294話─殺人鬼に裁きを!
「さあ、死になさい。抵抗しなければ楽に息の根を止めてあげますよ……デストライルドリラー!」
「嫌だね、お前なんかにくれてやるほど僕とルビィお姉ちゃんの命は安くないんだ! ブリザードミラージュ!」
大部屋の中で、キルトと亮一の死闘が続く。回転する槍身を避け、コキュートスカリバーの刃から吹雪を放つキルト。
「むっ……!」
「食らえリョウイチ! アッパードコキュートススラッシャー!」
相手の視界が遮られた隙を突き、懐に飛び込んで一撃を見舞う。渾身の一撃がクリーンヒットした……ものの、たいしたダメージにならない。
亮一の身に着けている鎧の表面が波打ち、斬り裂かれるのを防ぎつつ衝撃を吸収しているのだ。嫌な手応えを覚えたキルトは、即座に飛び退く。
「これは……刃に着いてるのは、血?」
「ええ、その通り。この鎧には、これまで私が殺してきた者たちの血が染み込んでいるのですよ。その血が私を守っているのです、皮肉なものでしょう? かつて命を奪った者に使役され、鎧として……おっと!」
「やっぱりお前は最低のクズだね、ボルジェイより酷いよ。お前がニホンにいた頃、何をしてたのかアスカちゃんに聞いた。……本当に許せない!」
『ちょうどいい、キルトよ。かつてこやつが命を奪った者たちの弔いもしてやろう。奴の首を獲ることでな!』
「うん、そうしよう! あいつはもう、これ以上生かしてはおけない。絶対にここで倒す!」
魔力を用いて作った氷のナイフを放ち、亮一を牽制するキルト。得意気に邪悪な言葉を語る相手に怒りを燃やし、剣を構える。
この時、刀身に付着した血が少しずつ刃を侵食していることにキルトは気付いていなかった。が、代わりにルビィがそれを悟っていた。
(む、刃が少し変だな……。なるほど、奴の鎧の血のせいか。……ん? 待てよ。これを利用すれば、リョウイチを仕留められるやもしれん。よし!)
何かを思い付いたルビィは、キルトが戦いに集中出来るようコッソリと魔力を刃に注ぎ込む。その間に、キルトは亮一に躍りかかる。
「食らえ、フィリールさんとの特訓で編み出した技を! フリージングダンス!」
「おっと、まさに踊るかのような連続攻撃ですね。実に素晴らしい……ですが、この程度捌くのは簡単なのですよ!」
「へえ、そうなんだ? じゃあこれはどうかな!」
「なっ……ぐうっ!」
剣舞のような美しい動きで、鮮やかな連続攻撃を仕掛けるキルト。対する亮一も、大剣とランスを巧みに振るい防御を行う。
そんななか、キルトは相手の不意を突いて左手用の氷の曲刀を作り出す。突如二刀流になったのに対応仕切れず、亮一は脇腹を斬り裂かれた。
「ふふん、どう? 二刀流の手ほどきも受けたんだよ、驚いた?」
「やってくれましたねえ。……そうそう、古代の地球にはハムブラビ法典というものがありましてね。そこにはこう記されています。目には目を、歯には歯を。君の脇腹も、同じように斬り裂いてあげますよ! キリングタイフーン!」
「!? 刃が回った!?」
鎧の効果により軽傷で済んだものの、出し抜かれたことが気に食わないらしい。亮一はそんなことを口にしつつ、大剣の刃を高速回転させる。
「さあ、食らいなさい!」
「くっ! まずいね、あれを迂闊に受けたら本当に斬り刻まれちゃう! さて、どうしたものかな……」
「どうもこうもありません。君はここで死ぬのですよ!」
今度は一転して、キルトが防戦に回る。普段ならここでルビィが助けに入るが、今は打倒亮一の仕込みをしていて手が回らない。
ルビィが全く反応しないことから、何かをしていることを悟ったキルトは邪魔にならないよう、自分の力だけで立ち向かうことを決めた。
「何度も言ってるけど、死ぬつもりなんてない! これでも食らえ!」
『サポートコマンド』
亮一の攻撃をバックステップで避けた後、キルトは赤茶色の平べったいスライムが描かれたカードを取り出してスロットインする。
すると、亮一のすぐ目の前の床にスライムが出現した。たかがスライム如き、と侮った亮一が気にすることなく一歩を踏み出すと……。
「むーにゅ!」
「なっ、これは!?」
「どう? 凄いでしょ、このバブルガムスライムは。一度引っ付いたら簡単には剥がれないよ! これでしばらくは動けないね!」
「くっ、剥がれない……!」
非常に強い粘着力を持っているようで、スライムを踏んだ亮一はその場から動けなくなってしまう。今がチャンスとばかりに、攻撃しようとするキルトだが……。
「もう悪さ出来ないように両腕を切り落としてやる、覚悟しろ!」
「ふふふ、残念でしたね。私にはまだ使えるカードがあるのですよ!」
【グラッジコマンド】
「うっ……!?」
亮一はランスを捨て、第三のサモンカードを取り出す。睨み付ける無数の目が描かれたカードを読み込ませた瞬間、キルトの意識が遠のく。
次の瞬間、気が付くとキルトは深い闇の中にいた。ルビィとの交信も出来ず、どうしたものかと考えていた……その時。
「待って、いたぞ……キルト。お前が来るのを」
「お前はゾーリン!? それにクレイたちまで……!」
「ここには、お前に殺されたサモンマスターの亡霊たちが大勢いる……。お前を地獄に引きずり込むためになァァァ……!!!」
闇の中から、これまでキルトが打ち破ってきたサモンマスターたちが姿を現す。ゴーム、クインビー、ケルベス、フォールン。
