66話─未来への帰還
「ただいま~。いやー、過去の世界は楽しかったね」
「そうね、トラア湖守るのに使ったサポートカードの補充も出来たし。また行きたいわねー」
「ウチはもうごめんやわ……頭ぐるぐるして気持ち悪くなるねん、あの渦」
過去の世界の散策を終え、現代へと帰還したキルトたち。そんな彼らを、コーネリアスとマリアベルが出迎える。
「よくやってくれたのう、これでフィルは救われた。依頼をこなしてくれた礼をしたい、何でも言うてみるがよいぞ」
「うーん……あ、じゃあ一つお願いしたいことが……」
コーネリアスにそう言われ、キルトはある頼み事をする。それは、ガーディアンズ・オブ・サモナーズのアジトの建設の手助けだった。
必要な資材の調達、基地の建築……それらを格安でやってもらえないかをコーネリアスに尋ねる。タダで、と言わないのがキルトらしいとルビィが笑う。
「ふむ、それくらいならお安いご用ぞ。わしの配下の大魔公や星の騎士団を動員すれば、十日で終わらせられるわい」
「本当か? あんな人跡未踏の山で、そんな速く工事を終えられるとは思えないが……」
「ほーん、疑うのかえ? よかろ、ならばわしの本気を見せてくれるわ。すぐに案内せい、下見しつつそなたらの要望を聞いて設計図を書くからの」
懐疑的なフィリールの言葉に、ムッときたコーネリアスはやる気を見せる。マリアベルに留守を任せ、キルトたちと共にシャポル霊峰へ向かう。
「ほお、確かにこれは中々に骨が折れそうじゃの。とはいえ、このくらいなら屁でもない。おぬしら、アジトを作るにあたってこんな部屋がほしい、とかの要望はあるかえ?」
「あ、じゃあトレーニングルームと工作室が欲しいかな。サモンギアの改良をするための部屋があると便利だし」
「ふむ、私はバーや酒蔵が欲しいところだ。酒は飲むだけでなく、緊急時の消毒にも使えるしな」
「ウチはデッカい厨房が欲しいわぁ。キルトたちにラーメン作ってあげたいねん」
「これこれ、そんなに一度に言うでない。順に言え、順に」
コーネリアスは空中に線を描き、設計図を書きはじめる。キルトたちの要望をメモしつつ、ある程度まで形にしていく。
次第に陽が落ち、夜の闇が濃くなってきたため一度解散することに。十日後、またここに来いと言い残してコーネリアスは帰っていった。
「結果は十日後、か。なら、それまではミューゼンでのんびりしよう。……ところで、やけに大人しかったなエヴァ。珍しいではないか」
「当たり前でしょルビィ……自分の君主に厚かましくあれこれリクエスト出来るわけないじゃない。ま、キルトにアタシのリクエストを念話で伝えて、間接的に言ってもらってたから問題ないけど」
「ふうん。お前がそこまで畏れ敬うとは、かなりの傑物のようだな」
「そんなレベルじゃ済まないわよ、あの方は。なんてったって、文字通り世界を終焉から救った英雄だもの。キルトは知ってるわよね?」
ポータルを使い、シャポル霊峰からミューゼンに戻るキルトたち。シュルムの屋敷に戻る道すがら、そんな会話を行う。
話を振られたキルトは、頷きながら学園時代のことを思い出す。歴史の授業で習った、現代暗域史の三大事変についての記憶を手繰り寄せる。
「うん、現代暗域史の三大事変の一つだよね。あの『フィニス戦役』は」
「そうよ、よく覚えてるじゃない。興味があるんなら、ルビィたちにも教えてあげるけど?」
「なら、せっかくの機会だから聞いておこうか。勉学も騎士に必要なことだからな」
「うえー、ウチおベンキョ苦手なんやけどな……」
そんな会話をしながら、キルトたちは大通りを歩いていく。そんななか、ミューゼンやシェンメックから遠く離れた、とある町の路地裏にて……。
「はあ、はあ……クソッ、なんでこんなことに。サモンマスターってのは、キルトとかいう小僧とその仲間しかいねえんじゃなかったのか!? ボルジェイの野郎、嘘つきやがって!」
「愚痴ってる場合か、早く逃げ……ぐあっ!」
薄暗い路地裏を、二人の闇の眷属が走っている。彼らは、ボルジェイに雇われメソ=トルキアの侵略準備を行っている工作員。
そんな彼らの元に、背後から何かが飛来する。後頭部に直撃し、二人を転倒させる。片方は衝撃で気絶するも、もう片方は意識を保っていた。
「ぐあっ! クソッ、もう追い付いてきやがったのかよ……!」
「ふっ、ボクから逃げられるとでも思っていたのかい? 残念だったね、このサモンマスターロコモートの目が黒いうちは悪が栄えることはないのさ!」
闇の眷属たちを転ばせた物体……くの字の形をした銀色のブーメランが、後方へと戻っていく。それをキャッチしながら、一人の女性が闇の中から現れた。
