62話─言い渡された判決
「では、判決を言い渡す。被告人、ドルト・ラジャガにはルマリーン監獄にて奉仕労働三年、執行猶予四年の刑を科す」
裁判官や陪審員たちの協議の結果、ドルトに沙汰が下った。今後四年、彼は司法院の監視下に置かれることになる。
その期間、問題を起こさなければ奉仕労働を免除され、社会復帰が可能となる。が、何か問題を起こせば即座に監獄行き、強制労働が待っている。
「被告人が犯行に及んだ状況等を鑑みた結果、更生の余地有りかつ十分に情状を酌量すべきであると結論付けた。被告人、異議は?」
「俺は……ないです。想像より、ずっと軽い刑罰で……本当にそれだけでいいのか、困惑しています」
「次、検察官ロージェ。汝は異議有りか? それとも無しか?」
「当然、異議有りだ! 冒険者ギルド付きの検察官として控訴させてもらうぞ、こんなふざけた結果は認められん! 断じてな!」
裁判官と陪審員たちが出した結論に、ドルトは戸惑いロージェは憤っていた。徹底的に戦う姿勢を見せる検察官を尻目に、裁判長は続いてキルトたちに問う。
「では、最後に弁護人にして被害者の二名に問う。汝らは、我々の判決に異議を申し立てるか?」
「いいえ、僕たちに異議はありません。ドルトさんは理術研究院にいいように使われていた、ある意味で被害者なんですから。彼を罰するよりも、救ってあげたいと考えています」
「フン、いい子ぶりおって! そもそも、貴様の言うその理術研究院とやらは実在しているのか? 本当は全部、貴様が仕組んだことなんじゃあないのか!」
キルトの言葉を受け、ロージェの矛先がそちらに向いた。だが、それが良くなかった。何の根拠もない悪意をキルトにぶつけたらどうなるか。
そのことを、ロージェは身を持って思い知ることになる。今、この瞬間に。
「そもそも、最初から怪しいと思っていたんだ! 被害者がわざわざ、自分を害した者の弁護を買って出るなど! 全部自作自演で、貴様らがグルに」
「黙って聞いていれば……貴様、我が魂の伴侶の名誉を穢してタダで済むと思っているのか?」
「もうそろそろ限界なのよね、アタシ。さっきからずっと、ギャアギャアうるさいのよ……殺すわよ、あんた」
傍聴席にいたルビィとエヴァが、ついにブチ切れたのだ。大きくはないが、ハッキリと通る声でそう口にする。
ざわついていた聴衆がシンと静まり返り、静寂が訪れる。凄まじい殺気を叩き付けられ、ロージェは腰を抜かしてへたり込み、失禁してしまう。
「ヒッ、ヒィィ!」
「フン、身から出た錆だな。キルトを大切に想っている二人を怒らせたら、こうなることは必定だろうに。勿論、私も怒っているがな……!」
「フィリールさん、こわーい……」
ルビィやエヴァが怒るのはもう慣れっこなキルトだが、フィリールが本気の怒りを見せたのを見て冷や汗を流す。
彼女もまた、大切な仲間であるキルトを侮辱されて怒っているのだ。無様を晒したロージェは、警備員に抱えられて退場させられる。
その後、裁判は閉廷となり判決が確定した。ドルトは司法院に併設されている牢屋に戻され、改めてキルトたちと面会を行う。
「……ありがとう、俺の弁護をしてくれて。そして、済まない。そのせいで、君が心無い罵声を浴びることになってしまった」
「いいんですよ、ドルトさん。僕の代わりに、ルビィお姉ちゃんたちがメッてしてくれたし」
「冒険者ギルドも、あやつは解雇するだろう。あれだけの問題発言をやったんだ、もうこの国での仕事は受けられまい。他国に移るか廃業か……なんにせよ、奴の自業自得だ」
ルビィとエヴァはフラストレーション発散のため街の外で取っ組み合い、アスカはミーシャのお守りをしている。
そのため、面会しているのはキルトとフィリールの二人だけ。多少問題はあったが、ようやくこれでドルトの処遇も決まり肩の荷が降りた。
「ああ、そうだ。キルト、一つ頼みがあるんだ。レールタイバーとの契約解消の件なんだが……あれ、無しにしてもらえないか?」
「え? どうして?」
「一晩考えたんだ。俺は、キルトに恩返しをしなくちゃいけない。だが、俺に出来ることは戦いだけ……だから、罪を償い終えたら……今度は、君の仲間として。サモンマスターの力を使い、恩を返したいんだ」
鉄格子越しに、ドルトはそう伝える。彼の決意を聞き、キルトは頷いた。彼がそうしたいと言うのなら、その意思を尊重しよう、と。
「分かった。じゃあ、デッキホルダーはこっちで預かっておくね」
