52話─イレギュラー戦士! サモンマスターノーバディ!
「先手必勝! こっちから攻めるよ、お姉ちゃん!」
『ああ。だが油断はするな、まずは牽制して相手の出方を窺うのだ』
「うん!」
ドラグネイルソードを構え、キルトはヘルガに斬りかかる。相手がどんな戦法に出てもいいよう、すぐ離脱出来るようにしながら。
そんなキルトの攻撃を、ヘルガはただの古びた短剣で受け止めてしまう。本気の一撃ではないとはいえ、召喚された武器での攻撃を止めるなど普通は不可能だというのに。
「ほう。ちっこいクセにいい重さの攻撃するじゃねかよ。ほんの少しだが……イライラが消えたぜ」
「こっちもビックリだよ。サモンカードで召喚された武器の攻撃って、普通の武具じゃ防げないのに」
「へえ、そりゃ知らなかった。お望みなら……使ってやるぜ? その剣をな」
ヘルガは腕に力を込め、キルトを押し返す。その間にベルト型のサモンギアを顕現させ、一枚のカードをデッキから取り出した。
二つの剣と、その間を繋ぐ右向きの矢印が描かれたカードをベルトのバックル部分に挿入するヘルガ。
『コピーコマンド』
「来い、ドラグネイルソード」
「!? ぼ、僕の剣がコピーされた!?」
『なるほど、奴め……普通とは違うカードを所持しているようだ。使われ方次第で厄介なことになりそうだ』
あっさりと武器を複製され、キルトは驚愕する。武装のコピーは、サモンギアのリソースを大きく消耗してしまう。
本契約機能との両立など、キルトの腕をもってしてしも不可能だった。本契約機能のオミットと引き換えで、複製機能が実現したのだ。
「どうした、来ないのか? なら、オレが行くぜ」
『サポートコマンド』
『キルト、呆けている場合ではないぞ! 攻撃が来る!』
「っと、そうだね。武器が互角なら、技量で勝てばいいんだ!」
キルトが呆気に取られているなか、ヘルガが攻勢に出る。グローブを嵌めたカンガルーの絵が描かれたカードをスロットインし、モンスターを呼び出す。
「行け、ノックラッカー。つゆ払いしろ」
「フシュッグァァ!」
「連携攻撃か……でも、負けない!」
「グギュウ!」
カンガルー型のモンスター、ノックラッカーのパンチを避け、剣によるカウンターを土手っ腹に叩き込むキルト。
が、敵の攻撃がそれだけで終わるはずもなく。続いてヘルガが踏み込み、コピーしたドラグネイルソードを振るう。
「まだオレがいるぜ!」
『キルト、ガードだ!』
「うん! ていっ!」
「へぇ、その体勢から防ぐか! いいな、ゾクゾクするよ。かなりイライラが収まってきたぜ……!」
頭上から振り下ろされてきた一撃を左腕で防ぎ、跳ね返すキルト。そこに、まだ仕留め切れていなかったノックラッカーが反撃してくる。
そちらは剣でいなし、一旦離脱する。時間切れになったモンスターが消えていくなか、ヘルガは楽しそうにニヤリと笑った。
「ルビィお姉ちゃんのおかげで、無茶な動きしてもある程度は大丈夫だからね。魔力貰えば痛み消せるし」
『とはいえ、我としてはあまり無茶はしてほしくないのだがな。やむなしとはいえ、伴侶が身体を傷めるのは見ていて辛いからな』
「戦闘中にノロケるたぁ、余裕だな? なら、どんどん攻めてもいいよなぁ!」
キルトとルビィが話していると、そこにヘルガが突っ込んでくる。攻撃を避け、キルトは新たなサモンカードをスロットインする。
『シールドコマンド』
「これで攻撃も防御も万全! さあ、どこからでもかかってこい!」
「そうか。なら、遠慮なく行かせてもらうぜ」
『サポートコマンド』
相手に対抗し、ヘルガも二枚目のサポートカードを用いる。その直後にキルトへ突っ込んでいくが、何も起こらない。
剣と盾で攻撃を防ぎながらも、キルトは警戒を怠らない。サポートカードは、使った本人にしかどんな効果があるのか分からないからだ。
(どこから何が来る……? 相手の攻撃も警戒しなきゃだから、凄い神経使うなこれ……!)
