最終話─捨てられ召喚師の英雄譚
キルトたちがタナトス、そしてサモンマスターアポリオンを打ち倒し……帰還ののちに祝勝会が開かれてから一ヶ月後。
自らの手で勝ち取った平和を謳歌するキルトたち。なのだが……。
「いやー、閑散としちゃったねアジト。僕とルビィお姉ちゃんだけなんて初めてなんじゃないかな?」
「みな、それぞれやることがあるからな。たまにはこうして二人きりなのもよかろうよ」
ガーディアンズ・オブ・サモナーズのメンバーは、それぞれのやるべきことをするためアジトを離れた。平和になった今だからこそ、やるべきことがある。
エヴァは暗域へと戻り、キルトとの結婚式を挙げるための準備を進め……そして、父グラキシオスから魔戒王の地位を継承する戴冠の儀をしている。
『キルト、学園時代の約束は果たしたわ。しばらく待ってて、戴冠式と挙式の準備が終わったら迎えに行くから!』
そう連絡してきたエヴァの顔には、喜びが満ちていた。遠い日の約束を果たし、キルトと結ばれる時が来る……その幸せを噛み締めていた。
フィリールは金獅子騎士団の隊長に復職し、二足のわらじを履く生活を送ることに。こちらもこちらで、キルトとの婚礼に向けて準備をしているとのことだ。
『ありがとう、キルト。私が騎士の誇りを貫き、仲間を守り抜けたのは君がいたからだ。今は亡き兄上に誓おう、これからも君を守る盾であり続けると』
父から帝位継承の話も出たが、兄の顔を立てるためそちらは辞退したらしい。調和を大切にするフィリールらしい判断だと、キルトは微笑んだことを覚えている。
アスカはサモナーズショップの経営に精を出し、資金を貯めはじめた。理想の結婚式、そしてハネムーンのための予算にするために。
『キルト、楽しみにしといてーや。ウチな、楽しいハネムーン計画を立ててるんや! たった三日なんかじゃ終わらへん、豪勢なのにしたるさかいな! えへへ、ワクワクするわ!』
ついでに、密かに企んでいたメソ=トルキアへのラーメン普及計画も指導。大成功を迎え、今では多くの弟子を取っている。
ウォンは実家へと戻り、レイ家流格闘術の免許皆伝となった。さらに、母マルカの紹介でルナ・ソサエティの幹部……月輪七栄冠に加わることに。
『これからは二足のわらじ生活だな。だがキルト、俺はどちらの業務もこなしてみせる。俺の力が必要になったらいつでも呼んでくれ、必ず駆け付けるから』
メソ=トルキアとカルゥ=イゼルヴィアを行き来する多忙な生活を送ることにはなったが、ウォンは燃えている。新しい日常を楽しんでいるのだ。
ドルトとヘルガは冒険者としての日常に戻り、日々を忙しく生きている。二人とも功績を認められ、Sランクに昇格することになった……が。
『ハッ、オレはランクなんざどうでもいい。新しい祭りの会場を探しに行く、飽きたらまた戻るぜ……じゃあな、キルト』
ヘルガは昇格を断り、一人メソ=トルキアを去った。新たなる戦いを求め、遠い大地を旅しているのだ。
『ありがとう、キルト。思えばあの日……オレは敵として君に処されてもおかしくなかった。この恩、一生かけて返していくよ。エルフは一度受けた恩を忘れないからな』
ドルトはSランクへの昇格を受け入れ、妹と共に幸福な日々を過ごしている。今日もどこかで、自慢の弓の腕を披露しているだろう。
プリミシアは商業ギルドの次期ギルドマスターになるため、父の元で勉強を始めた。キルトの嫁に相応しい『ヒロイン』になるのだと、強い決意を胸に。
『キルトくん、ボクはやり遂げてみせるよ! 君のヒロインとして相応しい品格を身に付けるからね! 楽しみに待ってて!』
そこにはもう、顔をバカにされたトラウマに怯えている少女の姿はない。真なる勇気を得て、彼女は今大輪の花を咲かせたのだ。
イゴールとメリッサは故郷、ギール=セレンドラクへと凱旋した。帰りを待っていた両親に祝福され、家族団らんの時を過ごしている。
『キルトさん、僕たちちょっとだけおうちに帰るね! おとーさんたちとのんびり過ごすの!』
『そしたらまた帰ってくるよ! お土産たーくさん持ってくから、期待してて!』
そんな手紙が来てから数日後、今度はアゼルとアーシアから感謝の手紙が届いた。我が子の成長に歓喜の涙を流したのか、ふやけていてほぼ読めなかったが。
アリエルはラズマトリア公国へ戻り、モルドに約束した通り祖父の罪を公表した。そして、運命に翻弄された老人の慰霊碑の前で誓いを立てる。
『公国の民よ! 我が祖父の犯した過ちにより、罪無き諸君らの血を流すことになってしまった。だから、今ここでマリアンナと共に誓う。もう二度と、悲劇を繰り返さないと!』
彼女の決意に満ちた言葉を受け入れ、公国の民は変わりはじめた。排他的な気質は消え、調和を尊ぶ国民性を得た。それが、モルドへの手向けになるだろう。
サウルとレドニスは、夢を実現するための旅に出た。その手に持つは、二つのランタン。カトラとティアの魂が宿った、彼らの宝物だ。
『……キルトには感謝せねばなるまい。こうして、オレたちはまた共に在ることが出来るのだから』
