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286話─それぞれの決意・後編

 休息期間に突入してから、二日が経過したある日の午後。ドルトは妹のミュシャを連れ、シェンメックの街を散策していた。


「お兄ちゃん、つぎはあのお店いきたい!」


「ああ、いいぞ。今日も一日、ミュシャの行きたいところに連れてってやるからな」


「わーい! お兄ちゃん大好き!」


 彼はこの三日間、ずっと妹に付きっきりだった。もう二度と会えなくなるかもしれない。だから、出来るだけ妹の望みを叶えてあげようとしているのだ。


 散々買い物に付き合わされた後、おやつが食べたいとのオーダーを受けた。ドルトは頷き、いいお値段がする喫茶店へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ、お二人様でよろしいですか?」


「ああ、荷物がたくさんあるから広い席で頼むよ」


「かしこまりました、ではこちらの席へどうぞ!」


 流れるように席へと案内された二人は、たくさんの荷物を纏めて空きスペースに置く。洋服にアクセサリー、おもちゃ。


 ミュシャが欲しがったものは、値段に関係なく全部買い与えた。幸い、GOS(ゴッズ)のメンバーとして与えられた給料やメソ=トルキア大戦の褒賞金。冒険者の仕事で得た日当などで、金はいくらでもあった。


「ミュシャ、何が食べたい? これまであまりわがままを聞いてやれなかったからな、なんでも頼んでいいぞ」


「うーんとね、じゃあ……このジャンボパフェとパンケーキがいい!」


「はは、食いしん坊め。いいぞ、それにしようか」


 ドルトはチーズケーキとコーヒー、ミュシャは巨大パフェとパンケーキ、特大サイズのオレンジジュースの欲張りセットを注文する。


 少しして、運ばれてきたおやつを頬張る二人。幸せそうなミュシャを見て、ドルトは意を決して口を開いた。


「……ミュシャ。俺はキルトたちと一緒にタナトスとの決戦に行く。何が起きるか分からない、激しい戦いになるだろう。もしかしたら、俺が生きて帰れないかもしれない」


「お兄ちゃん……」


「もしもの時に備えて、シュルム様にお前のことを頼んである。……でもな、ミュシャ。俺はお前を置いて死ぬつもりはない。約束する、必ず帰ってくるよ」


 シュンとしてしまったミュシャの頭を撫でながら、ドルトは微笑む。何があっても、たった一人の家族のために生きて帰る。


 その強い意志に、不安そうにしていたミュシャは安堵する。そっと右手を差し出し、小指を兄に見せた。


「うん、やくそくだよ。わたし、いいこにして待ってる! だから、ぜったいに帰ってきてね!」


「ああ、兄ちゃんは必ず約束を守るよ」


 ドルトは自身の右手の小指をミュシャのソレに絡めて、指切りで約束をする。その瞳には、強い意志が宿っていた。



◇─────────────────────◇



「……ふう。なんとかお父様の説得が出来たよ。この三日間大変だったよぉ、ほんと」


「ふふ、お疲れ様だねぇプリミシア。私の方もマリアンナに泣き付かれてね。行かないでーってギャン泣きでさ……お互い苦労するよねえ」


 その頃、プリミシアとアリエルはアジトでお茶をしていた。二人とも、決戦への参加を認めたくない身内の説得にかなりの時間を費やしたようだ。


 そんな共通点があるからか、互いの苦労話に花を咲かせる。しばらく気苦労トークで盛り上がった後、プリミシアがアリエルに問う。


「ねえ、アリエルさんはさ。キルトくんのこと、どう思ってるの?」


「ん? ははあ、それはアレかい? 俗に言う恋バナってやつなわけだ。悪いね、私は君が期待してるような感情を読者くんには抱いてないよ」


「そうなんだ。ま、みんながみんなキルトくんに恋愛感情向けるなんてことないもんね」


「そうだねぇ、私の場合は……純粋に、技術者としての敬意を抱いているのさ」


 紅茶を一口飲んだ後、アリエルは続きを話す。彼女にとって、キルトがどういう存在なのか。興味を抱いたプリミシアは、黙って聞き役に徹する。


「……思えば、文通をしていた頃から読者くんの頭の回転の速さや閃きには驚かされてきたっけ。あの頃から彼は、天性の才能を発揮していたんだと思う」


「ふむふむ……」


「サモンギアのことを聞いた時も驚いたよ。こんな複雑な機能を持った兵装を、邪魔にならないようコンパクトに纏めて作ってみせていたんだから。……同じ技術者として、嫉妬したよ。ああ、読者くんは私が足踏みしてる間に……こんなにも成長してたんだなって」


 コラムの寄稿を終えてから、アリエルは長い間スランプに陥り苦しんでいた。そんな彼女が、キルトの活躍を聞き……負の感情を抱くのも無理からぬことだった。


「でもね、同時に誇らしさも覚えたよ。あの時文通していた子が、こんな素晴らしいものを作れるようになったんだって。読者くんのおかげで、私はスランプを抜け出せた。だから、彼には感謝し」


