296話─【謀略星】のタナトス
戦いが始まってから数十分。最初、キルトは三人がかりならタナトスを倒すのは容易だと考えていた。だが、それがいかに甘いものだったかを思い知らされることになる。
「強い……まだ一枚目のカードしか使ってないのに、ここまで追い込まれるなんて……」
「フフフ、当初の余裕など吹き飛んでしまったかな? そんなキルトに一つ教えてあげよう、私のサモンギアは旧仕様……その中でも型落ちの品。使えるカードはこのサイスコマンド一枚だけだ」
『我らに対するハンデのつもりか? どこまでも舐めてくれおって、腹が立つな!』
消耗したキルトに、タナトスはそう告げる。ルビィが苛立つなか、返り討ちにされたヘルガが吹っ飛ばされてきた。
「ぐっ! チッ、奴め……こんな実力を隠し持っていやがったか。イライラするぜ……これだけ強えのに自分はこれまで戦わねえなんてよ」
「That person is right. Thanatos, couldn't you have annihilated the Guardians of Summoners if you had gotten serious sooner(あの者の言う通り。タナトスよ、お前自身がもっと早く本気を出せばガーディアンズ・オブ・サモナーズを殲滅出来たのではないのか?)」
新たに召喚した大鎌を振るい、バイオンと斬り結ぶタナトス。相手からの問いに、反撃を叩き込みながら淡々と答えた。
「その答えは一つ、この瞬間に至る前の私の目的はキルトたちの殲滅ではないからだ。アポリオンギアを完成させるためには、膨大な戦闘データがいる。洗練されたサモンマスター同士のものがな」
「そのデータを得るために、これまで僕たちの元にたくさんのサモンマスターを送り込んできたのか!」
「ああ、そうとも。そのおかげで私は、アブソリュート・ジェムの力をサモンカードで再現可能に出来る領域に至り……我が主より拝命せし任務を! 誰よりも先に達成出来たのだ!」
「Mug…… Nuo!(むぐ……ぬおっ!)」
キルトの言葉に頷きつつ、タナトスはバイオンを弾き飛ばす。空中で回転し、態勢を整えて着地したバイオン。
多少スタミナは消耗したが、まだまだ気力も体力も十分。キルトやヘルガも、ネバーギブアップの精神で死神に立ち向かう。
『貴様の使命など知ったことか! ここで貴様の首を獲り、あのサモンギアを破壊すれば無に帰すからな!』
「いいや、無に帰すことなどない。キルトよ、お前なら嫌というほど知っているだろう? 私の用意周到さを」
「もちろんさ、どうせあのサモンギアは複数作ってあるんでしょ? そのうちの一つはもうお前の主に献上済み……ってとこかな! コキュートススラッシャー!」
「むんっ! その通り、私の計画に抜かりはない。ここでお前たちに倒され絶命しても、何の問題もないのだよ。とはいえ、無抵抗で首をくれてやるつもりは無いがな! サークルディスパイド!」
「ハッ、全方位攻撃はいいがよ……足下がお留守だぜ死神さんよ!」
タナトスの放つ回転斬りを、バックステップで避けるキルト。そんな彼とは対照的に、ヘルガは大鎌の下を潜り抜けて相手の脚を狙う。
短剣による一撃がヒットし、鮮血が散る。呻き声を漏らしつつ、タナトスは容赦ない蹴りをヘルガの顔面に叩き込んで吹き飛ばす。
「うぐっ……!」
「ヘルガさん! タナトス、よくもやったな!」
「It's barbaric to hurt a lady's face. I'll punish you, so be prepared!(レディの顔に傷を付けるとは野蛮なものだな。仕置きをしてやる、覚悟しろ!)」
「いいだろう、来い! 二人纏めて相手をしてやろうではないか!」
再びヘルガが戦線離脱し、キルトとバイオンが二人がかりで猛攻を加える。魔力を流して強化した大鎌を振るい、タナトスは攻撃を捌く。
「ていっ! ハッ! おりゃあああ!!」
「ふむ、実に素晴らしい剣の腕だ。お前は強くなったな、キルト。ウォーカーの一族の最高幹部たる私とここまで斬り結べるのだから」
「そんなこと言って、お前はまだ本気を出していないだろ! 動きで分かるよ、お前がだいぶ手を抜いてるってね!」
『フン、どこまでも我らをコケにしおって! いい加減本気を出したらどうだ!?』
「その必要はない。私はすでに本懐を成し遂げ満ち足りているからな。はっきり言って、ここで敗北し死んだところで大勢に影響はないのだよ」
「In that case, let's take that head!(そうか、ならばその首は私たちがいただくとしよう!)」
『energy command』
すでにタナトスは、フィニスの代わりとなるアポリオンギアを主に献上している。三百年前に課せられた使命を果たした彼にとって、この状況は余興に過ぎない。
例え敗れて死んでも、すでに勝っているのだから何も憂いることはないのだ。そんな彼を相手に、バイオンは第三のカードを使う。
「自己強化のカードか。面白い……では、キルトの要望に応えて少し本気を……むっ!」
「よお、さっきはよくもやりやがったな。お返しに次はお前の仮面を砕いてやるよ。そのツラを晒しな!」
ダウンしていたヘルガが復活し、三人総出での逆襲が始まる。が、最初の時のようにタナトスを吹き飛ばすまでには至らない。
