61話─ドルト裁判
「……以上で、報告を終わります」
「チッ、使えない。クレイめ……大口を叩いておいて無様に戦死か! 使えないゴミめが!」
ガーディアンズ・オブ・サモナーズ結成記念パーティーが行われている頃、理術研究院ではタナトスがボルジェイに報告を行っていた。
クレイの敗北と、侵攻計画のため雇った傭兵団の全滅を聞かされボルジェイは怒り狂う。今にも暴れ出しそうだが、すんでのところで抑える。
「……ふう。まあいい、なら次の計画を進めればいいだけのこと。『第二次異世界召喚計画』も進んでいる、問題はないだろう」
「はい。こちらもこちらで、新たなサモンギアの開発とサモンマスターになる人材の発掘を進めています。万事、このタナトスにお任せください」
「ああ、任せるぞ。例の……ゾルクと言ったな、そいつを使え。薬で無理矢理正気に戻した、狂ったままでは使えないからな」
「かしこまりました。では、私はここで失礼します」
「分かった、俺と会いたいという『客』が待っているのでな。もう下がっていいぞ」
そう伝え、腹心を退室させるボルジェイ。しばらくして、部屋の中に別の人物が入ってくる。白いタキシードを着て、これまた白いもこもこのマフラーを巻いたキザな青年だ。
紫の肌に映える黄金の髪と瞳を持つ青年が立ち止まると、ボルジェイが椅子を立ち眼前でひざまずく。
「待っていましたよ、バイオン公。あなたがお越しになるのを、首を長くして待っておりました」
「I had a busy schedule and couldn't make time to come here. I'm so sorry, Doctor Borjei.(予定が立て込んでいてね、中々ここに来る時間を作れなかった。実に申し訳ない、ボルジェイ院長)」
「気にすることはありません、公はかつて存在した偉大なる魔戒王……グランザーム王の外戚。数いる大魔公の中でも、指折りの実力ともなれば、仕事が山積みでございましょうから」
タナトス他部下への対応とは違い、媚びを含んだ声色でおべっかを使うボルジェイ。バイオンと呼ばれた青年は、マフラーをズラして喉を掻く。
そこには、遙か昔に起きた勢力争いで出来た傷痕があり、失われた声帯の代わりになる発声装置が埋め込まれていた。
「I don't need flattery. Let's get straight to the point. The summon gear you guys created…… can you show it to me right away(おべっかはいらない。早速本題に入ろう。君たちが作り出したというサモンギア……早速私に見せてくれないか?)」
「はい、かしこまりました。我々が作り出したサモンギア・第二世代機……その最高傑作を、ご覧に入れましょう」
「Huh, are you saying that much? I'm looking forward to seeing that masterpiece(へえ、そこまで言うのかい。楽しみだね、その最高傑作とやらが)」
「ええ、必ずご期待にお応えしますよ。……当理術研究院製サモンギアの中でも、指折りの性能があります。これからお見せするオーヴァギアとジーヴァギアは、ね」
バイオンを連れ、ボルジェイは院長室を出る。少しずつ、新たな戦いに向け歯車が動き始めていた。
◇─────────────────────◇
「……それではこれより、被告人ドルト・ラジャガの裁判を執り行う。被告人、前へ」
「はい……」
パーティーの翌日。帝都シェンメックの北西にあるビーフィ司法院にて、ドルトの裁判が行われていた。三人の裁判官と六人の陪審員が見守る中、ドルトが現れる。
両手を魔法の手錠で拘束され、白と水色の縞模様の服を着せられている。彼の左右、数メートル離れた場所にそれぞれ弁護人と検察官が立っている。
「被告人の罪状は、皇女フィリール殿下の誘拐、及び英雄キルトの暗殺未遂である。被告人、検察官、弁護人。三方共に認識に相違はないな?」
「はい、ありません」
「右に同じく」
「僕もです」
「ああ、私もだ」
二段ある長机のうち、後列に座る三人の裁判官の一人がそう口にする。ドルトがまず同意し、続いて裁判官から見て右側の席にいる初老の検察官と、左側にいる弁護人……キルトとフィリールも頷く。
被害者二人が、自ら被告人の弁護を買って出るという前代未聞の裁判が行われることが知れ渡り、傍聴席は見学人でごった返していた。
当然、その中にはルビィにエヴァ、アスカやミーシャもいる。彼女らが見守るなか、裁判は進む。
「では被告人よ、何故そのような犯行に及んだのかを説明しなさい。クォイカの魔鏡を設置してあるゆえ、嘘をついてもすぐに暴かれる。それは肝に銘じておくがよい」
