67話─秘密のアジト誕生!
過去世界での冒険から、十日が経過した。コーネリアスに言われた通り、キルトたちはシャポル霊峰へと向かう。
果たして、彼の宣言した通りアジトは完成しているのか。その答えを知るべく、朝もやが煙る霊峰へ足を踏み入れる。すると……。
「うわ……なにこれ、思ってたより凄いことになってる……!?」
「基地というより、山一つ丸々使った要塞だな。本当に十日でこんなモノを造るとは……」
何故か山頂付近にポータルを開けなかったため、麓にやって来たキルトたち。彼らが見たのは、凄まじいビフォーアフターを遂げた山脈だった。
麓から見上げられる範囲だけでも、岸壁の大部分が要塞の城壁に覆われている。唖然としている彼らの目の前に、扉が現れる。
「ほっほっほっ、驚いたかの? どうじゃ、わしの資金と人脈をフル活用して作り上げた要塞山脈は!」
「すっごいけど……これ、大丈夫なん? 中抜きとかめっちゃされてそうで不安なんやけ……あいたっ!」
「あんたね、コーネリアス様がんなケチなことするわけないでしょ!」
「まあまあ、そう怒るでないエヴァンジェリン。ちょうどいい、アジトを案内してやろう。着いてくるがよいぞ」
失礼なことを言うアスカの頭をひっぱたくエヴァを宥めつつ、扉の中にキルトたちを招く。彼に連れられて扉をくぐると、その先にはおしゃれなリビングがあった。
「おお、これは凄いな。なんと豪華な内装だ」
「わしの某部下のリクエストで、お洒落なバー風にしてみたぞよ。見てみい、このカウンター席を。雰囲気あるじゃろ?」
「ほう、これはいい。シャンデリアもいい味を出しておるわ」
広いリビングは、紫を基調としたシックな内装が施されている。大勢でくつろげる談話スペース、酒やおつまみを楽しめるバーカウンター付きだ。
フィリールやルビィも、これには満足しているようだ。一通り室内を見た後、一行はリビングの奥にある扉へと歩いて行く。
「ここから廊下に出て、アジトの内部に行けるぞよ。ここを出てすぐ右に曲がると、山頂のテラスに行く魔法陣のある小部屋に行けるぞい」
「ほう、それはいい。いつでもあの景色を見に行けるのは助かる」
「そうだね、お姉ちゃん。ところで、僕たちが頼んだ部屋は……」
「まあ待て、そう焦るでない。順番に案内するから少し待てい」
廊下に出た後、コーネリアスは急かしてくるキルトにそう答える。廊下の両脇には、ずらりと扉が並んでいた。
リビングに近い四つのとびらには、キルトたち四人のサモンマスター……ドラクル、ブレイカ、プライド、ミスティのサモンエンブレムが刻まれている。
「この四つの部屋は、おぬしらの私室になっておる。アジトなのじゃから、くつろげる場所がいるじゃろ?」
「あら、ありがたいですコーネリアス様。あれ? それだと奥の扉は……」
「ガーディアンズ・オブ・サモナーズといったか。おぬしらの組織も、たった四人で活動するわけではあるまい? まだ見ぬ新入りたちの私室も、ちゃーんと用意してやったわ。感謝するがよいぞ」
エヴァの問いに、コーネリアスは胸を張りながら答える。ちなみに、この廊下は必要に応じて伸びていき、入居者が増えると新たな私室が増設されるとのことだった。
「ほえー、隅々まで行き届いとるんやな。ありがたいこっちゃで」
「ふふん、そうじゃろう? では、続いて遊戯室に案内しようかの」
そう言うと、コーネリアスは懐から大小様々な大きさと色の鍵がぶら下げられた鍵束を取り出す。そのうちの一つ、赤い小さな鍵を今さっき出てきた扉の鍵穴に差す。
「え? なんでその扉に? リビングに戻っちゃうよ?」
「問題ないぞよ、この基地はアルソブラ城と同じ空間魔法を用いて建設したのでな。用いる鍵によって、行ける場所が変わるのじゃ」
「へー、そうなんだ。覚えるの大変そう……」
「後で説明書とマスターキーを渡すでな、よく覚えるがよい。おぬしが家主になるんじゃからな、家主が迷子では赤っ恥じゃぞ?」
そんな会話をしつつ、鍵を捻って扉が繋がる先を変えるコーネリアス。カチリと音がした後、ゆっくりと扉が開く。
