表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/311

33話─皇女の選択

「……ということがあったんだ。で、このデッキホルダーを押し付けられたというわけさ」


「なるほど、タナトスがそんなことを……」


 フィリールの話を聞き終え、キルトは考え込む。ベストな選択は、彼女から未契約のデッキとサモンギアを貰い、破壊してしまうことだろう。


 だが、果たしてそれでいいのかとキルトは迷う。フィリールの勇猛さは、遠くミューゼンの街まで響くほどのものだ。


(フィリール様がサモンマスターになって、一緒に戦ってくれたら助かるんだけど……でも、皇女様を巻き込むわけには……)


 ゾーリンを倒されたことで、理術研究院は危機感を抱き攻勢を強めてくる。キルトはそう予想していた。それが現実となれば、自分とエヴァだけでは戦力が足りない。


 かといって、サモンギアを持たない騎士団ではサモンマスターには敵わない。フィリールが仲間になってくれれば、とても心強いのだが……。


「キルト。私はどうすればいい? タナトスは『選ばれた』と言った。実際、感じるんだ。このデッキを手にしていると、強い力を。この中に封じられているモンスターが、私を求めているのだと」


「フィリール様……」


「だが、私は金獅子騎士団(レオーネリッター)の隊長であり、この国の皇女でもある。今ある責任を、捨て去ることは……」


「難しい問題、ですよね」


 思い悩むフィリールに、キルトはどう答えていいか分からなくなってしまう。彼女が背負うものは、そう簡単に降ろせるものではない。


 皇族として、騎士たちを束ねる者として……フィリールにはやらなければならないことが多くある。それらを投げ捨て、自分と一緒に戦ってくれとは、とてもではないが言えなかった。


「なあ、キルト。君の正直な気持ちを聞かせてくれないか? 実際にその選択をするかはともかく、私は君の考えを知りたいんだ」


「そう、ですね。僕としては、二つの選択を考えています。一つは、そのデッキを破壊して憂いを断ってしまうこと」


「それは私も考えて、実行しようとしてみた。だが……どんな攻撃を加えても、デッキには傷一つ付けられなかったよ。君たちサモンマスターならやれるのかもしれないが」


「え? そうなんですか? となると……僕たちでも苦労するかもしれませんね」


 一つ目に提示した案は、実現させるのに骨が折れそうだと考えるキルト。考え込む彼を見て、フィリールは口を開く。


「なあ、キルトよ。君が私の立場を考えて、どうにかしようとしてくれているのはよく分かる。だが、今はそれを棚に上げてくれ。そうしたしがらみなく、純粋な気持ちを聞かせてほしいんだ」


「……分かりました。二つ目の選択は……フィリール様にサモンマスターになっていただく。現状では、それが一番だと思っています」


「ふむ。確かに、他の者の手にデッキが渡れば何が起こるか分からんからな。結局、私自身がサモンマスターになってしまうのが一番安全ではある」


「それはそうですけど……でも、サモンマスターになれば理術研究院の連中に狙われることになるかもしれません。いえ、ほぼ確実に狙われることになるでしょう」


 キルトにそう言われて、今度はフィリールが考え込む。少しして、フィリールは決意を固めたようだ。


「ならば、仲間や民を巻き添えにしないために騎士団を辞するべきだな。騎士団にいなければ、人々を救えぬというわけではあるまい? それは、キルト自身が体現してくれている」


「ですが、あなたは皇女様なのですよ? もし何かあったら、皇帝陛下になんとお詫びすれば……」


「気にすることはない。騎士になると決めた時から、私も父上も戦場での死を覚悟している。騎士としての死も、サモンマスターとしての死もそう変わらん。それに」


「それに?」


「キルトたちと共にいれば、そう簡単に死ぬようなことはないだろう?」


 そう口にし、フィリールは笑う。キルトの頭を撫でながら、彼女は語り出す。


「私の願いは、この国の民が平和に暮らせる世界を作ること。理術研究院なる組織がその障害となるのなら、打ち倒すのが私の務め」


「フィリール様……」


「君と話をして、私は覚悟を決められたよ。この力を受け入れ、戦うと。君がそうしたように、私もこの国を守りたいんだ」


 キルトが自分を思い、サモンマスターにならずとも済むようにしようとしてくれている。それが、彼女には嬉しかった。


 だからこそ、彼女は疑問を抱いた。自分より幼いキルトがサモンマスターとして戦っているのに、自分は運命から逃げていいのかと。


「確かに、デッキを押し付けられた時は迷惑に思ったよ。でも、君は戦っている。宿命から逃げずに。ならば、私も戦わねばなるまい」


「フィリール様……」


「父上と騎士団は、私が説得してみる。だから、それまでの間……このデッキを預かっていてくれないだろうか? 君が持っていれば、まず安心だろうからね」


「分かりました。フィリール様が決められたのなら、僕は何も言いません。ただ……一度本契約すれば、マスターとモンスターは一蓮托生。どちらかが死ねば、もう片方も死ぬ。覚悟は」