「ハァ……ハハハ! 驚いたな、剣の腕でオレと互角とはな! いいぜ、楽しくなってきた……こいつは避けられるかな!?」
「キルト、足元に気ィ付けぇや!」
それまで固唾を飲んで見守っていたアスカが、異変に気付き叫ぶ。キルトの足元の床が、突然円形に波打ちはじめたのだ。
アスカの声を聞き、キルトは咄嗟に後ろに下がろうとし……すぐさま思い直して、逆にヘルガを押し込み前に進む。
その直後、キルトが立っていた場所からモンスターが飛び出してきた。鋭く尖った大顎を備えた、アリジゴクのモンスターだ。
「へえ、やるじゃねえか。後ろに下がるかと思ってたが、逆にオレを押し込みながら『サンドシャグラー』の攻撃を避けるとはな!」
「いつまでも押されっぱなしじゃ、ちょっとシャクだからね。三枚目のサポートカードを使う暇もないくらい攻めてやる!」
『うむ、その心意気だ! 押せ押せ、その犬っコロをキャンと鳴かせてやれ!』
「キャン。ほら、鳴いてやったぜ? 感謝しろ」
『ぬうおおおお、屁理屈こねおって! キルト、もう容赦はいらん! 叩き潰してしまえ!』
ものの例えを大真面目に返され、おちょくられるルビィ。ブチ切れた彼女に魔力を送り込まれ、強制的にパワーアップさせられるキルト。
負けず嫌いなルビィに苦笑しつつ、キルトは剣を振るいヘルガを後退させていく。その様子を見た冒険者たちの間に、どよめきが広がる。
「おい、マジかよ! あのヘルガがあんなに押されてるぞ!?」
「この前の演習場での試合より、さらに強くなってないかあの坊主。こりゃ、賭けは俺が勝つかも」
「やべぇー! 負けんなヘルガ、俺の全財産が持ってかれちまうー!」
「……凄いですね、あの子。冒険者になってくれれば、専属の受付嬢になるんですけどねー」
一部の冒険者は、キルトとヘルガのどちらが勝つかで賭けをしているらしい。いろんな意味で彼らが盛り上がるなか、ヘルガは心の中で歓喜していた。
(……嬉しい誤算だ。こいつがトカゲ女の魔力でブーストしてるとはいえ、オレを追い込んできやがる。久々だ、こんなに……心躍るのは!)
Aランクの冒険者になってからずっと、ヘルガは退屈だった。自分に比肩する力を持つ者が現れず、強者に餓えていた。
そんな中で出会ったキルトの力を見せ付けられ、彼女は生まれて初めて……心から『楽しい』と思うことが出来た。
「いいじゃねぇか、お前。ここまで楽しませてくれるとは思ってなか……ぐうっ!」
『よし、クリーンヒットしたぞ! キルト、このまま決着を着けてしまおう! こやつに格の違いを教え込んでやれ!』
「え、う、うん。お姉ちゃん、ちょっとエキサイトし過ぎだよもう……」
『アルティメットコマンド』
ヘルガの持つ剣を弾き、胴体に攻撃を叩き込むキルト。相手が怯んでいる間に後退し、ルビィに急かされながらアルティメットコマンドの体勢に入る。
「いくよお姉ちゃん、バーニング……」
「来るか? いいぜ、なら……お前の技、オレも使わせてもらう」
『コピーコマンド』
『なにっ!? あやつ、まだコピーのカードを持っているのか! いや、それより……奥義すらも複製可能なのか!?』
それを見たヘルガは、デッキから二枚目のコピーコマンドのカードを取り出す。あろうことか、バーニングジャッジメントをもコピーしてみせたのだ。
驚愕するキルトとルビィだが、今更奥義を止めることは出来ない。一度発動したら、自発的にキャンセルすることは出来ないのだ。
「さあ、行くぜ。オレとお前、どっちの奥義が勝つんだろうなぁ! 食らいな、バーニングジャッジメント!」
「くっ、こうなったら迎え撃つだけだ! オリジナルの方が強いんだってことを見せてやる!」
『ん、そうだな。焦っている場合ではないな、こちらが勝てばいいだけのこと! いくぞ、バーニング……』
「ジャッジメント!」
ヘルガの背後にコピーされた灰色のルビィが出現する。偽者のルビィはヘルガを抱え、背後に飛ぶ。同じように本物のルビィも、キルトを抱え後方に飛翔する。
そして、示し合わせたかのように全く同じタイミングでUターンして前進する。キルトは赤、ヘルガは灰色の炎を纏いぶつかり合う。
「うおおおおおおお!!!!」
「はあああああああ!!!!」
お互い一歩も譲ることなく、訓練場の中央で一進一退の押し合いを繰り広げる。アスカたちが見守るなかで、限界を迎え双方の炎が弾けた。
果たして、戦いを制したのは……。




