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47話─再会と離別

 五分で朝食をかき込み、居酒屋を出たキルトたち。ヘルガの案内の元、ドルトの隠れ家がある西の森へと歩いていく。


 エヴァは皇帝への報告をしに城へ戻ったため、向かうのはキルトとルビィ、ヘルガの三人だ。一行は途中で街道を外れ、森を目指す。


「こっから森に入る。ここは似たような地形が続く……はぐれるなよ、イライラするからな」


「う、うん。分かった……」


「お前はいつもそんな風に苛立っているのか? そんな攻撃的な態度では、友など出来ぬぞ」


「うるせぇな……オレは孤独が好きなんだ。そういうサガを持って生まれたんだ、今更矯正するつもりはねぇんだよ」


 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、ヘルガは左下腰に下げていた短剣を抜き森の中に入っていく。邪魔な草を切り払いながら、奥へ進む。


 はぐれないように、キルトとルビィも後に続く。薄暗い森を進む中、ルビィはキルトの耳に顔を寄せて小声で呟く。


「……キルト、気を付けろ。帝都を出てから、妙な気配が我らの後を尾行(つけ)てきている」


「うん、僕も感じてた。この気配……多分、前に襲ってきたネヴァルって奴のものだと思う。ちょっと似てるんだよね、前会った時に感じたのと」


「大方、撃退された相棒や上司の仇討ちをする腹積もりなのだろう。いつ襲ってきてもいいように、油断させずに行くぞ」


「うん、分かった」


 帝都を出た段階で、二人は感じ取っていた。邪悪な気配の接近を。その正体は、以前ティバと共に襲ってきた敵のものだろうと。


 ドルトとの交戦が避けられない事態になった場合、背後から不意を突かれるのは避けなければならない。二人は背後にも気を配りつつ、ヘルガを追う。


「ん? この匂い……」


「ヘルガ、どうしたの?」


「ドルトの匂いが近付いてきてる。他にも、別の匂いが二つ……」


「とにかく行ってみよう。向こうから来てくれるなら好都合だもん」


「だな。入れ違いにならずに済むのはいい。イライラしないからな」


 匂いを追って、三人は森の中を急ぎ足で進む。十分ほどして、森の中の広場に出た。そこには、休憩しているドルトと彼に背負われたミーシャ、そしてフィリールがいた。


「あ、いた! フィリール様、ご無事ですか!?」


「おお、キルト! やはり私を探しに来てくれたのだな。感謝す……ん? そこにいるのは誰だ?」


「ヘルガ、やはりお前か。俺の隠れ家を知ってる冒険者の中で、一番実力があるからな。案内を頼まれるとしたら、お前以外いないと思ってたよ」


「フン、誘ったのはオレの方だ。……いけねぇ奴だな、お前も。サモンマスターだってことを隠していやがったな。もし知ってたら、お前と遊んでやったのに」


 再会出来たことを喜ぶなか、フィリールはヘルガが誰か問う。そんな彼女を置いておいて、ドルトとヘルガがやり取りを始める。


 ヘルガの言葉を聞き、彼女の正体を察したフィリール。同時に、『サモンマスター』の一言を聞いてヘルガへの警戒を強めた。


「その口振り、もしやお前も?」


「ククク、そうだぜ皇女さんよ。オレはヘルガ……サモンマスターとしての名前は──むっ!」


「みな、気を付けよ! 来るぞ、敵だ!」


 自己紹介を始めようとした瞬間、それまでキルトたちを追ってきていた気配が急速に近付いてくる。キルトやヘルガ、ドルトが身構えるなか現れたのは……。


「!? な、何故お前がここに!? 新しい戦力を引き取りに行ったんじゃなかったのか!? ──クレイ!」


「あれっ、まさかの気配読み間違え……おっかしいなぁ、絶対あのネヴァルってオカマだと思ったのに」


「うふふ、久しぶりねぇキルト。また会えてお姉さん嬉しいわぁ。でも、勘は鈍ってるみたいねぇ。ワタシとあの子を間違えるなんて」


 ネヴァルことサモンマスタールージュが来る、キルトはそう思っていた。だが、予想を覆し……現れたのはクレイだった。


 ポータルから顔を出し、キルトに向けてヒラヒラと手を振るクレイ。外に出て着地した後、ミーシャを担ぐドルトを睨む。


「ええ、迎えに行ったわよぉ? ドルト。でも、戻るのが遅くなるなんて、ワタシ一言も言ってないわよぉ? うふふふふ」


「ああ、そうだった。お前はいつも、そうやって言葉のアヤで人をおちょくって遊ぶのが大好きだったね。クレイ」


「覚えていてくれて嬉しいわぁ。でも、再会を喜ぶのは後。まずは……裏切り者に罰を与えなきゃねぇ」


 キルトに凄まれるもクレイは意に介しない。それどころか彼を気にせず、先にドルトを始末せんと右手を向ける。


