300話─心に宿る切り札
少しして、最終形態となったシャグニが姿を現す。キルトの前に現れたのは……純白の鎧を着たフィニスそのものの姿となった堕天使。
かつて数多の並行世界を滅ぼし、終焉の者と恐れられた存在が目の前にいる。キルトもルビィも、心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚えた。
「その姿は……!」
「これまで我は、貧相な子どもの姿でしかいられなかった。だが……タナトスの生み出した装具によって! 我はフィニスそのものになったのだ! フフフ、ハハハハハ!!」
『何を言う、所詮見た目だけを模倣しておるだけだろうが! 我には匂いで分かるぞ、どれだけ外見を取り繕おうがムダだ!』
「ムダではないさ。この姿になれば、ほら。こんな風にお前を叩きのめせる」
『タイムコマンド』
「また加速……うぐあっ!」
再び時を加速させ、シャグニは素手でキルトを叩きのめす。かつてフィニスがジェムの制御に用いた、アブソリュート・アームを模した篭手が鎧を破壊していく。
「う、ううう……」
『キルト……ぐっ、まずい。我にもダメージが……』
「虫の息だな。案ずるな、寂しくはないぞ。貴様が死んだ後で、仲間のカードを墓標代わりに突き刺してくれる!」
「そうは……させ……う、がはっ!」
シャグニの鉄拳が振るわれ、キルトに直撃する。上半身を守る鎧が完全に砕け、半裸になった少年は吹き飛び壁に激突した。
ズルズルと崩れ落ちながら、命の灯火が消えていくのを感じるキルト。ルビィもダメージが伝播し、苦しそうに呻いている。
「おねえ、ちゃん。まだ、生きてる……?」
『ぐ……ゴホッ。なんとか、な。だが……流石にまずいぞこれは。次の一撃を食らったら……共に死ぬ』
「負けなくない、負けたくないのに……ダメなんだ。あいつには勝てないって、本能で分かる。僕の力じゃ」
『諦めてんじゃないわよ、キルト! アタシたちの力を使って! サモンカードに封印されたからこそ出来ることがあるはずよ!』
もはや虫の息のキルトは、すっかり闘志が消えてしまう。全てを諦めかけたその時。封印され、床に落ちたカードの中からエヴァの声が響く。
『そうだ、私たちが封印されたのはただのサモンカードではない。契約のカードなんだ』
『キルト、今こそレボリューションするんや! ウチらが力を合わせれば、きっと奇跡を起こせる! あいつを倒せるはずやで!』
「エヴァちゃん先輩……フィリールさん……アスカちゃん。……そうだね、諦めるのは……まだ、早いや。最後の切り札が……残ってるもの!」
「まだ立つか、ムダだというのに。我には勝てぬ、貴様ではな!」
仲間たちの言葉を受け、キルトはもう一度闘志を燃やす。ゆっくりと立ち上がり、冷笑するシャグニを睨みながらレボリューションのカードを取り出す。
「ムダなんかじゃない! 僕たちは奇跡を起こしてみせる。お前を倒すことが出来る、とびきりのをね!」
『ああ、そうだ! 行くぞキルト、レボリューションだ!』
「うん! みんな、僕に力を貸して!」
【REVOLUTION】
キルトがレボリューションのカードをサモンギアにスロットインした、次の瞬間。床に落ちていたカードが浮き上がり、キルトを囲んで回転し始める。
『EVANGELINE』
『PHILIR』
『ASUKA』
『WON』
『DOLT』
『PRIMICIA』
『IGOR&MELISSA』
『ARIEL』
『SAUR』
『REDONIS』
『MU』
『HELGA』
『BION』
一枚ずつ、仲間たちが宿る『契約』のカードがキルトと融合していく。その度に、サモンカードから音声が流れ……少年の身体を黄金の鎧が包む。
「なんだ……? 何が起きている? これは一体なんなのだ?」
「言ったでしょ? シャグニ。僕たちは奇跡を起こしたんだ。お前を倒すための、特大の……」
【Re:ULTIMATE ENGAGE MODEL】
「──奇跡を!」
エヴァたちを一時的に本契約モンスターとすることで、キルトは奇跡の変身を果たした。姿こそオールエンゲージモデルと同じだが、その強さは同じではない。
