38話─御前試合、キルトVSウォン
ウォンと戦うため、どこかいい場所がないかフィリールに聞いてみることにしたキルト。城の中庭に戻ると、エイプル共々すぐに発見した。
「あ、お二人とも。今戻ろうとしていたところなのです、隊長のお恥ずかしい姿をお見せしてすみません」
「私としては、もっと見せつけても……いや待て、冗談だ冗談」
「ブレない奴め……実はこんなことがあってだな」
コントのようなやりとりをしている二人に、ルビィが一部始終を話して聞かせる。どこか戦いに適した場所はないか、と聞かれ……。
「それなら、金獅子騎士団の演習場を使えばいい。隊長権限で許可を出す。ただし……」
「ただし、なんだ?」
「私たちに観戦させてもえないだろうか? 今後のことを考え、サモンマスターの戦いとはどんなものなのかを知っておきたい。私たちは伝聞でしか知らないからね」
自分たちの所有している演習場を貸す代わりに、戦いを見学したい。そう申し出てきた。ルビィはキルトの方を向き、視線で問う。
「はい、いいですよ。百聞は一見にしかずとも言いますしね」
「感謝する。では、このことを父上や兄上にも伝えてこよう。せっかくなら、皆で観戦した方が盛り上がるからね」
「えっ、陛下たちも照覧されるのですか?」
「当然さ。皆そういう催しが大好きだからね」
てっきり、フィリールとエイプルの二人、もしくは騎士団の面々だけかと思っていたキルト。が、何やら話が大きくなりはじめる。
正門で待っていたウォンを迎えに行き、演習場に入る頃には……皇帝一家に金獅子騎士団、帝国騎士団の上層部や帝都に留まっていた貴族たち。さらにはシュルムやエヴァまでいた。
「なんでこうなったんだろ……ギャラリーが凄いことになってる……」
「まあ、よいではないか。いい機会だ、キルトの実力を万天下に知らしめてやろう。そうすれば、多くの者がお前を慕うことになるだろうな」
「うう、緊張するな……でも、今更引けないし。気合い入れてやらなきゃ!」
最終的に、どこかから話を聞き付けた帝都市民まで大勢やって来てしまった。流石に彼らまで収容出来ないため、魔法の水晶で空中に映像を映し、外で観戦してもらうことに。
演習場の中央にて、キルトとルビィはウォンと向かい合う。二階にある観覧席にてエヴァたちが見守るなか、キルトとウォンは互いに契約のカードを見せ合う。
「この戦いが、互いにとって実りあるものになることを祈る。……レイ家次期当主、ウォン。参る!」
そう口にし、ウォンは指を鳴らす。彼の左胸にプロテクター型のサモンギアが現れ、ひとりでに装着される。
これまで戦った相手とは違い、彼のサモンギアは亀の意匠が施されていた。
「僕の方こそよろしく、ウォン。ルビィお姉ちゃん、始めるよ。準備はいい?」
「ああ、いつでもいいぞ。我はキルトのためならば、いつだって全力だ!」
「両者スタンバイ。では……試合開始!」
自ら審判を買って出たフィリールが、演習場の壁際に設置された大銅鑼を鳴らす。直後、キルトたちは後方へと跳んだ。
キルトはエルダードラゴンの描かれたカードを、ウォンは二匹の蛇が巻き付いた黒い亀が描かれたカードを。それぞれのスロットに挿入する。
『サモン・エンゲージ』
音声と共に、キルトの身体を炎が、ウォンの身体を黒い水が覆っていく。ルビィと融合し、キルトはサモンマスタードラクルに変身する。
一方のウォンは、亀の甲羅のような質感とデザインをした黒い全身鎧を身に着けた姿に変わった。頭部には、蛇の頭を模した白い兜を被っている。
二人の変身を生で見た観客たちは、どよめき歓声をあげる。どこかくすぐったさを覚えつつ、キルトはウォンに声をかけた。
「先手は譲るよ、先輩だからね。それくらいの余裕は見せないと」
「ほう、では言葉に甘えよう。まずは……俺から行かせてもらう!」
『ポールコマンド』
先手を譲られたウォンは、右腰に下げたデッキホルダーから長い棍が描かれたカードを取り出す。スロットインすると、茶色い長い棒が実体化した。
「おお、なんだこれは!? どこからともなく武器が現れたぞ!」
「あれがサモンマスターの力というやつか? ふむ、興味深いな」