「はい、分かりました。俺は……」
ドルトの目の前には、金の縁取りがされた楕円形の鏡が浮かんでいる。もしドルトが嘘をついたり、誰かに操られて虚言を口にしたら赤く発光して知らせるようになっているのだ。
少し間を置いてから、ドルトは犯行に及んだ理由を洗いざらい話す。妹が大病を患い、治療のために大金が必要になったこと。
必要な金額を稼げず、悩む中でタナトスに出会い大金と引き換えにサモンマスターアーチになったこと。彼らの命令で、キルトの命を狙ったこと。
作戦の最中、予想外のアクシデントからやむなくフィリールの誘拐を実行してしまったこと……全て、偽りなく話して聞かせた。
「なるほど、話は分かった。やむにやまれぬ事情がある、というのは理解した、が。それでも罪は罪、償いはしなければならない」
「裁判長殿、何を言っておられるのです! やむにやまれぬ事情などと、極悪犯罪者を甘やかせば良くない判例を作りますぞ!」
三人の裁判官のうち、真ん中にいる裁判長が発言すると、それを遮るように検察官が口を挟んでくる。唾を飛ばしながら、ドルトを極刑にすべしと進言する。
「罪を犯すような屑の弁明など、聞く耳を持つ必要はない! この者は国家反逆罪を犯した罪人として、磔刑に処すべきだと私は考えますぞ!」
「異議アリ! それはあまりにも乱暴な思考ではありませんか!? 確かに、ドルトさんは罪を犯してしまいました。ですが、本人は深く反省しています。事情も鑑みれば、極刑に値するとは思えません!」
「何度も言わせるな、弁護人! 犯罪者をそうやっていちいち甘やかして情状酌量などするから、こやつらはつけあがるのだ! そもそも、被害者が加害者の弁護をするなど」
「静粛に! ロージェ検察官、キルト弁護人、共に静まるがよい! 汝らの発言は許可していないぞ!」
検察官……ロージェの暴論にキルトが反論するなか、裁判長が木槌を打ち鳴らす。二人とも押し黙り、裁判長の言葉を待つ。
「被告人ドルト。汝は己が犯した罪を、心から反省しているか?」
「……はい。ミーシャの命がかかっていたとはいえ、俺はしてはならないことをしてしまいました。検察官殿の言う通り、磔刑に処されても文句は言えません」
「おにいちゃん……」
そう口にするドルトを見て、傍聴席にいるミーシャは不安げに呟く。そんな彼女を抱き寄せ、ルビィは背中を撫でてやる。
「大丈夫だ、キルトたちが弁護をしている。最悪の事態にはならないさ。あの初老の男が何かしでかさなければ、だが」
ルビィの視線は、憎々しげにドルトを睨むロージェに注がれている。審議の時間になり、陪審員たちは協議のため一旦退室した。
その間に、検察官と弁護人双方の主張を口にする時間がやって来た。裁判官との問答という形で、それぞれの考えが披露される。
「ではまず、ロージェ検察官に問おう。貴殿は被告人ドルトに、どのような沙汰を下すべきだと考える?」
「私の主張は変わりませんな。あの者は皇女殿下を害そうとした犯罪者。身内ともども磔刑にすべきです。犯罪者の血は絶やさねばなりませんからね」
「あいつ、言わせておけば……!」
「抑えろ、エヴァ。キルトたちならともかく、我らが怒っても何も出来ぬ」
「……それもそうね。アタシも弁護に加わらせてもらえばよかったかも」
歯に衣着せぬロージェの物言いに、エヴァは怒りを覚える。そんな彼女を諭すルビィだが、彼女も静かに怒りの炎を燃やしていた。
「なるほど、よく分かった。では、続いて弁護人二名、貴殿らの意見を聞きたい」
「はい、私とキルトは被告人に奉仕労働の刑を科すべきかと愚考致します。確かに、彼は『私やキルト』を害そうとしましたが、その理由は情状酌量出来るものです。償いのチャンスを与えるのが妥当かと」
被害を受けたのが自分とキルトの二人だと、ことさら強調するフィリール。先ほどのロージェの発言に対する、ちょっとした仕返しだ。
「異議アリ! そもそも、何故被害者である皇女殿下御自らがこんな薄汚いエルフの弁護などなさるのです! 貴女様に、皇族としての誇りは」
「……口を慎め、ロージェ。先ほどから聞いていれば、貴様の傲慢さには本当に怒りを覚えさせられるぞ。今の発言、皇族への侮辱罪にあたると思わないのか?」
「う、ぐぅ……」
フィリールに凄まれ、ロージェは反論出来なくなってしまう。一連のやり取りを黙って見ていた裁判長は、両脇にいる裁判官と相談を行う。
「別室にて一部始終を見ていた陪審員たちが、結論を出したようだ。彼らが戻り次第、結論を伝える」
少しして、裁判長はそう告げる。直後、別室にいた陪審員たちが席に戻ってきた。裁判官たちに、協議の結果を小声で話す。
果たして、ドルトに下される裁きは……。