「いい話だねぇ~。ボク、なんだか泣けてきちゃったよ……オロロ~ン!」


 アリエルは当時を思い出し、しみじみしながら話をしていたが……途中で感動したプリミシアが泣き出してしまったため、そのままお開きとなった。


「……お互い、生きて帰らなきゃね。私たちの帰還を待っている人がいるんだもの」


「グスッ、ずびー! そうだね、今日の話をバネに頑張るよ、ボク!」


 愛する者たちのため、必ず生還する。誓いを胸に、プリミシアとアリエルは互いに笑みを浮かべた。



◇─────────────────────◇



 ところ変わって、ネクロ旅団の本拠地……ギール=セレンドラクにて。イゴールとメリッサは久しぶりの里帰りをし、両親と団らんの時を過ごしていた。


「ふふ、イゴールとメリッサの元気な姿を見ることが出来て安心しましたよ。キルトくんのところで頑張っているようですね、父として誇りに思います」


「えへへ、ありがとうおとーさん!」


「ああ、キルトの言う通り。余も嬉しく思う……が、あまり無理はしてくれるなよ? 蘇生の力が及ばぬ敵が現れれば、二人だけでなく仲間も危うくなるからな」


「はーい! 分かったよおかーさん!」


 アゼルが暮らす凍骨の宮殿の談話室にて、親子水入らずの時間を過ごす。……もっとも、端から見れば親子と言うよりは姉弟にしか見えないが。


「イゴール、メリッサ。二人はぼくとアーシアさんの大切な宝物です。だから、二人が無事に帰ってこれるようにお守りを作っておきました」


「戦いに打ち勝ち、再び帰ってこい。そのための祈りを込めてある。必ずや二人を……いや、二人だけではない。お前たちの仲間も含めて全員を守るだろう」


「わあ……! ありがとうおとーさん、おかーさん!」


「すっごく嬉しい! えへへ、二人ともだーいすき!」


 アゼルは双子に、アーシアと共に作った髑髏印のお守りを渡す。我が子が生きて帰ってこれるようにと、自らの力の源たる闇寧神の加護付きだ。


 お守りを受け取ったイゴールとメリッサは、嬉しそうに満面の笑顔を浮かべる。そんな二人を、アゼルとアーシアが前後から抱き締めた。


「ぼくたちの可愛い子どもたち。大丈夫、二人なら必ず勝てます。なんてったって……」


「命の王たるアゼルと、大魔公たる余の血を継ぐ者なのだからな!」


「うん!」


 両親の愛情に満ちた温もりのなか、双子は大きく頷くのだった。



◇─────────────────────◇



「なあ、サウル。お前さ、この戦いを生き残ったらなにするよ?」


「オレか? 前にもキルトさんたちに言ったけど、旅に出たいな。いろんな大地をさ、見て回るんだ」


 サウルとレドニスの二人は、帝都シェンメックの南西にあるトラア湖にて釣りをしていた。かつてエヴァとフィリールが防衛戦を行った地で、二人は語らう。


 最後の戦いに打ち勝ち、生きて帰ることが出来た時に何をしたいのか。将来の夢、ビジョン。それらについて互いの思いを口にする。


「へえ、そりゃいいな。俺は……そうだな、イゼア=ネデールに行くかなあ」


「へえ、何しに行くんだよ? 聞きたいな」


「……ムショに収監されてる時によ、世話になった人たちがいるんだ。立派にやり遂げたことを伝えたら、喜んでくれるかなって思ったんだよ」


 釣り糸を注視しつつ、レドニスは静かに語る。思い出されるのは、懲役刑に就いていたあの日々。人間らしさを学んだ、忘れられない大切な時間。


 恩人であるゾブルやカトリーヌに、今の自分を見せたら喜んでくれるかもしれない。そう考えたのだ。


「ああ、きっと喜んでくれるさ! もしそうじゃなかった時は……ま、オレが慰めてやるよ」


「そうだなー、その時はヤケ酒にでも付き合ってもら……お、きたきた! こいつは大物だな、引きだけで分かる!」


「ちぇ、いいなあレドニスばっかり。オレは全然かからねえってのに」


 大物がかかり、話を中断して釣り上げにかかるレドニス。そんな相棒を横目に、ボウズ継続中のサウルは愚痴をこぼす。


 その頃、ガーディアンズ・オブ・サモナーズ最後の一人であるミューは……。


「やはり、わたくしの見立て通り……自爆プログラムが仕掛けられていましたね。タナトスの拠点に向けて出航した瞬間、大規模な爆発が起きるようにしてあるとは。油断も隙もありません」


 親しい家族も親友もいないミューは、一人イシュナルギの点検を行っていた。その甲斐あって、技師たちが気付かなかった死神の罠を見抜くことが出来た。


「これでよし、と。いざ出発という時に自爆して終わり、では格好がつきませんからね。……あとは、戦いに打ち勝つのみ」


 最終チェックを終えたミューは、甲板に出て風に当たる。爽やかな風を堪能しつつ、雲一つない空を見上げて目を細めた。


「……マスター。わたくしは何があっても貴方様をお守り致します。そして、共に生きて帰り……この命尽きるその日まで、永遠にご奉仕しましょう。それが、わたくしの生きる意味ですから」


 そう呟いた後、ミューゼンにいる主へ報告するためイシュナルギを降りる。そうして数日後……ついに、彼らは迎えることとなる。最後の戦いの舞台へと赴く、運命の日を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 厳しい決戦になりそうだけど(ʘᗩʘ’) ここまで、長い道のりだったな(⇀‸↼‶) キルトの理術院からの脱走、三文勇者の戯言に付き合わされ、ルビィとの運命の出会いから始まった旅路も終着駅に辿…
[一言] アーシア・・・母としても頼もしく、優しくなったなぁ……貫禄あって戦力的にも頼もしいお姉さまキャラなアーシアも好きだけど、優しい二児の母なアーシアも好きだよ。
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