49話─森の中の戦い
「これで最後の一匹だ! グロリアスドライバー!」
「ギュイィィィ!!」
三十体近くいた群青色のクモ型モンスター、ミステリアグル。その最後の一匹が、フィリールの放った突きによって倒された。
だが、安心することは出来ない。サモンマスターミスティが樹上に逃れ、未だ降りてくる気配がないからだ。
『キルト、また頭上から襲撃されてはかなわん。今のうちに、木を消してしまうべきだと思う』
「そうだね、ここはサポートカードの出番だ!」
『サポートコマンド』
キルトは義手の中から、オークの絵が描かれたカードを二枚、そして以前使ったアシッドフロッグのカードを一枚取り出す。
三枚同時にスロットインし、オークたちを召喚するキルト。彼らに命じ、周囲の木々を体当たりと酸性のブレスで伐採させていく。
「ほう、そういうカードもあるのか。私のデッキはもう、カード容量が埋まっているからサポートカードは使えないな。残念だ」
『なんだ、十枚全部埋まって……キルト、来る!』
「オオ、アアア!! アガッ!」
逃げ場を奪われつつあるサモンマスターミスティが、先手必勝とばかりに奇襲を仕掛けてきた。が、着地地点の近くにいたオークに殴られ吹っ飛ぶ。
「おー、結果オーライ! 三体とも、もういいよ。ありがとね!」
「ぷごー」
「げこっ!」
「羨ましいな、私もいろんなモンスターを使役してみたいぞ」
『なら、事が終わったらキルトにサモンギアを改造してもらうか? そうすれば、お前もサポートカードを使えるぞ』
「それも魅力的だが……ま、この戦いが終わったら考えるとしよう!」
フィリールたちが話している間に、着地したミスティは体勢を整える。一定の距離を保ちながら、キルトたちめがけて両手のヨーヨーを放つ。
サポートモンスターたちが消えるなか、キルトたちは相手の攻撃を避ける。目標から外れたヨーヨーは、伐採されずに残っていた木の幹を抉り貫く。
『なんだあの威力は! ヨーヨーという玩具は、ミューゼンで見たが……本気で扱えばこれだけの威力が出るのか?』
「普通のヨーヨーはあんな威力出ないよ!? あれはサモンウェポンだから例外なだけで!」
「ウ、グ、ガァッ!」
「来るぞ、二人とも! 私の後ろに隠れろ!」
連続で放たれるヨーヨーを避けつつ、キルトはフィリールの後ろに転がり込む。タワーシールドを構えて攻撃を防ぐフィリールだが、一撃食らう度に衝撃で腕が痺れる。
「キッツ……❤ などと悦んでいる場合ではないな。どうする、キルト。あの少女、生かして捕らえるか? それとも……」
「出来れば、助けてあげたいな。どう見ても正気じゃないもん、あれ」
『確かにな。もし正気に戻せれば、こちらの戦力になってくれるやもしれんぞ』
「うん、それに……あの人は僕と同じなんだ。経緯は分からないけど、理術研究院に人生を歪められた……そんな人を殺すなんて、僕には出来ない!」
フィリールに問われ、キルトは即答する。理術研究院に洗脳され、サモンマスターミスティとして戦わされている少女を救うと。
「よし、なら私も全力で協力しよう! で、どうやって彼女を捕らえる?」
「まずはあのヨーヨーをなんとかしないと。ただ、迂闊に攻撃出来ないんだよね……飛び道具を斬るの、ゾーリン戦で痛い目に会ってるから……」
『ああ、あの時はフレイル本体を斬って攻撃が通用しなかったからな。それに、今回は的そのものが小さいしな……また以前のように、糸を狙うか』
「よし、なら私が協力する。この盾があれば、相手の攻撃は効かん。距離を詰めて気絶させればいい」
ミスティを倒すため、作戦を練るキルトたち。が、そう簡単に行くはずもなく……敵は新たなサモンカードを取り出した。
万華鏡の中に映し出される景色のように、煌びやかなガラス面が描かれたカードがスロットに挿入される。
『ミラージュコマンド』
「ガ、ウ……カレイドスコープ、ボディ!」
『! キルト、不味い! あやつ分身したぞ!』
「い、一気に五人も増えたぁ!?」
部下であるミステリアグルたちを失ったミスティは、自分が分身することで数の優位を取り戻す戦法に出た。これで数は、六対二。
純粋な数だけで言えば、ミスティ側が優位を取り戻した形になる。武器まで完全コピーしたミスティの分身五人が、一斉にキルトたちに襲いかかっていく。
「アアアアア!!」
「くっ、一斉攻撃してきたか……だが、私にはまだサモンカードがあるぞ!」
『ヘイトコマンド』
「えっ、そのカードまだあるの!?」
「ふふふ、ナスティスピーカーはエグゾスケルウォールともども三枚積みしているぞ!」
このままでは、分身たちにたこ殴りにされてしまう……と思われたその時。フィリールが二枚目のヘイトコマンドのカードを発動させた。
第一世代機と違い、第二世代機はサポートカードを使えないのは同じだが、基本武装カードを容量いっぱいまで積めるのだ。
『ブゥォォォォォォン!!!』
「ウ、グ、アアアア!!」
「ウルサイ……ウルサイウルサイウルサイ!!」
「キルト、分身たちは私が引き受ける! 今のうちに本体を戦闘不能に追い込むんだ!」
「ありがとう、フィリールさん!」
『ブレスコマンド』