ジャスティスにオーヴァ、コレクト、Ω-13の精鋭たち……そしてフェルガード帝国三将とボルジェイ。彼らがキルトに纏わり付き、地獄に落とそうとする。
「うわ、このっ! 離れろ、纏わり付くな!」
「ムダだ、オレたちはお前への恨みがある限り消えることはない。地獄に落とすまでお前を苦しめてやるぞキルト!」
「うぐあっ!」
キルトは剣を振るい抵抗するも、亡霊たちに攻撃が効かず捕まってしまう。万力のようなパワーで掴まれ、全身の骨が軋む。
このままでは全身をバラバラにされてしまう……とキルトが焦るなか。三つの人影が闇から現れ、ゴームたちを蹴散らしていく。
「オラッ、それ以上はやらせねえ! 全員虚空に消えろ!」
「お前……ティバ!?」
「オホホホ、アタシもいるわよんキルト。久しぶりねェ、あんたイイ男になってきたじゃない」
「……苦戦しているようだな。手助けしてやる」
「ネヴァル!? それにカトラまで!」
「貴様ら、どういうつもりだ! 貴様らもキルトに殺され恨みを募らせているはず! なのに何故奴を助ける!」
かつてキルトと死闘を繰り広げ、散っていった敵たちが手助けに入る。それをボルジェイが咎めると、ティバが鼻で笑う。
「恨み? そんなもんはとっくに消えたよ。キルトはな、オレの最期の願いを叶えてくれた。その恩に報いるのがオレの流儀だ!」
「ええ、ボルジェイ様に刃向かうのは気が引けるケド。ビューコックのためにアタシたちのお墓の結界を強化してくれたんですもの。そのお礼をしなきゃオンナが廃るワ」
「……死したのち、サウルとレドニスのことが気がかりだった。俺とティアがいなくなって、生きていけるのかと。だが……キルトはそんな未練を消してくれた。敵だった二人を仲間として迎え入れ、新しい生き方を教えてくれた……」
「みんな……」
それぞれ理由は違えど、キルトを救うため集ってくれたのだ。ティバたちの手により、恨みを募らせた亡霊たちが消滅していく。
「おのれ……ぐああっ!」
「……片付いたな。行け、キルト。生者の世界へと舞い戻れ。そして、死者をもてあそぶあの男を滅ぼせ」
「大丈夫だ、お前ならやれる! そうだろ、ネヴァル」
「ええ、アタシたちが保証するワ。ほら、ゲートを作ってあげる。行きなさい、キルト!」
「ありがとう、三人とも。……カトラ、サウルたちは夢と生きがいを見つけたよ。だから、心配しないで」
「……ありがとう。それを聞けて俺は満足だ」
闇から抜け出すための門を作り、キルトを見送るティバたち。言葉を交わした後、キルトは走り出す。門の向こうへと。
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「ふう、ようやくスライムが剥がせました。さて、キルトの魂はもう亡霊たちに滅ぼされた頃で」
「残念、僕は死んでないよ。戻ってきたよ、リョウイチ!」
「!? バカな、あの闇から戻れるはずがない! お前に恨みを抱く亡霊たちがひしめいているのに!」
現実世界では、ようやく亮一がスライムを剥がし動けるようになっていた。ランスを拾い、キルトにトドメを刺しに行こうとしたその時。
意識を取り戻したキルトを見て、驚愕の声を出す。そんな相手に、キルトはニッと笑いながら語りかける。
「そうさ、確かに僕を恨んでる亡者がいっぱいいた。でもね、僕を助けてくれる亡者たちもいた……それだけのことさ」
『キルト、マタセテ済まない。ようやく奴の息の根を止める準備が整った、いつでも奥義を出してくれていいぞ!』
「わ、ビックリした! お姉ちゃん、今までだんまりだったけど何してたの?」
『ふふふ、奴の血を逆に侵食してやったのだ。見てみろ、リョウイチの鎧を』
「何を……これは!?」
ルビィの言葉を受け、ふと鎧に違和感を覚える亮一。見下ろすと、鎧が紅色から青色に変わり凍り付いたように固まっていた。
『我の魔力を使って、貴様の血を凍結させた。これでもう、キルトの攻撃を軽減出来ぬ! さあ、あの世に行くがいい!』
「そうはいきません、私はまだまだ多くの命を奪わねばならないのですよ! 返り討ちです!」
【アルティメットコマンド】
「来い、お前なんかに絶対負けない!」
【アルティメットコマンド】
キルトと亮一は、同時に奥義を発動する。亮一はレボリューションにより姿の変わった相棒『キルスレイブ』を召喚し、己自身と融合させる。
「食らいなさい! 奥義、キリングトルネイド!」
「負けない! アウロラルスターシュート!」
黒い炎が渦巻き、亮一を包む。炎の竜巻となった亮一と、ルビィの力を宿したキルトがぶつかり……。
「うおりゃあああああ!!」
「ぐ、バカな……! リジェネレイトとレボリューション、力は互角のはず! なのに何故、私が押されて……」
『何故か教えてやろうか? それはな、貴様の悪意なんぞよりも! 我とキルトの絆の方が強いからだ!』
「そうさ! タイドウリョウイチ、お前の悪意にまみれた人生もここまでだ! てやあああああ!!」
「う、ぐあああああ!!」
真正面からのぶつかり合いを制し、キルトは炎の竜巻ごと亮一をブチ抜く。断末魔の叫びを残し、亮一は物言わぬ氷像へと成り果てた。
そのまま床に墜落し、衝撃で粉々に砕け散る。長きに渡ってキルトたちを苦しめた殺人鬼は、ついに断罪され……今、その人生に幕を下ろしたのだった。




