒色のデッキホルダーを取り出す。


 続いて、机の上に黒いベルト型のサモンギアを出現させる。それを見たロージェは、興味深そうにしげしげと眺めていた。


「このデッキには、コウモリ型のモンスター『ナイトヴィランテ』が封印されている。本契約することで、ご老人は『サモンマスタージャスティス』に変身出来るようになるのだ」


「つまり……私が直接、あの罪人に裁きを下せるということか?」


「そうだ。この世には、許せぬ悪がはびこっているのだろう? 法の力だけでは、裁けぬ者たちもいる。そうした者たちを、ご老人の手で滅するのが真の正義……違うか?」


 悪魔のような誘惑に、ロージェはすっかり呑まれてしまう。机に置かれたデッキホルダーを手に取り、大きく頷く。


「……うむ、そうだ。私の手で悪を滅し、歪みを正さにぇばならない! やるぞ、やってやるぞ! この力を使って、正義を行うのだ!」


(……フッ、相変わらず大地の民は簡単に踊ってくれるな。ケルベスやフォールン、こやつといい……少しおだてるだけで、すぐにこちらの望む方向に思考を傾けてくれる)


 甘い言葉をかけただけで、すぐにその気になるロージェを見てタナトスは仮面の奥で笑みを作る。すっかり乗り気なロージェを残し、席を立つ。


(これでまた、新たなサモンマスターが生まれる。キルトたちと接触していない者たちは、これで『八人』に増えた。いつ彼らと出会うか……今から楽しみだ)


 キルトらがクレイと戦っている間、タナトスはメソ=トルキア各地を回りサモンマスターに相応しい人物を選んできた。


 これまでは、対キルトの観点からデルトア帝国内で主に選定を行っていた。しかし、今回からは違う。メソ=トルキア侵攻のための手駒を増やすため、各国で種を撒いたのだ。


「さて、次は北か南か……シャポル霊峰を超えて東に行くのも悪くない。気の向くまま、風の吹くまま……実に愉快だ、サモンマスターを生み出す旅は」


 認識阻害の魔法で誰の目にも映らない死神は、鼻歌を歌いながら路地裏に姿を消した。タナトスの旅は、当分終わることはなさそうだ。



◇─────────────────────◇



「……というわけで、お前たちに新人の教育を頼みたい。やれるな? 新警備部隊長、ティバ。補佐官ネヴァル」


「はい、オレにお任せください! で、その新人はどこに?」


「第七牢棟にいる。ゾルグという大柄な男だ、元キルトの仲間だと言っていたな。そいつと協力して、今度こそキルトを殺せ。いいな?」


「ハッ、お任せを!」


「頼んだぞ、俺はこれからコーネリアス王との会食がある。夜まで戻れん、問題は起こすなよ?」


 その頃、理術研究院ではティバとネヴァルが呼び出しを受けていた。クレイを見捨てて逃げてきたことを咎められると覚悟していたが、用件は別のものだった。


 二人に与えられた使命は、かつてのキルトの仲間の一人……ゾルグを新たな警備部隊員として育て上げることだった。


「ああ、そうそう。そのゾルグには、サモンギア・第二世代機(セカンド)の最高傑作の片割れ……オーヴァギアを与える予定だ。相応しい戦士になるよう鍛え上げろ」


「うふふ、お任せくださいなァ。あたしとティバの二人で、みっちりと教育しますわァ」


「……少しテンションを抑えろ、ネヴァル。そのトーンだとイカガワシイ内容にしか聞こえないぞ」


「まっ! 失礼ね~、そんなことしないわヨ!」


 ぎゃあぎゃあ言い争いを始める二人を尻目に、ボルジェイは院長室を出て行く。バイオンなぞ比較にもならない大物との会食に、緊張していた。


「……コーネリアス王、か。今回の会食で認めさせてやるぞ……サモンギアの力、そして俺の能力をな」


 そう呟き、意気揚々と出発していくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 嫌だね〜身の丈を考えもしない輩は(ʘᗩʘ’) 歴史と伝統もあるコウモリをこんな老害が使うとは(◡ω◡) 大分サモンマスターの数も増えて全員がやりたい放題やってるサモンマスター戦国時代の始ま…
[一言] コウモリか……まあ、『彼』と違って戦友にもライバルにも強敵にもならなさそうだわ
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