渡りの六魔星としての実力の片鱗を覗かせ、より精密でパワフルな鎌捌きでキルトたちの攻撃を全く寄せ付けないのだ。
「強い……! まだ底が見えない!」
「私は【謀略星】のタナトス。これでも純粋な実力は六魔星の中でも下から数えた方が早いくらいなのだぞ? 戦闘能力より頭脳にスペックを割いているからな」
「そう、素敵な情報ありがとね! でも、そろそろこの戦いを終えさせてもらうよ。僕たち三人の奥義を使ってね! とりゃあっ!」
「ぐっ……!」
激しい戦いの中で、キルトは直感で悟る。相手はまだ、真に全力を発揮していない。もしフルに力を発揮されれば、勝ち目はゼロになる。
ゆえに、相手が慢心を捨て去る前に息の根を止めようと決意した。鋭い突きを放ち、タナトスを吹き飛ばしてからデッキホルダーに手を伸ばす。
「ヘルガさん、バイオン! タナトスにトドメを刺そう! あいつに思い知らせてやるんだ、今この場で負けることが後々大きく響くってね!」
「I got it. This Bion, use your secret techniques with all your heart and soul. And……I will defeat Thanatos(心得た。このバイオン、全身全霊で奥義を使おう。そして……タナトスを討つ!)」
「へっ、いいぜ。だいぶ暴れられたからな……そろそろ終わりでも満足だ」
「よし、やろう!」
【アルティメットコマンド】
『ultimate command』
『コピー・アルティメットコマンド』
死神を討ち滅ぼし、全てを終わらせる。強い決意を込め、キルトたちは奥義を発動した。立ち上がったタナトスは、一切抵抗せず竜のオーラを食らい拘束される。
「フ、来るがいい。私を滅ぼしてみせろ!」
「言われなくてもやってやる! 食らえ、アウロラルスターシュート!」
「ククク、その奥義……使わせてもらうぜ! ハッ!」
「Take it, my secret technique! Infinite Kick Cast!(受けてみよ、我が秘技を! インフィニット・キックキャスト!)」
「ぐ……ぬおおおおおお!!!!」
キルトたちの奥義が炸裂し、死神を貫く。首から下が凍結し、三人の蹴りによって粉々に砕かれる。首だけになったタナトスは、床を転がる。
「フ、フフ……。素晴らしい、私を倒すとは。あのお方が在る限り、何度でもよみがえることが出来るとはいえ……死というのはもどかしいものだ」
「何度でも生き返るって? それはよかった、お前が復活する度に何度でもぶっ殺してやれるからね!」
『ああ、その通りだキルト。さて、そろそろ絶命させてやる。紅蓮の炎で焼かれるか青き冷気に凍らされるか好きな方を選ばせてやるぞ』
「その前に……見せてやろう。最後のサプライズを。今ここに、アポリオンギアの使い手を呼ぶとしよう。さあ、来るがいい! 【終焉の者】フィニスの砕け散った魂よ!」
「なにっ!?」
タナトスが叫ぶと、どこからともなく紫色に輝く人魂が現れる。キルトたちが驚くなか、人魂は空中に浮かぶサモンギアが入ったカプセルと融合し始める。
「フィニス戦役にて、かの者が滅んだ時……その魂は、アブソリュート・ジェムの力で数百の欠片……『魔魂片』に砕けた。そのうちのいくつかを回収し、保管していた。有効活用出来る時が来るまで」
「フィニスの、魂の欠片……。とんでもないものを持ち出してきたな、流石の僕も驚きだ」
「さあ、見るがいい。究極のサモンマスターが誕生するしゅんか──!?」
『モウイイ、オ前ハ用済ミダ。イズレ復活スルノダロウ? ナラモウ喋ラズ死ネ。ソノ声ハ不愉快ダ』
嬉々として語るタナトスの頭を、カプセルから放たれた雷が貫いた。断末魔の叫びすら口する暇もなく、死神は絶命し消滅する。
キルトたちが身構えるなか、紫色のもやに包まれたカプセルから不気味な声が響く。今、生まれるのだ。最強最後のサモンマスターが。
『我ハ魔魂片シャグニ。終焉ヲモタラス者、フィニスノ魂ヨリ生マレシ者。……新タナル世界ノ破壊者ナリ』
「フン、かなりヤベえオーラを放ってやがるな。このオレが武者震いさせられるたぁな……」
「My instincts are telling me. We must not allow him to be born! He will destroy you before you are even born! Haa!(私の本能が告げている。奴を誕生させてはならないと! 生まれる前に滅ぼしてくれる! ハアッ!)」
『ムダナコトダ。モウ止メラレナイ。最強ノサモンマスターノ誕生ハ!』
『サモン・エンゲージ』
本能が鳴らす警鐘に従い、バイオンは跳躍してカプセルごと魔魂片を破壊しようとする。が、その直後。サモンギアが起動し、金と銀の波動が放たれた。
その直撃を食らい、キルトたちは吹き飛ばされる。カプセルが砕け散り、その中から……金と銀に彩られた、八枚の翼を持つ堕天使が生まれ落ちる。
「もう一度名乗ろう。我が名は魔魂片シャグニ。またの名を……サモンマスターアポリオン」
そう口にした後、どこかリオの面影を残す少年の姿を得た魔の魂は笑う。本当の最終決戦が、始まる。