ドラグネイルソードを強化しつつ、キルトは走り出す。フィリールに群がる分身たちの横をすり抜け、ミスティ本体へと駆け寄る。
「グ、アアッ!」
「苦しいよね、でもすぐに楽にしてあげるから。それっ! ドラグスラッシャー!」
「グィィィィ!!」
『キルトに手出しはさせん!』
迫り来るキルトめがけて、ミスティは二つのヨーヨーを放つ。ルビィは背中にある六枚の翼を広げ、攻撃をガードする。
打つ手が無くなったミスティの腹部に、キルトは剣の腹を叩き込む。小さく呻き声を漏らし、ミスティは崩れ落ち気を失った。
「ふう、これでよし。なんとか生かしたまま倒せたね」
『お疲れ様だ、キルト。フィリール、そちらは大丈夫か?』
「ふっ、私の頑丈さを舐めてもらっては困る。あの程度の攻撃、ただ気持ちいいだけだ」
『……心配してやった我がバカだった。もうこやつを心配するのはやめよう……』
ミスティが気絶するのと同時に、フィリールを袋だたきにしていた分身たちが消滅した。仲間の元に駆け寄り安否を確認するキルトだが、その必要はなかったらしい。
「目を覚まして暴れられると困るから、彼女は縛っておこう。ここは私に任せてくれ」
「うん、分かった。じゃあお願いするね」
『いや、待てキルト。縛るのは我がやる。こやつに任せると、キルトの教育によろしくない縛り方をしそうで不安だ』
変身を解除したフィリールは、魔法のロープを作り出してミスティに近寄る。が、ルビィがそれを阻止してロープを奪い取った。
信用されてないことに精神的なダメージと快感を覚え、はあはあしている彼女を無視してルビィはミスティに近寄る。
彼女もまた変身が解除されており、見たこともない服を着ている姿に戻っていた。半開きの口からは、可愛らしい八重歯が覗いている。
「珍しい服だな、これは。以前読んだ本の挿絵にあった、船乗りが着ている服みたいだな」
「ほんとだね、お姉ちゃん。わ、丈の短いスカート穿いてる……寒くないのかな?」
「さあな、我には分からん。……これでよし、と。さあ、シェンメックに帰るとしよう」
「うん、そうだね。フィリールさん、行くよ。早くしないと置いていっちゃうからね」
「それも魅力的だな……年下の可愛い男の子に雑に扱われる……そそるな」
「お前は本当にブレないな……」
縛り上げたミスティを担ぎ、森の外を目指すルビィ。彼女を追い、キルトとフィリールも歩き出すのだった。
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『いやー、久しぶりやな! こんな風に家族旅行するなんて、去年の年末以来やな』
『アスカが中間テストで一位取ってきたさかい、そのご褒美や。店の常連さんには悪いけど、たまには家族団らんしてもバチ当たらへんやろ』
戦いに敗れ、気を失ったミスティは夢を見ていた。サモンマスターにされてしまう前の、彼女が元いた世界。『地球』での記憶を、夢の中で追体験しているのだ。
夢の中の彼女は、車に乗って家族と一緒に出掛けている最中だった。久しぶりの、楽しい家族旅行を満喫する……はずだった。
『お、渋滞か。アカンわー、さっきのサービスエリアでトイレ行っとけばよかったわ』
『オトン、車ん中で漏らすのだけはやめてや? アスカにもオカンにも怒られるで?』
『わーっとるわ、タカノリ。ワシの膀胱はまだまだ現役や、そう簡単に……ん?』
四人乗りの乗用車の中、運転席には腹が出た中年の男が乗っている。隣の助手席には、妻である小ジワの目立つ中年の女性。
後ろの席には、彼らの息子と娘が乗っている。渋滞に巻き込まれた彼らは、大型トラックの後ろにつく。そこまではよかった、が。
『なんやあのトラック、スピード落とさへんで!?』
『オトン、あのトラック運転手が居眠りしとるんちゃうか!?』
『不味いで! ミサキ、タカノリ、アスカ! 急いでシートベルト外せ、車の外に逃げ』
『アカン、もう間に合わへん!』
彼らの乗っている車に、居眠り運転をしているトラックが突っ込んできたのだ。脱出が間に合わず、一家は車ごとトラックに挟まれた。
そうして、一家の一人……天王寺アスカは死んだ、はずだった。だが、気が付いた時……彼女は異世界に召喚されていた。
『おお……? なんやこれ、もしかしてアレか? ウチ、ラノベでよくある異世界転移っちゅーのしてもうたんか!?』
『ボルジェイ様、無事成功した模様です。テラ=アゾスタルから、望みの者を呼び寄せることが出来ました』
『よくやった、タナトス。これで、我が野望が一歩前進する。クククク』
足元に広がる魔法陣、見知らぬ部屋、ファンタジックな衣装を着た男たち。アスカの目に映る物全てが、彼女に自覚を促す。
彼女が趣味でよく読んでいるライトノベルのように、異世界へと召喚されたのだという事実を。だが、それが好ましいシチュエーションでないこともすぐ気付かされる。
『あ、これ……もしかして、喜んだらアカンタイプの異世界転移ちゃう……?』
『クククク、天王寺アスカ。理術研究院へようこそ。早速だが……人体実験の素材になってもらおうか』
『わぁぁぁ、やっぱりぃぃぃ!!』
目の前に立つ男、ボルジェイが不気味な笑みを浮かべるのを見ながら……アスカは絶叫するのだった。




