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53話─一つの決着、一つの開戦

 互いに奥義を繰り出し、競り勝ったのは……キルトの方だった。再び紅蓮の炎を纏い、勢いよくヘルガを吹き飛ばす。


「たああああ!!」


「ぐっ……っと! やるな、オレに勝つとは。コピーした奥義じゃ、本物には及ばないってわけだ」


『サポートコマンド』


「セラピーバタフライ、オレの傷を癒やせ」


「くぴー」


 ヘルガは空中で体勢を立て直し、壁を蹴って着地する。三枚目のサポートカードを使い、癒やしの鱗粉をまき散らす黄色いちょうちょを呼び出した。


 バーニングジャッジメントのダメージを回復し、サモンギアを虚空へと還す。十分に満足したようで、満ち足りた笑みを浮かべていた。


「驚いたな、奥義の直撃を食らって平然と立て直すとは」


「あっちも同じ技を使って威力を相殺したからね。そうじゃなきゃ、ウォンさんみたいに吹っ飛ばされて転がってるよ」


 キルトの方を変身を解き、ルビィと分離する。これにて、戦いは終わった。勝利を掴んだのは、サモンマスタードラクルだ。


 観客たちがキルトの勝利を讃えるなか、ヘルガが歩いてくる。手を差し出してきたため、握手しようとキルトも手を伸ばすが……。


「いい戦いができ──!? あ、ふあっ!?」


「なっ!? き、ききき貴様なにを──!?」


「あぐあぐ……」


 キルトの手を掴み、ヘルガは自分の方にグイッと引き寄せる。そして、片腕でキルトを抱いて逃げられないようにし、首筋に甘噛みをしだしたのだ。


 突飛な行動に、ルビィはおろかアスカや観客たちも唖然として動けなくなってしまう。場の空気が凍り付くなか、キルトの切ない声が響く。


「あ、やめ、ふあっ……ん、やあっ」


「クク……これで覚えたぞ、お前の匂いを。ついでにマーキングもしてやった、これでもう……オレから逃げることは出来ねえ」


 キルトの首筋に歯形を付け、ヘルガは少年を解放した。艶めかしく唇を舐めながら、勝ち誇った声でそう口にする。


「ふにゃ、きゅう……」


「ハッ! 貴様、キルトによくもあんなハレンチなことを!」


「その坊やを気に入った。オレのイライラを解消するどころか、楽しませてくれる奴なんざそうそう現れねえだろうからな。ヒヒッ、これからはオレの気が向く度に会いに……おっと」