『ホント、変わり者よね。ここまでする必要なんてないのに。でも、ま……こういうところが、人を惹きつけるんでしょうね』
『そうそう、どこかの誰かさんとちがっ……ヴェアッ!』
『っさいわねサウル、アタシの魂の火で燃やしてあげましょうか!?』
『おーこわこわ。でも、こういう日常って……いいもんだな』
今日も四人は、旅を続ける。並行世界より招かれた者たちは、戦いの末に手に入れた。満ち足りた安息の日々を。
ミューは単身、魔神たちの大地キュリア=サンクタラムへと渡った。今回の戦いで得た知識と経験を、次なる敵との戦いに役立てるすべを求めて。
『マスター、しばしお暇をいただきます。わたくしは学びます、より貴方様のお役に立てるように。貴方様に相応しい従者になって……必ずお戻りします』
今も彼女は、遙か遠い魔神たちの大地で学んでいるのだ。己の持つ力の使い方を。大切な主を守るための知識と技術を。
バイオンは、エヴァと別れ一人暗黒の荒野へと戻っていった。より強くなり、いつかキルトと決着をつけるために。
『My friend, I will never forget these wonderful memories of fighting alongside you. Let's say goodbye for now, but someday we'll meet again…… To settle things with you. I'm looking forward to that da(我が友よ、君と共に戦ったこの素晴らしい思い出を永遠に忘れない。今はしばしの別れとしよう、いつか必ず……また出会う。君との決着をつけるために。その日が来るのを楽しみにしているよ)』
彼は今も、一人修行の旅を続けている。かつて、己が目標とした偉大なる外戚グランザームのように。終生の友を得た喜びを胸に。
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「……なあ、キルト。思い出すな、あの日……我とそなたが初めて出会った時のことを」
「うん、今でもずっと脳に焼き付いてる。大切なパートナーに出会えた喜びが」
キルトたちはパノラマテラスに移動し、シャポル霊峰の絶景を眺める。アジトが出来る前、ここはルビィの終の棲家だった。
ただ一人、孤独に生を終えようとしていたルビィとキルトが出会い……そこから始まったのだ。捨てられた召喚師の英雄譚が。
「キルト、我は今幸せだ。こうして共にいられるということが、無数の奇跡の上に成り立っていると知っているから」
「僕もだよ、お姉ちゃん。ずっとずっと一緒だよ、嫌だって言ってもダメだからね?」
「まさか! 我がそんなことをのたまうわけがなかろう。竜は一度得た宝を、絶対に手放さない。愛しいキルト、我の大切で大好きな……魂の伴侶。この命尽きる時まで、永遠に共に」
ソファに並んで座り、お互いを見つめ合う。少しずつ距離が近付き、唇が重なり合おうと……。
「キルトー、たっだいまー! やっと式の準備が終わったわよ、みんな呼んできたから暗域に行きま……へぶっ!」
「この駄牛め、せっかくいい雰囲気だったというのに! よくも邪魔をしてくれたな、まったく!」
したその時、ポータルが彼らの後ろに現れる。そこからエヴァが顔を覗かせるが、即座にルビィの尻尾を叩き込まれた。
ご立腹なルビィを見上げ、ニコッと笑うキルト。彼女の肩を指でちょんちょんと叩き、自分の方へ振り向かせる。
「ん、なんだキルト。我は今からこの駄牛に──!?」
「……ん、ちゅ。えへへ、いつもはお姉ちゃんの方からしてもらってるから。今日は僕の……わあああ!?」
身体を浮かせ、愛するパートナーに口付けをするキルト。が、それがよくなかった。理性が吹き飛んだルビィは、少年をお姫様抱っこし翼を広げる。
「フフ……フフハハハハ!! いかん、いかんぞそれはァ! よしキルト、駆け落ちだ! どこか遠い大地で二人っきりの生活を送るのだ! いざ行かん、二人の楽園へと!」
「うわわわわ、ちょ、待っ……た、助けてー!!」
「ああっ、キルト! チッ、あのクソ【ピー】やってくれたわね。みんな、追いかけるわよ! 取っ捕まえてキルトを取り戻すわ!」
「やれやれ、ウチら結局こうなるんやな。ま、その方が賑やかでええけど!」
窓をブチ破り、愛の逃避行を謀るルビィ。そんな彼女を追うべく、エヴァは仲間たちに号令をかける。
「まったく、もう……お姉ちゃんったら。でも、もう少しだけ二人っきりでもいいかも。お姉ちゃんは僕の大切な……魂の伴侶だもんね!」
「ああ、我らの絆と愛は不滅だ! 死でも分かつことは出来ぬ、オリハルコンよりも硬いからな!」
青空の下を飛びながら、ルビィはキルトと微笑み合い……再び唇を重ねる。一人の少年と一頭の竜の出会いから始まった物語は、幕を下ろした。
だが、それで全てが終わるわけではない。彼らの日常は、これからも続いていく。そして、いつの日か再び始まるのだ。
捨てられ召喚師とその伴侶たるエルダードラゴン。彼らの仲間たちによる……新たなる英雄譚が。