観戦している貴族たちがそんなことを話している間に、ウォンが走り出す。身の丈ほどもある棍を振るって、キルトを打ち据えようと猛攻を加える。
「この甲壊棍の一撃、受けてみよ!」
『キルト、どうする? カードを使うか?』
「そうだね、こっちも派手にやんないと! それっ!」
『ソードコマンド』
ウォンの繰り出す連撃を避けつつ、キルトもカードをスロットに挿入する。少年の頭上に現れた炎の中から、一振りの剣が落ちてきた。
それを右手でキャッチし、振り下ろされた棍へと叩き付け攻撃を受け止める。その勇姿に、エヴァが一人歓声をあげた。
「どーよ、アタシのキルトは! でも、まだまだこんなもんじゃないわよ。あんなルーキーなんてあっという間に倒しちゃうんだから、ちゃんと見てなさい!」
「キルト、頑張れ!」
その横では、シュルムが声を張り上げキルトを応援している。彼らの声を背に、キルトは剣を振るいウォンを押し返していく。
剣と棍のリーチの差ゆえに攻撃を直撃させられてはいないが、サモンマスターとしての経験の差から少しずつ優位に立ちはじめる。
「強い、な。なるほど、これがサモンマスターの戦いか!」
「そうさ、でもこんなのはまだ序の口だよ! ドラグスラッシャー!」
一気に距離を詰め、ウォンの懐に飛び込むキルト。剣を横薙ぎに振るい、無防備な脇腹へと攻撃を叩き込む。が……。
「! か、堅い! 刃が通らないなんて……」
「少し焦ったが……装備に助けられたか。次はこちらの番だ! レイ家流棒術、如意連閃!」
黒曜石のような輝きを持つ鎧に剣が弾かれ、キルトは目を丸くする。今度は自分の番だと、ウォンは後ろに下がりつつ棍を突き出す。
キルトを突き飛ばした後、棍を振るい殴打と突きの連撃を浴びせかける。左右、正面、頭上。四方向から来る攻撃を、キルトは冷静に捌いていく。
「よっ、ほっ、とうっ!」
「むむ……あの少年、なんと素晴らしい剣捌きだ。これは是非、我が帝国騎士団に加入してもらいたい逸材だな」
「いや、我が私兵隊に来てもらいたいぞ! あれだけの強さがあれば……ぐふふふ」
「あちらの棍使いもかなりの腕前……スカウトに応じてくれますかねぇ……」
一進一退の攻防を繰り広げるキルトとウォンの戦いを見ながら、一部の騎士や貴族たちが不穏な言葉を口にする。
凄まじい実力を持つ二人を、自分たちの勢力に組み込もうと画策しているのだ。もっとも、キルトに関してはルビィやエヴァ、シュルムが許さないだろうが。
『キルト、ウォンの動きが鈍りはじめた。疲労が溜まっているようだ、隙を突いて反撃してやれ!』
「分かった! でも、その前に……剣を強化しておかないとね!」
『ブレスコマンド』
突き出された棍をバク宙で避けつつ、キルトは新たなカードをスロットインする。宙を舞いながら胸部から炎を吹き出し、剣へと浴びせた。
着地すると同時に走り出し、ウォンへ斬撃を叩き込む。アクロバティックな動きに観客たちが歓声をあげるなか、ウォンは棍で攻撃を受け止めようとするが……。
「また受け止めて……なにっ!?」
「そおりゃあああ!!」
『残念だったな、ウォンよ。祝福の炎で強化されたドラグネイルソードは、どんなものも切り裂くのだ』
棍の先端を両断され、ウォンは驚愕し目を見開く。そんな彼に、キルトと融合したルビィが誇らしげに声をかけた。
「なるほど……ならば、こちらも二枚目のカードを使わせてもらおう。ここからは……俺の本気を少しだけ見せてやる」
『ナックルコマンド』
ウォンはそう答え、デッキホルダーから蛇の頭を象った篭手が描かれたカードを取り出す。サモンギアに差し込み、カードの力を解き放つ。
斬られた棍を捨て、両腕に白い篭手を身に着けたウォンは拳を握る。
「見せてやろう、レイ家流格闘術を。そして刮目するがいい!」
『気を付けよ、キルト。これまでの奴は、サモンギアの力に慣れるために全力を出していなかったはず。ここからが、本当の戦いだ』
「うん、僕も感じるよ。ここからは、一筋縄じゃいかないってね」
剣を構え、キルトはそう口にする。二人の試合は、後半戦に突入しようとしていた。