「ふざけるでないわ! 竜の宝に手を出した愚か者がどうなるか、その身に刻み込んでくれる! 覚悟しろこの発情したメス犬がぁぁぁぁ!!!」


 ようやく現実に意識が戻ったルビィは、修羅のような表情を浮かべてヘルガに突撃していく。冒険者たちも我に返り、喧々諤々の大騒動が始まる。


「おいおいおい、ウッソだろ!? あのヘルガがマーキングだとぉ!?」


「うひょー、やりやがった! アレ、確か獣人流のプロポーズなんだろ? なんつー大胆なことしやがるんだ、イカレてるぜあいつ!」


「禁断の三角関係、ってやつ? ヘルガさんったら、最後の最後でとんでもないことしたわね……」


 ヘルガたち獣人種において、異性へのマーキングを行うのは『自分のツガイになれ』もしくは『お前は俺のものだ』という意思表示になる。


 首から上へのマーキングは、基本的に後者の意思表示となる。その習性とヘルガの気質を知っている冒険者たちがお祭り騒ぎになるのも、無理ないことだ。


「くたばれこの【ピー】ぁぁぁぁぁ!!」


「クククッ、殺せるもんなら殺してみな。お前のようなノロマに捕まるほど、オレはトロくないぜ」


「野郎ぶっ殺してやぁぁぁる!!!!」


「アカン、ルビィはんがキャラ崩壊起こしとるわ……」


「うーん、うーん……」


 突然のマーキングを受け、恥ずかしさが限界突破して気絶してしまうキルト。彼を介抱しながら、アスカは暴走するルビィを見て冷や汗をかく。


 訓練場を包む熱気を収められる者は、この場にはいなかった……。



◇─────────────────────◇



「いい風だ……。雲一つない空だ、旅をするのにちょうどいい」


 その頃、ウォンは一人草原を歩いていた。いつの日かキルトにリベンジすることを誓い、修行の旅に出たのだ。


 帝都を離れ二日、少なくなってきた食料を調達せねば……と思考を巡らせていた、その時。


「よう、待ちな。あんたがウォン・レイってヤツかい?」


「だとしたらなんだ? 大道芸でも見せてほしいなら、どこか町に行くことだ」


「んなわけないじゃん。あたいらはあんたに用があんの。分かるぅ~?」


 ウォンのすぐ目の前にポータルが開き、そこから二人の男女が姿を見せた。赤いロン毛の男の方は白いローブを身に着け、その上から黒いケープを羽織っている。


 緑とピンクの縞模様ヘアーなボブカットの女の方は、男と反対の配色のローブとケープを身に着けている。奇抜な見た目をした者たちに、ウォンは警戒を強める。


「お前たち、何者だ? その殺気……ただ者ではあるまい。名を名乗れ!」


「オレはパルジャ」


「あたいはカンディ」


「理術研究院に雇われた殺し屋さ!」


 男……パルジャと女……カンディは名を名乗った後、ハモりながら正体を口にする。彼らの言葉を聞き、ウォンは悟った。


「なるほど、クレイの手の者というわけか。俺が言うことを聞かないのがしゃくに障ったから、始末するために刺客を寄越したというわけだ」


「その通り。そのためのカードデッキも貰ってるんだぜ、ほら」


「あたいたちは二人で一人のサモンマスター! 華麗なコンビネーションで、あんたを殺しちゃうよ!」


 ウォンの言葉に答え、パルジャは右腰、カンディは左腰に下げた錆色のカードデッキを見せ付ける。デッキには、S字状に身体をくねらせるデンキウナギのエンブレムが彫られていた。


「オレはサモンマスターアノード!」


「あたいはサモンマスターカソード!」


「二人が織り成す電撃の力で! 骨の髄まで焼き焦がしてやる!」


 デッキホルダーを腰に戻し、契約(エンゲージ)のカードを取り出しながら二人は叫ぶ。電撃を纏うウナギの絵が描かれたカードを見せ、ウォンを挑発する。


「なるほど、ここでオレを始末するわけだ。……そうだな、ここで勝てないようではキルトへのリベンジなど夢のまた夢。修行に付き合ってもらおうか」


「ほー、余裕だな。その態度、後で後悔することになるぜ」


「そうそう。あたいたちは無敵のコンビ。そこに本契約した『トラッシュイール』二体が加われば、さらに倍率ドドンとアップ!」


「オレたちの無敵っぷりはさらに加速するってわけだぁ! ハハハハハ!」


「パルジャと言ったか、お前の発言をそっくり返してやる。その大口、叩いたことを後悔するがいい」


 ウォンはそう啖呵を切り、腰から下げたデッキホルダーからファンシェンウーの絵が描かれたカードを取り出して相手に見せる。


 これにて、双方が戦いの始まりを了承したことになる。パルジャは右手、カンディは左手にサモンギアである安全手袋を装着する。


 手の甲の部分にスロットが取り付けられており、そこにカードを挿入する。ウォンもサモンギアを呼び出し、変身を行う。


「行くぞ、ファンシェンウー。今回も力を貸してくれ、頼むぞ」


『シャアアァー!』


「強そうな鎧だな、だが! オレたちのエレキマトリクスアーマーの方がもっと強いぜ!」


『ビビリバリリィ!』


「さあ、始めよっか。身も心も! バリバリビリビリホットに焼き焦がしちゃうから!」


『ババリーッシュ!』


 変身したパルジャとカンディは、ゴムを思わせる真っ黒なボディアーマーに身を包む。稲妻マークのある円形のコアが胸部に取り付けられており、そこから手足やサモンギアに電線が伸びている。


 パルジャは右腕、カンディは左腕に乾電池を縦に割ったような大きなパーツが装着されており、手袋と接続されていた。


「二対一、か。これくらいのハンデが無ければ修行にはならん。来い、サモンマスターアノード、そしてカソード。このオレ……サモンマスター玄武が相手をしてやる」


『ポールコマンド』


「ヘッ、二人相手に勝てるわけねぇだろ! 返り討ちにしてやるぜ!」


「勝ったらたんまり報酬貰うもんね! そしたら焼き肉腹一杯食べるのよ!」


『ボルテックスコマンド』


 それぞれがサモンカードを読み込ませ、ウォンは長く伸びた棍を。アノード&カソードは稲妻マークが描かれたカードを使い、腕に電撃を纏わせる。


「純然たる武の力が勝つか、テクニカルなエレキの力が勝つか。どう転ぶか楽しみだ」


「余裕じゃねえか、んー? その顔に、焦りの表情を浮かばせてやる! 行くぞカンディ!」


「ええ! いつでもオッケーよパルジャ!」


 キルトたちの知らないところで、クレイの放った刺客とウォンの戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁやるとは思ってたけど(ʘᗩʘ’) 古傷の消えたキルトの体に永遠に消えなそうな印を刻んじゃったよ(゜o゜; エヴァが居なくてよかった(>0<;) アイツまでいたら訓練場が倒壊してそうだし(…
[一言] >「くたばれこの【ピー】ぁぁぁぁぁ!!」 >「野郎ぶっ殺してやぁぁぁる!!!!」 おい落ち着けw つーかベネットみたいなセリフw どうせ顔芸晒してるだろーがなw
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