内に宿る仲間たちの力が流れ込み、少年を強くしているのだ。胸に手を当て、キルトは微笑む。もう、何も怖くないと。
『ひゃー、ホントに奇跡が起きるなんて! 意外と快適じゃない、キルトの中って』
『ええい、もっと離れろ! ぎゅうぎゅう詰めではないか、狭くて適わんぞ!』
『そうは言っても、どこに行けば』
「フン、くだらん。仲間と起こす奇跡だと? そんなものは絶対の力の前では無意味だということを教えてやる!」
『ブレイクコマンド』
エヴァやルビィ、ドルトがぎゃあぎゃあ言い合っているなかシャグニが動く。破壊の力を両手に宿し、再び鎧を砕くつもりだ。
『キルト、案ずるな。オレとフィリールの守りの力を使え。そうすれば、どんな攻撃にも耐えられる!』
『そうだ、私たちを信じろ! 大丈夫、必ず防いでみせる!』
「ありがとう、ウォンさんにフィリールさん。僕は信じるよ、みんなのことを心から!」
【セイバーコマンド】
キルトは新たに追加された自動装填機能を使い、一新されたサモンカードの力を呼び覚ます。黄金に輝く両手剣を召喚し、シャグニを迎え撃つ。
「来い! この『ブラザーバンドセイバー』で相手してやる!」
「面白い、肉体だけだなく魂も破壊してやる! チリになるがよいわ!」
剣を構えるキルトに、シャグニが迫る。破壊の力を宿した拳が叩き込まれる……が、鎧は砕けない。ウォンとフィリールの力が働いているのだ。
「バカな!?」
「驚いた? これが僕たちの……絆の力だ!」
【ブーストコマンド】
「食らえ! ゴルディオンスラッシャー!」
「ぐうっ! おのれ、我を舐めるな!」
サモンカードの力で身体能力を強化し、斬撃をブチ込むキルト。シャグニの胸を切り裂き、ついに反撃の狼煙を上げた。
仲間たちの力も加わり、悪しき堕天使に斬撃の嵐を叩き込み後退させていく。が……攻撃が効いてはいても、致命傷には至らない。
『キルト、あいつアブソリュート・ジェムで致命傷を食らわないようにしてやがるぞ。どうする、このままじゃ膠着状態を崩せないぜ』
「大丈夫だよ、レドニス。僕にはまだ、奇跡を起こす力があるから」
『A miracle…… huh? Well, let me show you more. The miraculous power that will lead to victory will be born when we join forces!(奇跡……か。そうだな、もっと見せてやろう。我らが力を合わせることで生まれる、勝利を導く奇跡のパワーを!)』
『うん、やっちゃおキルトくん! ボクたちの魔力、どんどん使っちゃって!』
シャグニを攻撃しつつ、キルトは仲間たちとやり取りを行う。そして、第三のサモンカードを発動させる。
【ミラクルコマンド】
「ん? ハハハ、何も起こらないではないか! 警戒して損したな、奇跡はそう何度も起きぬのだよ!」
「何も起きてない? 違うね、これから起きるのさ。このミラクルコマンドは、僕の望んだ力を持つサモンカードを生み出すんだよ。今生まれるんだ。お前を倒す切り札が!」
【J:SPIRIT】
発動直後、何も起きない。そのことを指摘しあざ笑うシャグニだったが、少し遅れて響いた音声に眉をひそめる。
生み出されたのは、今この瞬間にしか存在しない奇跡のアブゾーブカード。このカードによって、キルトの中に新たな魂が宿る。その魂の持ち主は……。
『……なんだ、キルト。ついさっき会ったばかりだろう。オレの力が必要なのか?』
『カトラ!? お前……そうか、キルトさんに呼ばれたのか!』
『まさか、こんな形で会えるなんてな。俺、嬉しくて泣きそうだぜ』
カトラだった。サウルとレドニスは喜ぶも、エヴァたちも含め何故彼の魂が呼ばれたのか理解出来ずにいた。キルトの真意は……。
「カトラ、君の体内には対フィニス用の力が埋め込まれていたんだよね!? それを僕に貸して!」
「なっ……貴様、まさか!?」
「そうさ、シャグニ。フィニスの魂のカケラから生まれたお前にぶっ刺さるんだよ。カトラの持つジョーカーの力が!」