「ああ、頼んだよ」
「また会いに来るぞ、ドルト。それまで達者でな」
話を終え、キルトとフィリールは帰路に着く。キルトはシュルムの屋敷に、フィリールはラーファルセン城へと。
翌日、短いようで長く、長いようで短かった帝都での生活を終え……キルトたちはミューゼンに帰ることになった。
「ただいま! 姉上、元気にしてるかなぁ」
「なぁに、あの娘なら大丈夫だよ。それにしても、悪いねエヴァくん。君のポータルを使わせてもらって」
「ふふん、気にしないでくださいな。これからの『計画』を閣下に承認してもらったお礼だから。ね、キルト?」
「うん。僕たちの『ガーディアンズ・オブ・サモナーズ計画』を完成させるためには、父上の協力がいるからね」
行きとは違い、帰りはエヴァの開いたポータルを使ってひとっ飛びだ。新たにフィリールとアスカを加えて、一行はミューゼンに帰還する。
これでしばらくのんびり……とはいかず、彼らにはやることがたくさんあった。サモンマスターのチームを発足させるため、まずは……。
「んー、早朝の景色もいいけど夕方に見るのも壮観でいいね!」
「アジトが完成したら、毎日この景色を見れるんやろ? ええなー、贅沢な話やで」
「キルトと我だけの景色だったのに……まあ、仕方ないか」
ガーディアンズ・オブ・サモナーズの基地を建設するところから始めるキルトたち。街の近くでは、万が一攻められた時に要らぬ被害が出てしまう。
そこで、人里離れた秘境であり、キルトとルビィが出会った思い出の場所であるシャポル霊峰に基地を建設することになった。
すでに夕方になっていたが、とりあえず下見だけはしておこうとキルトたちはポータルを使い霊峰にやって来た。
「ここなら、敵も容易には攻め込めまい。実にいい場所だ、気に入った」
「でも、どないしてここに基地作るんや? 必要なモン運び込むだけで一苦労やで?」
「ふふふ、それならアタシにお任せよ。お父様は物作りが得意な魔戒王よ、ちょーっと頼めば基地の一つや二つ作って」
「闇魔法、クリエイション・ドア!」
かつてキルトとルビィが朝日を見ていた断崖に集まり、話し合いをしていた五人。その時、どこからともなくハスキーな少年の声が響く。
直後、洞窟の入り口に木製の扉が出現する。キルトたちが警戒するなか、ただ一人……エヴァだけが顔を青くしていた。
「ええええええ!? ちょ、なんでいきなり!? ちゃんと報告は欠かさずやってたのに!」
「どうした、エヴァ。何をそんなに慌てている。……まさか、今の声の主……お前の知り合いか?」
「知り合いなんてもんじゃないわよ! あのお方は」
「邪魔するぞよー。久しぶりじゃのー、エヴァンジェリン。元気そうで何よりじゃわい」
エヴァが説明しようとした直後、扉が開き一人の少年が現れる。王侯貴族が着るような、煌びやかな装飾が施された黒い服を纏い、杖を持った少年が。
やや古風な話し方をする黒髪の少年は、杖を突きながら歩いてくる。エヴァはその場で片膝をつき、少年に向かって声をかける。
「こ、コーネリアス様! こ、今回はどのようなご用でしょうか!?」
「うむ、ちと緊急の用が出来てのぉ。そちらにいるキルトという少年に会いに来た」
「へ? 僕に……?」
「わしはコーネリアス。コーネリアス・ディウス・グランダイザ=ギアトルク。エヴァンジェリンの主君にして、暗黒領域を治める十三人の魔戒王の一角じゃよ。よろしくのう」
コーネリアスと名乗った少年は、親しげに手をひらひら振る。予想もしていなかった大物の登場に、キルトは頭を殴られたような衝撃を覚えた。
「え? え? え!? そ、そんな偉い人が一体僕に何の用なんですか!?」
「エヴァの上司、か。ふむ……なかなか厄介そうなのが来たな」
「ほっほっほっ、そう身構えんでもよかろ。……こんなところで立ち話をするのもなんじゃ、わしの城に来るといい。あまりいい茶菓子はないが、歓迎するぞよ」
「その前に、一つ聞かせてもらいたい。闇の眷属たちを束ねる王が、キルトに何の用だ?」
相手を警戒し、キルトを抱き寄せながら問いかけるルビィ。そんな彼女に、コーネリアスは答えた。
「……おぬしらに、時をさかのぼり救ってもらいたい者がおる。その者の名は、フィル・アルバラーズ。キルト、おぬしのご先祖様じゃよ」
一つの戦いが終わり、新たな出会いを経て……物語は加速する。誰も予想しえぬ方向へと。




