290話─いざ、決戦の始まり
「……よし、口の部分に接岸出来たね。タラップを降ろそう、いよいよ殴り込みだ!」
『うむ、再変身でカードも万全……今こそタナトスを討つ時! いざ出発!』
サモンマスターエンティティを沈黙させ、あんぐり開いた髑髏城の口にイシュナルギを横付けさせたキルトたち。
タラップを降ろし、ついに敵の拠点に乗り込んだ。人で言えば喉の奥の部分に、サモンカードを模した両開きの巨大な扉があった。
「みんな、気を付けて。ここから先は何があるか分からない。ほぼ確実に罠が張ってあるよ」
「ええ、そんなのは百も承知よ。ここまで来て尻尾巻いて逃げるなんて、そんなことはしないわ。全部ぶっ壊してやるわ、タナトスの城も野望もね!」
「ああ、奴のせいで多くの動乱が起き……失われずともいい命がいくつも消えた。騎士の誇りに賭けて、必ず奴を倒す!」
「せや、ウチと家族の運命もタナトスに狂わされた。このドデカい借り、ノシ付けてたぁぁっぷりお返ししてやらな気が済まへん!」
大扉を前に、エヴァとフィリール、アスカが意気込みを語る。続いて、ウォンやドルト、プリミシアたちもそれに続いた。
「そうだな、だがそれ以上に……これは守るための戦いでもある。大切な故郷を、そこに生きる人々を……希望に満ちた明日のために」
「流石ウォン、いいことを言うな。……俺も気合いを入れないと。ミーシャをひとりぼっちにしないためにもな」
「……お父様。お母様。商会のみんな。ボクは必ず生きて帰るよ。そしてこの戦いを、正義のヒーローの叙事詩として末永く語り継……あいてっ!」
「こーら、せっかくいい感じだったのに私欲を挟まない! ま、私もマリアンナのために生きて帰るつもりさ。公務がたんまりあるからね」
四者四様の決意を述べるなか、イゴールとメリッサは目を閉じて静かに祈りを捧げていた。遙か遠い故郷にいる、両親に向かって。
「……おとーさん、おかーさん。僕たち、昔の二人みたいに頑張って戦うよ。二人が単眼の蛇竜ラ・グーを倒したように……」
「私たちも悪を倒すの! そしたら、いっぱいいーっぱい褒めてもらう! だから、私たちを見守っていてね……」
双子から少し離れたところでは、サウルとレドニスが小声で会話をしている。二人とも、普段以上に真剣な表情をしていた。
「レドニス、緊張してないか?」
「してない、なんて言ったら嘘になるな。してるさ、物凄く。……皮肉だな、もう一回死んでるのに死ぬのが怖くなるなんてよ」
「オレたちはクローンだけど、それでも……生きてるんだ。だから死を恐れてもいい。その恐れを力に変えよう、そして勝って帰ろうぜ!」
「ああ、そうだな!」
「……ヘッ、オレのやることは変わらねえ。どこに行こうがひたすら戦うだけだ」
唯一、ヘルガだけはいつもと変わらず獰猛な笑みを浮かべていた。ミューが一歩前に進み、腰を落としつつ深呼吸する。
直後、真っ直ぐに正拳突きを叩き込んで大扉を粉砕してみせた。予想外の行動に、キルトたちは口を開けて唖然としてしまう。
「いい発破になったでしょう、皆様。さあ、進みましょう。虎穴に入らずんば虎児を得ず……必ず手に入れましょう、勝利という虎児を」
「そうだね、ミュー。さあ、行こう!」
キルトが先頭に立ち、大扉の残骸を踏み越えて城の内部に入る。その直後、キルトの足下に黒、それ以外の者たちには白の転移魔法陣が現れた。
「! やっぱり罠が……うわっ!」
「キル……ひゃあっ!」
タナトスが事前に仕掛けていた罠により、キルトだけが別のところに飛ばされてしまう。手荒い歓迎に憤慨するエヴァたちだが、そんな時間はすぐになくなる。何故なら……。
「ふふふ。待ってたわよ、ガーディアンズ・オブ・サモナーズ。まさかΩ-13にモルド、サモンマスターエンティティを退けるなんてね」
「アンタは確か、新しいキルトのクローン……ってぇ多っ!? どんだけ増えてんのよ!?」
「驚いたぁ? この決戦に備えて、培養カプセルの中身を全・解・放! しちゃいました~。……ここで全員殺してあげる。私とオニキス、サモンマスタードラグナ軍団がね!」
飛ばされた先である大広間に、百人を超えるキルトのクローン……デミルことサモンマスタードラグナが待ち構えていたからだ。
凄まじい数の敵に囲まれ、ヘルガとミューを除いて思わず怯む一行。素早く周囲を見渡したミューは、解析の結果を仲間に伝える。
「魔力の波長を解析したところ、この者たちが持つデッキホルダーは一つを除いてダミーとなっているようです。たった一つの本物を破壊しない限り、全滅させるのは不可能なようですね」