扉の向こうには、陽気な音楽が流れる遊戯室があった。ビリヤード台やスロットマシーン、ダーツに小さなテニスコート等が備えられている。
「おー、こらええな! 暇な時にいつでも遊べるで!」
「暗域にある様々な娯楽を用意したでな、後で好きなだけ遊ぶがよいぞ。さ、まだ部屋はあるゆえどんどん紹介していくぞよ!」
そこからは、アジトに備えられた各部屋の紹介ショーが繰り広げられる。キルト要望のトレーニングルームや研究室、フィリールが希望した酒蔵、アスカの依頼した厨房。
さらには巨大図書室に、プラネタリウム、広大な温泉等魅力的な部屋が多数あった。ここまで来ると、工賃が気になるところだが……。
「なに? 工賃はいくらかじゃと? そうじゃのう、まけにまけて……四千万ジェイナといったとこかの」
「げ」
「これ、なんじゃエヴァンジェリン。これがわしから出来る最大の譲歩なのじゃぞ、本来はこの十倍以上の料金を……」
「あの、その四千万ジェイナって……メソ=トルキアお金に換算するといくらに……?」
「そうじゃの、この大地の通貨換算で……しめて金貨一千万枚になるのう」
リビングに戻り、恐る恐る問いかけるキルト。それにに対し、懐から取り出したソロバンをパチパチ弾いて計算を始めるコーネリアス。少しして、とんでもない答えが返ってくる。
「そ、そんなに多いのか!? 帝国の国家予算二年分に等しいぞ、その枚数は!」
「あ、アカンでこれ……一生かかっても払い切れへんやんけ……」
「なぁに、わしも鬼ではない。そなたらだからこそ、特別に! 支払い期限は無し、利子利息も無しじゃ。少額でいいから、纏まった金が出来た時にちょこちょこ払ってくれればいいわい」
アスカの脳内に、やたら顎が尖った青年が地下施設で強制労働させられる映像が浮かぶ。支払い不能として、どこぞに売り払われる想像をしたようだ。
そんな彼女に、コーネリアスは笑いながらそう答える。これが普通の金貸しなら、すぐに全員借金のカタに売られていただろう。
「しかし、それでも金貨一千万枚か……流石にシュルム殿に全額払ってもらうわけにもいくまい。どうする、キルト」
「……なら、僕たちのやることは一つだね。やろう、商売! 自分たちでお金を稼いで、工事費を全額お支払いするんだ!」
ルビィに問われ、キルトはそう答える。いくらシュルムでも、国家予算に等しい金額をポンと出せるわけがないし、全額出資払ってもらうのはキルトの良心が許さない。
そこで、自分たちで商売を行いお金を稼ぐことを決めた。幸い、支払いの期限はない。時間がかかってでも、自分の力で払い切る。そう決心したのだ。
「ほう、それは良い心がけじゃな。では、わしはそろそろ失礼しようかの。これからボルジェイめと会食せねばならんのでな……ほれ、マスターキーを渡しておく。失くすでないぞ」
「うげ、あいつと会食かぁ……ご愁傷様、頑張って」
「これも王の辛いところよの。嫌いな相手でも、表面上は仲良くせねばならぬのじゃからな……はあ、めんどい」
鍵束をキルトに渡した後、コーネリアスは魔法で扉を作り自分の城へと帰っていった。彼と別れた後、せっかくだからとキルトたちはテラスに向かう。
「おー、ええ眺めやな! 今日も一日がんばろって気力が湧いてくるで!」
「かつて我の住み処だった洞窟が、レストルーム付きの立派な展望テラスに早変わりか。うむ、感無量だな」
殺風景な洞窟と断崖は、雄大な自然を眺めるための巨大な展望台に変身していた。かつての住み処のえらい変わりように、ルビィは感動している。
「さー、せっかくだしアジト完成を祝ってパーティーしましょ。一旦ミューゼンに戻って、料理とか飲み物調達してくるから」
「ほう、いいな。そうしよう、まずは祝杯をあげるべきだ。そうだろう、キルト」
「そうだね、工賃支払いのことは後で考えるとして……今はエヴァちゃん先輩やフィリールさんの言う通り、ぱーっと楽しもう!」
やるべきことは多いが、まずはアジト完成を祝うのが先。キルトたちは広いクリアガラスの向こうに広がる景色を見ながら、ささやかな宴を行う。
……今この瞬間、タナトスの手で複数のサモンマスターが誕生していることなど知ることもなく。