『なるほど、そういうことか。ならば受け取れ、かつて我らの世界を破壊したフィニスに! 一矢報いてやるために!』
かつての戦いで苦しめられた、ジョーカーの力。元はフィニスとの再戦を想定して創られたその力を、借り受けるのが目的だったのだ。
キルトの狙いを理解したカトラは、己の持つ力をキルトに与える。自分たちの世界を蹂躙したフィニスの代替品たる、シャグニを葬るために。
【OPEN JOKER】
「チイッ、させぬぞ! 今こそ時を巻き戻してくれる! 再び絶望を味わえ!」
『そうはいかぬ。我々は二度とフィニスに敗北しないように、この力を生み出した。キルトよ! ジョーカーの力でアブソリュート・ジェムの効果を打ち消してやれ!』
「うん! 食らえシャグニ、アンチジェム・オーラ!」
カトラの言葉を受け、キルトは自身の身体から虹色の波動を放つ。直撃を受けたシャグニに、異変が起こる。ジェムの力が消え、時の巻き戻しが不発になったのだ。
「ば、バカな!? こんなことが……こんなふざけたことが起きるわけがない!」
「いいや、起きるさ。僕の中に宿る、大切な仲間たちという切り札が! この奇跡を起こしてくれたんだ。シャグニ、今度こそお前を葬る! 覚悟しろ!」
【アルティメットコマンド】
「ふざけるな……我は滅びぬ! 新たなるフィニスとして! 全てを滅ぼすのだ!」
【アルティメットコマンド】
キルトとシャグニは、同時に奥義を発動する。直後、キルトはおおきく跳躍し自身と剣を融合させ……自らを巨大な剣へと変えた。
『食らえ、僕たちの絆の奥義を! ブラザーバンド・グランソード!』
「そんなもの滅ぼしてくれる! アブソリュート・ストリーム!」
剣となったキルトが落下するなか、シャグニは左腕に七つのジェムの力を蓄える。パンチを放つように腕を突き出し、純白のレーザーを放った。
『そんなもの、我らの力の前には無意味!』
『教えてあげるよ、読者くんと私たちの力をね!』
『いっけー! とつげーき!』
『悪い子にはお仕置き! だよー!』
『今、マスターと共に……悪を討ちます!』
『ハッ、こういうのはガラじゃねえが……やってやるよ、全部終わらせてやる!』
『うん、行こうみんな! これで……終わりだぁぁぁぁぁぁ!!!』
ルビィにエヴァ、フィリール。アスカやウォン、ドルトにプリミシア……イゴールとメリッサ、そしてアリエルにミュー。
サウルとレドニス、ヘルガにバイオン……カトラ。全員の力を束ね、キルトはレーザーを切り裂きながら突き進んでいく。
そして……黄金に煌めく刃が、ついに堕天使を貫きその魂に致命傷を刻み込んだ。シャグニの断末魔の叫びが、玉座の間にこだまする。
「ぐ……がああああ!! バカな……我も、たどるというのか。フィニスと同じ……滅びの、運命……を……」
「そうさ、お前は負けたんだ。たった一人じゃ、勝てないんだよ。究極の絆で結ばれた僕たちにはね」
シャグニが消滅し、アポリオンギアが砕け散った。直後、キルトの変身が解除され、封印されていた仲間たちが復活を遂げる。
「やったわ! ありがとうキルト、これで……!?」
「な、なんやこの揺れ!? もしかして、この城崩壊するんちゃうか!?」
喜びも束の間、髑髏城が崩壊し始める。巻き込まれれば、永遠に次元の狭間を彷徨うことになるだろう。急ぎ脱出しようとするキルトたちの側に、門を模したタワーシールド……界門の盾が現れた。
「無事勝てたようじゃな、早くこっちへ! 急がぬと大変なことになるぞ!」
「アイージャさん!? どうしてここに!」
「タナトスが援軍に呼んだ、渡りの六魔星の連中の足止めを一族総出でしておったんじゃよ。連中はもう撤退したから安心せい。ま、被害は出たがの……」
開いた門の向こうから、ボロボロになったアイージャが顔を見せる。彼女たちも、使命を果たしたようだ。門の向こうには、イシュナルギが見えた。
「よし、帰ろうみんな! 僕たちの故郷……メソ=トルキアに!」
「おおー!!」
キルトたちは門を潜り、イシュナルギに乗り込んで髑髏城から退避する。激闘に終止符が打たれ……英雄たちは、故郷へと凱旋していくのだった。