大きく前が開いたスカートを持つ、銀とピンク色に彩られたドレスアーマーと目と口を露出したマスクを身に着けた女は、凛とした声でそう話す。
マスクの額部分には、横向きになったバイクのエンブレムが描かれている。それを見上げながら、闇の眷属の男は何とか立ち上がろうと足掻く。
「クソッ、クソッ! 何なんだよお前、この町ならキルトとかいうガキの目が届かねえから安心して活動してたのに!」
「何度も言っているだろ? ボクは通りすがりの正義の味方、サモンマスターロコモートだって。君たちの悪巧みを阻止するのが目的さ」
「舐めたこと言いやがって……死ね! ダークネスフレア!」
何とか起き上がった男は、サモンマスターロコモートと名乗る女に向かって闇の炎を浴びせる。灼熱の業火に焼かれ、灰になったかと思われたが……。
「へっ、ざまぁみろ。正義の味方なんか気取るからこうな」
『リフレクトコマンド』
「えっ!? うぎゃああああ!!」
「ふっふっふっ、甘いね。ボクの『ヒロイックディフェンダー』を貫きたいなら、もっと温度を上げたまえよ」
炎が届く寸前、女は鎧の腰部分に装備したベルトのバックルから、一枚のカードを取り出す。右肘に装着されているサポーター型のサモンギアにカードを挿入し、その力を解き放った。
女の左腕にタイヤを模した円形のシールドが装着され、炎を吸い込んでいく。全て吸い込み終わった後、男に向かって炎が噴射される。
「う、がふっ……」
「安心しなよ、死なない程度に威力は抑えておいたからさ。君たちを無力化して、帝国兵に突き出さないといけないからね」
「ふざけんな……! てめぇみたいなワケの分からない奴に、黙ってやられるかよ!」
「あれ? まだ立てるんだ。耐久力があるってのも、結構難儀なものだね。今ので気絶してればよかったのに」
自分の攻撃を跳ね返され、倒れ伏す闇の眷属の男。が、よせばいいものを気合いと根性で立ち上がってくる。それだけ、プライドが傷付いたらしい。
そんな相手を見ながら、女はベルトのバックル部分に装填されたデッキホルダーに左手を伸ばす。横向きのバイクを描いたエンブレムが刻まれた、銀色のソレから三枚のサモンカードを抜き出した。
「じゃあ、これで大人しくなってもらおっかな。ボクさぁ、アルティメットコマンドのカードが三枚あるんだけど……どれを食らいたい?」
「……は?」
「十秒あげるよ。好きなのを選んでね」
カードの裏面を相手に見せながら、女はとんでもないことを言い出す。アルティメットコマンドのカードは、一人につき一枚。
そうボルジェイから聞いていた男は、完全に思考が止まってしまう。カウントダウンが進むなか、我に返り慌てて逃げ出す。
「きゅーう、はーち、なーな……あれ、逃げるの?」
「じょ、冗談じゃねえ! こんな奴と戦ってられるか! 俺だけでも逃げ延びてやる!」
「そう。じゃ、こっちで選んじゃうから。今日は……コレだ!」
『アルティメットコマンド』
男が逃げ出すのを見て、女は自分から見て左端にあるカードを選ぶ。残りの二枚を消し、選んだ一枚を右肘にあるサモンギアに挿入する。
選んだのは、タイヤに拘束される黒塗りの人物が描かれたカード。音声が鳴り響くと共に、彼女の目の前に銀色のバイクが現れた。
「モートロン、ゴー!」
「へえへえ、ったくバイク使いが荒いご主人なこった! 食らいな、ホイールバインド!」
「ぐえっ! な、なんだこりゃ! タイヤ!? タイヤに嵌められてるのか俺!?」
モートロンと呼ばれたバイクは、愚痴を漏らしつつ前輪を外して前方にシュートする。男はタイヤにすっぽり嵌まり、動けなくなってしまう。
「ようし、これで準備オッケー! いくよ! ホイールエンドシューター!」
「あらよっと! とーんでけー!」
前輪を挟んでいた支柱が腕に変わり、バイクの魔物は手を地面に突き逆立ち状態になる。天高く持ち上げられた後輪がフル回転するなか、女はそこにジャンプする。
身体を丸め、くるんと一回転しつつ後輪と接触し、加速しながら男目掛けて突撃する。空中で跳び蹴りの体勢になり、必殺の一撃を見舞う。
「てやぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐあっはぁぁぁぁ!!」
蹴りの直撃を食らい、今度こそ闇の眷属は撃沈し気絶した。華麗に着地した女……サモンマスターロコモートはニヤリと笑う。
「うん、今日も絶好調! いつの時代も、正義はかーつ! わっはっはっはっはっ!」
「やれやれ、本当にやかましいご主人だこって」
腕を組み、天を見上げながらバカ笑いする主を見ながら、そう呟くバイク型のミミック『モートロン』。キルトたちの知らないところで、サモンマスターの活躍が始まっていた。