 嫌な予感を覚えたドルトは、背負っていた妹をヘルガに向かって放り投げた。


「ヘルガ! ミーシャを頼む!」


「むにゃ……きゃあっ!? お、お兄ちゃん……どうし──!?」


「ドルト!」


「ドルトさん!」


 妹を託した直後、ドルトは足下に現れた魔法陣に吸い込まれて消えてしまう。投げられた衝撃で目を覚ましたミーシャは、ヘルガの腕の中で不安そうにしている。


「クレイ! ドルトさんをどこにやった!」


「うふふ、彼は理術研究院へ招待してあげたわぁ。これから『お仕置き』するの。楽しみねぇ」


「外道が……ちょうどいい、キルトへした仕打ちも含めて貴様の悪行をここで裁いてやる。覚悟しろ! キルト、サモンカードを!」


「あら、悪いけどワタシは相手しないわよぉ? あなたたちの相手はぁ……この子たちがするから」


 クレイが指を鳴らすと、ポータルの中から成人男性とほぼ同じ大きさのクモが大量に湧き出てくる。その数、総勢三十体ほど。


 ここで一気に、キルトたちを始末するつもりなようだ。だが……まだ、ポータルから出てくる者がいた。それは……。


「ウ、アア……グ……」


「なんだ、この少女は?」


「紹介するわぁ。日の出と同時に誕生した、新しい刺客……サモンマスターミスティちゃんよぉ。ほぉら、挨拶しなさぁい?」


「ギ、ギィ……アアア!!」


 現れたのは、白い羽根が付いた黒い幅広の帽子と、マントが付いた黒いタキシードを身に着けた少女だった。


 顔には紫色のバタフライマスクを付けており、男装の麗人といった出で立ちをしている。が、それ以上にキルトが気になったのは、生気のない目だった。


「あの人、まさか……。クレイ、その人に何をしたんだ!」


「うふふ、決まってるでしょう? こっちの言うことを聞いてくれるように、ちょぉっとばかり頭をいじくってあげたの。おかげで、忠実なしもべになったわぁ。うふふふふふふ!」


「……ゲスめが。キルト、私のデッキは持ってきているか?」


「はい、失くさないように持ってます! ……フィリール様、もしかして」


「ああ。今ここで本契約を行う。これ以上の狼藉、ただ見ていることなど出来ん! この国の民は私が守る!」


「あらあら、いっちょ前に吠えるわねぇ。でも、そっちは実質二人。これだけの数に勝てるかしらねぇ! ミスティ、あいつらを殺しなさい? いいわね?」


「ハ、イ……」


 サモンマスターミスティと呼ばれた少女は、濁った目を光らせ呻き声をあげる。クレイはポータルに飛び込み、そのまま去って行った。


 キルトは懐からフィリールのデッキホルダーを取り出し、彼女に投げ渡す。ついでに、ミーシャを抱えるヘルガにも指示を出した。


「ヘルガ、その子を連れて逃げて! あのクモたちは僕たちが引き受けるから!」


「……チッ、仕方ねぇな。戦えねえのはイライラするが……今回は我慢してやる。そいつらとの戦いが終わったら、オレとも()れよなぁ?」


「うん、もちろん! 約束するよ!」


「クク、今の言葉……覚えたぜ。約束、破るなよ」


 そう言い残し、森の外へ向かってヘルガが走り出す。それに呼応するように、クモたちが一斉に動き出した。


「そうはさせるか! お前たちの相手は僕らだ!」


『サモン・エンゲージ』


「ああ。私も戦うぞ。理術研究院の野望、ここで打ち砕いてみせる! インペラトルホーン、私に力を貸してくれ!」


『サモン・エンゲージ』


 キルトが変身するなか、フィリールはデッキを右腰に下げ契約(エンゲージ)のカードを取り出す。すると、彼女の左胸にサモンギアが現れた。


 カードをスロットインすると、フィリールの足下から樹液のようなジェル状の物体がせり上がってくる。全身が包まれた直後、ジェルが弾け飛ぶ。


 そうして現れたのは、左肩にヘラクレスオオカブトの角を模した飾りがついた黄金の鎧を纏ったフィリールだった。


「私には騎士の誇りがある。ゆえに、こう名乗らせてもらおう。『サモンマスタープライド』とな! さあ、邪悪なモンスターたちよ! ここで成敗してくれる!」


 サモンマスターの力を受け入れたフィリール。彼女の戦いが、始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 状況はスンナリ好転しないか(ʘᗩʘ’) 蜂の癖にトンボ返りしてしゃしゃり出てきた挙げ句仕返しで拉致って、ウジャウジャ蜘蛛呼んで、謎の増員まで連れて来やがって(⑉⊙ȏ⊙) 前作のウォーカーの…
[一言] お仕置きかぁ。 だったらこっちもキッツイのをお見舞いしてやんねえとなぁ!!?
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