「フッ、面白いことを言う。死を恐れるのなら、元から騎士になっていない。私のあるべき場所は華やかな宮殿ではなく戦場だ。だから、君が心配することは何もない」


 そう言うと、フィリールはデッキをキルトに手渡した。少年はそれを受け取り、しっかりと懐に仕舞う。


「では、このデッキはお預かりします。僕の命に代えても、必ず守り抜きます」


「ありがとう。ところで……昼に会った時、別れ際に言ったことを覚えているかな?」


「へ? ……あ!」


「次に会ったら、キツいのをお見舞いしてもらうとね。今なら邪魔者はいない、さあ! 私の頬に! ビンタを! カモン! カムヒア!」


「む、無理ですぅぅぅぅぅ!!」


 最後の最後でドMの本性を見せたフィリールににじり寄られ、堪らずキルトは逃げ出した。そんな彼の背中を、フィリールはお預けされた子犬みたいな目で見つめていた。



◇─────────────────────◇



「失礼しまぁす、ボルジェイ様。ワタシにご用でしょうかぁ?」


「よく来た、クレイ主席研究員。ここに呼ばれたということは、もうどんな用かは把握しているだろう?」


「うふふ、もちろぉん。ゾーリンの後任の刺客……ワタシに任せたいというわけですよねぇ?」


 その頃、ボルジェイの元に一人の女が来ていた。長い黒髪で顔を右半分を覆った、艶めかしい雰囲気を纏う女だ。


 薬品が染みて黄ばんだ白衣を揺らしながら、女は笑う。ついに、出世のチャンスがやって来たと。


「そうだ。タナトスからサモンギア・第二世代機(セカンド)を預かっている。これを受け取れ、そして……封印してあるバズービーと契約し、サモンマスタークインビーとなるのだ。クレイよ」


「うふふ、かしこまりましたぁ。で、部下は誰を連れて行けばよろしいですかぁ?」


 ボルジェイが指を鳴らすと、女……クレイの前に黒と黄の縞模様になったデッキホルダーが現れる。刻まれているのは、横を向いたハチのエンブレム。


 クレイはデッキホルダーを手に取り、ボルジェイに問う。彼女にも部下はいるが、ゾーリンと違い実戦に投入出来る者はほとんどいない。


「じきにティバの傷が癒える。完治し次第、ゾーリンの忘れ形見どもを使わせてやろう。それまではこいつらを使え」


「あら、もうタナトス様がデッキをバラ撒いているんですねぇ。……あら? この『インペラトルホーン』のデッキの持ち主だけバツ印がついてますけどぉ」


「そのデッキの所持者には関わるな。そいつは実験枠だ、敵対しない限りは放置でいい。まずはそれ以外の『四人』と接触し、味方に引き入れろ」


 クレイに問われ、ボルジェイは大きな羊皮紙を机の上に広げる。そこには、フィリールを含めタナトスからデッキを授けられた者たちのデータが記されていた。


「かしこまりましたぁ。では最初に……このウォン・レイという男に接触してみますわぁ」


「気を付けるがいい、クレイ。デッキを受け取ったからといって、我々の味方になるとは限らん。飴と鞭が重要だ、いいな?」


「はぁい、お任せを」


 一礼した後、クレイは院長室を去る。彼女が退出した後、ボルジェイは羊皮紙を眺める。クレイが最初に選んだ男のプロフィールを、じっと見ていた。


「ウォン・レイ……サモンマスター玄武に選ばれた武闘家、か。さて、キルト抹殺とは別口でメソ=トルキアへの侵略準備を進めねば。せっかく得た侵攻権利、有効に使わねばな……ククク」


 ボルジェイの新たなる計画が、動き出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 覚悟、自覚、責任はご立派な皇女様だな(ʘᗩʘ’) その反面、残念が酷いが(٥↼_↼) あんまり放置するのは不和に繋がるから何か無いか(?・・) 子供の教育にも良くて、当人も満足なやり口が(…
[一言] >「次に会ったら、キツいのをお見舞いしてもらうとね。今なら邪魔者はいない、さあ! 私の頬に! ビンタを! カモン! カムヒア!」 台無しじゃちくしょーめ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