「ほお、そりゃ面白え。やってやるよ、誰が一番キルスコアを稼げるか……競争だ!」
「あははは、こんな状況でよくそんなことが言えるわね! 行きなさい、私たち。奴らを殺してその首を! オリジナルに送り付けてやるのよ!」
「あら、そんなことさせないわよ。むしろアンタの首をズラッと並べてあげるわ!」
真っ先に飛び出したヘルガによって、エヴァたちの闘志に火が付く。最終決戦、次なる戦いは……大量のデミルたちとの血で血を洗う大乱戦だった。
◇─────────────────────◇
大乱戦が幕を開けた頃、分断されたキルトは一人薄暗い長い廊下を進んでいた。ルビィを相手に、ブツブツ愚痴をこぼす。
「はあ、いきなりやってくれるよねタナトスも。こんな初っぱなであんなケチな罠やってくるなんてさ」
『奴め、このまま我らを分断して各個撃破するつもりなのかもしれんな。全く、油断も隙も』
『アルティメットコマンド』
『なにっ!? キルト、来る!』
「不意打ちか……とことん卑怯だね!」
その時、どこからともなくサモンカードの発動音声が響く。直後、廊下の奥からコウモリ型のモンスター『ナイトヴィランテ』……そして、ソレに乗ったサモンマスタージャスティスが突撃してきた。
「久しぶりだな、ガキ! 死してなおよみがえったこの私の」
『ソードコマンド』
「うるさいよ、今更お前みたいな老いぼれなんかお呼びじゃないんだ! ドラグネイルスラッシャー!」
「ちょ、ま……うぎゃあ!」
久方ぶりにサモンマスタージャスティスことロージェの不快な声を聞いたキルトは、相手の勢いを利用して縦に真っ二つにぶった斬って瞬殺した。
ドルト裁判から始まる一連の老害ムーブを思い出し、チリになって消滅していくロージェにあっかんべーをする。
『流石キルト、今更再生サモンマスター如きなど相手にもならぬな。だが、これではっきりしたな。我らの相手は……』
「うん、サモンマスターグレイブヤード……タイドウリョウイチだね。あいつとの因縁も、ここでバッサリ斬り捨ててやらなきゃ。今度は仕留めてやる!」
「うむ、その意気だ! さっさと奴を倒して、エヴァたちを探そう。もし個々に分断されていたらまずい事態になりかねんからな」
「ネガに代わる僕のクローンも控えてるだろうしね。みんなが無事なうちに合流したいなあ……」
サモンマスタージャスティスを一刀両断したキルトとルビィは、廊下の奥へ向かって走り出す。その先に待ち構えている、宿敵を倒すために。
◇─────────────────────◇
「……はあ、面倒くさいなあ。なんでボクが動かなきゃいかないのかな。……なんてセリフは君の十八番だよね、モロク」
「仕方あるまい、【破戒星】よ。同胞たるタナトスからの要請があるならば出向かねばなるまい。同じ渡りの六魔星としてな」
一方、髑髏城の外に不穏な気配が二つあった。片方は、牛の頭部を持つ筋骨隆々の大男。もう片方は、眠そうなジト目をした虹色の髪を持つ少年。
どちらも、タナトスと同じウォーカーの一族の最高幹部。渡りの六魔星と呼ばれる存在だ。タナトスの要請に応え、援軍に来たのだ。
「さて、【堕落星】のモロクさんはどうやって……おや、この気配は」
「やはり現れたな、不遜なる星どもよ。お主らの狙いは分かっておる、妾たちがいる限りキルトらに手出しはさせんぞ!」
「おうおう、これはこれは。ベルドールの魔神たちが大集合だな! 数えるのも面倒だわい! バハハハハハ!!」
二人がイシュナルギを破壊しようとした、その時。次元の狭間に無数の界門の盾が現れ、一斉に開く。そこから、アイージャを筆頭とする魔神一族が飛び出した。
タナトスが仲間を呼ぶだろうと踏み、妨害の妨害をするため馳せ参じたのだ。
「ムダなのになあ。君たちの親分をボコボコにして負かしたのしってるでしょ? 数がいればどうにでもなると思ってるのかな?」
「ハッ、ほざくでないわ。妾たちの目的は貴様に勝つのではなく、仲間の援護に行かせないこと。そんな安い挑発なぞ聞く耳持たぬわ! 我が子、孫らよ! かかれ!」
「おおーーー!!!」
「……いいよ。じゃあちょっと遊んであげる。それくらいはいいよね、モロク」
「おう! 俺も身体を動かしたかったところだからなぁ、こいつらで準備運動といくか!」
髑髏城の中と外。二つの領域で戦いが始まる。その結末を知る者は……いない。
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